講義録4-1 「許容可能なリスク 公衆の福利」

(文意不明、文末の言い回しミス、誤字脱字は沢山あると思います。ご了承下さいませ。)

 「許容可能なリスク」を判断する「公衆の福利」
    ↓
 「公衆の福利」は数字だけでは表わせない
    ↓
 「公衆の福利」の安全や幸福の曖昧さ
    ↓
次回:幸福の曖昧さは学問の出発点

 が残っています。
文字にすると多いですが、そんなに内容は多くないです。

 さて、「許容可能なリスク」が存在するのが工学的安全。これを前回6つに分けて検討しました。今回は、

 「許容可能なリスク」が受け入れられるのはなぜか?
 「許容可能なリスク」が受け入れられる場合はどういう場合か?

です。この判断をするのが「公衆の福利」という考え方です。「公衆の福利」とは、技術者倫理で取り上げられる概念です。
 

 「会員は、公衆の安全を全てに優先させてその職務を遂行し、自らの行動を通じて社会の信頼を得るよう努力する。」(日本原子力学会倫理規定 憲章2)
 「技術士は、公衆の安全、健康及び福利の最優先を念頭におき、・・・」(日本技術士会技術士倫理要綱)

 他にも色々な倫理規定で「最優先の1つ」とされています。高木仁三郎氏はそもそも「「技術とはパブリックなものである」と言っており、だからこそ「技術者は公衆(ザ・パブリック)の安全、健康、福利を最優先する」と言っています。(彼の人は、今はこの意識が技術者の中に無くなってきているとの指摘をしています。)

 では、「公衆の福利」の正体とは何でしょうか?

 それを考えるのに丁度いい事件があります。フォード・ピント事件で映画『訴訟』の基になりました。

 フォードとは会社名で、ピントは車種名です。ですから、フォード・ピント事件とは、日本なら「トヨタ・カローラ事件」とでも呼べる事件です。トヨタの人すいません。判りやすくするために使わせて頂きました。きちんと講義中も声に出して失礼をお詫びしました。

 事件は1970年代です。アメリカの車は大きくて燃費が悪い。そこに日本車が小さくて燃費が良くて小回りがきくということで売れ出しました。これに対抗してアメリカの自動車会社フォードがピントというサブコンパクトカー(2番目の小さな車)を販売しました。この車、急いで作ったために構造的な欠陥がありました。後ろから追突されるとガソリンタンクが壊れて炎上してしまうのです。簡単に言うと「おかまを掘られると燃えちゃうぞ!」です。

 このことを会社が知ってリコールをした場合を試算しました。
 すると、リコールを実施した場合  軽トラックを含む 1250万台
                      1台当たり      11ドル
                      合計        1億3700万ドル

     修理しない場合   死亡者180人、熱重傷者180人、車両炎上2100台
                それぞれ、20万ドル、6万7千ドル、700ドル
                      合計         4953万ドル

 こうした実施した場合の費用を試算することを、「費用便益分析」と言います。
 この結果によると

 リコール実施    リコールしない
 1億3700万ドル > 4953万ドル

 となり、会社がリコールを遅らせた、と裁判になりました。会社は知っていたのにも関わらず、お金の計算をして補償を遅らせたのでした。

 さて、ここで問2 どうしたら再発防止できますか?

本の筆者と教員の考え方、そして裁判の判断で共通なのは、遅らせたのは倫理的に正しくない点。
 
 次に本の筆者と教員の考え方を対比させて提示する。

筆者:倫理的に正しくないことをお金に優先させたことは良くない ⇒再発防止
   つまり、倫理的な判断が最優先されるべきだ⇒公衆の福利では倫理が最優先

教員:経営的判断ミス ⇒再発防止
   つまり、倫理的な判断も経営的判断も同レベルで優先されるべきだ⇒公衆の福利には経済的な要素も入る

 筆者の方は教科書にあるし、日常的な個人の判断に近いので理解できると考えて、私の考えを補足する。

 最近の日本では三菱自動車のリコール隠し事件があった。この後、静岡では販売店が経営不振に陥った。私の顔見知りも非常につらいともらしていたのを聞いたことがある。三菱視自動車全体でも大きなダメージを受けた。だから、長期的なリスクを考えると、安全性を守り、一時的に評価が下がってもリコール隠しはすべきでないのである。そういう経営判断ミスがあると考える。ピントという車種は1000万台を超える大ヒットをしていたのに、その後は不振となった。他の例でいえば、松下電気の石油ファンヒータトラブルが挙げられる。パロマの例とは異なり、松下電器は全力で対応してきた。私も当時一人暮らしをしていて葉書を受け取った想い出がある。CMや新聞広告など全力で取り組んできた。その結果、その1年間だけであるが、株価の時価総額は上がり増収を得たのである。そしてその後、松下電器は社会的信用を得ていくことになる。

 実は、昨日、介護の現場で働く人とご飯を食べた。
その人が言うのには、介護の現場で利用者さん(老人)から介護者(若い男性)が暴行を受けた、という。顔面を殴られ、労災の認定になるケースなのに施設は労災認定しない、と決定したのだという。なぜなら、
 
 「労災認定をすると必ず警察が来て事件になる。そうするとたたかれるから嫌だ」

という理由だそうである。その後、介護者は暴行をした利用者さんと関わる時に大変緊張するし関わりたくない、と気分がよくない、と言っていた。また、介護者全員のやる気もなくなってくる、と教えてくれた。そしてその人は「他の職業に転職してみたい」という話であった。暴行事件だけが原因ではなかったが、1つの原因となったようである。
 こういうことは、自動車製造という技術に関わらず、社会に出れば殆どの組織であるのではないだろうか。

 その時にどう止めてもらうかが、筆者と教員で変わってくる。

筆者:暴行事件はよくないことですし、労災は法律で認められていることです。ですからそれを行わないのは「悪いこと」ですから、止めて下さい。
   (前回のことを加えれば、「だから普段から上司とコミュニケーションを取ろう」になる)

教員:暴行事件や労災認定をしないと、長期的にみんなやる気がなくなります。優秀な人もいなくなります。そうするとこの施設はつぶれます。だから、きちんとした方がいいですよ。

 どちらが良いだろうか? 考えてもらった。

論理的解答の例を

問2 どうしたら再発防止できますか? 
     ↓
結論「だから、~したら、再発防止できます」

~には「筆者の考えなら」を入れてみる。すると

結論「だから、筆者の考えなら、再発防止できます」
論拠「私は、筆者の考えが、「*」と考えます」

「*」は色々悩むが、「人間的」としてみたい。一気に解答まで書く。

事実:再発防止は人間のために行います
論拠:私は筆者の考えが人間的であると考えます。
結論:だから、筆者の考えなら再発防止ができます

 ここで「人間的とは何を意味するか?」とか「再発防止は人間のためなのだろうか?」と疑問に思わないことが、講義録4で述べたように大切である。もちろん「筆者の考え方は正しいのだろうか?教員より良いのだろうか?」とは考えないことが大切だ。それは聞かれていないのだ。それと考えだしたら永遠に問題は解けない。何も書けない。今は聞かれたら答えれば良い。今聞かれているのは「どうしたら再発防止できますか?」だけなのである。そして今のステップを経て時間がある時に考えれば良いのである。

 もちろん、「教員の考え」でもすぐに出来る。

事実:再発防止は人間のために行います
論拠:私は教員(←筆者)の考えが人間的であると考えます。
結論:だから、筆者の考えなら再発防止ができます

 どちらでも良いのだ。
今は「教員の考えと筆者の考え方、どちらが適当ですか?」とは聞かれていない。

 そうは言っても、どちらが適当だろうか?
 
 どちらも適当なのである。

 私は講義の最初に「倫理には沢山の正解が同時に存在する」と述べた。
だから、「どちらも適当」と言えるのである。先ほどの介護施設の話へのコメントもどちらもありえるでしょう。上司の性格やいろんな要素が加味されるでしょうし。そして、フォード・ピント事件で判るのは「公衆の福利」はお金だけ(数字だけ)の計算では表わせないし、

 「どちらも適当なのである」から、「公衆の福利」は曖昧なのである

 という結論になります。
また、「許容可能なリスク」は、政治性や軍事性、文化性などが入ってきて曖昧でした。その原因は、判断基準である「公衆の福利」の曖昧さがあるからなのです。

 今回の福島原発事故が起こりました。
 けれども、「原発は公衆の福利に反する」とは明確に言えないのです。曖昧なのです。
 数字を幾ら示しても言えないのです。


 長くなりました。ここで一旦終わります。4-2に続きます。
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