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【隨筆】哲学とーちゃんの子育て ―まない、入学前の論語―


 「まなちゃん、この本で、どこが一番よかった?」
 「えーとね・・・(本をパラパラとめくる)
 ここかな、しのたまわく、まなびてときにこれをならう・・・」
 「そっか~何でよかったの?」
 「えーーとーー、長くって、できたからよかった。」

 「そっかぁ~。じゃあ他にはある?」
 「えーとね・・・(本をパラパラとめくる)
 ここかな、それじょ(恕)か、のじょの意味が思いやり、ってのが良かった」
 「うんうん。」
 「それじょか。おのれのほっせざるところ、人にほどこすことなかれ、って長くてよかった。」

 平成三十一年四月十日朝六時半過ぎ、朝ごはんの用意の合間の会話である。

 六歳九カ月のまなちゃんは、四月に小学一年生になる。我が家では、二つのことを彼女に課した。

 ①静岡の浅間神社から登って浅間山山頂にある救世観音様まで一人の足で上がること。
 ②『こども論語塾』を暗唱できること。

①浅間山の救世観音様
 救世観音様は大東亜戦争末期、アメリカの空襲によって亡くなった方々と、アメリカのパイロットの慰霊をする観音様です。家族五人で三月に登りました。よく晴れた春の日に少し汗ばむくらいの陽気で気持ちよかったです。まなちゃんと手をつなぎながら、静岡市の景色の美しさに時折、息をとめながらでした。
 とっくん(八歳七カ月)の時は五歳で苦労しましたが、まなちゃんはスーッと何事もなく登っておりました。驚いたのはおっちゃん(四歳九カ月)で、自分の足だけで登山できました。
 降りてくると、私の妹と姪っ子が偶然にも遊んでおりました。まなちゃんは姪っ子と思わず抱きあったのでした。その後、一緒におやつを食べるなど、楽しい時間となりました。まなちゃんは、誰とでも仲よくするという長所を再確認しました。保育園でも「嫌いな子」、「苦手な子」の話を聞いたことがないのです。「~の言葉づかいはいやだ」や「たたいてくることは好きじゃない」という言葉は聞いたことはあるのですが、その人の人柄が嫌いである、ということばを聞いたことはないのです。
 また、登山のように疲れることをすると、児童は不機嫌になったり、粗暴になったりします。しかし、まなちゃんはそういうことがないのです。夜お布団の上で歯磨きをしていると「ねむぃ~」と言います。放っておくと布団に自分で入り寝ているのです。まなちゃんは、乳児のころ、

 「なすがまなちゃん」

 と言われ、手のかからない(なされるがまな)というあだ名を付けられました。そのまま六歳になったようです。もちろん、喜怒哀楽がはっきりしてきましたので、強い言葉も吐きますが、とっくんやおとちゃんと比べると、「なすがまなちゃん」だと感じるのです。

②『こども論語塾』の暗唱
 安岡定子著 田部井文雄監修の『こども論語塾』の本を三月の頭から、朝ごはんの用意の前に暗唱することにしました。
 朝の六時に起きて、お互いに本を取ります。私が声を出し、まなちゃんが声を出します。最初は短く、そして最後に全文暗唱を三回できたら終了です。初日は、

 『子曰く、
 「故(ふる)きを温(たず)ねて
 新しきを知れば、
 以(も)って
 師(し)と為(なる)るべし」』

 です。
 最初に本文を短くして五回ずつよみ、次に田部井先生の解説を一緒に読みます。ここでまなちゃんに、

 「意味はわかる?」と聞きます。
 「う~ん、わからない」と答えます。

 分からないことを分からない、と言えること、これは親子関係でとても大切にしていることですし、気を配っていることです。いじめが小学校高学年から中学校になると出てきますが、子供が親に「できない」、「わからない」、「どうしようもない」と愚痴を言えないと、いじめはさらに悪化していきます。「わからない」と親に言える関係、特に父親に言える関係を小学校入学時に作っておきたいと思ったのです。
 わからない、を受けて私は、まなちゃんの身の回りのことなどで説明します。次に安岡先生の訳文も一緒に読みます。そして、

 「意味はわかる?」と聞きます。
 「う~ん、わからない」とだいたい答えました。

 ここでも、もう一回別の例を上げて説明します。

 「先生になるには、保育園の昔のことも知っていないといけないよね。そして今いるまなちゃんやおとちゃんのことも知らないといけないよね。昔のことと今のことを両方知っている人が先生になれる、ってことだよ」

 意味を説明したのちに、暗唱に戻ります。短い文を徐々に長くし、最後は全文になります。最も長いのは七行ですが、お風呂で暗唱していた文ですので、六行が最も長かったです。まなちゃんが自分で暗記できたと思ったら、本を閉じて全文暗唱に挑みます。忘れてしまった時は、チラッと本を開いて確認します。ひらがなが読めるので、読み方は分かるのです。

 こども論語の暗唱を初めてから、ピタリとまなちゃんは、六時に起きるようになりました。お手伝いを進んでするようになり、「お手伝いは好き」と言うようになりました。
 ある金曜日の夜に聞きました。

 「まなちゃん、明日はゆっくり寝ていられるけど六時に起きて論語する? それとも起きてからする?」
 「六時に起きるよ。だって論語好きだもん。」
 「そっか。」
 「だってね、思いやりの心が大事だって、論語を読んで分かったんだよ、まなちゃん」

 思い返してみれば、思いやりの心が大切である、と口では伝えてきたつもりでした。他方、それがまなちゃんの心の中にきちんと入っていなかったのが分かりました。本を通して、毎朝の習慣とし、暗唱することで心に入ったのが伝わってきました。

 四月一日、つまり小学校入学前に児童クラブに行きましたが、直ぐに友達ができました。翌々日、私は休みだったので、「まなちゃん、今日は児童クラブお休みしていいよ」というと、

 「まなちゃん児童クラブいきたい」
 というのです。クラブは朝八時からなので、

 「今はいかないよ。」
 と行って部屋に入ると、

 「まなちゃんは児童クラブにいきたいの!」
 と涙声で扉の前で言いました。きっと良いお友達ができたのでしょう。驚きました。

 「ごめんね、まなちゃん。児童クラブは八時からなんだよ。まだ八時前だよね。始まってないんだよ。始まったらいこうね。」

 「うん、わかった。まなちゃん、一番に行きたい。」

 「分かったよ。」

 穏やかだけれども自分の意見をはっきり言える面も出てきたことが嬉しかったです。それもこれも、論語のお陰だと思っています。なぜならこんなやり取りがあったからです。

 「おとーちゃん、なんで論語をおぼえるの?」
 「それはね、おとーちゃんが子育てをする時にどうしたら良いかと論語を勉強してね、とってもいいな、と思ったからだよ。」
 「おとーちゃんも、勉強するの?」
 「そうだよ、勉強するんだよ。勉強は楽しいよ。」
 「へーまなちゃんも小学校で勉強するんだよ。楽しいかな?」
 「おとーちゃんはちょっと大変だけど、楽しいよ。論語を覚えて楽しかった?」
 「うん、楽しかった。」

 論語に関わる学恩に、富士論語を楽しむ会の方々に感謝申し上げます。

 引用本 
 安岡定子著 田部井文雄監修の『こども論語塾』 明治書院 二千十一年 十七刷

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