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査読論文『ドローンの利用について ―軍事利用から民間利用で求められる「公衆」― The use of Drone 』

 「科学技術者の倫理」に関する拙論です。

静岡産業大学情報学部研究紀要 (19), 11-28, 2017 静岡産業大学情報学部 に掲載されています。
https://shizusan.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=1369&item_no=1&page_id=4&block_id=54


ドローンの利用について
―軍事利用から民間利用で求められる「公衆」―
The use of Drone

高木 健治郎
Takagi Kenjiro

 拡大するドローンの民間利用において、技術者倫理の基本概念である「公衆の福利」が求められている。ドローンは約80年前に「無人航空機」として実験機が制作され、軍事利用されてきた。軍事利用と異なる民間利用に向かう中で、ドローンに求められる諸条件が変化する。民間利用で求められる基本概念が「公衆」への責任であり、研究、開発、製造等の技術者に求められるのが「公衆の福利」である。
 以上の結論を導き出すために、本論ではドローンの出自と定義の多様化を述べる。次に、軍事利用で求められてきた国際政治等の戦略的条件を追う。さらに、民間利用で世界初の産業無人ヘリ(民間ドローン)の成功例から社会内での規範順守と、「公衆」に対する責任について論じる。「公衆」に対する責任を果たすことで、民間ドローンは自動車やインターネットのように社会基盤の役割を担う方向へと進みうると考える。

1. はじめに
 ドローン、という用語が現代日本に定着しつつある。ドローンは、ラジコンの趣味的利用から、災害対策や建設、農業の産業利用、そして輸送分野で商用利用などが、耳目を集めている。その新奇な形状「4つの回転翼(マルチコプター)」、珍奇な事件「平成27年4月22日の首相官邸侵入事件」 が起こり、社会の話題をさらった。しかしながら、技術史を俯瞰すると、ドローンは製造物として珍妙な存在者ではない。むしろ、自動車(自動四輪車)や、コンピュータ、インターネット等の利用を後追いしている。それは、軍事利用から民間利用へと転換し、一気に社会の重要な役割を担いうる、という点においてである。ドローンは1937年から軍事利用を開始し、約80年という長い歴史を持つ。2010年頃を境に、民間利用が加速した。同時に、用語の意味範囲の拡大と不明確さ、数々の技術革新、多大な分野への利用検討が巻き起こっている。現在、ドローンに問われているのは、こうした爆発する民間利用を学術上に位置づけ、適切な位置を求めることである。そのために、本論では「公衆の福利」という技術者倫理の基本概念から方向性を探りたい。その際、「公衆」の基本概念が、軍事利用から拡大する民間利用に際し重要である。その典型例は自動車やインターネット等が社会基盤を支えるに地位を獲得しえたことである。
 ゆえに、本論ではドローンの出自と多様な定義に触れ、軍事利用とその変遷理由、そして拡大する民間利用とその展望について検討を行いたい。

2. ドローンとは
 現在、「ドローン(Drone)とは何か」と問われて答えるのは難しい。というのも、「ドローン」の定義が入り乱れている。各識者で大きく異なり、時に対立する定義もみられる。こうした混乱した定義群は、製造物の歴史を振り返ると、軍事利用が民間利用に流入する際に、度々起こっている現象である。学問上、このような基本用語の不鮮明さは好ましくない傾向とされる。しかしながら、技術史から観ると、製造物の技術革新や新規利用が起こる時期に起こりうる好ましい傾向でもある。つまり、製造物の歴史を振り返ると、軍事利用から民間利用への拡大は、製造物が社会基盤を担う可能性を秘めている拡大である、という解釈が成り立つ。
 次に、民間利用への拡大は、様々な混乱や事件を巻き起こしやすいことも、歴史は伝えている。民間ドローンが社会に広がるに従って、世間を驚かせる事件へと結びついた。2015年4月の「首相官邸の屋上で微量の放射線物質を含んだドローンの落下事件」であり、同年5月「15歳の少年が、浅草の三社祭でドローンを飛ばそうとして逮捕された事件」 である。2つの事件の衝撃は強く、社会でドローンを一気に認識するに至らしめる。技術史から観れば、こうした事件は起こるべくして起こった事件群であると受け止められる。
以上の観点から、ドローンの利用の変遷を辿っていきたい。そのため、ドローンの出自と定義の入り乱れ具合に触れ、次に、ドローンの歴史を記していく。
 
-ドローンの出自-
 野波健蔵氏は出自について、以下のように述べている。

『ドローンの由来は、戦争の形態が地上戦から空中戦に変化したことに由来する。1931年から1935年頃に、イギリスで「Queen Bee」という言葉が生まれた。地上または飛行機から無線で標的機を飛ばして、パイロットが射撃訓練をする。空中で相手の戦闘機を撃墜するためのトレーニングが必要となった。動く標的が必要となってきたという時代背景があった。標的機のため当然ながら無人である必要があった。イギリスが女王蜂という名前をつけたので、アメリカは「イギリスが女王蜂ならばうちはオス蜂」ということで、1937年にドローン(Drone, 正確にはTarget Drone)という名前を付けたと言われている。すなわち、ドローンという言葉は軍事的な専門用語であった。』

 以下の記事で事実確認する。
 Bill Lee氏は記事「First Operational US Navy Drone…Successful in Combat in 1944! 」で「1930年代半ばにイギリス海軍がリモート制御航空機を使用した事実」と「その航空機の愛称が『女王蜂(Queen Bee)』であること」と「1936年にアメリカ海軍Standly提督が火力演習で目の当たりにして導入を決定したこと』 を記す。
 Naval Historical Center(US Navy[アメリカ海軍歴史センター])の記事でGreg Cleghorne氏は「海軍の高度対空砲訓練において、ラジオコントロールドローンターゲット(radio-controlled drone targets)の使用」 を1941年と記す。
 また、ドローンそのもののアイディアについて Ron Miller氏は記事「The First Drones, Used in World War Ⅰ」でDr.Walden(アメリカ)が「1915年以降、ロケットと航空機の中間物として、パイロットが操縦できるロケットを考案していたこと」と「しかしながら、公式採用にならなかったこと」 を述べている。これはイギリスのみならずアメリカでもロケットと航空機の中間物のようなドローンの必要性を第2次世界大戦以前から認識していた点が判る。
 以上の3つの記事から、以下の3点が認められる。
①遅くとも1941年までに演習配備がアメリカ海軍においてなされたこと、②ドローンのアイディアは特異な技術者の発想ではなく、戦争の形態が地上戦一辺倒から空中戦へと広がったこと、③Queen Beeという名称が軍事領域で使用されていたこと、である。以上は、野波氏の記述と一致するので、その定義を本論の出発点としたい。
 このように定義を明確にする理由は、学術的手法上の理由と同時に、ドローンの定義に多様性が見られるからである。軍事史家Martin J. Dougherty氏は『世界の無人航空機図鑑 軍事用ドローンから民間利用まで』の冒頭で

『ドローンについては的確な定義がある。パイロットがいなくても完全自動で操縦する航空機、つまり人がつきっきりで制御しなくてもよい航空機という定義である。そうなると従来の無線操縦機の類いは、厳密な意味でドローンではなくなる。・・・同様の役割を果たすなら、類似の多様な航空機をドローンの仲間と認めるのも、あながち的外れではない』

と述べている。軍事利用から民間利用に広がる際に、ドローンの定義が拡大し多様化していることを認めている。その上で軍事史家らしくドローンの明確な定義を再構築しようとして次のように文を続ける。

『矛盾のない言葉で「ドローン」の定義を突き詰めるのはなかなか難しい。・・・よって本書ではドローンを、次のような条件を満たす航空機と考えたい。❶パイロットを搭乗させないこと。❷本来なら搭乗者の判断を要する機能を、少なくともある程度自律的に行えること。❸ミサイルや誘導砲弾のような他のカテゴリーに明らかにあてはまらないこと。』
 
 Martin氏の記述は著書副題「軍事用ドローンから民間利用まで」の通り、軍事利用が民間利用に広がることで、ドローンの定義が多様化している様を如実に表す。以上の視点から、拡大し始めている民間利用側からドローンの定義を拾いたい。
 専門書を含め多くの場合、その出自について簡単、あるいは混乱して述べられている。軍事研究家の井上孝司氏は『ドローンの世紀 空撮・宅配から武装無人機まで』で以下のように記している。

『この種の無人の飛びモノのことを、世間一般にはドローン(drone)と呼ぶことが多い。この単語、本来の意味は雄の蜜蜂、あるいはその蜜蜂が立てる羽音を指す言葉だが、軍事の世界ではだいぶ以前から、無人標的機のことをドローンと呼んでいた。そこから意味が広がって、無人の飛びモノ全般を指してドローンと呼ぶようになったのだろう。ちなみに、droneという英単語には「のらくら者、居候」という意味もある。しかし、これは無人の飛びモノと関係なさそうである。』

 ドローンの出自に関して無人標的機に由来する点が述べられている。他方、「Queen Bee」に対する出自、空中戦という戦闘条件の変化という出自には触れられていない。むしろ、「ドローン」=「羽音」という意味合いに解釈可能な説明文である。井上氏は、続けてドローンの軍事利用について、「無人運転」の点で鉄道と比較するなど、専門度の高い説明を続ける。
次に、出自に関する記述を民間利用の立場から追ってみたい。I/O編集部編集『ドローン完全ガイド』は、冒頭に「ドローンカタログ」を掲載し、新規のドローンを販売価格付きで紹介している。ドローンの民間利用向けのガイド本である。冒頭に続いて「第1回国際ドローン展 レポート」では「企業向けのドローン」などの項目から紹介している。次に「はじめに」があり、そこでドローンの出自について記されている。

『「ドローン」とは、蜂の羽音の“ブーン”という擬音語だそうです。飛ぶときの羽の音から、「ミツバチの雄」を指すこともあり、また、ミツバチの雄はずっと巣にいて働かないイメージがあることから、「働かない男」という意味もあるとか。
 どれから取ったのか、はっきりしませんが、最近は無線で操作する航空機のことを「ドローン」と呼んでいました。』

 ドローンが文中の単語で「最近」になって「ドローン」と呼ぶようになった、と読める記述であり、また、ドローンの出自を蜂の羽音とする。一見、ドローンの出自について民間利用の視点ゆえの視野狭窄と読めるが、そうではない。同著はドローンをUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)と大別しており、軍事利用の出自についてはUAVで述べている。ドローンとUAVの区別は後述するとして、同著の記述を追いたい。

『最も初期の「無人航空機」は第二次世界大戦の頃に遡ります。航空機の「無線操縦」による「無人運用研究」により、米軍は「B-17爆撃機」を「無人機」に改造した「BQ-7」という「無人航空機」を開発しました(1944年)。…第二次世界大戦後、「軍事用ドローン」として広く普及したのは戦闘機の戦闘訓練で標的として使用する「ターゲット・ドローン」と呼ばれる「標的機」です。米空軍の「BQM-34 ファイヤービー」(1950年代)のようにジェットエンジンを搭載した「高速無人航空機」が登場し、「ターゲット・ドローン」として「ドローン」を運用する一方で実戦における「無人機運用」についても研究が進められていきました。』

 無人航空機の出自を戦略爆撃機とする一方で、ドローンの普及を「ターゲット・ドローン」とする。ドローンの普及を1950年代とするものの、初期の研究開発段階と製造普及する段階の差であり、的を射ていると考えられる。また、ドローンの出自が航空戦にある点では、戦略爆撃と飛行戦闘の差異はあるものの、大枠で一致する。
こうした大枠での一致は、航空史を振り返れば納得できるものである。スミソニアン協会国立航空宇宙博物館特別研究員やメリーランド大学名誉教授などを歴任するJohn D. Anderson Jr氏はアメリカ航空史の大家であり、『飛行機技術の歴史』を著わす。同著の「飛行機構成の一覧:1930~1953年」の節では、戦闘機や爆撃機が記述の大半であり、僅かにダグラスDC-4の大型輸送機に触れている 。航空史では「有人」飛行機の視点で書き記されている。航空機という範疇にドローンはほぼ含まれてこなかった。同著で「無人飛行機」の記述が、500頁に及ぶ大著で本文の最後尾、1ヵ所のみ記述されている 。以下該当箇所の全文である。

「全く型破りというわけではないが、かつては遠隔操縦飛行機と呼ばれていた飛行機の最新の呼称である無人飛行機も型破りな構想である。こうした無人飛行機は、概して述べると、本質的に超大型化した模型飛行機である。しかし、高高度偵察を目的とした最近の無人飛行機設計では、非常に大きな翼アスペクト比を持ち、翼幅自体も20mを超える大型航空機が登場している。本書を執筆している時点で、戦闘目的の無人飛行機、つまり無人戦闘機の設計は大きな関心を集めている。」

 同著は2002年出版である。本論は2016年であり、ドローンが大きな注目を集めている現状に立脚している。十数年の隔たりを考慮しても尚、ドローンは航空史では光の当たらない立場にあり続けてきたのが判る。先述のNaval Historical Centerの記事でラジオコントロールドローンターゲットの使用 が1941年と記されている点と思い起こされたい。つまり、ドローンは「軍需産業で技術の継承がなされてきたが、一分野に留まり、航空史全体に取り入れられない存在者であった」ことが推断されうる。
逆説すれば、ドローンの歴史の整理検討が行われてこなかったとも言える。この歴史は、後述するが軍事利用が民間利用に拡大する際に、法的枠組みで捉えられないという有益な点を生むに至る。第一次世界大戦から第二次世界大戦の間に生み出された、同じコンピュータや自動車とは異なる歴史を刻んできたとも俯瞰できる。ドローンに注目が集まり、利用推進が進む中で、今後、歴史の整理検討が進むことが期待される。
 以上を踏まえると、ドローンの出自に関して、幾つかの発想が混在しているのは無理からぬことと言える。

―ドローンの本質-
 ドローンの本質を定義することは難しい、と冒頭に述べた。ここではその困難な原因を示したい。ドローンの本質が各識者によって、幾つかに分れ、時に対立さえしている点である。

 本質が何であるか、は前文を踏まえて「無人」、「自律」、「認識と知能」の点で分類していく。
 通常、一般社会で「ドローン」と言えば、マルチローター(Multirotor)型で、対称性を有した回転翼を持つ。4枚の回転翼(クアッドロータ)が主流であるが、6枚以上の回転翼を持つものもある。例えば、雑誌ニューズウィークのドローン特集号に以下の記述がある。

『ドローンとは、ひとことで言えば遠隔操作できる小型の無人飛行体。…ただし、ラジコンが「飛ばす」こと自体を楽しむものなのに対し、ドローンは飛行中に何らかの作業を行うことを主目的としている』

 この文からは「無人」を本質とする点が読み取れる。「遠隔操作」の一言は、ドローンに組み込まれたソフトウェアを認めつつ、操縦がドローンの本質に属する点を意味する。この点でドローンは、「無人」ではあるが、ソフトウェアによる全自動プログラムではない。つまり、反「自律」なのである。
こうした理解は、急速に広がる民間利用に対する法規制の概念と一致している。担当省庁である国土交通省の石井靖男氏は、専門誌『研究開発リーダ』で、「2015年の首相官邸屋上へのドローン落下を受け、国として緊急に対応すべく議論が始まりました。」とドローンの法規制の発端を述べ、「現在、ドローン(マルチコプター)やラジコン機等の小型無人機は、航空機という取り扱いになっておらず、そのものの飛行に対する規制もありません。」 と書いている。航空機は原則「有人」であり航空法の対象となるが、ドローンやラジコン機等は「無人」であり、航空法で飛行に対する規制がない、という意味である。ただ、「航空機の運航を阻害しないように、花火やロケット等と同じ扱いとして」 としての規制が存在した点を補足している。同件は平成27年12月10日に「無人航空機に係る改正航空法」へとつながる。
上記の民間利用に対する法規制の概念では、ドローンは「無人」である点が航空法上から判明する。花火やロケット等と同列であり、「自律」という操縦者の有無の観点、その「認識と知能」について問いただされてはいないのである。これは「無人航空機に係る改正航空法」でも継続する。
 しかしながら、約80年の歴史を持つドローンの本質は、その「自律」と「認識と知能」にある、とする立場もある。井上孝司氏は、1960年代から、一部の車両における「自動運転」、大阪万博(1970年)会場でのモノレールの「無人化」、近年の自動車業界での「無人運転」に触れながら、ドローンの本質について以下のように述べる。

『鉄道や自動車ではあまり使わない言い方だが、ことにミリタリーの世界ではさまざまな種類の無人ヴィークルが出てきているため、それらを総称して「U○V」と呼ぶことが多い。この「U○V」とは、「Unmanned なんたらかんたら Vehicle」の略だ。…なお、航空機の場合には、UAVという機体そのものを指している。その機体周辺の機器・機材を組み合わせたシステム全体を指して、UAS(Unmanned Aircraft System)と呼ぶこともある。』

 ドローンの本質には鉄道や自動車と親和性の高い「無人」と共に、周辺装置を含めたシステム、つまり、「自律」と「認識と知能」が本質に含まれるという立場なのである。同じ立場は法規制の分野でも例がある。軍事・安全保障に関わる国際法を専門とする京都産業大学教授岩本誠吾氏が「ドローンと法規制」の書き出しで、

『以前、無人航空機はUnmanned Aircraft Vehicles(UAV)と表記されていた。最近では地上装置や通信を含めて無人航空機システム(Unmanned Aircraft Systems: UAS)」と呼ばれる。一般にドローン(drones)と言われるUASは、事前に自律飛行するものと操縦者の遠隔操作により飛行するものに大別される。国際民間航空機関(ICAO)は、後者を「遠隔操縦航空機システム(Remotely Piloted Aircraft Systems: RPAS)」と表示する。』

と述べる。ドローンの本質が、周辺装置を含めたシステムの構築によって、UAVからUASに拡張したという「認識と知能」の点、「自律」飛行の点が書かれている。同時に、操縦によって「無人」の側面に拘らなくなった点が記されている。こうした周辺機器を含めたシステムの構築は、井上孝司氏の指摘するように、鉄道や自動車分野と共通性があり、半導体技術とプログラミング技術の向上によって飛躍しつづけている。その流れがドローンの本質にも及んでいるのである。それゆえ、半導体技術とプログラミング技術の進歩が革新的なドローン像を生み出している現状に即して、野波健蔵氏は以下のように言い切る。

「実はドローンの本質は、ハードウェアではなくてソフトウェアであると言える。ドローンは、アームの先にモータがあり、そこにプロペラがついているだけで、バッテリーにつないでプロペラは回転している。突風が吹いても姿勢を制御して安定を保ち、外界を認識して障害物を回避しながら目的地まで早く到達するとか、あるいは、与えられたミッションをスマートに実行する、つまりは「賢く飛ぶ」ということにつきる。結局、ここに集約される。」

野波氏の言うドローンとは拡大する民間利用を代表するマルチコプター(複数の回転翼を持つ機体)の説明に限られているが、安定飛行のための「認識と知能」こそが本質であると主張する。補足説明を加えれば、固定翼の無人飛行機で衛星通信システムを持つ「RQ-1プレデター」があり、ドローンは回転翼に限る訳ではない。
 上記をまとめると、ドローンの本質は各識者で「無人」、「自律」、「認識と知能」の点で分れていることが判る。そして民間利用と軍事利用の立場を超えて、幾つかに分れ、時に対立さえしている。以上から、各識者の立場によって本質が異なる点は示せた。ドローンの定義が困難な理由は以上である。他方、大別して軍事利用と民間利用で異なる点を示すには至っていない。引き続き、ドローンの軍事利用において、主に国際政治学等の利用の要請という視点から本質に迫りたい。

3. ドローンの軍事利用
 軍事利用を述べるに際し、「無人航空機」の歴史から振り返りたい。その観点は、ドローンの動力等の技術レベルの向上ではなく、国際政治等の戦略レベルでの利用への関わりである。
第一次世界大戦期(1914~1918年)に、無人航空機や巡航ミサイルの始まりとされる、アメリカ陸軍が無人の飛行機爆弾「Kettering Bug(ケイタリング・バク)」を開発する。実戦投入は第2次世界大戦期で、ドイツ帝国のV2ミサイル等であった。その後、誘導制御や遠隔操作技術は、冷戦期の大陸間弾道弾ミサイル開発、米ソの宇宙開発競争などによって飛躍した。無人機を攻撃使用する歴史は現在も続いている。
 同時に、無人機を別利用する流れが並走している。誘導制御や遠隔操作技術が進む中、異なる「無人航空機」の需要が高まっていった。第1次世界大戦期から航空戦力の重要性が増し、第2次世界大戦では航空戦力が会戦を決着させるまでに至る。それゆえ、航空機の開発競争が激化し、同時にパイロットの育成が急務となる。そこで無人標的が登場する。無人標的には、有人の飛行機が曳航する方法が1つである。当時は、曳航専用に標的曳航機が開発された。現代では戦闘機が用いられているが、曳航される無人標的は、曳航機のリスクが高く、標的の速度や機動性に限りがある。そこで第2次世界大戦期に「Radioplane’s model RP-8(ラジオプレーン・モデル RP-8)」という無線による遠隔操作可能な標的機を開発した。1939年に初飛行を果たし、その後、アメリカ陸軍が「OQ-14」、アメリカ海軍が「TDD-3」と名称を別として採用した 。「RP-8」は固定翼で全長2.65m、翼長3.73m、総重量47㎏、最高速度137km/hであった。現在の回転翼ドローンと大きさだけは酷似している。「RP-8」のシリーズは「Target drone」と呼ばれ、5000機以上が製造された 。その後さらに大型化し、改良機が作られ続ける。ドローンの軍事利用は、重要性を増す航空戦力の訓練に始まったのである。
 現在まで航空戦力の優位性、特に地上戦力に対する決定力は揺るがない。現代戦が宇宙領域、サイバー領域に拡大しているとは言えである。なぜならば、核兵器使用が第2次世界大戦期に限られているからであり、核兵器は核抑止力として主に政治影響力として使用されている。それゆえ、近い将来まで、航空戦力を補助するドローンが軍事上の価値を失うことはないであろう。
 加えて、ドローンには別の軍事上の価値が与えられてきた。第2次世界大戦後、ドローンの開発を先進してきたアメリカは、第二次インドシナ戦争(1960-1975年:べトナム戦争)の泥沼化で足を取られた。アメリカ各軍内部からも抵抗者が現れ、また、大学改革と結びついて過去に例がない大規模な学生運動へと展開していった。良心的徴兵拒否が社会的制裁の対象になりにくくなる程であった。良心的兵役拒否しイギリスでベトナム反戦運動を組織化したビル・クリントン(William Jefferson "Bill" Clinton)氏は、アメリカ合衆国第42代大統領に当選している 。その主なスローガンは「米国民をベトナムで死なせるな」であり、戦争での死者が国内政治の大きな関心事になったのである。そこで数々の試作が試され、その1つとして「無人航空機」に情報収集、偵察、監視などの役割が与えられる。それ以前にも、高高度偵察機「SR-71 (通称 ブラックバード)」の無人型「D-21」などが開発されたが、より地上に近い情報収集、偵察などの需要が高まったのである。
 同じく1970年代初頭、第4次中東戦争(1973年)で航空戦力が対空ミサイルや対空砲によって損耗を受けたイスラエル国は、無人航空機の必要性を認識する。同国の「タディラン社(TADIRAN. Ltd)」と「IAI(Israel Aerospace Industries Ltd)社」が無人航空機を開発する。レバノン侵攻(1982年)で軍事上の成果を挙げ、無人航空機の開発が加速し、IAI社は「RQ-5 Hunter」、アメリカの「AAI Corporation」と「RQ-2 Pioneer」を共同開発するに至る。
 イスラエル国は、人口が350万人弱(1975年)と少なく、第4次中東戦争相手国の1つエジプト・アラブ共和国4035万人強の10分の1に過ぎない。そのため、人命の損耗が軍事上の重要な価値を占め、ドローン開発の強い推進力となった。2015年現在では、ドローンの生産開発の最大の国家となる。現在でもシリア・アラブ共和国やイラク共和国等の周辺国でテロや紛争が勃発し、ガザ地区を抱えるイスラエル国にとって、情報収集、偵察、監視の無人化は高い優先度を保つ。
 アメリカでは第二次インドシナ戦争(ベトナム戦争)等で人命の損耗が国内政治上の大きな主題となったが、その後の国際政治状況の変化によって、無人化は高い優先度を保たなくなった。アメリカ国防高等研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)が1984年に新しいドローン計画「アンバー計画」を立ち上げた。試作機が1988年に初飛行し、翌年には24時間連続飛行に成功する。ところがアメリカ軍は予算を打ち切り、1990年に頓挫する 。1990年にソ連邦が崩壊して冷戦構造が消滅して、「平和の配当(Peace Dividend)」が国内政治の主題に躍り上がってきたからである。「アンバー計画」を担当したリーディング・システムズ社は、別の「ナット(Nat)」を開発するが需要低下で倒産する。同社を買収したGA-ASI(General Atomics Aeronautical Systems Inc.)社が生産した「ナット750(Nat750)」は、ユーゴスラビア紛争(1991~2000年)に投入される。
 冷戦構造崩壊後のイスラエル国とアメリカのドローン開発の差異は、主に軍事上の要請によって説明される。地政学の大家Nicholas John Spykman(ニコラス・スパイクマン)は、『The Geography of the Peace(平和の地政学)』でアメリカを地理概念として「新世界(New World)」とし、ユーラシア大陸を「旧世界(Old World)」と対比させ、「旧世界」で枢軸国に敗北すると「新世界」が囲い込まれる恐怖から、積極介入の立場を採る。同時に、いち早く航空戦力(Air Power)を重要視している。訳者奥山真司氏は同著解説で、

『これ(スパイクマンの理論)が冷戦期の「封じ込め政策」につながったことは否定できない事実である』

と述べている。その冷戦構造が瓦解した時、アメリカが持ち続けた「旧世界」に対する恐怖心が一気に解放され、ドローンの軍事上の価値を軽視する方向を生み出してしまったのである。恐怖心が一気に解放され極端に走った例と考えられるのは、Francis Yoshihiro Fukuyama(フランシス・Y・フクヤマ)著『The End of History and the Last Man(歴史の終わり)』である。1992年出版の同著では、冷戦構造の崩壊によってアメリカ型民主主義が人類最後の社会であり、そこに至る道のりが「歴史」である、と語られており、当時のアメリカの解放感を的確に表している。歴史の終わり、とは全世界がアメリカ型民主主義に向かう、という希望にあふれた題名であり、その希望を抱かせた冷戦期のアメリカの恐怖心を如実に表している。
 他方、海に隔てられていない、それゆえ、潜在的軍事衝突国を陸上に持つイスラエル国はドローンの研究開発を継続した。以上のように、ドローンの軍事利用においては、国際政治等の要因が大きく絡み合っていると言える。

―戦闘ドローンの登場 
 冷戦構造崩壊後、ドローンには新たな役割が加わることとなる。GPS(全地球測位システム)の導入、センサー機器の高機能化、遠隔操作性能の脆弱性の解消、システム設計技術向上などによって、高性能化を成し遂げたドローンは、戦闘の役割を担うようになり、「無人機攻撃」と共に、ミサイルや精密爆撃を担当するようになった。また、UAV(無人戦闘機)から、GPSや現地での携帯型誘導機器によって「無人航空機システム(Unmanned Aircraft Systems: UAS)」へ変化し、ドローンが従来の戦闘補助の役割から、軍事作戦の主要な役割を担うようになった。戦闘ドローンで最も有名なのは「MQ-1プレデター」で、偵察用(Reconnaissance)「RQ-1」から汎用(Multirole)に役割が拡張したドローンである。中高度に長時間滞在し標的を攻撃する役割を与えられており、アメリカ本土で操縦を行える。2002年に対テロ戦争でアルカイダの指導者の1人を殺害するなど多大な戦果を挙げている。1万㌔以上離れたアメリカ本土で操縦士は、身の安全を保障され冷暖房完備の部屋で戦闘ドローンを操作するのである。ただし、操縦士がPTSD(心的外傷後ストレス障害)になる発生率は、アメリカ国防総省の調査では「有人」戦闘機パイロットと変わらないとされている 。しかしながら兵員の負傷などを考慮し、アメリカ陸軍は戦闘ドローンを増やし続けている。その一因として9.11テロで対テロ戦争がアメリカ国で政治上の重要な主題となり、続いて人命の損耗が俎上に載った点が挙げられる。つまり、この冷戦崩壊後の実例も、国際政治等の要因によってドローンの軍事利用を加速させていく一例とも考えられる。
 
-ドローンの軍事利用上の特徴
 先ほど、冷戦構造崩壊にドローン開発を進めたイスラエル国と小休止したアメリカを比較した。スパイクマンの地政学見地から、二国が異なる道を進んだ原因を軍事利用の差とした。同様に現在勘案しうる軍事利用上の特徴をまとめておきたい。
 アメリカ海軍大学(United States Naval)で戦略論を担当するJames R. Holmes(ジェームズ・R・ホームズ)氏は、アルカイダの対テロ戦略や小さな行為の積み重ねで済し崩しに相手国の支配権や主権を脅かす「小枝外交(Small Strick Diplomacy)」に詳しい。ジェームズ氏は「小枝外交」で戦闘ドローンを観て、以下の2点を指摘する 。

①ドローンの警告対応に時間を要すること
:「無人」であるがゆえに、ドローンの遠隔操作者に対して警告を発して到達するまでに時間が掛かる。その時間を利用してドローンを作戦領域での情報収集、あるいは脱出が可能である。
②ドローンの破壊によって相手の対応をエスカレートできること
:無人兵器の破壊は破壊した側が悪く受け取られ、結果的に相手の対応をエスカレートさせるという政治的意図が含まれうる。

さらに以下の点を加えたい。
③ドローンの国籍不明化が容易であること
:「無人」であるがゆえに、事故や故障、撃墜等によって機体が墜落しても国籍マークや言語を無表示にしておけば、国籍不明化が容易にできる。また、各国で同様の機体を使用しており機種で同定不可能になる。さらに、例えばアメリカでも米軍機の飛行はないが、CIAの戦闘ドローンの飛行はありえる、という同国内でも同例となる利点がある。
④ドローンは主権侵害と非難されにくいこと
:アフガニスタンやパキスタンの対テロ作戦で戦闘ドローンは当事国の了解を得ていない。しかし、「無人」航空機であるため、領空侵犯として扱われ難い。これは当事国の法執行機関が脆弱な場合、特に有効である。例えば、内戦状態にあり法執行機関が無きに等しいシリア・アラブ共和国や、南シナ海のように領有権争いによって法執行機関が不明な地域などである。

 以上の4点は、現在の国際政治等における軍事利用の関わりにおいて重要な点である。さらに、イスラエル国を引用したように人命の損耗が国内政治の主要な議題になりうる欧米各国を始め日本等の国々では、ドローンの「無人」という特徴は、軍事利用の特徴として重要な点として残り続けるであろう。以上が、ドローンの軍事利用の諸要因である。次に、ドローンの軍事利用から拡大する民間利用を追いたい。

4. ドローンの民間利用
 ドローンの軍事利用において国際政治等に左右される面を述べて来た。民間利用においても同様に技術革新だけでなく、2つの面に因る。1つは法律であり、1つは技術者倫理である。軍事利用と民間利用では全く異なる社会的要請であり、この要請に答えてこそドローンは社会基盤を根底から支える存在者になりうるのである。民間利用の流れと多様なドローンを挙げながら、技術者倫理の側面からドローンを考察したい。
 
-軍事利用から民間利用への転用例
 平成28年10月2日静岡新聞4面「空飛ぶ宅配ピザ始まる」と題する記事が載った。

『宅配ピザ店「ドミノ・ピザ」をオーストラリアや日本で展開する豪ドミノ・ピザ・エンタープライズは年内に、小型無人機(ドローン)を使ったピザ宅配サービスをニュージーランド(NZ)で試験的に開始する。実現すれば「世界初のドローン宅配」となる見通し。ドローン宅配は、米アマゾン・ドット・コムなどが実現を競っている。ドミノ社は米国ドローン企業と提携し、ドローン飛行の規制緩和を積極的に進めるNZでまず実施することを決めた。』

 「世界初のドローン宅配」が実現しうるニュースである。記事によると豪ドミノ・ピザ・エンタープライズは日本でも展開しているので、数年先に日本でも「ドローン宅配」が街で見られるかもしれない。
 しかしながら、ドローンの軍事利用において輸送は10年前に確立している。2000年代後半にイスラエルのArban Aeronautics(アーバン航空株式会社)は、「Air Mule(エアミュール:空飛ぶラバの意味)」 というドローンを投入した。対テロ戦争でトラック輸送は多くの人員を要し、待ち伏せや手製爆弾などのリスクが高まったからである。また、テロ集団は対空兵器を数多く持ち合わせており、有人ヘリコプター輸送のリスクが高かった。エアミュールは車体前後に巨大な回転翼を内蔵する特異形状をしており、ヘリコプターよりも狭い範囲で着地離脱が可能である。AH-1ヘリと比べると約10分の1の範囲となる。積載量は500㎏、悪天候にも強く風速25メートルまで、高度3700mまで、4時間までの活動が可能である。他国の例であるが、有人、無人の選択可能なヘリコプター「K-max(Kマックス)」や地上誘導管制を受ける海上輸送用無人ヘリコプター「CamcoprterS-100(カムコプターS-100)」なども開発されている。
 Mratin J.Dougherty氏は、エアミュールについて「音がうるさくないのは、民間または商業的な活動に取り入れやすい要素である」と述べている。軍事利用から民間利用に拡大する際に幾つかの利点が求められるのは言うまでもない。他方、民間利用の側から利用を考える際に、幾つかの点を勘案しなければならない。まず、価格である。軍事利用では兵員の訓練や給与等や兵装に多大な費用が掛かる。それゆえ、その兵員の費用と比較して導入が検討される。他方、民間企業では、例えばドミノ・ピザ・エンタープライズの宅配では、時給幾らの宅配員の費用と比較して導入が検討されるのである。多数の宅配員の雇用形態はアルバイトであり訓練に費用はあまり掛からない。それゆえ、宅配業務に向いている、エアミュールであるが民間利用は難しい。何故なら、エアミュールは一機250万USドル(約2億5000万円)だからである。さらに運用には、GPSを含めた多くの周辺機器が求められる。
 以上のように先行する軍事ドローンを民間利用に導入する際に費用は大きな論点のひとつである。次に、費用の問題を乗り越えた民間ドローンの成功例を挙げたい。

-民間ドローンの成功例 産業無人ヘリ
 民間ドローンの成功は、農薬散布の分野が先行している。ラジコン型のドローンとして世界初の産業無人ヘリ「R50」が、1987年にヤマハ発動機株式会社から販売された 。農林水産省の外郭団体農林水産航空協会からの開発委託が1983年に始まり、4年後の実用化にこぎつけた。「R50」はその後改良を経て、2013年の「FAZER(フェーザー)」に至る。現在、登録機体が3000機弱あり、操縦免許取得者(オペレーター)が約1万1千人である。免許は農林水産航空協会指定の教習を受講し発行される。
民間ドローンが社会的成功を収めるためには、社会組織の中で明確な位置づけが必要であるが、産業無人ヘリは政府の外郭団体による免許制度によって確立している。次に法律の位置づけである。先述したように産業無人ヘリ(民間ドローン)は航空法上、問題がなく、航空機製造事業法の離陸総重量が100㎏未満という規制を満たし、遠隔操作に関する電波法では微弱な無線局に該当し規制を満たしている。法律面で産業無人ヘリは社会上の明確な位置づけを得ているのである。商業面では、水稲の農薬散布で稲作面積の36%を担っている。このように民間ドローンの成功例として、産業用無人ヘリがまず挙げられる。趣味的利用を超える民間利用では、産業無人ヘリ同様に政府の外郭団体や専門学校等による免許制度の確立と普及が必要であろう。自動車二輪車や自動四輪車のように小型や大型などの違い等も念頭にすべきであろう。なぜならば、産業無人ヘリは航空製造法等によって機体の全長や翼長、総重量等がある範囲内に揃っているからである。しかしながら、民間ドローンの拡大を加速させるには、こうしたドローンの機体の大型化や多様化が必須である。それゆえ、政府の外郭団体や専門学校等による免許制度の確立と普及が必須となる。次に具体的に今後の民間ドローンの可能性を探り、そこで求められる概念を明らかにしたい。

―民間ドローンの可能性
 2015年5月20~22日、「第1回国際ドローン展」が千葉の幕張メッセで開催された。日本で初めてのドローン展示会で、商談を目的とした企業向けの専門展示会であったが、3日間で約1万人が訪れ盛況、関心の高さを示した 。同展示会では、約50の企業・団体が民間ドローンの活用を探った。セコムは飛行監視ドローンを紹介し自動追尾とカメラでの撮影の仕組みを発表した。中日本高速道路(NEXCO中日本)の傘下で中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京などは、高速道路のひび割れ点検を披露した。コマツは工事現場での自動測量を公開した。物流に関しては、MIKAWAYA21(東京)が、山間部や離島での買い物代行サービス、宅配サービスの構想を発表した。企業の出展は、工事現場の測量や、空撮、災害時の遭難者捜索に重きが置かれていた。
 民間ドローンは既に利用段階にある分野もあり、また宅配のように試作段階にある分野もある。以下に世界から主な民間ドローンの活用例を段階に拘らずに列挙したい。

A)考古学:測量や空中からの撮影など
B)林業:生育マッピングや空中からの撮影など
C)気象学:嵐の継続監視、氷河のマッピング、気温等のデータ収集など
D)農業や畜産業:作物の虫害の発見、発育育成データ、農薬散布、広域での家畜の頭数確認など
E)動物学:野生動物の保護、生態の研究と監視など
F)海中研究:浅海のみならず深海という低温高圧世界での生態の研究など
G)高高度研究:NASAを主体とする大気圏の環境調査など
H)治安維持:監視、群衆の継続監視と警告など
I)法執行:テロ対策や交通監視、犯人追跡など
J)災害対策:遭難者捜索、災害状況確認、森林火災の継続監視、通行制限地域や災害地域の監視、災害後のインフラ破損状況の確認など
K)人道支援:到達が困難な地域への医療品や食料品の輸送など
L)商業輸送:離島地域を含めた宅配サービスと遠隔の少量宅配サービスなど
M)商業撮影:ニュース等の撮影、オリンピックなどの行事撮影など
N)スポーツ:Hover Ballによるプレーヤー間のスキル差の調整に基づく拡張スポーツなど
O)建設機械:建設現場の空中からの撮影、インフラの測量、検査、監視など

 以上が、実験段階を含めた民間ドローンの活用例の一部である。民間ドローンの活用は、市街地の宅配業務よりは、農業分野が先導しており、現在でも他の分野での活躍が目立つ。
 UAS(民間ドローン)操縦者の育成と資格認定を行っている「日本UAS産業振興協議会」の鈴木真二理事長は、「物流へのドローン適用の可能性は大きいと考えている。まずは離島など近距離への配送や倉庫内の荷物移動といったところから利用を始め、徐々に対象を広めていく形ではないか」と述べている 。現段階で、物流のドローンは潜在需要に留まっており、他の分野の先行が窺える。ただし、宅配、輸送の潜在需要は他の利用に比較しても大きいことは言うまでもない。貨物輸送におけるモータリゼーションでは、自動車(トラックを含む)で昭和40年から平成7年で6倍に増加し、鉄道貨物では44%に減少している。それ以後、国内貨物輸送量は長期的に減少傾向に入っている 。減少傾向は経済状況と必ずしも一致しておらず、潜在的需要の大きさが察せられる。その潜在需要を掘り起こした時、民間ドローンは自動車やプログラミング技術と同じく社会基盤の根本を担うことになるのではないだろうか。

5. 「公衆」と民間ドローン
 民間ドローンの潜在力の大きさを掘り起こす時に、気を付けなければならないのが法律面、倫理面である。ここでは技術者倫理から考えたい。なぜならば、軍事ドローンから民間ドローンに転用される際、利用要件が変わるからである。軍事ドローンでは、イスラエル国とアメリカの比較で出てきたように国際政治等によって利用が促進、あるいは停止させられていた。そして、純粋な軍事作戦上有効であるかどうかが求められた。例えば、軍事輸送ドローン「エアミュール」では、兵員の費用対効果などから高額であることを妨げなかった。軍事組織に対する責任や一定の抑制が働くにしても、兵員は不特定多数の人々という「公衆」とは異なる。ドローンが軍事利用から民間利用に転用される際、費用のみならず、こうした「公衆」を考察しなければならない。
 そもそも技術者倫理は、技術者個人を含めた技術集団が、個別の技術分野をまたがって、研究、開発、実施、利用などに係る際、「公衆の福利」を最優先と捉えている。ここで公衆とは不特定多数の人々を指し、国民はもとより消費者、製造者に至るまでを指す。「公衆の福利」とは、数多くの倫理要綱に規定され、その代表は、「National Society of Professional Engineers (NSPE: 全米プロフェッショナルエンジニア協会)」で「公衆の安全、健康、および福利を最優先する(Hold paramount the
safety, health, and welfare of public)」 ことが明記されている 。技術者の国際的同等性を求める「日本技術者教育認定機構(JABEE)」は、技術者認定教育を行う課程に「技術者倫理」を必須科目としている。また、「公益財団法人 化学工学会」の倫理規定では、憲章「1.会員は、専門家として、職務遂行において公衆の安全、健康および福祉を最優先する。(行動の手引き)」 とある。その他数多くの工業系専門学会の倫理規定に「公衆の福利」と同類の規定が見られる。つまり、技術者が製造する物の民間利用では、「公衆の福利」を考慮している。現代では、以上のように製造物を社会基盤に位置付けるためには、「公衆」という概念を導入している現状がある。
 「公衆の福利」は、公衆に対する責任の要請であるが、「事故防止」、「再発防止」が求められる。各段階に分れるが、例えば設計段階における「フール・プルーフ(Fool proof)」と「フェイル・セイフ(Fail safe)」がある。「フール・プルーフ」とは「人は愚かな行為をするという前提で事故防止を目的として設計すること」である。電気ポットでの給湯の際、ボタン「ロック解除」を押し、ボタン「給湯」を押さなければ湯が注がれないように設計されている。人は寝ぼけるなどで認識力が低下する、幼児などがいたずらをするなどで愚かな行為をする場合がある。それゆえ、熱湯を1回のボタン操作ではなく2回の操作で給湯する設計を組み入れている。同じく「フェイル・セイフ」とは「物は壊れるという前提で事故防止を目的として設計すること」である。ジャンボジェット等の旅客機は、エンジンの片方が壊れても、もう一方だけで飛行できるように設計してある。ジャンボジェット等は可燃性の燃料を使用し、かつ高温となる。ジェットエンジンの特性から空中にある浮遊物を巻き込み故障する事例が起こっている。それゆえ、片方のエンジンだけで飛行可能な設計を組み込んでいる。
 設計段階のみならず、数々の段階で民間利用では「公衆」に対する責任を考慮しなければならない。責任の考慮によって達成すべきは、「許容可能なリスク(Tolerable risk)」である。また、「安全(safety)」は逆説で、「受け入れ不可能なリスクから解放されていること(Freedom from unacceptable risk)」と、ISO/IECで定義されている 。同語反復的に定義される「許容可能なリスク」と「安全」は、各製造物によって時代、社会情勢によって尺度が異なるが、その意図する所は、「公衆」に対する責任から、万全の事故予防策を講じるべきという規範性にある。この規範性は技術者が民間ドローン技術を社会内に累積する際に必要となる。その成功例が産業無人ヘリであるのは繰り返し述べている通りである。
 技術者が民間ドローン技術を蓄積する際に「公衆」に対する責任を果たさなければならないのは、技術発展のための基本条件という側面もある。技術史を鑑みれば、数百年以上進んだ技術であっても社会の情勢によって取捨選択を受けていることが明らかなのである。この社会の情勢による取捨選択を乗り越えるために、現代世界では「公衆」への責任を果たさなければならない。その上で、一般大衆は発明の必要性を実感し、民間ドローンを使用するであろう。
その好例が有名なトーマス・エジソン(Thomas Alva Edison)の蓄音機である。蓄音機は回転円筒状に錫箔を巻き、受音振動板につけた針で深さ方向に録音する方法によって1877年に完成した 。同年、エジソンは蓄音機の使用として、英語の綴りの録音教材など、10通りを公開した。その後、商業的価値がないと助手に告げた後、口述用録音再生装置として販売し直した。しかし、一般大衆はこの録音再生装置を音楽再生に使用した。エジソンは音楽再生に強く反対し、品位を汚すものだとした。彼が音楽再生としての利用を受け入れるのは、約20年が過ぎてからである 。自動車も同様であり、ゴットリープ・ダイムラー(Gottlieb Wilhelm Daimler)が自動二輪車を製作したのが1885年、自動四輪車を製作したのが1896年である。当初は馬車レースに換わる自動車レースとして上流階級の趣味的利用に留まっていた。その後、アメリカ陸軍とフォード(Ford Motor Company)社が第1次世界大戦で一大キャンペーンを展開し、1924年までに1000万台を販売するに至った 。
 トーマス・エジソンの蓄音機は、技術者が発明した用途は一般大衆によって取捨選択を受けるという好例である。トーマス・エジソンの蓄音機は、その後レコードとなり、SONY「ウォークマン」の発明へとつながった。また、自動車は軍事利用が民間利用をけん引する好例である。いずれの例も、技術者が発明した当初の用途ではない点、そして一般大衆の生活を変えていった点が共通する。「ウォークマン」が革新したのは、個人が街頭で音楽を楽しむという生活習慣の点だからである。加えて、1900年代初頭よりも現代世界は一般大衆の消費行動が製造物の生産量を左右する時代である。それゆえに、民間ドローンを拡大させるために、「公衆」に対する責任が、より重く問われるのである。

6. おわりに
 ドローンは軍事利用によってGPSやセンサー類を取り込むことで、「無人標的機」から周辺機器を含む無人航空機システム「UAS」へと進歩を遂げた。ドローンの本質がよりソフトウェアへと移行する中で、軍事補助的な役割から偵察、戦闘へと主要な役割が広がっている。こうした技術的蓄積を民間利用へと解放する時代に入っている。その際に求められるのは、法律面での整備と共に、「公衆の福利」という技術者倫理なのである。費用等の経済性だけでなく、その時代や社会情勢を勘案する「公衆の福利」という概念は、民間ドローンを考察する上で有用な概念である。ドローンと同じく第2次世界大戦前に試作された自動車が郊外を生み出し、インターネットを含めるプログラミング技術が携帯電話やネット空間へと時間を費やす生活習慣を生み出した。ドローンが同様に社会基盤を担うためにも、技術者倫理における「公衆」を考える必要がある。


引用文献

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