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【随筆】国会図書館へ旅行、一泊二日

 「まだ、でないの? 早くでればいいのに」

 とかみさんに居間で声を掛けられました。

 「そう? ま、やることは決まっているし、時間の余裕もあるし。」
 「だって、東京だよ。美味しいもの、食べてくればいいよ。色んな処を見たくなるでしょ?」
 「べつにそうでもないよ。うーん、東京って大体分かるし、だいたい、こんな格好でいくんだよ。」

 (黒の安い半そでTシャツ、はげ落ちたぼろぼろの半ズボン、黒のサンダル。どれも三年以上使っています。)

 「えーーそんな格好でいくの? やめなよ~。」
 「まー本を読むだけだから。東京はあまり人の服装見てないよ、実際は。」

 という会話を平成二十九年八月二十四日(水曜日)午前十時過ぎにしました。かみさんはニ、三か月に一度、東京に行くので、私よりもよっぽど東京に行っているのですが、やはり東京はきらびやかな処なのでしょう。東京はオシャレをしていく処、という感覚なのです。わくわくして「東京に行ってくるね~」と言います。
 私は幼少期に住んでいたからでしょうか、きらびやかな処、という感覚はありません。むしろ人がわんさか、ワタあめのようにあふれかえっている処、という風に感じています。ふわふわしているように見えていつの間にかベタベタしてくる居心地の悪い空間です。今回の泊まった場所の銀座を少し歩くと吐き気がしてきたくらいです。

 「そういえば、一人旅って初めてじゃない? 結婚してから。」
 「あー前に、富士市に泊まって大瀬崎に行ったことがあったよ。」
 「そうだったっけね・・・。」

 というかみさんの会話が響いたのでしょうか、自宅を出て自転車をこぎだすと、不思議なことに「エッセイ」のアイディアが出てきました。普段は出てこない「エッセイ」のアイディアが、ぽーん、と出てきたのは、私の無意識の部分が旅モードになっている現れでしょう。時間に余裕もあるし、と静岡駅南口近辺のネットカフェで「エッセイ」を書き留めて、新幹線に乗り込みました。

 東京駅に着き、「国会議事堂前駅」を降りて国会議事堂の正門前を歩き、国会図書館に逃げ込みました。暑い、暑い。警察官が長袖で警邏(けいら)している姿に、敬服の念を禁じえませんでした。五分やそこいら歩いただけでへばっている私は到底できないと思うと同時に、こうした方々が日本国の安全を支えて下さっていると敬服したのです。
 国会図書館は検索がパソコンで出来るようになりましたし、館内も明るくなりました。ですから、スムーズに資料の検索ができました。今日は①『「北条政子の資料」を実際に見てみて参考になるかどうかを判断すること』、『②藤枝木鶏クラブのある方からのご依頼を調べる。主に静岡県の石碑』でした。それぞれ一定の成果が上がりました。それにしても国会図書館が利用者カードを導入してから、利用は簡単になりました。この日は、利用席の七割程度が埋まる感じの込み具合でした。学生時代に来た時は、暗く、使いにくく、コピーも取りにくかったですが、明るく、カードで使いやすく、コピーはすべて職員の方がとって下さるようになりました。学生を連れて旅行に来たいなぁ、 と思いました。
 貸し出しカウンターの上に「真理がわれらを自由にする」と彫ってあります。学生時代は、「真理とは何かが判っているのだろうか?」と疑問を挟んだものですが、現在の私は「自由とは民主主義の根幹であり、その根幹がこの国会図書館である」と誇りを感じるようになりました。人は誇りによって自らの人生を支えうる者だと実感してきています。

 途中、休憩と体操、駐車スペース確認のために一旦、外にでました。石垣に座りますと、耳に覆いかぶさるような蝉の「ミーン!!ミーン!!」という音の中、暑気がみなぎる空気の先に、夕暮れ時でも強い日差しを受けた国会議事堂が、ありました。インドのタージマハルのような幻想的な国会議事堂でした。真夏の日差しの中、汗をかきながら見る国会議事堂とは、まったく印象が異なりました。それは国会図書館の資料で感動をしたからかもしれません。
 東京は旅行先ではありませんでしたが、国会図書館の中の知識の海は、私のワクワクする旅行先となりました。

 夢見心地な心が、ギョッとする時がやってきました。座りっぱなしだったので、銀座一丁目から七丁目まで約一キロを歩くことにしたのですが、人が多くて困りました。買い物をしようというギラギラした顔、値踏みしてくるような視線などに酔ってしまったのです。夕暮れ時だったのもあり、東西南北が判らなくなったので交番で聴きました。すぐ裏に宿泊先のカプセルホテルがありました。
 少し足をマッサージして横になり、酔いをさましました。安岡正篤先生の『いかに人物を練るか』を読み、心を整えました。腹が減ってきたので夕食をしようと、午後七時に外に出ました。

 この文章を書いているのは、「メディアカフェ ポパイ GG新橋店」というお店です。いわゆるインターネットカフェです。漫画が自由に読めて、インターネットができ、最近は簡易の宿泊所としても利用されています。ですから、店内は薄暗く、所せまし漫画や雑誌にあふれています。ドリンクも飲み放題です。私がこのお店に入って受付を済ませて、七階に上がりました。私の一室はリクライニングソファーが置いてあり、部屋の上部は空いているのです。部屋に入ろうと廊下を曲がると、アダルトビデオのDVDの棚が現れたのです。何十本もあり、派手な表紙にギョッとしました。その向かいには、男性用のアダルト雑誌も二、三十種類もありました。私がこれまで入ったネットカフェでも、アダルトビデオが見放題でした。しかし、私が起動してなければ、目に入ってこないものでいた。ですから、ネットカフェでアダルトモノは見てこなかったのです。
 けれども、ここでは、ドーン!!と不意に出てきました。ギョッとしましたが、私も大人なので声も出さずに平然と前に進みました。すると若い女性とすれ違ったのです。別の意味でギョッとしました。さらに、飲み物を取りに下の階に降りる時も別の女性とすれ違いました。ネットカフェといえば、男性中心の場所でした。もちろん、最近はカップル席などができて、男女ひと組でなら、女性も入ってくるという印象だったのですが、どうやら女性は一人で入れる場所になってきているようです。なんだか落ち着かない気分になりました。
 今、天井を見上げれば、薄暗く、そして天井はすすけており、穴倉のような場所です。お世辞にもお洒落な場所とは言えません。けれども、この監獄のような場所が、オシャレに満たされている東京で、唯一私がホッとできる場所だったのです。
 無料のオニオンスープを一口飲みました。私のように、ワタあめのようにあふれかえっている処から少し休みたい、という女性が増えているのでしょうか。こんな風に感傷に身を置いて考えられる時間をゆっくり持てるのは、旅先ならではのことです。時計を見ると午後九時。普段なら、かみさんと協力して子供三人の歯磨きをして、寝かせている頃です。心の中で「ありがとう」とつぶやきました。

 さて、そろそろこのお店を出て、銀座のカプセルホテルに戻ることにします。リラックスと上質さをカプセルホテルに取り入れた新しいカプセルホテルで女性専用フロアもあります。安岡正篤先生の著書を読みながら寝ることにします。明日も国会図書館という旅先に行ける幸せを噛みしめて眠ります。

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