講演レジュメ「日本人の善いこと ―国歌に込められた想い―」

 榛南(はいなん)ロータリークラブ様で、30分の講演で配布したレジュメです。

榛南ロータリークラブ様HP
http://hainan-rc.jp/
配布したレジュメを「資料」として公開してくださっています。
http://hainan-rc.jp/wp-content/uploads/26023ea001a6daa74bd16935bf4a749b.pdf

カラ―ですので、イギリス国旗やアメリカ国旗などが綺麗です。さざれ石もよく見えます。私のレジュメでは掲載していませんので、出来ればこちらをご覧くださいませ。

 講演では、掛川の由来など幾つか付け加えました。
 以下、レジュメになります。


                               平成29年2月14日(火)

日本人の善いこと ―国歌に込められた想い―
                                高木 健治郎


 「善いことをしたい。残したい。」というのは多くの人が想うのではないでしょうか。では「どのようなことが善いこと?」なのでしょうか。「哲学」などの講義で話している内容をお話し致します。

 「善いこと」は、国によって異なります。国旗・国歌がばらばらなのも異なるからです。では、日本人の善いことを、国歌「君が代」を歴史的事実に基づいて見ていきましょう。まず、結論からです。

結論 「善いこと」

イ) 真理や芸術の前では、みんな平等である =善
ロ)平和を愛する =善
ハ)上と下がお互いに思いやり助け合う =善
二)全ての人が自分の個性を大切にする =善

 この4つは、イギリスやアメリカ、フランスの国歌の全ては歌われていません。それぞれの歴史で善いことが異なります。

国歌「君が代」の歴史
「君が代」について3点を述べていきます。

 ①和歌文化
 ②皇室と権力
 ③細石(さざれいし)

① 和歌文化について

「君が代」は元々和歌で、世界の国歌の中で最も短い歌でもあります。和歌は『万葉集』に最初にまとめられ、『古今和歌集』から盛り上がってきました。醍醐天皇の勅命により編集開始され、延喜(えんぎ)五年、西暦905年に『古今和歌集』の奏上を受けられました。『枕草子』や『源氏物語』に数多く引用され深い影響を与えました。
『古今和歌集』の講義や解釈は教養そのものとされ、宮中や公家や歌人には必須となり、数々の学問の系統が生まれました。日本で学問といえば、『古今和歌集』となりました。
その『古今和歌集』の特徴は、醍醐天皇の御製(ぎょせい:和歌)から紀貫之などの貴族を含め、名もなき庶民の歌まで入っていることです。実際1111首の内、醍醐天皇の御製は43首あります。他方、醍醐天皇は家集『延喜御集』を出されるなど文人であらせられました。
この事実は、歌の出来不出来の前では、つまり芸術の前では、権力や権威が関係ないという高尚な考え方が見て取れます。同時代の諸外国のように芸術を上流階級が独占することなく、皇室から民までが一体となって愛したことで、和歌文化の隆盛を極めたのです。つまり、

   イ)真理や芸術の前では、みんな平等である =善

という意味を「君が代」は持つのです。これは明治期にも形として現れます。「君が代」は「歌詠み知らず」、つまり作者不明の歌です。しかし、庶民が神事や仏事、結婚式のお祝いごとで歌い継いできたので、国歌に採用したのです。『古今和歌集』には醍醐天皇の御製、明治天皇の御製ではなく、作者不明を採用したのです。「歌の前では万民平等である」のです。さらに、天皇陛下の誕生日(天長節:てんちょうせつ)にも「君が代」を歌うこととしたのです。皇室が民の想いを優先されていることが伝わってきます。

② 皇室と権力について

醍醐天皇の時代は和歌文化の隆盛や違法な荘園の公領化などによる国家財政の立て直しなどで、平和で豊かな時代が訪れました。「延喜の治」としてたたえられますが、権力から観てみると、藤原の摂関政治が確立し、政治上の安定がもたらされた時代でもありました。
『古今和歌集』では「我が君は、千代に八千代に・・・」と詠まれていましたが、「君が代は、千代に八千代に・・・」に変わりました。これは「皇室の治世」を願う気持ちが前面に込められています。では、「皇室の治世」を権力から観てみましょう。すると、「天皇の勅命により皇室から権力が離れていく」という歴史的事実が浮かび上がってきます。時系列で並べてみます。

○天皇から皇族へ:聖徳太子         
  ↓
○皇室以外も権力に介入:大化の改新
  ↓
○皇室から貴族へ:藤原の摂関政治 =君が代
  ↓
○皇室から貴族以外へ:平氏政権
  ↓
○皇室から外(鎌倉)へ:鎌倉政権
  ↓
○皇室から民へ:明治維新

 聖徳太子から始まりますが、天皇から権力が徐々に遠くになっていきます。それぞれの時に揺れ戻しも置きますが、また、天皇の勅命によって権力が外部へ外部へと出ていきます。これによって皇室は権威と権力を分離して、安定と継続性を得られるのです。
 藤原の摂関政治は制度として初めて皇室から権力が宮中の貴族へと渡った制度です。そうした安定と継続性を「君が代は」と歌い上げたのです。権力は優秀な者が争い、その任命を天皇が権威によって行う、というのが2677年続く日本の歴史です。天皇によって任命を受けていない権力者はただの1人もいません。織田信長も武田信玄も上杉謙信も国旗「日の丸」を掲げて戦いました。
これらから、「君が代」に込められた心とは、延喜の治のように平和で文化を大切にする日本が末永く続きますように、との想いだと考えられます。

  ロ)平和を愛する =善
  ハ)上と下がお互いに思いやり助け合う =善

③ 細石(さざれいし)について

 細石とは、1つ1つばらばらな大きさ、種類の石を石灰質などが接着させてできる石を指します。大理石などよりも軽く、弱いので建築資材などに向いていません。ですから、便利性や有用性などにおいては劣る石です。それを歌い上げる、のですから、そこには日本人の心が入っていると考えられるのです。以下は、「賀茂(かも)神社のさざれ石」です。(伊勢)神宮などにもあります。

 「一つ一つの大きさ、種類の違う石があること」を「1人1人の能力や所属集団が違うことがあること」と見立てたのでしょう。つまり、「人間社会では一人一人が違ってよい。そのままでよい。そしてその上で一つの石になり、巌(いわお)のように一心同体になろう」という日本人の心です。聖徳太子「和を以て貴しと為す」と同じ心です。細石は建築資材などとしては劣りますが、そこに人間社会のあり様と理想を観たのだと考えられます。

二)全ての人が自分の個性を大切にする =善

「君が代」の意味

 ①~③をまとめてみましょう。すると「君が代」の意味が明らかになってきます。歌詞を先に挙げます。

「君が代は 千代に八千代に  細石の 巌となりて 苔のむすまで」

意訳
「皇室を頂く世の中が末永く続きますように
 一人一人が違うままでよく、その上でみんなが一体となり岩のように固く結びついて、新しい境地が開けますように。そういう皇室を頂く世が末永く続きますように」

 「君が代」が神事や仏事など宗教を超えて、狂言や浄瑠璃などの文化を超えて、お祝い事や結婚式で歌われてきた訳が明らかになりました。どこにも戦争を意味する単語も、文意もありません。諸外国の国家には「爆弾」や「敵」や「血」や「奴隷」など戦争に関わる単語が数多く出てきます。敵を倒せ、というアメリカ国歌やフランス国歌など、女王だけを神様お守りください、という英国国歌などがその代表例です。

苔のむすまでの面白話

 最後の「苔のむすまで」にはいくつか解釈がありますが、「苔という新しい生命の誕生」と「苔が生えるまで末永く」の両方の意味があります。もう一つ苔は澄んだ水の中でないと生えませんので「清浄なままで」の意味もある、との説もありました。
 結婚式では、男と女という別の志向をもつ人間が一つの家に住み始める式です。ですから、細石の石灰質のように結びつけるものが必要です。その際、男に完全に女性が従う、や女性に完全に男が敷かれるというのではないのが理想です。細石そのものです。男も女もそのままでよいのです。その上で何とか仲良くしよう、それが理想なのです。そして、苔は、「新しい家」を意味するでしょう。あるいは「赤子」という新しい生命を意味するでしょう。そして結婚が末永く、仲良く(喧嘩せず=清浄なままで)という意味を込めたことでしょう。ですから、結婚式で「君が代」が民の間で歌い継がれてきたのでしょう。

 平和を愛し、新しいものを育てる気持ちを込めた「君が代」は日本人の心が見て取れます。対して欧米では「苔むす」の意味が正反対です。
 
「転石苔むさず(A Rolling Stone gathers No Moss)」
gather:収穫する。ものが蓄積する。Moss:苔。
日本では「1つのことを長く続けないと成果が出ない」の意味
アメリカでは「才能のある人は活動を続けて古くならない」の意味で日本と正反対。

イギリス、アメリカ、フランスの国歌

イギリス国歌
題名「神が私たちの女王を守らんことを」

神が私たちの慈悲深い女王を守らんことを
私達の高貴な女王が長く生きんことを
神が女王を守らんことを
彼女に勝利を送れ、
幸福で栄光ある、
長く私たちの上の統治へ、
神が女王を守らんことを!

おお主なる神よ、立ち上がれ、
私たちの敵を追い散らし、
彼らを倒せ!
彼らの悪辣な企みを失敗させ、
彼らの政治を混乱させよ、
あなたの上に私たちの希望を私たちは据える、
神が女王を守らんことを!

・・・後略・・・

○女王礼賛のみ 民は出てこない
○敵を倒すことを賛美している
○神の存在を前提としている

 英国は国旗で聖ジョージを象(かたど)っており、キリスト教を中心とした国であることが判ります。そのキリスト教の神が女王を守ることを歌っています。国旗はローマ法王が授けた十字の旗であり、倒すべき敵は異教徒です。現在も封建制度を続けるイギリスらしさが国歌に見事に現れています。
アメリカの国歌
題「星条旗」
(フランスとアメリカの戦争で捕虜を弁護士が助けにいって
船の中で一泊した後の朝日を見る場面の歌です。)

おお、あなたは見ることができるか、
夜明けの早い光によって、
あんなにも誇らしく、私たちが黄昏の最後の輝きで
歓呼して迎えたものを?
誰の広い縞と明るい星が(注:星条旗を指す)、危険な戦いを通して、
私たちが見た城壁の向うに、
あんなにも雄々しく翻っていたか?

・・・中略・・・

そしてあんなにも自慢げに誓ったあの一団はどこか
戦争の荒廃と戦闘の混乱が
故郷も国も私たちにはもはや残さないだろうと!
彼らの血は彼らの不潔な足跡の汚れを洗い流した。
避難所は彼らの雇われ人と奴隷を助けられなかった
敗走の恐怖と墓の暗闇から:
そして星条旗が勝利の中で翻る
自由の土地と勇者の故郷に。

・・・後略・・・

○戦いの歌であり、勝利を礼賛する
○敵を殺害したことを誇る
○傭兵と奴隷が出てくる

 作曲は当時のヨーロッパの流行歌で、その替え歌です。替え歌は色々なバージョンがあります。アメリカがヨーロッパから独立する過程で戦争を繰り返してきた歴史が見事に表現されています。


フランスの国歌
題:「マルセイユの歌」

立ち上がれ、祖国の子供よ、
栄光の日が来た。
私たちに対して、専制政治の
血染めの旗が掲げられる、
血染めの旗が掲げられる。
聴け、野原で、これらの獰猛な兵士が叫ぶのを。
彼らが私たちの腕の中にまでやってくる
あなたたちの息子たちと配偶者たちの
喉を切るために。

CHORUS:
部隊へ、市民たちよ!
あなたたちの大部隊を形づくれ!
行進しよう、行進しよう!
不潔な血が私たちの溝を潤さんことを。

・・・後略・・・

○敵が出てきますが、専制政治側です
○どこにも逃げられないと言う=大陸国家らしい
○敵の血を流させるために軍隊を作ろうと言います

 フランスはルイ14世の打倒を国家の出発点としています。ルイ14世は専制政治の代表であり、フランスの歴史に根ざしています。また、フランスは英国、ドイツ、イタリアなどに囲まれた国で、否応がなく戦争に巻き込まれる土地でした。そのため、防衛戦争という意識が強いのでしょう。フランスの地理的条件、歴史などが表現されています。

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