講義録13-1「学問の力」

 前回の「原発は『公衆の福利』に適うか」では、「科学技術者の倫理」として1人1人がまとめを出してもらいました。
 講義の最初に述べたように「倫理は正解が多数ある学問です」から、「1人1人のまとめ=正解多数」となります。これだけでは、思い込み、信念、信仰などと変りませんし、下手をすると間違いや思い違いに目が行きにくくなりますし、訂正しにくくなります。ですから、この講義(これまでも)では、「公平」を大切にしてきました。それは改めて書きますが、

①「賛成側、反対側の両側から自分の頭で1回ずつ考える」ことをして、その上で「自分の意見を書く」ということを大切にしました。

②科学哲学者カール・ポパーは「その出来上がった意見も間違える可能性を常に意識して絶対化しないように」と忠告してくれています。

③そして、この①と②が行われなかったことが、福島原発事故の大きな原因の1つと考えます。

 ③の原因として取り上げたのは、政治的な理由です。日本では自主エネルギーの確保、アメリカは日本支配という政治的な理由が、発電していない原発を「経済的、安全、未来のエネルギー」という原因になりました。福島原発がアメリカの地震や津波の無い設計をそのまま使っていて、日本政府、専門家、設計企業、運転企業の全てがそれに従いました。「原子力村体質が原発を悪くしている」という意見に対して私は

④「原発が危険と判ってきたから原子力村体質になった」

 と考えました。また、

⑤「技術が政治を含めた社会的要因で、安全でなくなったり全て捨てられることは技術史で良く見られること」

 なのです。印刷技術、鉄砲技術などで具体例を挙げました。そしてこの見方からすると、

⑥「原発の問題は、自衛隊、憲法、国家安全保障、食料自給率、教育界など多くの分野と共通している」

 と考えています。アメリカのGHQが創った「軍隊放棄」、「軍隊を持たない=平和」、「憲法」、「拉致」、「北方領土」、「米の生産調整」、「公衆の福利(公共心)を扱わない知識教育」などなどです。これは戦後65年間、「自分たちで自分のことを決める」ことを放棄する点に共通点があります。その放棄の代償として「経済的繁栄」を手に入れました。繰り返しますが、これは良いか悪いかではありません。責任追及ではなく原因究明なのです。これらの共通点を知って、その上で私たちは何をするか、何もしないか、じっくり考えるか、なのです。自分のことを自分で決めるのは、苦しいし、知識も必要ですし、恐ろしさもあります。

⑦その苦しさ、知識吸収、恐ろしさを引き受けることが、「科学技術者の倫理」を判断できる技術者を育てる第一歩だと考えています。

 そしてそれは広く、子供から大人へと、つまり真の味わい深い毎日を過ごすコツとも言えると考えています。聖書、論語、仏教の経典などから教えてもらいました。さらに、これらの本で共通しているのは、大きな災害、喪失、危機に遭った時、普段から心を鍛え、危機には冷静に対応するということです。この2つを成し遂げるのは「学問の力」=「公平」だと考えます。大災害に起こった時、「もう、東日本大震災のニュースに飽きた」や「こんな怖い映像は見たくない」という気持ちだけで、無関心になったり、そのことが出てくると怒りにも似た感情で処理してしまうことにならないで欲しいのです。1つ1つのニュースに左右されず、全体を見通すことによって、冷静に対応できるのです。私自身、この講義を行っていく中で、心の平安が訪れてきました。福島原発事故で困っている方々に同情しつつも、私自身がやるべきこと、やれることが見えてきました。そこに心の安定がありました。学生の皆さんの最後のアンケートでも、未来へ向けた言葉、未来の自分へ向けた戒(いまし)めが見受けられました。本当に嬉しいことです。また、この講義を思い出して、将来感じてくれる学生さんもいることでしょう。それも嬉しいことです。心をぶつけてくれた学生さんもいます。自分の気持ちを整理して行ってくれたのが判る学生さんもいます。本当に有り難いことです。最後に繰り返しますが、

⑧大きな災害、喪失、危機に遭った時、普段から心を鍛え、危機には冷静に対応するということです。この2つを成し遂げるのは「学問の力」=「公平」だと考えます。

 私はこの「学問の力」=「公平」を大切にしたいと考えます。以上、八つ、末広がりの八で、教員のまとめとしたいと思います。
 ご拝読に感謝いたします。有り難う御座いました。


 
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