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講義録10-1 公益通報者保護法 技術と社会の相補的関係

 皆様、こんにちは。

 鰤(ぶり)の刺身に脂が乗ってきました。地元のスーパーで無料で捌(さば)いてもらい、安く沢山食べました。冬は冬の良さがある。実感しています。さて、この生鮮食品、加工品にすると税率が変わるかもしれない、というので政治課題として騒がれています。私は、それよりも、アベノミクスで100兆円以上ため込んでいる企業のお金(内部留保)を何とか吐き出させる方が大切だ、と思うのです。現在内部留保は300兆円以上、1%の税金で3兆円です。消費税を上げなくて済む、さらに、資金の循環が出来る、という観点からです。マスコミや新聞では庶民の身の回りのネタを中心に報道しますが、それで大失敗したのが「子供手当」でした。私達国民が、身の回りの、自分の利益だけ、という狭い視野に立ってしまったからです。今回の消費税の、うんぬんの話も、そうならないと良いなぁ、と思っていました。そうしたら、鰤が不味くなりました。食べる時は感謝して他のことを考えないで食べるようにしたいものです。

 それでは本文に入ります。

宿題あり
:第2回宿題レポート 12月8日まで
http://takagikenziro.blog.fc2.com/blog-entry-527.html

配付したプリント B4 3枚
宿題分:竹村公太郎著  『日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 』  62-77頁と要件
:『銃・病原菌・鉄 (下)』 48,49,52,53,76,77頁

紹介(閲覧)した資料 
:ジャレド・ダイアモンド著 倉骨彰訳 『銃・病原菌・鉄 (下)』  草思社
:竹村公太郎著  『日本史の謎は「地形」で解ける【文明・文化篇】 』 


 --講義内容--

 前回はミートホープ事件を具体的に整理しました。今回は、法律から整理します。公益通報者保護法という内部告発者を守る法律ですが、実態はかなり杜撰(ずさん)です。消費者庁等にも触れながら、考えてもらいました。もう1つの柱は、「技術と社会の相補的関係」です。技術者倫理を法律という小さい段階へと視点を向けて2つの法律を見てみました。もう1つの柱で、社会全体から観る技術、という大きな視点へと飛躍させます。技術を上からも下からも眺めることで、多角的視点を学生の皆さんに持ってもらいたいたいです。

 --(昨年度の講義録より抜粋、加筆、校正)--

 今回の内容はミート・ホープ事件が残した2つの課題についてです。1つは、内部告発者の法律の側面、もう1つは、社会が技術を停止させる、という側面から、「技術と社会との関係はどういうものなのか?」です。田中社長の行いは社会の法律や倫理として許されざる行為です。他方、自分で食べ、捨てるだけの食糧をリサイクルした、という側面でもあります。

 先に結論を書きましょう。
1つ目、「内部告発の法律の側面」では、内部告発者が守られるケースは極めて少ない。
そのように変わったのには、経済界の意向がある。日本で最も影響力の強いのは、
①アメリカ(中国)、
②財務省(元大蔵省)
③経済界
④政治家
⑤マスコミ
⑥国民
 で③が強く圧力を掛けたからです。①~④の説明は現在、衆議院議員選挙中ですので控えます。口頭では選挙中ではないので行いました。ただし、特定の候補を持ち上げることはしませんでした。

2つ目「技術と社会の関係とは」
 結論は「技術と社会は相補的である」です。社会が技術発展を止める事例、社会が技術発展により飛躍する例などを挙げました。また、社会が技術発展において劣った技術を採択させる例なども挙げました。技術は技術だけでは成立せず、技術(製造物)の目的が社会に決定される事例も多いことを説明しました。

 それでは昨年の講義録の引用から入ります。

公益通報者保護法は、平成16年6月18日に制定され、平成18年4月1日に施行されました。
この2つの日付で、何かおかしい?、と感じてもらいたいと言いました。通常の法律は制定から施行までが半年から1年です。2つの日付が離れている、ということは何かしらもめたのだろうか?と推測してもらいたいのです。
 実際に、公益通報者保護法は大分議論が出ました。経済界という日本を牛耳っている世界から、この法律についてコメントが出されていました。制定の5か月前、平成16年1月のことです。これは後に述べることにして、ここでは先に、日本を牛耳る経済界、と経済界からのコメントがあったこと、記憶しておいてください。

全文:http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/gaiyo/files/koekiho.pdf

 特徴は、以下の点です。

A)法律違反のみ保護対象

B)労働者のみ保護対象

C)企業内部への通報が誘導されている

D)解雇の禁止のみである(消極的対応のみ)

E)他の根拠で解雇されるのは認められている

F)匿名での内部告発(講義では(10)匿名でのリーク)は保護対象外


 G)についてですが、特定できない人物の保護は矛盾するので当然と言えます。次にA)~F)についてそれぞれ順不同で述べていきます。

 A)法律違反のみ保護対象

 この点は講義録8-2で述べたように、法律、正確には「法令」のみが対象になっています。ですから、初期の事故予防に対応できず、法律の第1条(目的)で

 「…国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする」

 と書いてありますが、十分な法律の内容とは言えません。この根拠として推測されるのは、経団連を筆頭に大企業の圧力です。法律の制定が平成16年6月、施行が約2年経った平成18年4月です。法律の制定後は半年ないし1年で施行されます。しかし、公益通報者保護法は、大企業にとって大打撃を与えかねない内容を含んでいるため、紆余曲折を経ました。
 そこで、A)法律違反のみ対象や、C)企業内部への通報が誘導されているとなったと高木は考えています。さらには、最も情報や会社の意思決定に関わる取締役は、対象外となりました。しかし、(目的)に謳われているように、「国民の生活の安定及び社会経済の健全な発展に資すること」が真の目的ならば、

A)’どうして、反倫理は対象にならないのでしょうか?

B)’どうして、最も影響力の大きい取締役は対象外なのでしょうか?

C)’内部への通報が誘導されるのでしょうか?

D)’顕彰や公務員への登用の道はないのでしょうか? 
 公務員は「国民に奉仕するのを目的(全体の奉仕者)」としており公益通報者は、立派にその役目を果たしています。

F)’他の理由での解雇が認められているのでしょうか?
 
 一律に全ての原因を経団連をはじめとする大企業に押し付け、そして悪い、と述べているのではありません。ただ、その一因にあったのではないか、ということです。

 内閣府から消費者庁へと移りました。消費者庁のガイドラインには以下のような文章があります。

公益通報者保護制度ウェブサイト:http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/index.html

(3) 通報先はどこですか?
「通報先」は、
 事業者内部(労務提供先)
 行政機関(処分等の権限を有する行政機関)
 その他の事業者外部(被害の拡大防止等のために必要と認められる者)
:例えば、
・報道機関
・消費者団体
・事業者団体
・労働組合
・周辺住民(有害な公害物質が排出されている場合)
の3つであり、それぞれ保護要件が定められています。
ライバル企業など「労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者」は除かれます。

 とガイドラインに書いてあります。
それぞれの保護用件の1つを挙げてみましょう。

 事業者内部への通報を行おうとする場合
(1) 不正の目的で行われた通報でないこと
例えば、金品を要求したり、他人をおとしめるなどの目的の場合は保護されません。

 先ほど述べたA)’~F)’の疑念をぬぐい去れない内容だと考えます。しかし、反対から考えると、「外部への通報によって健全な商業活動が阻害されるリスクが増大する」という考えも成り立ちます。もう少しくだけた言い方をすると、

 「企業の目的は金儲けなのだから、綺麗な部分も汚い部分も必ずある。汚い部分だけを直ぐに取り上げる法律ができると、通常の金儲けも出来なくなる。だから、まず、日本企業を信じて任せて欲しい」

 となるでしょう。ちゃんとしたコメントは経団連が平成16年1月21日に出しています。制定に5ヶ月前です。

「公益通報者保護法案(仮称)の骨子(案)」に対するコメント:http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/011.html

 ここで、B)’に関係する箇所を取り上げてみましょう。

「(2) 「公益通報者」について

骨子案では、「公益通報者」は、「公益通報をした労働者」と規定しているが、労働者に使用人兼務取締役、執行役員、従業員ではない役員待遇者が含まれるのか不明確である。運用上の混乱を避けるためにも、本法の対象は、一定の明確な範囲、例えば「労働基準法上定義される労働者」に限定する必要がある。」

 「不明確であるから取締役は除外する必要がある」

 と書いてあります。

 「不明確であれば取締役は含まれる」

 のが当たり前ですが、この一文によって「取締役は除外しなさい」と通告したことになります。私はこれらの点を挙げて、冒頭で「圧力」と強い言葉で表現しました。その後、「取締役は除外された」のです。これは消費者庁のガイドラインで見てもらった通りです。

 F)については、「公益通報者保護法の概要」に見て取れます。

http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/gaiyo/files/gaiyo.pdf

 一番下の

「(7)その他
① 本法は、労働契約法第 16 条(解雇権濫用の法理)など他の法令の適用を妨げない」

 で明らかです。 
 
「第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

 との文で明らかなように「客観的に合理的な理由」があれば「解雇OK」なのです。
例えば「企業業績が悪くなって人員整理が必要になった」や「現在、会社の部門整理を行っている」などの客観的に合理的な理由であれば、解雇可能なのです。この保護は行われません。ザル法と言われても仕方のないのが、消費者庁の「公益通報者保護法のポイントをまとめた資料」に見て取れます。この点は教科書では充分に指摘されていません。また、ミート・ホープ事件での準社員の解雇が内部告発だったのに、他の理由にすり替えられた、という事実も見てほしいです。さらに、赤羽氏は当時常務でしたから、内部告発しても法律によって保護されなかったのです。繰り返しますが、どうして取締役を内部告発者から排除したのでしょうか? 最も情報の集まる地位であるのに。

 さらに、もう1点だけを挙げてお終いにします。最新の報告書です。

 「平成 22 年度 民間事業者における通報処理制度の実態調査 報告書 」です。

:http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/chosa-kenkyu/files/h22minkan-chosa.pdf

 ここで殆どのページを割いているのは、民間企業が内部組織を導入しているかどうか?です。回答率約38%と低いので実際にはかなり制度の導入が疑問視されますが、最も大切な「公益通報が適切に処理されているか?」が殆ど掲載されていません。
 
 「公益通報が適切に処理されているか?」が最も大切な理由は、法律の目的にあるように「公衆の福利」を実現するためです。

 他方、それが各企業に任せてしまっている実態があります。そして、先ほどの報告書では、内部通報制度は

 「導入している」  46.2%
 「検討中」     13.8%
 「導入する予定なし」 39.1%

 が実態です。

ーセクハラと内部告発の対応の不備

 つまり、最小で2割弱しか、内部告発に対応していない、ということです。現在大学ではセクハラ対策を大学内の対策担当に優先するように求めていますが、内部告発と同じです。しかし、それは本当に有効に活用できているのでしょうか。名前は伏せますが、某国立大学でセクハラを行った疑われる大学教員がセクハラ部署の担当であった、という新聞記事が出ました。その場合、学生はどのようにしたらいいのでしょうか。そしてそもそも、この通報制度の公平性は担保されているのでしょうか。大学の教員とはそのように公平性を担保する基準で採用され、訓練を受けているのでしょうか? そうでない大学教員にセクハラを担当できるのでしょうか。これと同じことが、内部告発の社会誘導が行われている現状で生じているのではないでしょうか。では公的機関である行政機関での対応に目を向けてみましょう。

ー公的機関での内部告発の対応

 また、行政機関では対応がしっかりしています。

平成22年度行政機関における公益通報者保護法の施行状況調査(平成23年3月31日時点)

:http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/chosa-kenkyu/files/h22kouekisekou.pdf

では、約50%が設置しており、しかも、法律違反のみならず倫理規定違反に対応としている場合が最も多いのです。「Ⅰ.内部の職員等からの通報 3.通報対象事実の範囲」です。さらに、冒頭に、

「外部の労働者から全行政機関が受け付けた公益通報は、受理件数が 4,571 件(4,669 件)、調査に着手した件数 4,167件(4,271 件)、措置を講じた件数は 3,424 件(3,398 件)であった。」

 とあります。実態を見るならば、勤務先の企業(事業者)に通報するのではなく、真っ先に日本国政府機関や該当県に通報するのが良いことが分かります。

 以上が公益通報者保護法とその実態です。


 最後に、経団連を始めとする大企業の圧力について述べます。
 日本は大企業が動かしています。講義録8-2で取り上げた「尖閣諸島中国漁船衝突事件」で、中国人の船長を釈放するようにと、政権内部のみならず経済界からも圧力が掛かりました。現在、日本国民はこの事件に対して、当時の菅総理や民主党を批判しますが、経済界からも圧力が掛かったことも考えなければなりません。
 現在、根本的に中華人民共和国に強く出れないのは、(東京の)経団連が中心となって中国に進出を決定したからです。日本の大きな基軸をアメリカだけから中国にきったことが大きな原因です。毒餃子事件を始め、日本でチベット独立運動、僧侶による焼身自殺が殆ど報じられず、先月行われた世界ウィグル会議についてもアジアの中で日本の民主主義が認められた事例なのに報じられないのも、こうした大きな原因があるからです。同時に、極端に振れるという日本人らしい空気もあります。

 原発を導入したのも、エネルギーの安定供給を優先するという大企業中心の発想に基づいているのではないでしょうか。福島原発事故後もこのエネルギーの安定供給という視点が変わらないのは、単に安全保障上の課題、というだけでなく、ならば尖閣諸島に眠る石油や天然ガスを掘るはずです、あるいは原材料費ただの地熱発電や温泉を利用した発電に手をつけないですから、経済界が中国に大きく依存しているからではないでしょうか。

 しかし、これが全て悪い、と言いたい訳ではありません。現実としてどこかの集団が国を支配しないと、政治や方向性がバラバラになってしまいます。そうなると最も悪い事態になります。

 アメリカは、宗教教団と軍需産業が支配しています。宗教教団のトップは白人のプロテスタントとユダヤ人です。白人はWASP(ワスプ)と言われます。オバマ大統領が誕生した背景には、WASPとユダヤ人の支持があったことは言うまでもありません。もう1つ軍需産業は、アメリカが戦争を常にするという歴史を作りだしています。
 アメリカが建国されて300年弱ですが、相手はイギリス、スペイン、フランス、メキシコ、ソ連、日本、ベトナム、イラン、アフガニスタンなどなど数えきれません。アメリカの東側の海岸沿いでしかなかった国は、戦争を無理にしかけて国土を獲得していきました。太平洋に到着しハワイを併合し、フィリピンの次に支那(当時の清)を狙いました。そこで日本とぶつかって戦争になったのです。
 現在、イラクとアフガニスタンで使った臨時の戦費は、約400兆円です。1人当たり120万円、1年間で12万円です。これに通常の軍事費がプラスされます。これらが巨大な利権となってアメリカを戦争しなければならない国にしました。
 アメリカは自由と民主主義の国ではありますが、実態は宗教教団と軍需産業が支配しています。そして時々、理想と実態が乖離(かいり)することがあります。その際、アメリカは、高木の考えでは実態がまず優先されます。そして批判が強まると理想が表に出てきて、サッと実態は裏に巧妙に隠れるのです。この使い分けが、アメリカの外交の強さの秘訣である、と高木は勝手に判断しています。

 他の例としてフランスを挙げました。フランスでは近年、大規模デモが起こっており、車の焼き討ちなどまで発展します。デモはフランスの華でもありますが、これらのデモとは違うデモです。それはデモというより不満を社会にぶちまける、という暴発行動に近いものです。もう1点違いがあります。それは平均年齢15歳、多くがムスリム系という点です。フランス社会ではムスリム系の名前を出すだけで高校進学やバイト採用が出来ない、という実態があるそうです。ですから、13歳から15歳くらいになり、自分の将来を考えた時、ムスリム系である、というだけで高校進学という勉学の道、社会の上層部へあがる道が閉ざされ、バイトという日々の糧を得る手段も奪われている訳です。ですから、不満を社会にぶちまける、という暴発行動に近いものが起こる訳です。
 ではフランスはどういう集団が支配しているか、というとエナ(フランス国立行政学院)という専門学校が政権中枢を担っています。当然、東京大学よりも厳しい選抜によって選ばれたエリートだけがフランスを支配していくというシステムになっているのです。第二次世界戦後に作られ、戦後のフランスを現在まで支配し続けています。

 ここで考えてもらいたいのは、日本の経済界の支配、は確かにいくつかの問題点があります。しかし、それはアメリカの宗教と軍需産業や中国のように一党独裁やフランスのエリート支配と比較した場合、どちらが良いのか? あるいは悪くないのか?ということなのです。
 日本の経済界の支配の失敗の例として、現在の中国共産党の支配する独裁国家に投資して多くの失敗例が出ていること、さらに、それが日本の外交で中華人民共和国に強く出られないように、日本の安全保障を脅かしていることなどが挙げられます。日本では尖閣諸島問題で判るように、経済と安全保障が同列に論じられることがあります。安全保障は経済よりも最優先である、というのが当たり前なのです。しかし、「尖閣諸島をこじらせると中国との経済関係が悪くなるから」と平気で述べる人々がおり、私達日本国民もおかしいとは気がつかないのです。尖閣諸島の中国船衝突事件でも経団連は「釈放を評価する」とコメントしました。中華人民共和国は一党独裁であり、政治リスクを考慮せずに進出した後、損したら困るから、と安全保障を置き去りにしました。大企業のトップとして自ら、政治リスクを考慮しなかった責任を政治に押し付けているのです。
 こうした点はありますが、全体として評価するならば、私は経済界の支配は良い方が多い、と考えています。

 こうした流れ、実態社会の影響が法律に表れている点を、技術者倫理としてきちんと認識して欲しいと考えます。架空の事件で学べることもありますが、同時に、実態社会を見て、実際に再発防止を考えていくのが、技術者倫理の目的なのですから。

ー技術と社会の相補的関係

  それでは技術と社会との関係を述べていきます。
結論は先ほど書きました「技術は社会背景(歴史、文化、軍事、欲求など)に依存する」です。技術は社会全体の動きによって捨てられもし、劣った技術が採用されつづけることもあります。この捉え方は技術史という歴史から出て来ます。数々の本があるのですが、最も売れており、しかも手に入りやすい本として『銃・病原菌・鉄』があります。ピューリッツァー賞(出版物に対する最も権威のある賞の1つ)も受賞しています。この本の事例を挙げながら、以下の5つの点を述べていきます。

A)技術(製造物)は、最新、最先端であっても社会に捨てられる

B)技術の目的は社会によって与えられる(「発明は必要の母である」) :一般社会では「必要は発明の母」と言われている。

C)素晴らしい技術を生みだすのも社会である (反対の「技術が優れた社会が拡大する」も)

D)劣った技術の方を社会が選択する場合もある

E)技術は他の技術によって支えられている(独立した技術は存在しない)

以上の意味で、「技術(製造物)と社会背景(戦争、歴史、文化、欲求など)は相補的である」と言えます。


順に述べていきましょう。

-A)技術(製造物)は、最新、最先端であっても社会に捨てられる-

 配布プリント 1枚目(表) 『銃・病原菌・鉄 (下)』 49Pには「ファイストスの円盤」が一面にあります。読んでみます。

「ファイストスの円盤」は凸版で作られており、印刷技術の初歩を感じさせる。しかし、この技術はその後消滅した。中国では2500年遅れ、西欧では3100年遅れて印刷技術が生み出されていった。」

 つまり、2500年も最先端で、当時最高の技術であっても社会的要因によって捨てられた、という例になる。2500年は技術の歴史の中でも突出して長い期間である。これほど最先端の、最新の技術であっても社会によって捨てられるのである。もう1点、補足の「E)技術は他の技術によって支えられている」も入る。ファイストスの円盤では、「紙、可動式活字、冶金(やきん)術、印刷機、インク、文字という6つの技術」(同77P)が使えなかったのである。それゆえ、以下のようになる。

 そして技術史からみると
 「一人の天才によって成し遂げられた独創的な技術というのは存在しない。」
  ↓
 「社会が求める状況になった時に適切に技術を改良した技術だけが生き残る。」

 諺で「必要は発明の母」=必要とするから発明が生まれる、とあるが、
 歴史的事実としては「発明は必要の母」=発明があってその必要性をみんなが受け入れていく、

 技術の歴史を見ると「天才が凄い発明をして社会を変えることはない」が、「社会が技術を使用して皆が使うようになる」ことがある。これを「発明は必要の母」と言う。ここで

 問1 「発明は必要の母」を身近な例で3つ挙げなさい。

 具体例として『銃・病原菌・鉄 (下)』52Pには、飛行機、自動車、内燃機関、電球、蓄音機、トランジスタ(半導体)などが挙げられている。恰好の例は、トーマス・エジソンの蓄音機で、当初、10の使い道を公表したが、音楽再生は入っていなかった。他者が音楽再生で売りだすと「自分の発明の品位を汚すものだと反対している(53P)」のである。発明家の予想と違う使い方を社会がするのである。
 
 幾つも上がったが、面白いものを適当にピックアップすると

 ロケット技術、原子力発電、携帯電話、ダイナマイト、コンピュータ、人工衛星、冷蔵庫、バイク、ハイヒール(汚物対策からファッション)、ロウソク(灯火から豪華さ)、服(防寒からファッション)などがある。

 本の例
・自動車は第1次世界大戦でアメリカ陸軍が軍事利用のために大々的にキャンペーンをし、必要性が大衆に支持されるようになって普及した(53P)。

 高木の例
・コンピュータは、第2次世界大戦でドイツの爆撃機をイギリスの高射砲で落とす時に、プログラム内蔵の計算機を作った。これが現在のフォン・ノイマン型のPCの原形である。それまではプログラムが内蔵されていない計算機でしかなかった。これも軍事利用である。

・インターネットは、米ソ冷戦でアメリカの勝利を確定した要因の1つである。核兵器が開発され広島と長崎の実用実験が終わった。その後、米ソは互いを何回も滅ぼせる核兵器を保有した。ここで「互いに滅ぼせるのだから使用できない」という抑止論が出てくる。抑止論を破るために、原子力潜水艦が開発される。もちろん、日本の原発関係から資金も技術も流れてる。原子力潜水艦は、「相手の国の近くで発射するから反撃でない」という点で抑止論を乗り越えようとした。ここで、ネットが出てくる。それまでは、管理しているパソコン(サーバー)を破壊すれば管理されているパソコンは使用できなかったが、全てのパソコンで同じことができる、全てのパソコンを破壊しないといけない、のがネットの特徴である。つまり、
 ニューヨーク、ワシントン、ロサンジェルスなどの大都市を破壊していも、ネブラスカ州やネバダ州などの人がいない場所の地下にあるシェルターもソ連は破壊しなければならなくなった。他方、アメリカはソ連の大都市を破壊すれば勝利なのである。つまり、アメリカが核兵器を打って成功すれば勝ち。成功しないと引き分け。ソ連は打っても必ず引き分け(どちらも被害を受ける)。こうしてアメリカが抑止論の上でネットがあって大勝利を収めた。

・携帯電話も最初は軍事利用である。日露戦争時はモールス信号だけで無線通信をしていた。また、日本側は有線通信、無線通信をイギリスの協力を得たりして一気に改定していった。ただ、実際には陸軍では中々通信が上手くいかなかった例もある。日本が通信において優位に立ったのがギリギリの勝利の一因となる。しかし、大東亜戦争ではアメリカに暗号技術で負けて、真珠湾攻撃を知られており、その後も暗号技術を含む通信技術で敗れてしまった。日本が数学者にお願いしたら、それまでの何分の一かで解読したというエピソードもある。
:桧山 良昭『暗号を盗んだ男たち―人物・日本陸軍暗号史』
 実際の運用は難しかった、としても通信技術が戦争の主要な要素の1つであることが判る。そしてそれゆえに発展してきた。

・人工衛星も最初は軍事利用であったが、カーナビの行き先案内や携帯などのお店案内に使用されるようになった。

 以上の例だけでも、軍事利用が技術を大いに発展させてきたことが判る。その発展した技術に新しい目的を与えたのが社会なのである。C)素晴らしい技術を生みだすのも社会である (反対の「技術が優れた社会が拡大する」も)ということも以上の例で示される。戦争という社会的原因が、自動車、原発、コンピュータ、携帯電話などを直接、生みだしてきたのである。

 「発明は必要の母」に戻る。

 例えば、スーマートフォン。
 アップルが開発して、サムソンが真似物を作って、世界中でコピーだ、と裁判が起こっている。他方、液晶技術などでも特許侵害論争が起こっている。このスマートフォンだが、「欲しい」と世界中の人がイメージしたから出来たのだろうか? そうであれば「必要は発明の母」である。しかし、

 「あ! スマートフォンっていうんだ。使ってみると使いやすい。だから買おう」

 というのが「発明は必要の母」となる。私の身の回りにある製造物、特に最先端の電子機器はこの通りではないだろうか。過去の大成功の例はSONY「ウォークマン」である。返す返す、アップルに作られたのが残念でならない。日本企業がどうして作らなかったのだろうか。作れない理由があるのだろうか。

 さて、大韓民国のサムソンやLGなどは日本が置いておいた技術を買い取り、日本の技術者を厚遇して国家の資金を投入して現在の成功を収めている。一部の技術者には「サルまねばかりして、盗むだけ。ポッキーのまがい物もあるし、マンガやアニメもそっくりぱくったものもある。ジーンズなども。だからけしからん」という人もいる。もちろん、特許侵害である点は争わなければならないが、技術の歴史を振り返ると、パクったにせよ、正式にライセンスを取ったにせよ、技術は伝搬していく。殆どの技術はそうなのである。オリジナルで作られる技術というのは、僅かでしかない。
 それよりも問題なのは、技術の受容性が、地域や文化や時代によって変わる点である。『銃・病原菌・鉄 (下)』68-9Pを意訳してみる。

 「支那(China:現在の中国のある場所)は15世紀まで世界最高の技術に恵まれていたが、政治的理由で受容性が低下した。対してヨーロッパは世界で最も技術の劣った地域だったが受容性が高くなり現在の繁栄につながった。」

 現在、日本国で大韓民国や中華人民共和国に技術窃盗、あるいは技術奪取に対して強い反応が現れている。技術史を眺めると、アメリカの核技術は最新の注意を払っていてもソビエト連邦に技術窃盗された。その後、各国に広まっていった。スパイ防止法の無い日本の現状で、技術窃盗を防ぐのはほぼ不可能に近い。過日、非公式にアメリカのオバマ大統領と中国の習主席との会談が8時間も行われたが、アメリカ側の要求は

 「技術窃盗を含みサイバーテロを止めて欲しい」

であった。中国人民解放軍のサイバーテロは世界一(あるいは北朝鮮も)であり、アメリカ合州(衆)国でも遅れている状況なのがはっきりと判った。サイバーテロが行われると軍事的優位が崩壊する可能性があるのである。軍事学の基本として航空戦力で地上戦力を圧倒できる、というのがある。その航空戦力は衛星の発する信号や艦船からの通信によって維持されている。現代戦では戦車や兵隊でさえ衛星からのGPS機能に頼っている。サイバーテロが起こればこれら全てが遮断される可能性があるのである。宇宙、航空、地上でアメリカ軍に圧倒されている人民解放軍はサイバー部隊によって優位を取り返そうとしているのである。
 他方、習主席の要求は、日本で伝えられているのが尖閣諸島の問題だけであるが、軍事からすると日米の合同演習の延期、あるいは縮小であったと言われているが、粛々と実行された。習主席は面目をつぶされた訳であるし、明らかに軍事攻撃を念頭に置いているという圧力を掛けた。日本では殆ど報道されていない。ちなみに、尖閣諸島が占拠された場合の奪還作戦も日米合同で行われている。

 以上のように技術によって軍事の優位性が決定されており、その技術は窃盗を含め流出は止められないのである。この事実を踏まえると、日本での大韓民国や中華人民共和国に対する過激な反応の裏に潜む心理が見えてくる。それは、日本の技術に対する日本人の不安である。技術は伝搬していくものである。であるからして、どの国であっても常に技術革新をしなければ優位は保てない。

 「日本が技術革新をしていないからこそ(というふあんがあるからこそ)、中韓を非難する」

 のではないだろうか。ウォークマンを作ったソニーは世界中を、「あ!」と言わせたが、スマートフォンを作れなかった。サムソンで働く日本人の技術者は「日本社会の非効率的な金、人、資源配分に絶望する」と述べている。であるから、日本社会から大韓民国に移った、そうである。昨年以前の講義で「有機EL」という具体例を挙げたが、その技術者も同じく「有機EL」を挙げていた。

 インドネシアの奥地には現在も原始的な生活を続ける部族がある。彼らは技術への受容性が低いまま保たれているのである。このように技術の受容性は、地域や文化や時代によって変わる。

 もし、スマートフォンなど製造物が今後も日本で作られないとしたら、日本社会(企業)の技術の受容性が低下した、と考えられるのではないだろうか。

 もちろん、高い技術を持つ製造物をSONYは販売し続けている。しかし、それが企業の独善となっており多くの人々に受け入れられないとしたら、それは製造物の大切な要素を見落としている、と言わざるを得ない。日本国政府の失策つづきで厳しい経済環境、規制環境にあるが心から期待している。
 
 講義の戻れば、技術を見る時に、「社会の技術の受容性」という視点も重要である。


- D)劣った技術の方を社会が選択する場合もある -
 
 これは、A)技術(製造物)は、最新、最先端であっても社会に捨てられる、の裏返しでもある。

問2 社会が劣った技術(製造物)を使用する例を挙げなさい

 今回もユニークな意見が沢山でた。

 うちわ、鉛筆、レコード、CD、電報、障子、ねじ式時計(電波時計、クォーツ式時計)、ビデオ、本(電子書籍)、鍵(電子ロック)、人力車、手紙、黒板、羽のある扇風機

 「何が劣っているか」は社会によって異なるが、手紙は心がこもる、という文化的要因で選択して残っている。年賀状が1人当たり35枚以上だそうです。電子メールがある時代にこうした習慣が残っているのも、歴史的要因でしょう。ただ、手紙と電子メールが同価値である、と考えなければ「何が劣っているか」にはなりません。この辺は難しい所です。

 本の例に行きましょう。パソコンのキーボード配列です。

 パソコンのキーボードの配列は、左上の文字の並びから、「QWERTY配列」と言われる。これは、タイプライターの時代、隣接キーが戻る前にタイプすると、タイプライターが壊れるので、「なるべく遅く打つように」という配列になっている。だから、左手の薬指や小指と最も使いずらいポジションに、最もタイプする「E」、多いタイプする「S」や「A」などが配列されている。最もタイプする「E」を右手の人差指で打てるように配列すると人によっては2倍の速度、95%の人が「使いやすい」と述べている。
 キーボードの優れた配列、しかもタイプライターではないのだから、変える方がいいのに、劣った技術「QWERTY配列」を採用している。つまり、「劣った技術が社会的要因によって受け継がれ、優れた技術が採用されない」のである。

 もう1つの説もあります。

 昨年度、講義録9-3学生コメント集に、安岡孝一先生からコメントを頂きました。
:http://takagikenziro.blog.fc2.com/blog-entry-145.html
 
 『キーボード配列 QWERTYの謎』 NTT出版 2008年3月を参考にすると以下のような説となります。
 

「 パソコンのキーボードの配列は、左上の文字の並びから、「と言われる。これは、歴史を見ると、幾つもの配列パターンがあった。その中で、「QWERTY配列」に定まったのは、生産者側(主にIBM)の都合である。キーボード配列が定まっている方が生産者に都合が良いからである。そして、「タイプライターの時代、隣接キーが戻る前にタイプすると、タイプライターが壊れるので、「なるべく遅く打つように」という配列になっている。」という説は、俗説として広まっている。」

 安岡孝一先生にお礼申し上げます。
 
 いずれの説であっても、QWERT配列が遅いタイプ技術であることは間違いありません。その遅いタイプ技術が、タイプライターによるという社会背景か、会社の都合という社会背景かの違いになります。いずれの説でも、社会背景によって劣った技術が採用され続けている例になります。

 他の例に行きましょう。2つ出しました。ビデオのベータとVHSの違いです。

今は、ブルーレイやハードディスクなどに移行しつつあるが、ビデオデッキでVHSはまだまだ根強く残っている。
 ビデオデッキの規格で、VHSとベータがある。技術的な要因もあるが「アダルトビデオ」を大量に発売したVHSが、高性能でコンパクトなベータを破った要因である。つまり、技術的に勝るベータは、人間の欲求という要因で社会に捨てられてしまったのである。

 これだけだと根拠が弱いので、エロの欲求の大きさを比較するデータを出した。
浜松駅前に大きなランドマークタワーがあり、ホテルオークラが入っている。静岡市はホテルアソシアやセンチュリーがあり、世界的に評価の高い帝国ホテルが日本にはある。
  
   ホテル業界全体では年間で1兆円の売り上げ
   ラブホテル全体では、年間で4兆円の売り上げ

ホテル平成22年度:http://gyokai-search.com/3-hotel.html
ラブホテル最盛期4兆円:http://nsk-network.co.jp/n-050821.htm

 エロいホテルの方が正式なホテルでしかも皆が知っているホテルを合わせた4倍の売り上げがある。これほどエロの社会的要因は強い。

 ビデオのベータとVHSをもう1つの視点で眺めると、「ハード(機器)よりソフト(内容)の差」となる。エロビデオは内容であり、ソフトである。幾らハードが良くても、ソフトが良くなければ売れない。これは、TVゲーム業界でも同じことが言える。

 任天堂のスーパーファミコンは全盛期を過ぎても、「ドラクエ」や「ファイナルファンタジー」などの(ゲーム)ソフトが良く、優れたハード(機器)のプレステーションなどに勝ってきた。どのようなソフト(内容)が良いか?は、完全に社会背景の問題であり、製造物を作りだす技術の問題ではない。そしてそのソフトによって優れた技術も捨てられてしまうのである。

 以上の、A)~D)を合わせて考えると、技術は社会と不可分であり、技術を支えるのが社会であり、同時に社会を支えるのも技術なのである。尖閣諸島沖から日本海、南樺太から千島列島に眠るメタンハイドレートは潜在的なエネルギー大国日本を示すものであるが、現状として日本を支えているのは、技術なのである。日本の現状を考えていく上で、技術と社会の関係を留意しておかなければならない。まとめると、冒頭に述べた言葉となる。

 「技術と社会は相補的関係である」

 --(以上で昨年度の講義録より抜粋等終了)--

 以上です。
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