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エッセイ「パリのテロと『寛容』 -私達はフランスに同情すべき?-」

 私達はフランスに対して同情すべきだろうか。 

パリでのテロが大規模に起こった。旧植民地であるマリ、でも扱いは小さくとも起こった。ISISの目標であるアメリカではなく、ワールドカップラグビーの開催されたイギリスでも起こらなかった。何故であろうか。テロが起こった思想的背景を考えてみたい。

 人類史上、移民政策に最も成功した国家は、ローマである。ローマ市民権の付与によって民族や宗教、文化等を保持しつつも、切り離しに成功した。帝国は単一民族ではなく多民族国家の安全保障を主導する。統治方法には数々あれども、ローマが成功した理由は、「ケースバイケース」にある。例えば、人間による統治では反乱を繰り返すエジプトでは、皇帝を神の子とし、さらに皇帝の私領とした。ユダヤ人には兵役の特別免除を認めた。通常、属領統治は、安全保障費を支払うか、戦争の際の軍事力の提供だけを求めた。そして基本政策として、文化、民族、宗教等の問題は各属領の自治に任せられていた。ギリシャのアテナイなどは安全保障費も軍事力も免除された自由都市であった。
以上の「ケースバイケース」を横断するのが、ローマ市民権の付与なのである。このローマの政策の背景には、「敗者さえも同化する」、「敗者の自律を妨げない」が横たわる。

 2つの思想的背景は、「寛容(Clementia:クレメンティア)」の一語で表現される。帝政期の知識人代表の1人であるセネカは、「寛容」を以下のように表現している。

 「同情とは、眼前の結果に対する心情であって、その結果を生んだ要因にまでは踏み込まない。対して、寛容とは、その結果を生んだ要因まで踏み込んでいる。ゆえに、知性とも共存できるのである。」

 反乱をエジプト人の神を崇める心情の理解によって皇帝私領とし、ギリシャ人の哲学的志向を理解して自由都市を認めたのである。

 では現在のフランスはどうであろう。フランスはローマからローマ法など、多大な影響を受けており、また誇りにしている。しかし、近年の政策はむしろ逆方向に進んでいる。内向的な極右政党が支持率トップを取り、シリアからの難民2万人強の受け入れに強い反対が出ている。ムスリム女性のスカーフ禁止法が成立するなど、文化や民族や宗教等の問題が社会問題となっている。
 過去にベトナム戦争などでは10万人を受け入れた国であった。哲学者ジャン・ポール・サルトルは、宿敵と連携して受け入れ運動を行っている。彼は、民族や文化は問わず、自らの生を謳歌する実存主義を提唱し、一世を風靡した。ベトナム戦争等による困窮を生む原因に踏み込むからこそ、受け入れ運動へとつながった。サルトルの眼はフランス国内だけではなく、人類へと視界が広がっていた。「寛容」は、相手がその結果を生んだ要因にまで踏み込むという知的作業なのである。その後、フランスから全世界を牽引するような思想家が出てきていない。フランスの知識人達は、自国の文化の保全と尊重を目指す極右政党に足元を脅かされている。私達が、フランスのテロから学ぶべきは、「寛容」が持つ知的作業の大切さである。
 ISISに協力する欧州各国の若者が多いのは、インターネットの特性やSNSなどの特徴を上手く利用されている、という点もあるにはあるであろう。しかしながら、人は貧しくとも誇り高い暮らしが出来る。社会に自らの信念や文化や宗教や家族を認められるからである。貧しい国ではないフランスの若者がテロリストになる背景には、移民や若者の誇りを「寛容」する精神が失われつつあると考えられる。
 犠牲者の悲惨さだけに目を奪われるだけの同情であってはならないのである。なぜならば、今回のテロの実行犯は、フランス国籍を有する者が多いからである。フランス国民の中の分断を如実に語っている。裏を返せば、フランスが「寛容」から遠ざかったという思想的背景が透けて見えてくる。
 翻って、日本はどうであろうか。フランスのテロから学ぶべきは、私達自身が「寛容」の視座はあるのだろうか、という問である。東日本大震災では眼前の結果にだけ心を奪われていなかっただろうか。拉致被害者に対して同情さえしているだろうか。こうした問が、フランスのテロ被害者への慰霊となることを願う。

高木 健治郎
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