講義録12-2「総括原価方式と原賠法」 補足「電力会社の立場から」

 チャートは「総括原価方式と原賠法」になります。

 さて、いままで散々じらしてきましたが「日本の電力会社が原発推進の理由」=「総括原価方式と原賠法」に行きましょう。これが本丸です。

 プリントは⑩『原子力発電の諸問題』 日本物理学会編 20頁

 「(経営内容として水力、火力は殆ど黒字を続けている) これに対して日本原電(東海村・敦賀など原子力発電所の建設・運営会社 1957年日本最初の原子炉を建設:http://www.japc.co.jp/)は、毎年70%前後の高い設備利用率を誇る3基の原発をもつにもかかわらず、経営実績は著しく悪い。1957年の創業開始以来79年度に至る20数年間の累積赤字が一度も消えなかった。敦賀での事故隠しにより80年度に初めて黒字に転じたが、その直後に事故隠しが発覚し、81年度決算では再び大幅な赤字に転落した。」

 つまり、原子力発電は事業として考えた場合、20数年間も累積赤字であったのだ。「原発=(火力より)効率的」、「原発=安い」というのは、経営と言う数字に基づかない論説であって、「数字を出さない→大丈夫です」を信じてください、という12-1に出てきた構図が、原発の経営でも見られる。また、補足として原発が実用化していない1957年も「原発=効率的」、「原発=安全」は宣伝されてきていた。続けて、

 「次に小売電力をみると、九電力(日本全国を9つの電力会社が分けること)には独占禁止法が適用されず、総括原価方式による独占価格設定が認められている。総括原価とは適正原価と適正利潤の和であり、後者にはレートベースの8%と定められている。レートベースには電気事業固定資産、建設中資産、装荷中および加工中等核燃料その他の和と定められている。」

 電力会社が地域独占をしているが独占禁止法には適用されない、という特別の保護がなされている。
 次の一文を噛み砕くと、以下のようになる。

 「費用(適正原価)に対して8%の利益が定められている。」

 また、利益を増やしたい民間企業という条件を加えると出てくるのは、

 「費用がかかる」から「利益が得られる」ので「原発をする」

 です。
 
 「費用がかからない」から「利益が得られる」ので「原発をする」

 という一般企業の方式「売上ー仕入=粗利 粗利ー費用=純益」ではないのです。数字を示しましょう。

 費用100億円→利益8億円です。
 費用1兆円 →利益800億円です。

 何故なら、費用100%に対して8%の利益(適正利潤)が定められているからです。
ですから、12-1を振り返ってみましょう。

 「原子力発電の過剰設備は必要ない」だから「原発を推進しよう」 

 何故なら「過剰設備があると費用が大きくなる」から「利益が増える」

 という訳です。ですから、その下に書いた(12-1)
 
 1) 「原子力発電の全てが過剰設備」
 2) 「揚水水力などを含めると原子力発電がなくても1000万キロワットが余る」
 3) 「新規参入を認めれば原子力発電分はまかなえた」
 4) 「ピーク時の対策が不十分であった」

 であったから原発を推進したのです。
電力会社はですから、

 5)新規参入を形の上だけ受け入れて実態的には発電事業に参入させない 
 6)省エネ設備を導入してもらっては困るので一時的な「節電」を訴える

 ことになります。さらに、電力会社には原発で利益を上げる方法があります。もう1度文章に戻りますと、「建設中」資産、「加工中等」核燃料とあります。ですから、建設に入った段階で利益が出ます。核燃料を買い付ける契約をしただけで利益が出ます。
 例えば、今から10年後にお店を開くとしましょう。お金を払う前に500万円の契約をかわしたとします。すると毎年500万×8%=40万円ずつ利益が保証されるのです。法律によって保証されます。
 これは企業としては「オイシイ」事業になります。ですから、次の文の意味が判ることでしょう。先ほどの続きです。

 「このため、発電量が実際にどうなるかにかかわりなく、なるべく資産価値の高い設備を保有し建設し、核燃料の買い付け契約額を増やせばレートベースが膨張し、その8%と定義された利潤が増大する。・・・原発のない会社までが巨額のそれ(核燃料)を保有していることが注目される」

 この「総括原価方式」が電気会社の原発を推進する理由です。
 もう1つは、原賠法です。これは、

 「原発で事故があっても大部分は国の税金で国民を救います。天変地変の時は全て国の税金でします」

 というものです。原文に行きましょう。21頁です。

 「原賠法は、(1)正常運転下の事故、(2)地震、津波、噴火に起因する事故、(3)10年以降の請求、による損害賠償から民間保険の免責にして政府補償を約し、さらに理由の如何を問わず100億円(現在は1000億円)を超える分の賠償を政府援助によるとしている。また「異常に巨大な天変地変または社会的動乱(海外や左翼のテロなど)」による事故については、事業者の責任を問わないことにしている。」

 今回の東日本大震災は、私は「異常に巨大な天変地変」に当たると考えています。ですから、東京電力は原賠法に基づけば賠償の責任はありません。法的にはない、と考えられます。現在は東京電力が幾ら賠償するか国が幾ら補償するかは未確定ですが、法的にない、けれども払う仕組みになりそうです。しかし、事故前は

 「原発は、利益の保証された、しかもリスクは国が補償してくれる」

 という本当に企業にとって「オイシイ」事業だった訳です。自分たちが失敗しても国民が自分たちで尻拭いをする訳です。そういう仕組みを理解していれば、東京電力首脳部の対応の遅さと日本国民の常識、あるいは空気は根拠のないことが判ります。

 「失敗しても国民が責任を取る原発を、何も考えず法律も読まず、ただ、「信じて欲しい」といわれて信じてきた国民が選挙でOKを出してきた」

 のですから。しかし、それが福島原発事故でひっくり返りました。
さて、昨年度までの講義内容に行きましょう。私は

 「ですから、原発事故の補償は国民が取ることになります。原発事故の被害は、天候にもよりますが、20兆円から30兆円と予測されています。敦賀で起これば北陸、甲信、関東、東北は農作不可能になります。」と述べていました(これは現在でも変りません)。「だからよく観て下さい。原発は絶対安全、と言っているけれども、福島は海側、東海村も大都市から遠い海側、敦賀も近くに大きな山がある。事故は起こる確率が高いし、常に放射性物質を出すから、これもある時まで「放射性物質出しません」と言っていましたが、大都市からなるべく遠い海側にあります。電気は送電距離があるとその分電力ロスをする、というのは高校1年の理科1で習いましたね。私は高校の物理教師でしたから教えてきましたよ。それでも大都市の遠くに作ります。東海村で事故が起これば「ハイ!ハワイの人ごめんなさい!」、浜岡で起これば「ハイ!伊豆の人ごめんなさい!」となります。静岡、浜松は風の影響でどうなるか・・・というところです」

 と述べていました。
次のプリントは⑪で続き、22頁上図です。
東京電力、関西電力の『有価証券報告書総覧』1982年3月版
発電量1kWh当りの損害保険料 東京電力 水力 0.31銭  火力 0.84銭  原子力 6.96銭
               関西電力 水力 0.26銭  火力 0.45銭  原子力 4.52銭

 有価証券報告書は虚偽記載をすると刑事罰があります。ですから比較的正確なデータが読み取れます。
損害保険料という数字にシビアな計算で10~20倍もの危険があると計算されています。これでもやっていけるのは、原発は支払いの限度額が決まっているからなのです。ただ、福島原発は高すぎるために損害保険を掛けていなかった、という事実が学生の皆さんのプリントにありました。

 さらに23頁には、核燃料を再処理する日本独自の高速増殖炉(日本以外は諦めた)やプルサーマル型軽水炉の見積もりが乗っています。これによると費用が利益の倍近くかかります。普通ならば、時給1000円で5時間働いて5000円稼ぐのに、電車代1万円払って通うようなものです。それをずっと続けるのです。どうしてこのようなことが出来るか、それは簡単です。

 「費用が大きい方が利益が大きい」という「総括原価方式」があるからです。


 さて、以上が昨年度までの講義になります。
ここまで書いてきて、さすがに「公平」に欠けると思いましたので、少し補足したいと思います。というのはこの講義録12-2を見ると、「だから、電力会社は汚い!」、「電力会社など潰れればいい!」という結論にたどり着きやすいからです。補足「電力会社の立場から」を述べます。

 まず、電力会社は政治的な理由で原発を推進させられました。国際政治の中で反米を親米にし、アメリカの支配下にいるようにと、実現可能か不可能かも判らない原発をさせられたのです。しかも、それをさせるために、原子力関係の法律を整備したのは政治でした。原発を勧めていく中で、危険性が判ってきても、「絶対安全」というスローガンの下に推進させられました。日本以外の全ての国は「原発=軍事利用+平和利用」であるのにも関わらず「原発=平和利用」と言わせられました。しかも、原発の設計はアメリカ中心で、東芝、日立、三菱が独占しています。安全設計がされないものを何とか安全に運転する責任を負わされます。しかも、検査は自主検査となり、官僚は事なかれ主義で、適当なチェックしかしません。国民も「原発は安全だ」を信じて危険性を疑いもしません。原発は危険だ、という人々を国民は「左翼だ。危険だ」と空気読めない人々と無視しています。それでも「電力会社は大企業だから信じる」と国民は信じています。国民の代表であるはずの「原子力安全委員会」は何時の間にか「原子力安全・保安院」が出来て無責任になり、その「保安院」も原発推進の経済産業省にあります。
 それでも、電力会社は「独占してもよい」と「総括原価方式を認める」理由である「電力の安定供給」を支え続けてきたのです。電力を段階的に自由化したアメリカでは大規模停電が通常時にありましたが、日本では通常時に1回もありませんでした。社会的責務である「電力の安定供給」を支えてきたのです。さらには、政治で導入された欠陥炉「マーク1」も30数年安全に運転してきました。

 バランスを保つために、講義では述べませんでしたが(今度述べるかもしれません)、原発推進派から述べました。
 最後に原発で常に被爆する作業員の問題について12-3で書いて終わります。
 
 もう少しで日本女子サッカーの相手が決まります。わくわく。
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