講義録11-3「論理的な文章の書き方 福島原発の欠陥箇所」

 さて、最後になります。なると思います。なりたいです。
 大分長くなりましたものね。

 チャートから

 「論理的な文章の書き方」
   ↓
 「福島原発の欠陥箇所」

 先ほど、①~④は結論、として出てきました。
 これまでは、三段論法として、「事実⇒論拠⇒結論」の流れを説明してきました。さらにその後、事実を事実①+事実②+事実③と増やし、あるいは論拠を私の論拠+他の人の論拠というように増やす方法を示してきました。実戦練習が出来ていないのが残念ですが、これは練習には最低でも数時間がかかるので概念だけの説明になります。つまり、事実と論拠の中身を増やしていく方法だった訳で、「事実⇒論拠⇒結論」は変りませんでした。
 今回は、先ほどの結論を論拠にしてこれまでの構図を変えてみましょう。つまり

 「事実⇒論拠⇒結論(=論拠Aとする)⇒事実A⇒結論A」

 という方法です。結論=論拠①とすることで、これを支える事実①と結論①を加えることが出来ます。このように文章を論理的に広げていくことが出来るのです。これが出来るようになると長い文章を書くのが苦になりません、というのは「次に何を書いたらいいか」に迷わなくなるからです。同じに、専門家の言う小難しい言葉に騙されにくくなります。というのは論理が理解できると、聞いたことに答えているか?がはっきり判ってくるからです。先ほどの「」で一番大切なのは、結論①です。しかし、論理的な構造を理解していないと、先に出てきた結論=論拠①が大切だと誤解してしまいます。内容は少し違いますが身近な例では、11-2の最後に出てきた「国民は原発導入を支持し、マスコミが大きな役割を果たした」で最も大切なのは「マスコミが大きな役割を果たした」であり、「国民は原発導入を支持した」が最も伝えたいことではないのです。
 さて、「④原発はアメリカを全面的に信頼した」という結論を論拠①にして三段論法を書いてみましょう。

 論拠A:④原発はアメリカを全面的に信頼した
 ↓
 事実A:福島原発の格納容器「マーク1」に欠陥があるとアメリカで内部告発があったが、80年の再評価で「問題なし」とすると、原子力安全委員会、専門家、東京電力はこのデータを信頼し、そのまま使った。ただしアメリカは地震や津波が殆どないという前提に基づいている。
 これは配布した新聞「耐震不安の無視―毎日新聞」の事実に基づきます。
http://takagikenziro.blog.fc2.com/blog-entry-16.html
 ↓
 結論A:だから、50年前から現在までアメリカを全面的に信頼し続けてきた。

 このように論拠Aと結論Aの内容が変ります。
論拠A:結論④は、原発導入時の話であり、結論Aは、原発導入時から現在までの話です。そして、原発導入時から原子力政策に一貫して流れる大きな問題点になります。このように変えることで、原子力政策にずっとある組織的な問題から切り込めるようになります。このように結論を論拠にすることで文章の構造を増やしていくことが出来ます。ただし、構造を増やしすぎるとそれぞれの事実、論拠、結論が少なくなり、しっかりとした骨太の主張ではなくなります。骨子はこのように出来ますが、主張をする際にはこの点をお忘れなく。
 以上が「論理的な文章の書き方」です。

 続いて「福島原発の欠陥箇所」に行きましょう。
 私は原発事故の大枠での原因は、アメリカ追従にあると考えています。それは講義録11で述べてきたように「原発が技術ではなく政治で出発し推進されてきた」ことを指します。政治は米ソ冷戦という国際政治と、経済発展最優先や横並び主義で大きな権力に逆らわないという国内の状況が重なりあったものでした。このことによって世界史上例を見ない程の総中流社会の出現や経済発展を成し遂げました。この意味で福島原発事故は戦後日本の中で理解されるべき大きな要因を持っていると私は考えています。東海村JCO事故の時は、こうした要因が殆ど考えられませんでしたが、今回の事故の最も大きな原因として戦後日本の政治があるでしょう。
 そしてその具体的な内容が、この福島原発の「マーク1」のデータの信頼性を全てアメリカに任せていた点です。また、私が講義の当初から「福島原発は欠陥炉である」と述べてきた主張の事実でもあります。この点に踏み込んでいきましょう。

 それでは事実から踏まえましょう。
先ほども挙げましたが「<米原子力規制委>耐震不安「無視」…福島と同型のマーク1」(毎日新聞 6月9日(木)2時31分配信)です。
 http://takagikenziro.blog.fc2.com/blog-entry-16.html

 まず、
α:アルファ)「マーク1」は日本国内に10基あり、福島第一原発1~5号機、浜岡原発1、2号機などにあります。40年以上前の初期型原子炉で、その後マーク1改良型、マーク2などへ移行しています。
β:ベータ)「マーク1」はアメリカの内部告発で欠陥が指摘されましたが、電力会社の意見を参考にして「無視できる」として無視されました。
γ:ガンマ)これを日本でも信頼して、原子力安全委員会、専門家、電力は見直しをしませんでした。
δ:デルタ)内部告発された箇所は「原子炉格納容器の圧力抑制プールの耐震強度」です。
ε:イプシロン)内部告発に対し米原子力安全委員会は「地震によって過度の圧力がかかる可能性を示唆」していた。
ζ:ゼータ)渡辺氏は「地震で圧力抑制プールの水蒸気菅が水面から露出して格納容器全体の圧力を高めた可能性がある」と述べている。

 アルファからゼータはギリシャ語です。①やAを使っていたので気分を変えてみました。
さて、事実は以上です。大きな構造として、「④原発はアメリカを全面的に信頼した」につながる事実です。

 「福島原発のマーク1の安全性は地震や津波のないアメリカのデータを全て日本側では信頼した」

 ということです。細かい点に行きますと、「圧力抑制プール」と「アメリカの電力会社の意見を参考にして」が挙げられます(もちろん私自身の着目点です。他の点に着目して他の論も立てられます)。
 「圧力抑制プール」は聞きなれない言葉です。私も欠点があると聞いていましたが、事故後のTVで図でみました。事故原因についてまだはっきりしていませんし、私は原子炉の専門家ではないので断定できませんが、ニュース報道を見ると推定として「今回の事故に関わっている」と考えられます。

 この点は、「原発が技術ではなく政治によって推進されてきた証左」とみなすことが出来ます。

 というのは、アメリカの国土条件と日本の国土条件を勘案して設計して始めて「工学的安全」が確保されます。「工学的安全」とは「危険0%」ではありません。ですから大震災で巨大事故が起こる、ことも含んで「工学的安全」なのです。しかし、「工学的安全」は「許容可能なリスクにすること」が前提です。逆の言い方をすれば「許容不可能なリスクがない」という風に、基本設計をしなければなりません。しかるに、その基本設計を「アメリカを全面的に信頼した」ということで、「工学的安全」が組み込まれませんでした。少し強い言い方になりますが、

 「福島原発事故は、巨大地震が起こったのはしょうがない」のではなく、

 「福島原発事故は、工学的安全を確保しなかったという技術的欠点から生じた」

 と言えるのです。これは日本の原子力関連の技術が劣っている、ということではありません。

 「安全な技術を社会的要素でリスクのある状態においておいた」

  ということを意味しているのです。この具体的な事例が、「マーク1」の圧力抑制プールです。ただし、このような事例は実は沢山あります。その点については原子炉の専門家が内部告発を沢山されていますので、そちらをご覧下さい。補足します。アメリカの電力会社は、バスで言えば運転手です。アメリカの運転手が、バスが設計した人が「危険です」と言ったのに「安全だ」と言ったら、バスの運行を管理するお役所が、バスの運転手の意見を聞いて「問題ない」と言いました。そのアメリカの運転手の「問題ない」を聞いて、日本のバスの運行を管理する原子力安全委員会が「問題ない」、専門家も「問題ない」、日本のバスの運転手も「問題ない」と言いました。
 
 「安全な技術を社会的要素でリスクのある状態においておいた」

 は原発が特別なのではなく、全ての技術がこのような状況に陥る可能性があります。これは講義録3で述べてきたことです。ただ、多くの技術は経済的効率や事故後の再発防止などによって修正されていきます。六本木ヒルズの回転ドア事故後、安全基準が改定され、全国の回転ドアがチェックされました。しかし、原発はどうでしょう? その後、原発の安全基準は数値基準で改訂されたでしょうか? 浜岡原発は「地震の可能性が高い」と言う地震学の立場から停止を要請しました。現在、玄界灘原発が再開されようとしていますが、安全基準を数値基準を内閣総理大臣、原子力安全委員会、経済産業大臣、原子力安全・保安院、担当の佐賀県知事から提示されていません。もちろん、福島原発事故の事故原因も究明されていません。究明されていませんが、暫定基準値として数値基準を示すべきではないでしょうか。「原発周辺の鉄塔は震度5では倒れないようにしました」なのです。また、今回の事故原因は天災なのか人災なのかはっきりしません。斑目委員長は「人災である」と言った記事がありますが、その事故防止策は発表されていません。現在の原子力安全・保安院の言う「予備電源」などは天災の再発防止策です。このズレが説明さていません。この関連は膨大な指摘があります。そこでこの講義ではあくまでNHK番組に関係した点とし此処までにします。もう1度戻るために繰り返しますが、

 「安全な技術を社会的要素でリスクのある状態においておいた」

 のを続けていることになります。工学的倫理の最大の目標は初期事故防止と再発防止です。再発防止対策が「工学的安全」から検討してもらいたいです。これらは、講義では触れませんでしたから、後の講義で触れると思います。書きながら自分の考えをまとめていっています。講義録に再登場することになるでしょう。

 以上について付け加えておく内容があります。それは

 原発は当初「安全な技術を社会的要素でリスクのある状態においておいた」のではない

 ということです。正力松太郎氏が原発を導入した約50年前のトレードオフを思い出してください。原発導入時は「原発は10年後に発電できる」という技術でした。ですから、技術そのものがリスクがある、リスクがないという状態ではなかったのです。つまり原発は導入時は、利益しかない存在、だったのです。

 「原発は政治的な利益しかないから導入した」

 と考えられます。
もちろん、その状態で「原発は経済的、安心、安全」とアメリカのデータを基にして発表していました。この点において正力松太郎氏が④原発はアメリカを全面的に信頼した、を言い出しました。しかし、その後、技術が確立してくるにつれ、原発の持つリスク(危険性)がはっきりとしてきたはずです。その時に、「実用化ではっきりしてきた技術的なリスクと政治的な利益を比較することを行わなかった点が、原発事故につながる大きな原因だと考えます。しかし、その時に、先ほど述べたように、「④原発はアメリカを全面的に信頼した」ことで押し切ってしまいました。これが原子力村と言われる「情報を出さない体質」を作った原因であると推測します。多くの人々は、

 「原発は原子力村という組織的隠蔽(いんぺい)体質があるから事故対策が出来ない」

 と考えたり主張したりしていますが、私は、

 「原発は技術的リスクを政治的要因で封印したから原子力村という組織的隠蔽体質が出来た」

 と考えます。その論拠は、50年前のトレードオフなのはこれまで繰り返してきた通りです。
もう1度50年前のトレードオフを振り返って、この長い講義録を終わりましょう。
 50年前
利益
アメリカ -A)反米感情を抑える
     -B)引き続き日本を支配できる
     -C)アメリカ製品が売れる
     -D)アメリカ本土を守るため日本が防波堤になる
 日本  -E)エネルギーの自主確保
     -F)アメリカの核の支配下にいられる
     -G)反共化を防ぐ
リスク
 アメリカ-G)さらに、反米感情が高まる可能性がある
 日本  ーH)原発事故の可能性が出てくる


 現在でA~G)を検討しましょう。
利益
アメリカ -A)反米感情を抑える     ⇒日本は充分親米
     -B)引き続き日本を支配できる ⇒現在も続いているが原発は大きな要因ではない
     -C)アメリカ製品が売れる   ⇒貿易収支の拡大で必要性減少
     -D)アメリカ本土を守るため日本が防波堤になる ⇒ソ連が崩壊してなくなる
 日本  -E)エネルギーの自主確保 ⇒現在も。しかし、各国に天然ガス、国内にメタンハイドレートがある。
     -F)アメリカの核の支配下にいられる ⇒現在は必要性が大いに減少
     -G)反共化を防ぐ ⇒残存勢力はあるが影響力は減少
リスク
 アメリカ-G)さらに、反米感情が高まる可能性がある ⇒親米化成功
 日本  ーH)原発事故の可能性が出てくる ⇒現実化、今後も可能性は継続

 現在も残っているのは
利益
アメリカ -なし
日本   -E)エネルギーの自主確保⇒ただし代替エネルギーあり
リスク
アメリカ -なし
日本   -H)原発事故の可能性が出てくる ⇒今後も継続

 以上のように整理できます。
ここから観えてくるのは、50年前のトレードオフが成立してたが、現在はトレードオフが成立していない、という点です。必要不可欠に近かった原発が現在では国外、国内に代替エネルギーがあります。それらの代替エネルギーは原発特有の大災害の可能性がありません。ですから、現在ではトレードオフが成立していないのです。これは50年前から現在まで、徐々にトレードオフが成立しなくなりました。1960年代後半には代替エネルギーが見つかり、反米感情も和らいでいきました。1970年代には学生運動も収まり原発による国民を親米に誘導する必要もなくなりました。マクドナルドやコカ・コーラに代表されるアメリカ商品は富の象徴として日本で受け入れられました。それによって貿易は拡大し、武器や軍需製品の割合は低下しました。自衛隊に戦闘機や艦船を販売する金額も同様です。90年代にはソ連崩壊により米ソ冷戦が終わり核の支配下にある利益が低下、2000年前後から国内にあるメタンハイドレートが国内エネルギーの40~100年分をまかなえると試算さえてきました。
 こうした歴史の流れが、トレードオフを出来ない方向へと向かっていました。しかし、原子力政策は一貫して 「原発は政治的な利益しかないから導入した」を墨守(ぼくしゅ)し続けたのです。改正するチャンスは何度もあったことでしょう。この点は、アメリカの責任ではなく日本国内の政策ミスとして指摘したいと思います。

 この問題は、原発だけではなく日本国内の多くの分野において見受けられます。
講義では自衛隊と給食の話をしました。しかし、そもそも日本国憲法がアメリカの占領政策=「日本弱体化」によって作られたものです。これを改正するのを目指した自由民主党は、50年以上を過ぎて国民投票法を成立させました。給食も地産地消が叫ばれるようになり改定の兆しが見えてきています。田母神元航空幕僚長の対応の不備、尖閣諸島ビデオ流出などで国防意識の高まりを受けています。自衛隊も今後、実質的には変っていくでしょう。教育界でも、現在でも「第二次世界大戦(大東亜戦争)は全面的に悪い戦争をした」と教えられていますが、戦争をするには何かしらの理由があるのを教えていません。これに関しても肯定側と否定側の両方を書いた「公平」な教科書が出てきています。このように考えると原子力政策も全面的に再検討していく必要があると思われます。
 その際に大切なのは、「原発は安全、安心、経済的、ないと困る」から「原発は危険、絶対駄目、全て停止」という180度の変化ではなく、現在の利益とリスク、さらに技術の進歩を踏まえた転換です。

 「マーク1」の欠陥箇所を見過ごしてきた原因を振り返ってみた結論です。
国際政治全体から、日本全体から原発事故を振り返って見ました。私も補足して色々な知識が結びつきました。思わずこのような結論になりましたが、これも一生懸命やったご褒美でしょうか。素晴らしい学生の皆さんに恵まれてこのような講義録が書けたこと幸せに感じています。

 次回は、福島原発事故前の講義を資料もそのままに行います。
 
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