講義録12-1 客観的事実と許容可能なリスク

 皆様、こんにちは。

 新年明けましておめでとう御座います。昨年は、40歳を不惑、とは良く言ったものだと感心しておりました。思考や目標の振れ幅が徐々に狭まっているのを実感しました。40歳を過ぎて、遅い、とも感じますし、まだまだ、とも感じます。年末に国会図書館にある本を探しに行きましたら、ほぼ満席で驚くと共に、日本の素晴らしさを実感致しました。私もその末席に座りたい、と感じました。振れ幅が狭まり、心機を清めていく、何とも清々しい新年になりました。有り難う御座います。

 それでは本文に入ります。

 紹介した本
 :『希望の現場 メタンハイドレート』 青山千春著 青山繁晴アシスト ワニ・プラス 1300円+税 
 (平成25年7月10日発行と書いてありますが、7月2日に手元に届きました。この辺りの虚偽記載に問題を感じていますので、敢えて記しました。)

配布したプリントB4 2枚
 1枚目
 :「大飯発電所3号機の安全性に関する総合評価(ストレステスト)一次評価結果と安全確保について」
 http://www.meti.go.jp/press/2011/10/20111028006/20111028006-2.pdf

 2枚目
 :「新潟県上越市沖の海底に露出した熱分解起源メタンハイドレートを確認、採取に成功」2006/2/28 発表者 松本 良(地球惑星科学専攻 教授)
 http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2006/03.html


 --講義内容--

  今回は、客観的事実と許容可能なリスクを日本のエネルギー問題と含めて深めていきます。製造物では原発です。原発は考えるのも触れるのも嫌になる、という人も多いでしょう。私もそうです。なぜ、そうなのか、は客観的な事実と許容可能なリスクという視点が欠けているからである、と考えています。それを述べます。

 まず、客観的事実は万人に共通ではありません。どんな事実も必ず偏っています。そうした人間の可知の限界を見据えていかないと、意図や感情によって流されてしまいます。事故対策が何時の間にかエネルギー問題にすり替わるのです。「原発再稼働」は事故対策の問題なのに、日本のエネルギーが足りない、という問題にです。

 次に、事故対策では事故の危険性を完全になくせる訳ではありません。どんな製造物の事故対策も必ず危険(リスク)が存在します。そうした人間の能力の限界を見据えていかないと、意図や感情によって流されてしまいます。事故対策が何時の間にか被害想定にすり替わるのです。「原発再稼働」は事故対策の問題なのに、放射線障害は無くさなければならない、という問題にです。

 以上のことからお分かり頂けると思いますが、「原発再稼働」 の事故対策は、再稼働賛成側も反対側もすり替えを起こしているのです。エネルギーは国家戦略の根本です。そこに技術者倫理の視点を入れることでより整理して考えられる、と思っています。

 以上が今回の要旨です。

 では、一昨年の大飯原発再稼働(現在は停止)の時の資料を使い具体例で考えて行きましょう。第9回目までは基本概念だけを学んできました。今回でより深めていきたいです。

 -完全な客観的事実は存在しない

 学問の出発点は事実に基づくことです。それもより全員が共通に認識する事実です。この「共通に認識する」というのが曲者です。詳細は哲学に譲りますが、存在しません。それは、どんな事実も観察者の主観によって切り取られるからです。簡単に言うと人によって同じ事実でも感想が異なるのです。この講義では宿題レポート第2回を出しました。学生の皆さんは同じプリントを読んでいます。同じ講義を聞いています。しかしざっくり言うと感想は「難しい」が4割、「楽しい」が4割、「その他」が2割でした。同じ文章なのに観察者の主観によって異なります。ここに観察者の主観という偏向が出てきます。この偏向をなるべく少なくするのが学問の大きな意義の1つです。ではまず、偏向を具体的図にして見ていきましょう。

 偏向の図形 

偏向は①~⑤で入ります。

     偏向①         偏向②         偏向③         偏向④         偏向⑤
事実   →   一次情報   →   二次情報   →   三次情報   →   四次情報   →   五次情報

目の前  →  ・実験データ  →  ・データのまとめ → ・評価      →  ・報道      →  ・ネット
         ・自分で現場に     ・レポート       ・論文(他と比較)    ・マスコミ       ・居酒屋議論
          行って見ること

 私達人間は、能力の限界から以上のように偏向が入ってしまうのです。それは避けられないことですから、それを分けることでより整理して有効に利用できます。信仰のように「全員が共通の認識が持てる」という前提に立たないのが学問の大きな意義の1つです。では具体的説明に行きます。

ー偏向①

 目の前の事実を見ても、全員が共通の認識にならない、というのは偏向①を指しています。また、自然科学の次元の減少(例えば物体から重さの次元だけを取ること)もここに入ります。次元の現象によって実験が可能になります。同じ物体でも長さ、重さ、固さ(幾つもありますが)などで切り取ることが出来ます。

ー偏向②

 同じ実験データを見ても結論が異なることはよくあることです。実験物理と理論物理の違いは此処にあります。ノーベル賞受賞者の湯川秀樹博士が当時の実験物理のデータ(一次情報)を見て、多くの研究者が「どのような原子核の構造であるか(事実)」を考えていました。他の研究者の色々なアイディアがある中で、湯川博士は中間子論(二次情報)を提出したのです。私達の身の回りでも、同じ人の同じ言葉を聞いて、「あの人は意地悪な人」と考える人、「あの人は本当は優しい人」と考える人が分れます。これもその当人の解釈という評価(二次情報)の点で分れます。この違いが偏向②です。

ー偏向③

 「あの人は意地悪な人」と考えた人が、「だって、あの人は前にこんなことも言っていた」とか、「同じようにしていた人はこんな風にお嫁さんを追い出してしまった」とか、「道徳の本にこういうことはしてはいけませんと書いてある」とか、他と比較して最終的な評価を下す場合にも、偏向が入ってきます。過去の本人と比べるのか、誰と何を比べるのか、に観察者の主観性が入るからです。湯川博士の中間子論では、それをノーベル賞と評価するかどうかに、観察者の主観が入るのです。ノーベル賞の平和賞は欧米中心過ぎて笑ってしまう程、露骨ですが、第二次世界大戦以後はノーベル物理学賞や化学賞は人種差別という観察者の主観性が排除される傾向にあります。しかし鈴木梅太郎博士などの例を見ても判るように敗戦前はそうではありませんでした。ここでは歴史的事実を非難するのではなく、偏向③が評価の段階である、という意図を込めています。

-偏向④

 ノーベル賞という評価(三次情報)をどのように報道するか、にも偏向④が入ります。これも人間の能力の限界からです。人間は全ての情報を一瞬で認知し理解できない、という人間の能力の限界です。日本では出版物が約7万点で世界一と聴いたことがあります。毎日約200点出ています。これを一瞬で認知し理解できません。精々、新聞を4点、本を2,3冊読んでお終いです。日本国内で1%以下です。では海外も含めるとどうなるでしょうか。マスコミも同じです。毎日、国内海外で数百数千の情報が入ってきます。その全てを報じることは出来ません。そういう報じ方をすれば、多くの読者や購入者(国民)は聞いてくれないでしょう。「多すぎる。整理しろ」と言って。ですから、報道するものと報道しないものを観察者の主観性で区別するのです。ノーベル賞特集にどの位の紙面を割くのか、時間を使うのか、がその典型例でしょう。
 先ほどの私達の身の回りの例で行きましょう。「意地悪じいさん」という評価が定まった人がいるとします。では、その人の話をご近所との世間話でするのか、それとも今日の新聞のニースにするのか、テレビドラマの話をするのか、野球やサッカーの話をするのか、そこに当人の個性(観察者の主観性)が現れているのです。

ー偏向⑤

 ネットが一番分りやすいので例として挙げましたが、他の例で幾らでもあります。日本のインターネットでは「マスコミの報道しない自由」がよく叩かれています。従軍慰安婦問題や大東亜戦争や福島原子力災害への評価問題などは次に述べますが、根拠としてマスコミの報道を根拠にしているという点に着目しています。マスコミの報道だけを根拠として考えているのならば、そこに偏向⑤(観察者の主観性)が入ることになります。ノーベル賞受賞特集では、「日本万歳」とか「日本は素晴らしい」というネットの声が聴かれます。他方、マスコミでは日本の悪い面も報じます。しかし、これには耳と目を閉ざしてしまう傾向があります。「日本だけが人種差別を受けている」とか「日本人は人種差別をしていない」というのは、都合の悪い報道(四次情報)を割愛する偏向⑤なのです。日本は確かに「万民平等(神武天皇即位の令)」を理想としています。しかしながら、万民平等の「五族共和」がスローガンだけになり実際には人種差別が行われていました。もちろん、欧米の人種差別に比べれば程度は軽いものでした。これらに目を向けないと、私達は敗戦後70年の評価が出来ないと思います。そう想っていたのですが、偶然にも御心に適うように想われました。宮内庁より引用します。


 「天皇陛下の新年の御言葉」

昨年は大雪や大雨,さらに御嶽山の噴火による災害で多くの人命が失われ,家族や住む家をなくした人々の気持ちを察しています。

また,東日本大震災からは4度目の冬になり,放射能汚染により,かつて住んだ土地に戻れずにいる人々や仮設住宅で厳しい冬を過ごす人々もいまだ多いことも案じられます。昨今の状況を思う時,それぞれの地域で人々が防災に関心を寄せ,地域を守っていくことが,いかに重要かということを感じています。

本年は終戦から70年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々,広島,長崎の原爆,東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に,満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び,今後の日本のあり方を考えていくことが,今,極めて大切なことだと思っています。

この1年が,我が国の人々,そして世界の人々にとり,幸せな年となることを心より祈ります。


 宮内庁引用先
:http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/gokanso/shinnen-h27.html

 御心に適い二度目の初日の出に巡り合えたようです。
 さて、それでは戻ります。以上で偏向①~⑤の説明を終わります。次に、偏向それぞれについてです。

 -偏向をより少なくするために 

 偏向をより少なくするためには、

A)事実に客観性を求めること (偏向①に向かうこと) 
B)公平性を求めること     (より多くの情報を比べること)

 詳しくは次に述べるとしますが、手短な所で、①客観性と②公平性を求めるためには、現在の日本で得られる以外の情報源を持つことが大切です。その例として、Newsweekを紹介しました。日本語版で、アメリカの情報が直ぐに読めます。これまでも、日本のマスコミとは全く違う視点で多くの問題を論じてきました。もちろん、橋本徹氏の従軍慰安婦発言に関してなどは、客観的な事実誤認や日本の従来のマスコミの嘘が入っていたり、アメリカでのロビー活動そのままであったりする点もあります。けれども、全体とすると日本のマスコミとは別の情報源足り得ると考えます。大学の図書館にあるので、是非とも手に取ってほしい、と学生の皆さんには述べました。

 -日本のマスコミの特有の偏向問題

 日本のマスコミは偏向しています。同時に、世界のマスコミも偏向しています。その点をネットなどで騒がれていますが、これは必ず生じる問題です。なぜなら偏向④で書いたように変更せざるを得ないからです。しかし、日本のマスコミの特有の偏向問題があります。それは三次情報だけで報道している、ということです。簡単に言うと、現場に行って記者が一次情報を取って報道していない、という点です。

 -従軍慰安婦問題

 従軍慰安婦問題では河野談話などを元にしていました。あるいは小説家を根拠としていました。これは三次情報です。新聞記者はきちっと本人人の証言を調べなければなりません。一次情報に触れなければならないのです。なぜなら全ての情報には偏向が付きまとうからです。A)事実に客観性を求めること (偏向①に向かうこと) です。秦 郁彦氏は現地調査を行って一次情報に触れ、三次情報の偏向を正しました。このように従軍慰安婦問題は、客観的事実に向かう学問の問題でもあるのです。

 -福島原子力災害の報道問題

 日本の大手マスコミの記者が福島原子力災害で、現場に行って一次情報を取ってくることがありませんでした。むしろ自主規制をして普通の国民が入れる現場よりも近づきませんでした。そして、東京電力や原子力安全保安院などの評価(三次情報)だけを報道したのです。当時を思い出してください。マスコミが報道していた原子炉の簡単すぎる図、その簡単すぎる図で同じ内容だけを繰り返し、耳にタコが出来るだけでした。一次情報がないから不安になって仕方がありませんでした。
 青山繁晴氏は福島原子力発電所内に自らのビデオを持って入り、作業員や海辺側の現場映像(一次情報)を流してくれました。そのことによって地震ではなく津波が主な原因であること、作業員の孤軍奮闘ぶりなどを知ることが出来ました。どれほど多くの国民にとって有益であったでしょうか。青山氏は数百万円するであろう、この情報を無償で提供したそうです。自腹を切って「公衆の福利」に尽くして下さいました。他方、公器であり独占的な利益を認められている新聞社は記者を送ろうとはしませんでした。これも三次情報だけを報道する日本のマスコミ特有の問題なのです。

 以上が本年書き足した個所です。偏向を念頭にしながら、以下の一昨年の講義録(多少の加筆修正)をお読みください。

大飯原発再稼働の要点を先に書いていきます。

 要点を見る視点は、

①事実に客観性を求めること 
②公平性を求めること

 です。
大飯原発再稼働の肯定側の資料(原子力安全・保安院と関西電力)を観て①を担保し、リスクを探し出します。これは、再稼働反対側から出る資料から利益を探し出す行為と対になります。そのことで②を担保します。前者のみになりますが、以下がまとめです。技術倫理の大前提として「リスクがない製造物はない」ことを述べておきます。そのリスクが許容されるかどうか、が判断基準となります。

○1)運転継続のための二次評価を行っていない
 1次評価は試運転のための評価に過ぎません。関西電力は「忙しいから」と2次評価を提出しませんでした。ここは、評価を受けていない、という重大なリスクがあります。

○2)検査、データ分析、評価などの全てを関西電力が行っていて、国は報告を許諾するか拒否するかだけである
 ある自動車が重大事故を起こしました。同じメーカーの車に乗っている場合、どこを検査するか、どのように事故であったか、どのように事故原因を考えるか、検査の実施、検査データの収集、そして分析、さらに評価をするのが、あなた(運転手)なのです。自動車製造メーカーでも国でもありません。ここにデータ偽造や恣意性は入るリスクがあります。

○3)どの値から安全とするかの基準がない
 時速80キロは安全でしょうか? 高速道路のように路面が整備されおり、車検で数値によって検査された車なら安全です。では、何キロからが安全なのでしょうか? この何キロ、という数値により安全基準がないのです。さらには、40年前の自動車が事故起こしましたが、2年前の新車まで運転停止になりました。なぜでしょうか? どの数値より安全かという基準がないからです。ここにリスクを明確に判断できない、というリスクがあります。

○4)最も数値の高い項目だけを列挙する
 原発は数万にも及ぶ部品で構成され、何十もの装置があります。それらの装置の中で最も耐震化できたものを挙げて、安全確保対策は向上しました、と書かれています。最も大切なのは原子炉格納容器ですが、この耐震化や津波対策が施されていません。ここにリスクを混同させるリスクがあります。

○5)柏崎刈谷の原発事故の教訓が生かされていない
 柏崎と福島の原発事故では「地すべりによる送電鉄塔の倒壊等により外部電源喪失」が起こりました。送電鉄塔の耐震化のデータが書かれていません。ここにリスクがあります。

○6)福島原発事故の教訓が生かされていない-①ベント弁がない
 ベント弁とは原子炉格納容器の圧力が高まった時に放射性物質を含む空気を外気に放出する装置です。福島原発事故ではベント弁が開かれ最悪の事態=原子炉格納容器の爆発(チェルノブイリ級事故)が防がれました。このベント弁が大飯原発3号機にはついていません。平成27年度完成予定です。事故発電所である福島原発よりリスクが高いです。

○7)福島原発事故の教訓が生かされていない-②免震重要等がない
 免震重要棟は放射線を遮断する建物で、福島原発事故対応で現在も活躍しています。柏崎の事故で設置されましたが、大飯原発にはありません。平成27年度完成予定です。事故が起こった場合に作業員の被曝線量が高まり事故対応が遅れます。ここに重要な施設がない、というリスクがあります。

○8)福島原発事故の教訓が生かされていない-③津波対策がない
 資料の中に津波によって「非常用ディーゼルや海水ポンプの損壊」が書かれています。つまり、津波は鋼鉄製の構造物を容易に破壊することが実証されました。しかし、1次評価に書かれているのは「浸水対策」であり、「扉にシール」や「拝観貫通部へのシール」に過ぎません。津波の破壊力を考慮していない、というリスクがあります。同時に現在の5メートルの防潮堤を7メートルにする工事の完成予定は平成25年度です。津波対策がない(浸水対策はある)というリスクがあります。

 以上の8点をリスクとして指摘します。

 講義では、細かい点の補足を行いましたし、同時に、推進側の資料からこれまでになかった姿勢が見られ、リスクを減少させている点も指摘しました。これは次の講義録に書きたいと思います。今講義録はリスクの指摘で閉めます。

平成24年度の大飯原発再稼働のリスクについて、前の「講義録12-1 大飯原発再稼働の8点のリスク」で要点の挙げました。ここでは、もう少し丁寧に解説していこうと思います。資料は最下部に挙げます。

 要点を観る視点は、
①事実に客観性を求めること 
②公平性を求めること
 です。

①事実に客観性を求めること、とは、なるべく1次資料を使うことなどで達成されます。

 1次資料の代表的な例は、自ら取った実験データです。他に、原子力委員会の出す『原子力白書』などの官報や、現場を直接観た人の事実を書いた本やレポートなどです。これに対して2次資料というのは、1次資料を元にして書かれた内容です。このブログも殆どが1次資料を用いた内容ですので、2次資料となります。原発では、技術者以外の人々の書いた本なのです。これらは、事実の持つ膨大な情報の中から、筆者が「情報を捨てること」で成立します。著者の意図の偏向等の問題もありますが、事実が持つ膨大な情報からどこを切り取るか、どこと切り捨てるか、が問題になります。新聞や各論評や本などはそれによって成り立っています。ですから、中々自分の考えを得ることが難しいのです。
 以上のことから、原発という複雑な装置を判断する場合、なるべく1次資料を用いることが大切になってきます。

②公平性を求めること、は肯定側の資料から否定要素を、否定側の資料から肯定要素を探すことの大切さが出てきます。
 
 ①で述べたように2次資料からは「切り捨てられた情報」しか出てきません。どこを切り捨ているか、という恣意性は決して無くすことが出来ません。ここには人間の知の限界があります。詳しくは「書いたもの ○高木の哲学的立場 認識論、存在論、それ以降の突破として」としてをご覧ください。その人間の知の限界を踏まえた上で、問題を考察する際に、有効な手段の1つが、肯定側の資料から否定要素を、否定側の資料から肯定要素を探すことです。結婚しようとしている人の否定要素を敢えて探そうとすることは、結婚生活の短期破綻のリスクを下げる行為です。就職活動で会社は良い情報しか出していません。四季報などで会社の悪い情報を探すことは、倒産によるリスクを下げる行為になります。以上のことから、②公平性を求めることが大切になってきます。

 しかしながら、敗戦後の日本の原子力政策の特徴にも気をつけなければなりません。それは原子力発電の導入から稼働、継続までが、国際政治に大きく作用されおり、イデオロギー論争にまみれてしまった、という点です。
 事故を起こした福島原発1号炉は、アメリカの原子力潜水艦に利用される型です。発電用としては欠陥炉です。後に述べます。そして発電の実証データがそろわない内に、「原発は、未来のエネルギーです。安いのです」というむちゃくちゃな宣伝文句で日本に導入されました。実際に原発が赤字を計上しなくなったのは導入から20年以上の月日が必要でした。日本の原子炉が沸騰水型と加圧水型になっていったのも、アメリカに従ったからです。ソ連は黒鉛減速型でした。日本を始めヨーロッパの導入はアメリカ主導でしたので、沸騰水型や加圧水型で、ソ連主導では黒鉛減速型でした。これは、米ソ冷戦の中で、各国をエネルギーの安全保障上の支配下に置こうとしたからなのです。「ウランは未来のエネルギー」と言いますが、ウランは濃縮しなければなりません。その濃縮をするのが全てアメリカ、という構図なのです。石油はコントロールできないけれど、ウラン濃縮はコントロールできるから、という考えでした(後に崩れます)。
 そして日本では、敗戦後アメリカの言いなりでしたから、沸騰水型と加圧水型を交互に、あるいは同じ数だけ建設していきました。フランスでは60年以降、沸騰水型は本質的にリスクが高い、と実証的に判断して加圧水型に移行していきます。日本では技術的観点からリスクの高い沸騰水型をずーっと続けたのです。これは「技術が社会背景に依存する例」と言えるでしょう。ですから、講義で取り上げているのです。
 さらに、日本では沸騰水型の危険性がアメリカで指摘されても「アメリカが安全と言っているから安全」として日本に地震が多い、や自分たちで実証データを取らない(公開しない)などを行いませんでした。ここにも大きなリスクが「技術が社会背景に依存すること」で出てきてしまったのです。

 さらに、国際政治は原発に介入しつづけます。

アメリカ:原発推進
 VS
ソ連 :原発否定
 
 の構図は続きます。ソ連共産党から資金援助を受けて成立した日本共産党を始め左翼勢力は、反原発一色になります。「アメリカの導入した原発だから全部悪いだけ!」と完全否定するのです。これでは技術改良や技術革新が起こりえません。技術とは最初の段階では未熟なものなのです。同じ構図は自衛隊でも起こります。「アメリカに協力する自衛隊は全部悪いだけ!」というのです。阪神淡路大震災で「自衛隊は来るな~!」と主張した現役の国会議員がいました。自衛隊が悪いのではなく、「アメリカの支配が悪い」のであり「その手先である自衛隊が、原発が悪い」のです。これは2013年現在でも、日本国に残っています。
 公平に反対側からも観てみましょう。この講義は技術者倫理ですから、技術の観点から観てみます。
 すると、原発推進側の日本政府や官僚、企業などは、この左翼運動に甘えました。つまり「国民には原発のことなど分るわけがない」、「事故データなども国民に知らせる必要がない」となってしまったのです。つまり、独善になってしまいました。するとどうなるか。「原発は絶対に事故を起こしません」、「日本国政府の言ったことだから信じてください」というむちゃくちゃなことを押し通してきました。「製造物は必ず壊れる。だから壊れた時に最小の被害になるように対策を事前に考えておく」というのが、フェィル・セイフという考え方です。

「講義録3-1 「フール・プルーフ」と「フェイル・セイフ」と「冗長性」」
http://takagikenziro.blog.fc2.com/blog-entry-259.html

 しかし、事故を起こしません、と言ってしまったのです。私は福島原発事故が起こる前、原発推進に反対でした。以上の技術者倫理の理由からです。もちろん、原発推進派からすれば反原発の左翼思想家に観られることもありました。しかし、私は学問上の良心として講義でも話しましたし、曲げませんでした。現在は、「原子力安全神話は間違いであった」と公式に認められました。今回の資料にきちんと載っています。ですから、私の原発推進に反対する思想的な理由が減ってきています。昨年度詳しく述べたように、残っている問題の多くは東京電力などの組織的要因、構造的要因だと考えています。「安全神話の崩壊」は「技術が社会に依存すること」を考えると、原発のリスクの減少、と捉えることが出来ます。

 以上から、国際政治に左右され続けている原発の現状と、公平さを求めることの大切さが伺えます。
 8つの観点は次に述べます。

 2つの観点について述べましたので、次に8つのリスクにもう少し言葉を足していきます。
 8つのリスクをもう1度挙げます。

○1)運転継続のための二次評価を行っていない
○2)検査、データ分析、評価などの全てを関西電力が行っていて、国は報告を許諾するか拒否するかだけである
○3)どの値から安全とするかの基準がない
○4)最も数値の高い項目だけを列挙する
○5)柏崎刈谷の原発事故の教訓が生かされていない
○6)福島原発事故の教訓が生かされていない-①ベント弁がない
○7)福島原発事故の教訓が生かされていない-②免震重要等がない
○8)福島原発事故の教訓が生かされていない-③津波対策がない

 次に推進側の原発を再稼働するために提出された一次評価の資料を挙げます。この資料を足場として検討していきます。

 まず、「福島原発事故から得られた知見」が、大飯原発の安全性に関する総合評価の中にありますので(配布プリント1枚目)書き出してみます。

 「福島第一原子力発電所事故から得られた知見」

地震による影響
 1)地震発生により原子炉は正常に自動停止
 2)地すべりによる送電鉄塔の倒壊等により外部電源が喪失
◎3)非常用ディーゼル発電機は全て正常に自動起動
 4)原子炉の冷却に必要な機器は正常に作動

津波による影響
◎5)非常用ディーゼル発電機、配電盤、バッテリー等の重要な設備が被水
◎6)海水ポンプが損壊し、最終ヒートシンク喪失(原子炉冷却機能喪失)
◎7)全交流電源喪失(外部電源と非常用ディーゼル発電機が喪失)

 以上です。分かりやすくするために、1)~7)を割り振りました。 また、◎は対策が必要な箇所を示しています。3)、5)、6)、7)です。成功した点は1)、2)、4)です。続いて、これらの原因に対する、安全確保対策が書いてあります。

 【安全確保対策】

 7)全交流電源喪失(外部電源と非常用ディーゼル発電機が喪失)    ⇒ 7)-対策) プラント監視をするために必要な電源設備を確保
 6)海水ポンプが損壊し、最終ヒートシンク喪失(原子炉冷却機能喪失) ⇒ 6)-対策) 蒸気発生器への給水設備を確保
 5)重要機器の被水防止                      ⇒ 5)-対策) 建屋の浸水対策を実施

 以上です。
 ちなみに、1)、2)、4)は否定側では案外論じられることがありません。これも公平性から捉えると偏っていると言わざるを得ません。また、現在でも、福島原発事故対策を考える際の基礎的な知識として、正確に持っている人は少ないのではないでしょうか。現在でも原発の話をする時に、1)、2)、4)の話をすると「へー!?本当?」と驚かれることが多いのです。この辺りは次に述べます。

 それでは文頭に戻って、8つのリスクに行きましょう。

○1)運転継続のための二次評価を行っていない

 判りやすい例を挙げます。自動車は製品になる前に、試作車を作ります。この試作車を鈴鹿サーキットなどで試運転をしてデータを取り、安全性を確認します。確認できたら申請をして製品化し、販売します。大飯原発再稼働の1次評価しかない、というのは、この試作車を公道ではないサーキットで走行させていいよ、ということです。けれども、大飯原発再稼働は、安全性を確認しないで、公道で走らせてしまった、ということなのです。運転継続の評価が2次評価です。継続の評価がないのに発電までしてしまっているのです。日本国民の安全を守るべき内閣府原子力安全委員会(当時)、経済産業省の原子力安全・保安院は、それでも再稼働し発電させてしまいました。野田総理(当時)は、「私を信じてください」と言いました。関西電力で安全性の確認が取れていない理由は、「作業量が多いから」だそうです。マスコミもきちんとこの事実を報道したのかと言われれば、全体としては否定的であると私は捉えています。このような理由があり、安全性の確認の取れていない試作車が堂々と公道を走っている、というのが実情なのです。
 もちろん、この点には重大なリスクがあります。もう1点加えれば、きちんと説明を加えていない、というリスクもあります。前に述べた原子炉の沸騰水型と加圧水型の違いがありましたが、加圧水型の方が本質安全を備えています。ですから、大飯原発は福島原発1号炉よりも本質安全を保持している点が幾つかあるのです。しかし、それをきちんと発表しないのです。この点には「国民には原発のことなど判りはしない」などのパターナリズムが見え隠れします。これには関西全力が業界最大手の東京電力への非難を含みうる加圧水型の優位性を発表したくない、という業界内の組織的要因があるのかもしれません。そのように指摘する識者はいますが、私は推測の域を出ていません。
 官僚組織(原子力安全委員会、原子力安全保安院)、業界(関西電力)、政治家(野田首相)、マスコミがリスクを増大させている、と指摘しました。しかしながら、「技術が社会背景に依存すること」という技術倫理の視点から捉えると、この指摘は通常ありうる形態であることが判ります。どのような社会体制、どのような歴史文化を備えた国家であっても、技術への社会背景が介入することは広くみられます。ですから、この点をイデオロギーから全否定する批判ではなく、このことによって再発事故のリスクが高まっている点を検討する必要があるのです。

○2)検査、データ分析、評価などの全てを関西電力が行っていて、国は報告を許諾するか拒否するかだけである

 :原子力安全・保安院 「ストレステストの進捗状況(発電用原子炉)」H24.6.18    「添付 :東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた大飯発電所(3号機)の安全性に関する総合評価(一次評価)に係る報告書(概要)(PDF形式:1,116KB)」の全て。「添付資料1-1」と「添付資料1-2」

 この「添付資料1-1」の右上に「関西電力会社」とあり、その下に「添付資料1-1」とあるのです。

イ) 「1.はじめに(ストレステスト導入の経緯)」があります。その最後の2行を引用してみます。
「それ(前行より:国民・住民に十分な理解が得られていないので、新たな手続き、ルールで安全評価を実施すること)を受け、原子力安全・保安院は、平成23年7月22日に電力事業者に対し、福島第一原子力発電所事故を踏まえた、安全性に関する総合評価(ストレステスト)の指示を出しました。」

 よく見て下さい

 「原子力安全・保安院は、電力事業者に対し、安全性に関する総合評価(ストレステスト)の指示を出しました。」

 とあります。

 原子力政策では、主に原子力発電所関係では、これまで内部告発が多数あり、偽造データが数多く出て来ています。
 
 その根本的な原因は、「電力会社(事業者)が製造物の計画、検査、報告を担当している」という点です。

 この点からすれば、現在検討されている「原子力規制庁が出来るかどうか?」が問題ではありません。

☆「原子力規制庁が、実際に安全性を確認する、計画、検査、報告を担当するかどうか?」

 が問題なのです。
 バスの運転手さんに事故を起こしたバスの安全性を任せずに、バスを作った会社が国が責任をもって検査すべきなのです。そうしないと、データを偽装しても、電力会社に検査を任せるしかないから、何にもなりません。

 もう1つ構造的な問題は、電力会社が地域独占をしている、という点です。ですから、もし、電力会社がデータ偽装をしても、他に検査できないなら、しょうがない・・・もう1回任せるか、となってしまうのです。

 これは、技術者倫理の基本の1つである、情報公開と説明責任を危うくする要素の1つです。

 もちろん、他国の原子力発電は軍事利用に直結しており、全ての情報と説明責任を果たしているケースは高木の知る限りありません。他方、独占によって優位な地位を利用して、偽造データ事件の他にも多数の問題があります。

 最も近い例は、公正取引委員会(独立性の高い委員会)から、電力会社への注意が出ました。大飯原発事故ではなく、発電事業全体での注意です。

「東京電力株式会社に対する独占禁止法違反被疑事件の処理について 平成24年6月22日 公正取引委員会」
:http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.march/09033104-01-tenpu.pdf

「公正取引委員会は,東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)に対し,独占禁止法の規定に基づいて審査を行ってきたところ,次のとおり,東京電力の行為は,同法第2条第9項第5号(優越的地位の濫用)に該当し同法第19条の規定に違反する行為につながるおそれがあるとして,本日,次のとおり文書で注意を行った。」

 とあります。これは、

「適正な電力取引への指針 平成21年3月31日 公正取引委員会」
:http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.march/09033104-01-tenpu.pdf

 を受けています。この中で望ましい行為や禁止の行為などが挙げられています。しかし、東京電力はこれらを受け止めずに注意を受けました。

 高木は、大飯原発再稼働は、「電気が足りないから仕方がない」という考え方に反対です。それは、この注意にあるように、

☆「使える電気が増えるを、電力会社が邪魔をしている」

 のだからです。これは上の公正取引委員会の注意を根拠にしています。

 これも電力会社が独占をして優越的な地位を占めている1つの欠点です。もう1つ挙げたいのは、東京都の猪瀬副知事が近年発言して注目されているように、

☆「電力会社が、情報公開をしていない」

 からなのです。果たしてどのようなものが、電気料金に入っているのかが情報公開されていません。これらのように、電力会社は、送電線の独占や検査計画報告等の独占によって、情報公開や説明責任を欠いた企業になっているように考えます。長所と短所の是非はありますが、組織的問題として指摘します。

○3)どの値から安全とするかの基準がない

 ○2)でも述べましたが、安全基準の数値がありません。ですから、先ほどの資料では「安全性が何%上がった」と表記されています。本当に大切なのは、マグニチュード7が来ても平気、という数値基準なのです。
 極端な例ですが、マグニチュード3に耐えられます、という鉄塔があるとします。マグニチュード4まで耐えられるようにすると(エネルギーは約32倍)安全でしょうか? エネルギーは3200%も安全性が向上しました。では、安全でしょうか? どこからを安全とするか、技術者倫理の用語では「許容可能なリスクとするか」が定まっていない限り、安全とは言えないのです。

○4)最も数値の高い項目だけを列挙する

 さらに、リスクを増加させる行為があります。原発が数万の部品で数十の装置で構成されていますが、その内の1つの装置の耐震性が増しました、と述べていて他の個所の、全ての箇所の耐震性が向上したかどうか、について述べられていないのです。大切なのは、全体の耐震性です。これは鉄塔の耐震とも関係します。これまでは原子炉だけを考えてきたのですが、原子炉を含め外部の電源確保も含めた原発全体の耐震性を考えなければならないのに、一分の装置の耐震性だけを述べているのです。ここに手法としてのリスクも存在します。

○5)柏崎刈谷の原発事故の教訓が生かされていない-送電鉄塔の耐震対策がない
○6)福島原発事故の教訓が生かされていない-①ベント弁がない
○7)福島原発事故の教訓が生かされていない-②免震重要等がない
○8)福島原発事故の教訓が生かされていない-③津波対策がない

 以上は全てまとめて述べます。以下、平成24年度の講義録11-3からの抜粋です。

「津波」の項目

[約4倍(11.4m)を超える津波の高さに対しては、全ての冷却手段が喪失するとの評価結果となったが、今後、建屋への浸水防止効果を維持していくため保守点検を確実に実施すると共に、順次水密扉への取替えを行い、さらに信頼性を高めていくことにしている。]

 この文章も目を疑いました、最初。まず、「11.4m」を超えると全ての冷却手段が喪失するのです。福島原発事故は15mを超えています。浜岡原発の予想される津波は「11.4m」を超えています。どうして、大飯原発だけが、この状態で安全と言えるのでしょうか? この点も福島原発事故を踏まえていません。

☆「11.4m」で全ての冷却手段が喪失する ⇒津波の高さ対策が不十分である

 さらに、驚くのは「浸水防止効果を維持していくために保守点検を」です。
 福島原発事故の津波は、浸水ではありません。建物を一気に破壊する力を持っているのです。しかし、それが「保守点検」で安全が確保されるのでしょうか? 空から爆弾が落ちてくる時、皆さんの家では、「保守点検」をすれば安全が確保されるのでしょうか? それは夢物語でしかありません。少なくとも、技術者倫理で求められる本質安全が全く確保されていません。
 さらに、「順次水密扉への取替えを行い」です。現在でも「水密扉」ではないのです。建屋の中に津波が水だけでも入り込む可能性が書いてあるのです。原子炉の中の「全ての機器、配管等々は全て耐水性」なのでしょうか?

 どうして海辺に原発を作って、せめて原子炉建屋だけでも水密扉にしなかったのでしょうか?

☆現在も浸水防止効果の完全でない原子炉建屋でも安全 ⇒浸水防止効果が不十分である

☆海辺なのに水密扉ではない原子炉が安全である ⇒本質的な安全設計が出来ていない

 以上のような点で、ストレステストは安全基準を満たしているとは言い難いと考えます。

ただし、「電源確保の対応状況」と「水源確保の対応状況」の項目でソフト対策とし体制の確立や訓練の実施が行われています。上記に述べた本質安全は欠陥がありますが、制御安全は対策が取られています。この点について高木は、講義録「「技術倫理」から「関西電力大飯原子力発電所3、4号機の再稼働を決定」を考える」
http://takagikenziro.blog.fc2.com/blog-entry-149.html
  
 で
「福島原発事故の事故原因の特定がされていないのが明らかです。細かい点を述べますと、A)全電源喪失時の訓練を行っているのか? B)電源車配備の手順と作業員の配置場所、常時予備の作業員はどのようになっているのか? などがあります。そして決定的なのは、」
 と書いています。この点、高木の資料読み込み不足でした。お詫びと合わせて訂正致します。本文にも平成24年6月26日午前1時42分記入しました。

 以上がストレステストの問題です。

 次に、ストレステストと福島原発事故です。

 まず、肯定側の原子力安全・保安院のデータを使うと、安全確保となっています。ただし、ストレステストは2次評価まであり、その1次評価しか出ていない、という根本的な欠陥はあります。この欠陥を補ったのが、日本国政府の野田総理です。

 次に、否定側から原子力安全・保安院のデータを使うと、以下の点が福島原発事故を踏まえていません。講義録11-1の分は抜きます。

①福島原発事故で大活躍している免新重要等がない

②福島原発事故で備え付けられていたベントがない

③津波を弱めた堤防と原子炉の間の設備がない

④福島原子力事故災害が30kmに及ぶのに防災指針が決まっていない(避難訓練やヨウ素剤配布がされていない)

 以上の4点が、福島原発事故後に判明した事実を無視して、「安全である」と述べている大飯原発再稼働の安全基準です。

 この4点が大飯原発再稼働の安全基準に入っておらず、政治的理由で再稼働が決まったのです。この辺りの「政治的理由」は次の「講義録11-4 安全基準の構造的問題」で述べます。

 この4点は、高木独自の解釈ではなく、多くの新聞などでも書かれています。原発事故のニュースは多すぎますし、整理されていない情報が垂れながされ、専門用語も多いので、しかも本も沢山出ているので、消化不良になっていると見つけにくいですが、専門の記者を置いている新聞などでは書いてあります。そこで引用したのが、

2枚目(裏):「原発運転再開 安全上の課題は」6月16日 15時49分 -NHK NEWSWEB-
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120616/k10015877341000.html

 です。対策完成年度も書いてあります。

平成27年完成←①福島原発事故で大活躍している免新重要等がない

平成27年完成←②福島原発事故で備え付けられていたベントがない

平成25年完成←③津波を弱めた堤防と原子炉の間の設備がない
 :堤防を5mから7mにする工事

見通し立たず←④福島原子力事故災害が30kmに及ぶのに防災指針が決まっていない(避難訓練やヨウ素剤配布がされていない

 さらに、書かれているのは、

見通し立たず←⑤ストレステストの提出を関西電力が「作業量が多い」ので提出していない

見通し立たず←⑥原発の外で原発災害の中心となるオフサイトセンターの設置場所

 福島原発事故の教訓の6つを踏まえず、しかも、4つは今後の対応の期限がはっきりしません。(もちろん、教訓を踏まえて冷却水対策と非常用電源対策は取られました。)

 NHK NEWSWEBには担当記者名がありませんでしたが、「福島第一原発の事故を踏まえた長期間かかる原発の安全対策は先送りされているほか、住民の避難計画といった重要な防災対策は道半ばです」と冒頭に書かれています。終わりには、

「このため自治体からは、国が自治体との調整を進め、早急に具体的な仕組みを作るべきだとして不満の声が上がっています。」

 とあります。

 高木は「NHK WEBNEWS」の記事とは異なる立場をとります。

壱)「NHK WEBNEWS」の記事とは異なる立場-壱-大飯原発以外のさらに安全な原発を探すべき

 「ベント」は日本の原発の中でついている発電所があります。ですから、技術的安全から考えるなら大飯原発である理由が、見当たりません。「ベント」は放射性物質を外気、つまり、福井県や琵琶湖などにまき散らす際に、放射性物質を軽減させるフィルターのことです。この「ベント」がなければ、福島原発事故と同じように直接、排出しなければならなくなります。他方、肯定側は、原子炉から蒸気を通しての外気(大気)へ放出する設備がある、としますが、原子炉格納容器と蒸気を外気に放出する管の耐震性や管の厚さなどはどのようになっているのか不安です。
 本質安全ではない点が技術的安全が低い、と考えられます。というのも、「蒸気が外気に放出できる」という制御が成り立った上で、原子炉内の圧力が一定に保てる、という本質安全が確保できるからです。比較すると以下のようになります。

安全性が低い:制御安全が成り立った上で支えられる本質安全=蒸気による外気への放射性物質放出

安全性が高い:本質安全=原子炉から直接外気への放射性物質放出

 なのです。

弐)「NHK WEBNEWS」の記事とは異なる立場-弐- 安全対策は道半ばではなく、不十分

 自治体と同じく、オフサイトセンターの設置場所の決定は直ぐに出来ると考えます。細野原発事故担当大臣の仕事ではなく、野田首相と経済産業省のトップ枝野大臣の仕事だと思います。

 例えば、小学校の夏休み明けに、防災訓練をしたと思います。一部イメージ化しています。日本国政府が言っているのは、

 「火事が起こっても、どこに逃げていいか決めていない」けど「安全」です。…④
 「火事ための防災訓練をしていないけど、「安全」です」…④

 高木は、こうした校長先生がいたら、教育委員会や子供の親に怒られると思います。さらに、

 「火事が起こった場合どうなるか、考えているけれど検査に忙しいからまだです」けど「安全」です。…⑤
 「火事が起こっても消防員さんが作業できない」けれど「安全」です。…①
 「火事が起こって周りに火の粉が飛ばないようにしない」けど「安全」です。…②
 「火事が起こって燃えにくいと判った素材を入れていない」けど「安全」です。…③

 ということです。「安全」です、と信じて下さい、と言われました。原発になると問題が複雑になりますが、この事例だと解りやすいのではないでしょうか。もちろん、火事は燃えたら終わりですが、放射性物質は長い間、その土地に留まります。

 高木は、以上のような指摘から、大飯原発再稼動の安全基準は、技術的安全ではなく政治的理由から採択された、と考えます。

 ただし、だから、「野田首相が悪い、やめろ」や「枝野経済産業大臣が悪い、とんでもない」と主張しません。もちろん、政治的責任はあります。しかし、そのように、個人攻撃、個別の政党攻撃をしても、この原子力発電の根幹の問題が変えられないからです。むしろ、個人攻撃や個別の政党攻撃によって、原発の根幹の問題が残り続けてきた、というのが歴史的な事実ではないでしょうか。原子力政策を進めてきたのは自由民主党です。マスコミでは、読売新聞や、同じ系列の日本テレビなどが協力したのです。そして敗戦後に日本の根幹の問題でもあります。
 福島原発事故を起こした、あるいは安全事故対策を怠った東京電力の責任はあります。しかし、東京電力だけを攻撃しても、本当に問題は見えて来ませんし、今後の、再発防止策も出来ません。

 大飯原発再稼働の安全基準が、政治的理由で安全と判断されたことは、

 「技術的安全が蔑(ないが)ろにされ、政治的理由で製造物の再発防止策が蔑ろにされてしまったのです」

 ですから、

 「政治的理由(社会背景)を理解しないと、技術的安全が確保できず、技術者倫理の目的である「公衆の福利」が担保できない」

 と考えます。
 このように多大なリスクが存在します。日本では原子力発電は国際政治によって導入され、現在では国内政治を含め政治的要因によってリスクが増大しているのが現状です。原子力発電を見直すならば、この政治的要因の関わりも見直さなければならないと考えます。平成25年度の再稼働問題に、その影が見受けられるのは気がかりです。新基準と申請と判断が下されておらず、事実確認が不十分と考え、このような曖昧な表現となります。ご了承ください。

 以上が、大飯原発再稼働の8つのリスクの解説、でした。

 先ほどは、「大飯原発再稼働の8つのリスクの解説」を述べました。
本文に入る前に少し補足しますと、福島原発事故によってリスクが減少した点もあります。それは、関連資料に 「福島第一原子力発電所事故から得られた知見」として、きちんとリスクが明確になった所です。当たり前、と思われるかもしれませんが、これまでの原発では「全交流電源喪失」などは考えなくてよい、という国会答弁もされていました。つまりは、日本国の最高機関で「重大な事故は考えていません」という態度だったのです。それゆえ私は原発を否定していたのです。けれども、今回の事故によって事故対策がこれまでとは打って変わって、進められる足場が出来ました。
 防潮堤を作るのが遅れる、なくても大丈夫である、などの不備は残っていますが、一歩前進していることは明らかです。原発事故を考える時、外部から観ている私には絶望しかなかったのが、少しだけ希望が見えてきています。平成25年度の原子力規制委員会の審査がどのようになるか、にしても、事故前までのものとは明らかに違う、という情報が出てきています。
 原子力発電は日本のエネルギーの安全保障と核装備などの軍事から必要な産業です。そのことを率直に見つめていくことが、さらなるリスク減少につながる、と考えています。

 しかしながら、原子力発電は現在でも「電力会社が赤字になるから」や「真夏の電力供給が足りなくなるから」という観点でしが論じられていません。この観点は福島原発事故前からある観点であり、原発にまとわりつくイデオロギー論争の残滓(ざんし:のこりかす)に過ぎません。詳しくは次の講義で述べるとして、真夏の発電について昨年度問い合わせをしましたので、それを元に述べていきます。以下は全て昨年度の内容です。


 真夏の電力供給とその問題に入ります。

 その前提として、「7月末~8月」の真夏だけである、という点です。福島原発事故以前、あるいは直後には、
 
 「原発がないと日本の電気は止まる」

 と最もらしく唱えられていました。これはデータに基づかない、あるいは偽造データに基づいた主張であったことが、はっきりとした、という前提があります。それでは、関西電力株式会社(講義録11冒頭で書いたように敬称は略させて頂きます)のデータを見ていきます。

配布プリント2枚目(表)
 :関西電力株式会社「今夏の需給見通しと節電のお願いについて」2ページ 「供給力確保の状況(8月)」 
 http://www.kepco.co.jp/pressre/2012/pdf/0519_1j_01.pdf

 と見ると、昨年夏の実績は2947万Kw→現時点での8月の供給力見通し2542万kwです。 ですから、夏の計画停電や大飯原発再稼動が必要である、そうです。ただし、平成24年6月27日の「第88回定時関西電力株主総会」では、原発の継続的な運用に踏み込んでいました。例えば、総会後の八木誠社長のインタビューです。

 では、現在の「供給力確保の取り組み」を関西電力のHPのデータで見てみましょう。以下引用です。

■自社設備

・自社設備は、火力・揚水・水力とも、定期検査や大規模は補修作業を延期して、全台稼動する計画としております。
…(中略)…
・火力については、長期計画停止機である海南2号機の再稼動や小型ガスタービンを姫路第一発電所に設置します。

 とあります。
海南2号機は、関西電力HPにあります。
http://www1.kepco.co.jp/energy/fpac/community/plant/03.html

運転開始年月    S45.9
定格出力(万kW) 45
燃料       原油と重油

 です。他方、同じ長期計画停止機として、
多奈川第2発電所も、関西電力にあります。:2枚目(表))
http://www1.kepco.co.jp/energy/fpac/community/plant/07.html

運転開始年月    S52.7 S52.8
定格出力(万kW)    60   60
燃料        原油と重油

 です。 ポイントは、多奈川第2発電所は、海南2号機よりも「新しく」、同じ「原油と重油」を使い、「発電量が倍以上ある」ということです。

 もし、多奈川第2発電所を動かすことが出来れば、発電量は120万Kwです。ですから、十分、大型原発1機分の発電量になるのです。どうして、再稼動しないのでしょうか? そこで、関西電力にメールで問い合わせ致しました。


関西電力HP-「節電・電気料金・ご契約・停電」に関する問い合わせコーナーで以下の問い合わせをしました。平成24年6月21日15:09

問合せ・ご意見の内容

長期計画停止中の多奈川第二発電所についてお問い合わせさせて頂きます。
http://www1.kepco.co.jp/energy/fpac/community/plant/07.html

御社の「今夏の需給見通しと節電のお願いについて」2P で「供給力確保の取り組み」「自社設備」の1行目、「全台稼働する計画としております」とあります。

多奈川第二発電所が停止中である理由をお教え下さい。

できましたら、火力発電所よりも複雑な大飯原発3,4号機が3ヶ月掛からずに稼働する理由と比較してお教え下さい。

御回答は、大学の講義等でお話しさせて頂きます。悪しからずご了承くださいませ。

内容種別 お問合せ・ご相談
氏名 高木 健治郎
フリガナ タカギ ケンジロウ
メールアドレス :(非掲載)


----関西電力様からの御回答----

2012/6/21(木) 17:14

高木さま

 弊社HPへのお問い合わせありがとうございます。
 頂戴しましたお問い合わせに関して、以下のとおりご回答させて頂きます。

 お問い合わせのありました多奈川第二発電所は、平成17年より、長期計画停止状態としております。停止運用となってから長期間経過していることから、再稼動には設備の健全性を確認した上で、設備対策が必要となるため、2~3年程度の期間が必要であると見込んでおります。
 一方、大飯原子力発電所3号機は昨年3月、4号機は昨年7月まで運転状態にあり、その後の定期検査にて機器の健全性を確認しておりますので、現在の再稼動工程にて再稼動が可能となっております。

 ご回答は以上でございます。お問い合わせありがとうございました。今後とも関西電力グループをご愛顧賜りますようお願い申し上げます。

関西電力株式会社
広報室



 以上が問い合わせのメールの内容です。

 高木が引っかかるのは、「全力で発電を行っております」と関西電力のHPでは説明しているのにも関わらず、

 「2~3年程度の期間が必要であると見込んでおります」

 という文章です。

☆「どうして、期限を区切って再稼動を計画しないのでしょうか?」

 2~3年というビジネス上ありえない行動計画、あるいは実施計画に基づいて供給力の確保が行われているのです。そのビジネス上ありえない「いい加減な計画=早くできたらいいし、遅いならしょうがない、という計画」が引っかかります。そのつけを払うのが、関西電力の管轄の企業であり日本国民なのです。

 さらに疑念を続けます。

 海南2号機は、多奈川第2発電所よりも古いのです。どうして海南2号機が稼動でき、多奈川第2発電所は稼動できないのでしょうか。

 これ以上は、技術的な問題になるのかもしれませんが、それならばそれで、日本国政府や関西電力が関わる企業や日本国民に、

 「多奈川第2発電所は何時までに稼動する予定ですから、それまで我慢してください」

 と説明すべきではないでしょうか。関西電力のHPのトップページには、「今後稼動予定の発電所」というコーナーがあるべきではないでしょうか。節電で「足りない」と言い「火力は金が掛かる」と言います。では、

 「足りるようにどうするか」や「金が掛からないようにどうするか」の説明がない

 というのは片手落ちではないでしょうか。以上のことは、講義録11-4で説明したように、数々の独占を電力会社が行ってきた結果の1つかもしれません。情報公開と説明責任を欠いてしまっているのです。高木は、これまでも述べてきた通り、原子力発電そのものに反対ではありません。技術保持を考えるとむしろ賛成です。しかし、こうした独占などによる組織的問題が、福島原発事故以降も残り続けるのならば、事故の再発防止策が十分に取れないと考え、原発に反対です。あるいは原発のあり方に反対です。これが真夏の電力供給における経営的問題です。経営学については素人ですが、以上のように考えました。

 そしてそれは、「原子力発電にしないと赤字になって経営的に困る」という独占していない企業なら考えられない台詞に現れています。例えば、松下電器(パナソニック)が、「アナログテレビにしないと韓国企業に押されて赤字になって経営的に困る」といったら、どうなるでしょうか? 松下電器は韓国企業より安価で素晴らしい液晶テレビを開発するか、有機ELテレビに大規模に投資して未来に掛けるか、でしょう。ですから、電力会社も、

☆「原材料費タダ、研究費が殆ど掛けられていないという意味で未来のある地熱発電に大規模に投資する」

☆「日本海側の日本全国の100年以上分とも言われる有望な天然ガス(メタンハイドレート)の採掘に投資する」

 などの経営判断を考えても良いのではないでしょうか。一般企業ならば、次々に革新していかない経営はつぶれてしまいます。原子力発電は技術革新が最も分野の1つだと高木は考えますが、その経営はずっと変わらないままで、自己改革も出来ないでいるのではないでしょうか。次々と新しく、安い(発電)方式を探って企業を守っていくのが、経営ではないでしょうか。この視点からすると、関西電力の経営的問題がある、と考えます。

全ての解説が終わった後に、問題を出しました。

 問3 大飯原発再稼動で最も大切だと考える点を述べなさい。

ポイントは、「再稼動に賛成ですか?」や「再稼動に反対ですか?」ではない点です。宿題で色々と調べてきて、それとは違う高木の考えを聞いて、再稼動問題が2つの方向から見えれたと思います。その上で、どの点に注目するか、です。これは学生の皆さん1人1人の「自分の心の声が最もどこが大きかったですか?」というのを確認しておく、という意味で大切です。また、原発問題は情報が錯綜(さくそう)し、しかも、扱う情報の範囲がとても広いのです。それゆえ、自分が観る基準点をきちっと認識して欲しいという意味も込めました。

 -大飯原発再稼働のまとめ

 大飯原発再稼働について、事故対策を見てきました。如何だったでしょうか。
 冒頭に書いたように、原発問題では事故対策について論じられることが殆どありません。エネルギー問題、放射線被害問題にすり替えられているのです。学生の皆さんの声でも「すっきりした」がありました。ここに学問の意義、技術者倫理の意義があると思います。 


 -日本の希望

 最後に、日本海側のメタンハイドレートについて述べます。 というのもエネルギー問題に日本の希望があるからです。世界では耕地面積が頭打ちになっています。しかし、エネルギーの投下で食糧は増産できます。工場で野菜が製造できるようになっているからです。工場を稼働するエネルギーがあれば平和と安定に寄与できます。そのエネルギーが日本に眠っています。

 関西電力や原子力安全・保安院の資料などを一次資料として使いました。そこから見えてきたのは、高木独自の考え方ですが、新聞やTVなどで「事実から沢山の情報を捨てた上での解釈」ではないことが示せたのではないかと思います。このように現場に近づくことが大切です。そして最後に使用したのは、

『希望の現場 メタンハイドレート』 青山千春著 青山繁晴アシスト ワニ・プラス 1300円+税 

 です。原子力発電よりも安く、しかもエネルギーの安全保障上はさらに重要なメタンハイドレートの現場の声が書いてあります。現場の声から①事実に客観性を求めること、②公平性を求めること、を持って考えていって欲しいのです。

 では、高木の意見を書いていきます。
 メタンハイドレートは私が大学生の時、20年近く前から耳に入っていました。国連は1969年、実に40年以上前に石油と共に指摘していたのです。けれども、それが採掘されてきませんでした。中華人民共和国が1971年に尖閣諸島の領有を主張し始めます。それは石油と天然ガス(メタンハイドレート)を獲得するためです。自民党の敗戦によるアメリカ服従方針によって実質棚上げされてきました。同時に、敗戦によるアメリカ服従で海外からエネルギーを買うことで利益をえる企業を含めた集団が出来上がります。『希望の現場 メタンハイドレート』には、採掘を邪魔する日本人が出てきます。

 さらに、以下に述べる昨年度の講義録で、日付を観てほしいのです。松本先生の発表は2006年、実に7年前の発表です。しかし、電力会社は、これに積極的に加担しません。なぜなら、原発を続けている限り絶対に赤字にならないからなのです。公共性を忘れ、自社の利益だけしか考えていない、と批判されてもしかたのない行為ではないでしょうか。電力の独占という既得権益を認められ、さらに先ほど述べたように公正取引委員会からも特別の注意によって既得権にしがみつきすぎ、と指摘されてきているのです。メタンハイドレートの開発に資金を着手していれば、福島原発事故によって大きな被害が出た場合に、スムーズに赤字にならなかったのではないでしょうか。これは電力会社の経営判断ミスですし、同時に、独占的な利権の義務として生じる高い公共性に反した行為だと考えます。現在の電力会社に対する社会の厳しい風潮の根本的要因の1つが、この経営判断ミスにあると考えます。言い方を変えれば、「原発は絶対事故を起こさない」と言い続けて、経営者がリスク分散を取らなかった、という経営判断ミスです。他の例として地熱発電への開発資金の投資をしない、なども挙げられます。地熱発電もメタンハイドレートもベース発電になりうるからです。『希望の現場 メタンハイドレート』を読んで、私はこのように考えました。素晴らしい本です。お薦めします。

 さて、それでは昨年度の講義録です。

日本海側のメタンハイドレート(天然ガス)についてです。

プリント2枚目(裏)
 :「新潟県上越市沖の海底に露出した熱分解起源メタンハイドレートを確認、採取に成功」2006/2/28 (画像は転載していません) 発表者 松本 良(地球惑星科学専攻 教授)
 http://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2006/03.html

 を事実としました。要点だけを以下に意訳して書きます。

・新潟県上越沖で天然ガス(メタンハイドレート:メタンガスと水分子の結合した物質)を採取した

・メタンガスが海中から出てきて、地球温暖化に影響を与えている。
 :メタンの温室効果は二酸化炭素よりも数十倍大きい(関係ないとの説もあり)

・メタンハイドレートは研究段階であるが、石油に代わるエネルギーと世界中で認識されている

・太平洋側(南海トラフ)では海底の下に埋まっているが、日本海側は海底に出てきている

・熱分解起源のメタンは、有機物(動物や植物など)起源のメタンよりも多いと予想される

 このように有望である石油に代わるエネルギー源が日本にあることが発見されている。現在、日本は大量の石油や天然ガスを輸入しているので、値段を吊り上げられて結果的に高く買わされている。これは日本国の貿易全体にも影響を与えていると新聞などで報じられる程の問題である。
 であるから、日本国の領土内に存在する莫大なエネルギーを採掘する必要がある。日本国政府は、海底の下に埋まっている太平洋側と共に、海底の上に浮かんでいる日本海側にも着手する必要がある、と高木は考える。
 同時に、九電力会社は合同で新規で安価、しかも国内にあるというリスクの少ない新エネルギー源へと研究費を投資すべき、と考える。

 余談になるが、20年前、東京のある理系の大学にいた高木の耳にも、メタンハイドレートは入ってきた。どうして日本独自の、しかも安価でリスクの低い新エネルギー源を採掘しないのか、不思議であった。この講義を通して調べることが出来、長年の疑問に答えが見つかって嬉しい。
 次の講義録12に、その答えを書きたい。

 大分長くなりました。ご拝読に感謝いたします。有り難う御座います。



 以下、松本先生の発表の全文引用となります(コピペそのままです)。

2006/2/28
新潟県上越市沖の海底に露出した熱分解起源メタンハイドレートを確認、採取に成功
発表者
松本 良(地球惑星科学専攻 教授)

海底に露出するメタンハイドレート(JAMSTEC ROV/ドルフィンで撮影)

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概要
海底下数kmの深部ガスに由来する「熱分解起源のメタン(注1)」からなる「メタンハイドレート(注2)」が水深約900 mの海底に広く分布することを無人潜水艇で確認し、試料の回収に成功。同時に、海底から湧出するメタンガスの気泡が海洋中層(~500 m付近)を浮上する様子を映像で捉えることに成功。

東京大学はプロジェクトリーダーとして計画を統括し、調査海域を特定、西太平洋域で最初の海底に露出するメタンハイドレートを発見した。ハイドレートや堆積物の化学分析・同位体分析を行い、過去に現在より遥かに大きなメタンの噴出があった事を示した。


図1:新潟県上越市沖のメタン湧出域

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図2:エコーサウンダー(魚群探知機)が捉えたメタンプルーム(気泡の柱)

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図3:熱分解起源のメタンハイドレート(上越市沖海鷹海脚で回収)δ13C=-40‰

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メタンハイドレート:水が作る籠構造の中にメタン分子を取り込む

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ハイパードルフィン

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解説
背景と経緯
メタンハイドレートとはメタンガスと水からなる固体物質で、海底下数100mの堆積物中に広く分布していることが分かっている。メタンハイドレートはその中に大量のメタンを蓄えており、石油や天然ガスなどの在来型エネルギー資源に代わる新しいエネルギー資源として注目されており、我が国をはじめ多くの国で探査計画が進んでいるが、メタンハイドレート鉱床が発達するための地質条件については殆ど分かっていない。一方、メタンハイドレートは温度や圧力の変化で容易に分解し大量のメタンを周囲に放出するため、長期的かつ劇的な地球環境の変動要因としての可能性も指摘されているが、そのメカニズムや影響を及ぼす範囲は分かっていない。

調査・研究の目的と概要
日本海東縁、上越市沖の海底900~1,000mの小さな高まり“海鷹海脚(仮称)”上には比高数10mの丘やポックマーク(注3)と呼ばれる巨大な窪地が発達し、海底からのガスの噴出を予想させる。私たち東京大学の研究グループは、2004年と2005年の夏、東京海洋大学、独立総合研究所、産業技術総合研究所、海洋研究開発機構、東京家政学院大学などと共同で、研究調査船による調査を行い、ピストンコア(注4)やグラブによる海底堆積物の採取、CTD/ロゼッタ採水器(注5)による深層~表層海水の観測と採取、エコーサウンダー(計量魚探)(注6)による海水中の気泡のイメージング、さらに無人潜水艇ハイパードルフィン(注7)による海底の観察とサンプル採取を行なった。その結果、(1)海底から放出された大量のメタンによるガスの柱(メタンプルーム)の映像化に成功、(2)日本近海-東アジア周辺の海域で初めて、海底に露出するメタンハイドレートを発見、回収に成功し、これらが海底下数kmの深部に由来する熱分解起源ガスである事を炭素同位体比から明らかにし、(3)ハイカブリニナ類(巻貝類)やハナシガイ類(二枚貝類)など、化学合成生物群集(注8)に特異的に出現する貝類の生息を確認した。さらに、(4)付近の海水のメタン濃度が通常の数10~数1000倍と高いこと、(5)水温の低い海底では、海底に湧出するメタンが表層水塊にまで有効に運ばれていること、(6)微化石の分析から、約2万年~2万5千年前に現在よりはるかに規模の大きなメタン湧出があったことを明らかにした。

研究の意義
南海トラフなど、海洋のメタンハイドレートの多くは海底下数100mに分布しており、上越市沖のように海底にまで露出する例は極めて珍しい。海洋のメタンハイドレートは微生物分解起源の浅所メタンからなる例が一般的であり、今回確認したように熱分解起源メタンハイドレートは少ない。熱分解起源ガスは地球深部に大量に腑存していると予想され、熱分解メタンハイドレートの発見によりメタンハイドレートの資源ポテンシャルが高まったといえる。一方、海底から湧出したメタンが表層水塊付近にまで達しているという事は、海底メタン湧水が地球温暖化に影響を与えている事を意味する。海底地形や堆積物中に残された同位体記録から、最終氷期の頃に、現在よりはるかに規模の大きなメタン湧出があったことも明らかになった。メタンとメタンハイドレートが氷期−間氷期の日本海の海洋環境と気候変動に大きな影響を与えていた可能性を指摘できる。

今後の課題と計画
研究のきっかけとなった巨大ポックマークの成因と生成時期はいまだ解明されていないが、過去数万年以内に海底崩壊を引き起こすような大規模なメタンの噴出があった可能性がある。今後は、調査海域に賦存する全メタンハイドレート量の見積もりおよび過去におけるメタンハイドレートの生成分解の規模とタイミングを明らかにすることが課題である。本年7月には3回目のピストンコアリング、9月には2回目のROVハイパードルフィンによる調査を行う予定である。

共同研究体
東京大学、海洋研究開発機構、東京海洋大学、独立総合研究所、産業技術総合研究所、東京海洋大学

用語解説
熱分解起源メタン/微生物分解起源ガス:有機物は地層中で分解してガスを生産する。海底から~数100 mより浅い地層中では微生物による分解が、深部の高温環境では非生物的に分解する。量的には熱分解ガスの方が多いと予想される。↑メタンハイドレート:水分子とメタンガス分子からなる固体の物質。温度が低く圧力の高い場所で安定に存在するため深海堆積物中や永久凍土域に分布する。新しいエネルギー源として期待される一方、地球環境の劇的な変動要因としても注目される。(参考リンク:メタンハイドレートと地球環境)↑ポックマーク:海底のすり鉢型の窪地。海底からのメタンの噴き出しによって形成されるとの説が有力である。上越市沖のものでは直径500 mにも及ぶ。↑ピストンコアラ:ステンレス製のチューブ。海底に打ち込んで底泥を採取する。↑CTD/ロゼッタ採水器:船上のウインチなどでつり下げて海底付近から海面までの塩分、温度、水深などを測定する装置。海水を採取するための蓋付き塩化ビニル製のチューブ。↑エコーサウンダー(魚群探知機):海水中に一定の周波数の音を発射し跳ね返ってくる音から、魚群の有無を調べる探査装置。海水中の気泡群の探査にも利用される。↑ハイパードルフィン:海洋研究開発機構の無人潜水調査船。ハイビジョンカメラ、マニピュレーター、様々な観測機器を搭載し、海底の観察と試料の採取を行う。↑化学合成生物群集:光合成に頼らず、メタンや硫化水素などから栄養分(有機物)を合成する化学合成細菌を共生・利用することによって深海底熱水・冷水湧出部に群落を形成する生物群集。二枚貝類やハオリムシ類のように鰓に化学合成細菌を共生させてエネルギーを得るものや、ユノハナガニのように細菌(バクテリアマット)を捕食しているものなどがいる。↑
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