講義録1-1 「はじめに 講義の全体像と目的 倫理と人の本性 功利的解答と存在論的解答 

 皆様、こんにちは。

 平成26年度の「科学技術者の倫理」の講義録を記していきます。
 受講する学生の皆さんを念頭にしながら書いていきますが、幅広く多くの方々にもお読み頂きたいです。文体が「ですます調」ではなく少々乱暴な言い方に、時に強い感情が入りますが、ご容赦頂ければ幸いです。また、文章を校正することはなく、誤字脱字、読みにくい箇所、意味不明の文章が沢山あると思います。この点もご容赦の程をお願致します。

 本年度、特に「日本を根本的に支えている技術のあり様は現在のままで良いのか?」を一緒に考えたいと思います。一つには福島原発事故があります。この事故は大きな社会的影響を与えました。「安全神話」の崩壊、放射線被害の一般認知、エネルギー問題の顕在化などです。他方、日本の原発が技術的に安全である、という認識が世界に広がったのも事実です。福島原発事故以後、トルコやインドなど世界各国が日本の原発を欲しがっています。これには安倍総理の手腕も関わっていますが。
 そして技術者倫理の視点からすると、原発の停止の仕方や再稼働の仕方が、不透明であり明瞭な基準で動いていないのです。国民的な議論も「原発を自然科学的根拠に基づいて議論する」ではなく「放射線障害がただただ怖い」だけで終わっています。
 この辺りを提示しながら、自動車や飛行機、加工食品などと比較しながら一緒に考えていきたいと思います。宜しくお願い致します。

 それでは本文に入ります。

  講義録は、最初に紹介した資料、宿題など、次に講義録と学生コメント集を載せていきます。
本年度は箇条書にし簡素にします。学生コメント集は昨年同様、質問を受けたものは必ず返信することとします。
講義内容は、ほぼ完成しているので、昨年の講義録を基にして行います。

講義連絡

配布プリント・回覧本
:なし

紹介本
:なし

宿題
:なし

 --講義内容--

 「みなさん、こんにちは」(一礼) 「科学技術者の倫理を担当します高木健治郎です。半期間一緒に頑張っていきましょう」と開始。講義の全体像、成績の付け方を提示する。

科学技術者の倫理の目的:事故防止、公衆の福利に貢献

成績の付け方:毎回の講義で出す問を書くプリント15回で40点、3回の宿題レポート30点、学期末テスト30点

 注意点:講義で記入するに当たって:何を記入しても0点としない。

 先生と反対の意見、批判を書いても0点にしません。ただし、空欄は0点です。昨年は、ずーっと批判を書いている学生がいました。「別の内容をしてほしい」、「つまらない」、「やる価値がない」と、でも書いてあるから最終的に「優」となりました。この授業で大切にしたいのは、まず自分で考えてみる、ということです。次にみんなの意見を聞いてみることです。今回の福島原発事故の大きな原因の1つは、「東大出身などの頭の良い人に任せておけば大丈夫」と自分で考えてみることを、多くの国民が止めてしまったことにあると思います。エネルギーは大切な問題なのに、学校でも教えず、とにかく任せればいい。選挙でも争点にならず、でも、日本は中国や北朝鮮とは違い民主主義の国ですから最終責任者は私たち1人1人です。選挙権を持つようになった皆さんはその責任者です。

 それでは早速問に行きましょう。

問1 現代の日本の一番の問題は何ですか?

問2 従軍慰安婦を日本は謝罪すべきですか?

問3 福島原発事故の最大の原因は誰にありますか?

問4 原発再稼働は賛成? 反対?

問5 問4の理由は?

 出題の意図を先に説明しました。

問1は、どれくらいの情報に普段接しているか、を知りたいということです。これから15回講義していく時にどの程度の内容や補足、また説明内容にすればよいのか、ということです。ブッダも孔子もイエスも相手を見て説明を替える対機説法を取っています。私もそうするつもりです。板書では少子化、拉致問題などが出ました。

問2は、現代の情報の問題点を知っているか、を聴きたかったのです。朝日新聞の正式な(不十分な)謝罪がありました。その事実関係をきちっと知っているかどうか。新聞やテレビの偏向報道を事実とすると学問として誤りうることが賛成反対両方から示されました。今度、これは増えていくでしょうし、原発問題でも、朝日新聞を始めマスコミは片寄っていました。謝罪すべきでないの方が6割、すべきとその他が4割と見ました。

問3は、情報の問題点を含めて、分析が出来ているか、あるいは信頼に足る分析を求めているか、を聴きたかったです。巨大製造物は社会的影響力と関係が大きく、数多くの分析が出てきます。その中で、核心を掴んでいるかどうかです。東京電力、日本政府が殆どでした。

問4は、分析の基づく社会判断を聴きたかったです。流布されているのは賛成「エネルギーが安い、足りなくなる」、反対「危険が0ではない」です。このような技術倫理の視点が欠けた議論が横行しているのが福島原発事故の最大の問題だと私は考えています。危険が0でない、というのならば、自動車や飛行機は使用不可になります。原発だけが賛成反対に両派に分れ、技術倫理からかけ離れた議論が繰り返されています。最も大切な問題が見えなくなっています。議論が先走りしました。少しだけ賛成が多かったです。

問5は、判断をきちんと自分で考えているか、です。高度な問いでもあります。問4で述べたように、新聞テレビで流布されている賛成「エネルギーが安い、足りなくなる」、反対「危険が0ではない」が多かったです。きちっと学問上の基礎概念を身につけ、情報を知ってもらい、その上で皆さんがどう考えるか、楽しみになりました。

-高木の解答 

 あくまで解答例に過ぎません。これと反する答えでも減点等はありませんし、反する答えがきちっと事実に基づいていれば加点対象になります。

問1 皇室典範 
 日本の倫理の源泉は皇室であり、日本が日本である根幹に皇室があります。吉田松陰(先生)が繰り返し語り尽くしたのものこの一語に尽きます。その皇室を民衆が改正できる、という状態にあることが日本の根本問題だと考えます。ここには日本の唯一性や世界史の知識なども必要になりますから、説明は後半にしたいと思います。私は安倍首相を断固支持しますが、アベノミクスが失敗しても消費税が100%になろうとも日本の根幹は揺るがないと考えています。根幹を揺るがす皇室典範が最も大きな問題、だと思っています。
 次に、北朝鮮による拉致事件です。9百名以上の日本人が拉致されています。静岡県に関係する拉致被害者が先月静岡新聞に載りましたが、12名もいる。日本は中華人民共和国や朝鮮民主主義人民共和国など世界の半分程度の独裁国家ではありません。国民が政治の代表を決める民主国家です。その国民が拉致されて取り返しにいけない。国の根幹に関わる問題です。私は特殊部隊を投入して即時取り返してほしい、と願っています。もちろん、敗戦後の数々の問題で取り返しにいけないという先進国では唯一の恥ずかしい国家であることも認識しています。そこを何とかしたいと悶々(もんもん)としています。20歳の頃に知りましたから、もう20年も悶々としています。学生の皆さんに

「このバッジを知っていますか?」

とスーツの上着についているブルーリボンバッジを見てもらいました。残念ながら挙手は見当たりませんでしたが、そこは日本人。恥ずかしがってあげていない人が居るだろうと思っています。そして「拉致被害者を取り返したい」というバッジがあること知ってもらえたと思っています。私はもう、何年になりますか、常にスーツの上着にはブルーリボンがついています。今回は講義の初回でしたので、ブルーリボンのネクタイもつけていきました。気になった人は下の「渡文」様のHPでどうぞ。1万5千円と高いですが、私もエイヤッ!という気持ちで買いましたが、本当に物が良いです。シルバーを2本買い、1本は敬愛する人に進呈しました。

http://www.watabun.co.jp/blueribbon/index.html

問2 いいえ。謝罪すべきでないです。
 「従軍慰安婦」は戦争が終わった後、日本のある小説家が事実に基づかない想像で作った造語です。これを朝日新聞を始め日本の新聞が30年以上広め、事実ではないことが学問上示されています。ある小説家も「嘘」と認めています。それでも、大韓民国や国連は、朝日新聞等の嘘に基づき「謝罪」や「日本に対する非難」を行っています。アメリカでは日本人留学生に対する「いじめ」も多発しています。日本政府は安倍総理になって対応を始めました。
 以上が歴史的経緯ですが、客観的事実から説明しましょう。学問は事実から出発しなければなりません。「日本は割ることをしたんだろうなぁ」というイメージから出発しては学問ではありません。もちろん、イメージから出発する都市伝説やオカルト、陰謀論などは居酒屋で与太話として喋るには最適です。
 「アメラジアン」という言葉を知っていますか? 残念ながら挙手はありませんでした。「アメリカン」+「アジアン」=白人男性+レイプされたアジア女性=ハーフの子供、を指す言葉です。「大地」などが有名なパール・バックが1960年頃に創り出した言葉だと言われています。日本では沖縄県が特に多いですが、敗戦後直ぐにアメリカ軍がやってくると数千の強姦(レイプ)が起こりました。日本政府な何とか対応しましたが、対応が出来なかったフィリピン、ベトナム、ラオス、朝鮮(半島)では相当悲惨な結果になりました。日本でも悲惨で泣き続けた女性は多くあります。フィリピンでは少なくとも20万人がいるとも言われ、世界中で30万人から200万人がいるとも言われます。アメラジアンは差別の対象になることもあります。韓国軍がベトナムで同じ行為を拡大してやり「ライダイハン」という韓国人男性とベトナム女性の子供を3000人から5万人がいると言われていますが、それを数十倍に行ったのがアメリカ軍です。

 では、皇軍(大日本帝国軍)が同じ行為を行ったとされた「従軍慰安婦」の子供はいるでしょうか?

 全くありません。
 そのような証言が出てきてもいません。アメラジアンは沖縄県に「アメラジアン・スクール・イン・オキナワ」という学校が出来るほど存在しますし、世界的にも各種団体になり、支援団体もあります。何故でしょうか。このような事実に照らし合わせて分析してみることは、学問の初歩として大切だと伝えました。

問3 アメリカ
 福島原発事故で最悪の被害を防いだベント弁はスリーマイル島事故後、東京電力などが事故防止のために付けました。同じ型の原発で日本が設計した原子炉は今回重大な事故を全く起こしていません。ですから、福島原発事故の後の専門家、あるいは世界の評価は「アメリカの原子炉は事故を起し危険、日本の原子炉は事故無く安全」としてトルコなどから原発建設を求められました。以上が事実です。これをきちんと伝えなかった、ここでも朝日新聞を始めマスコミは、「日本製の原子炉が事故を地震で起こした」と報道していました。青山繁晴氏のビデオによって地震ではなく津波と原因推定が変わり、純日本製でないこともこそっと訂正されていきました。放射線治療が必要になった人は作業員を除くと1人もいません。

 しかしながら、現在でも「地震と原子炉」や「放射線が出るから危険」や「東京電力は全くダメ」というイメージが流布されています。

 残念なことです。以上のことからアメリカ(国策とGE社)だと考えます。詳細は後に述べます。

問4 反対

問5 福島原発事故の知見が生かされていない。
 賛成も反対もあります。反対なのは事故対策が不十分であること。大学で浜岡原発事故後の避難訓練が1回も行われていません。少なくとも50キロ圏内の避難訓練は行わなければなりません。その他の国際的な基準に合わせて対策を実施すべきです。他方、日本製の原子炉の安全は福島原発事故で実証されたのですから、技術的知見に基づいて広報し、再稼働すべきとも考えます。スリーマイル島の原発事故を福島原発に生かしベント弁を入れました。柏崎刈羽原発事故の知見を生かし、免震重要棟を設置しました。これが事故後になくてはならない活躍をしました。福島原発事故の知見を避難対策を含め生かしてほしいです。

免震重要棟とは :http://www.tepco.co.jp/nu/kk-np/chuetsu/menshin-j.html

 以上が本年度の新しい内容です。以下は昨年度までの講義録の引用が中心です。

 原発の問題は、①技術、②エネルギー政策、③軍事利用がごちゃごちゃになっています。安全を考えるのは①技術の問題で、②や③では考えられません。自動車の安全は、トラック輸送が日本の運輸の中心だから、という視点からは考えられません。エアバックをつけるとか、シートベルトをつけるという技術からだけ考えられます。でも、日本の原発は②と③からだけ論じられてきました。今も、原発を止めると電気が無くなる、という②からだけ論じられていますが、これは原発事故前と変わりません。でも、原発事故前に、証券取引委員会に出された東京電力自身の資料では、揚水発電を使えば、本当は使わなくても、真夏のピーク時であったとしても原発が全くなくても足りる、ということになっています。皆さんは、「原発を稼働させないと電気が止まる」という公式の資料を見たことがありますか? 今年の夏の電力の時もきちっとした資料は出ていませんでした。
 問題は原発の問題が①技術から考えられいないことに問題があるのです。福島原発と同じ50年前の原発は浜岡原子力発電所に1号機、2号機としてあります。この原発はアメリカが世界史に残る戦争犯罪である核兵器を落としたことへの反発を和らげて、日本が独立したらソ連中国の仲間にならないようにと「原子力の平和利用」と言いだしました。原子力は軍事と平和と一体で日本だけが平和利用などと言っています。福島原発事故の時も今も、アメリカは原子炉の中核部分を教えてくれていないそうです。なぜなら軍事部分があるからです。日本が原発を始めたのは、ソ連、中国が核兵器を持っているので日本も核武装するためです。そのためにコストの合わない原子力発電をしています。コストが安い訳がない。コストが安いなら原発を受け入れてもらうためのお金を国が出すわけがありません。東京電力が出せばいいでしょう。出せないくらい高いから国が色々と都合をつけて出すわけです。そのために、数千億円の税金が使われていますから、電気料金以外に原発のために数千円、1人当たり出していることになります。4人家族なら2,3万円ですね。さらに、原発は最終的な処分にいくらかかるか分かりません。分かりませんからコストが分かりません。だから、発電時だけを見るわけです。それで安い、と言いますが処分に100年かかったとして幾ら掛かるでしょう? 今回の福島原発事故のお金も入っていません。発電時、ですから。
 でも、原発は将来核武装するためにやるから高くても良いんだ、と推進してきました。吉岡斉『原発と日本の未来』では、原発は民間に全てまかせるべきだ、その上で民間にまかせればいい、と言っています。昨年と違うのは、民間に任せるには難しい面があることです。それが③です。
 このように原発は、①~③がごちゃごちゃになっています。そこで問題なのは、安全を考える時に、②、③が入り込むことです。4月5日に投稿した論文には、「巨大な製造物になればなるほど社会的なこうした要素が入り込む」と結論づけました。鉛筆では社会的な要素が入り込まないんですね。だから、安全を考える時、特に①に絞らないといけないと考えています。

 さて、細かく行きましょう。問1、ですが、政府の対応は無茶苦茶です。支離滅裂で酷いものです。福島原発で水蒸気爆発が起こったのも菅総理(当時)が向かったからだ、という人もいます。その他、本当に酷いものでした。しかし、その総理大臣を選んだ責任も私たちにあります。これまで、選挙で原発が争点になることはありませんでした。反原発、というと左翼か!と政治と思われてきました。今、福島の後、原発推進というと「福島の人のことを忘れたのか!」という空気です。私は日本人はまだまだ変わってないと思っています。それは技術で事故をみていないことです。これが最も感じていることです。

 再稼働は安全です。安全ではありません。両方正解です。
というのは、「安全=事故がない」というのは日常的な意味ですが、工学の世界の安全とは、「安全=リスクが許容可能」ということです。つまり、「安全=事故の可能性がある」ということです。どんなに「安全」と言ったって必ず事故が起こります。その事故が起こった時、事故を許容できるかどうか、です。社会として許容できるかどうか、です。自動車は年間1万人必ず死者を生みます。それでも許容可能、だから皆使っています。原発は、どうでしょう? 
 ただし、もう1つ問題があります。それは現在のストレステストは全くドイツの真似をしただけで今回の福島原発事故と関係ありません。しかも、今回の福島原発事故の原因がはっきり分かっていません。この自動車壊れちゃったけど原因分からないな。同じ車種の自動車だけど、戦車の検査をしたから安全だよ、といっているようなもので無茶苦茶です。しかも、再稼働させたいから2日くらいで急いで後から基準を作りました。さらに、安全をチェックする機関(原子力安全委員会)が「安全に責任持てません」と言っています。これで安全でしょうか?
 ただ、よくよく考えてみて下さい。福島原発は50年前の技術です。50年前の自動車が事故を起こして壊れてしまった。だから、昨年最も売れたトヨタのプリウスも全部止めましょう、というのは問題ではないでしょうか? 50年前、パソコン、洗濯機、TVなどなどは殆どありませんでした。自動車にはシートベルトやエアバックなどが導入され安全性が高まってきました。現在の再稼働の問題は、こうした安全対策の向上を説明しないことです。大飯原発と浜岡原発のどちらがどのくらい安全なのでしょうか? これまでどのくらい放射線をもらしてきたのでしょうか? 軽微の事故があったのでしょうか? そういう安全性を推測させるデータを提出しないで「安全だ!安全だ!」というだけで安全でしょうか? あるいは、50年前の車種の事故が起こしたから全て止めるべきでしょうか?
 新聞は申し訳ないですが、分かりやすく全体像を説明しないので、あるいはそこに絞った記事が少なすぎるのでみんな分からないのだと思います。

続いて、科学技術者の倫理の言葉を1つ1つ捉えてもらいます。

問4 科学(自然科学 natural science)とは何か?

問5 技術とは何か?

問6 倫理とは何か?

高木解答 答え方を3つ変えて並べてあります。

問4  「存在論的原理を数学的体系で写像した法則群」   解答は1つしかないもの      人が創れないもの
問5  人工の功利主義的手法                  ある範囲で複数解答があるもの  人が創るもの
問6  社会上の複合定理                     複数回答があるもの         人の定めるもの
 
 時間がなくそれぞれ1人だけとなったが、当を得ている回答が多かった。
私の専攻は科学哲学で、問4の「科学とは何か?」という学問である。どうして国語を一生懸命やっても携帯電話が出来ないのか、どうして自然科学と技術だけなのか?である。この科学哲学からすると、一部違う人々もいるが、科学とは、
 「存在論的原理を数学的体系で写像した法則群」 
となる。噛み砕いていうと、「存在論的原理」とは「物が落ちる」である。「物が落ちる」のを「F=ma」という「数学的体系」で置き換えた(写像した)法則ということである。もっと簡単に言うと、「物が落ちるのをF=ma」と書く、だけである。写像とは、物が落ちるのを他の置き換えも出来る。F=maは太陽系内では通じるが宇宙全体だと不都合も出てくる。そうすると写像の形が変わってくる。さらに言えば、存在論的原理そのものを完璧に書けない、から写像と言っている。どうしても近似的な形になってしまうのである。
 技術とは「人類の幸福に寄与する学問である」と近代学問の父と言われるフランシス・ベーコンは言っている。現代では自然科学と技術の相関が深まっているが、本来は人間の幸福に寄与する学問である。自動車の例ばかりになるが、トヨタのプリウスと日産のスカイライン、どっちが素晴らしいだろうか? どっちも素晴らしいのだ。安全性や人や荷物を運ぶなどの目的をきちんと果たすという「ある範囲の中で正解多数」と言い換えてもよい。これに対して自然科学はF=ma以外の答えもあったが、実験等によって1つに絞られた。つまり、自然科学とは「正解が1つ」という答え方も出来る。

 存在論、という聞きなれない言葉をもう少し訳してみよう。
「なぜ、自然科学はあるのでしょうか?」、言いかえれば「なぜ、F=maはあるのでしょうか?」という問いにどう答えられるだろうか? 他の例だと、地球上の重力定数は9.8m/s・s(メートルパーセカンドの二乗)である。どうして5.0m/s・sではないのだろうか? 月の重力は6分の1だというのに。この問いを存在論的問い、という。
 答えは、「分からない」である。何故なら、そこに自然科学は踏み込む手段がないからである。

「なぜ、技術はあるのでしょうか?」にはどのように答えられるだろうか?
「人間が作ったから」である。トヨタのプリウスも携帯電話も人間のために人間が作ったのである。存在論的問いに答えられるのが技術、答えられないのが自然科学と言い換えても良い。

 では、最後に「倫理とは何か?」である。倫理の「倫」という字は「みんな」の意味で、理は「ルール、基準」の意味、「みんなのルール」が意味になる。物理は「物の理」で「物のルール」=「物質の法則」の意味である。
 この倫理は、「正解多数」が1つの答えとなる。近代の学問では人間は理性をもっているのだから、例えば「人を殺してはいけない」はその理性の基づいてどの社会にも当てはまる、と考えてきた。しかし、ある原始的な生活をする民族に調査にいった人が大変仲良くなり、数年の後調査を終えて帰る晩に村人に殺されてしまった。それは「こんなにも皆と仲良くなった人と別れるのは辛い。だから食べて肉体の中で永遠に皆と一緒に住もう」と考えたのだ。ここには悪意はなく、むしろある規準にそうという意味での合理性がある。さらに、アステカでは優秀な人間だけを選んで心臓をえぐり太陽にささげる儀式を行っていた。優秀であるがゆえに犠牲の価値があるのである。
 さらに言えば、生命の危険がある場合に他人の命を取ることを許されることもあります。緊急避難と言われ刑法37条に規定されています。よく言われるのは、海の上で木につかまっている場合、他の人がつかまると木が沈んでしまう場合、他の人を遠ざけてもOKという例です。
 少し倫理に寄せて述べると、何が危険(法律では「危難」)なのかは、どの場合がそうなのかは、社会の一般常識で判断されますから、社会によって大きく異なります。ヨーロッパやアメリカや日本のように近い基準を持つ国もありますが、そうでない社会の方が多いことも知っておくと、倫理の奥深さが感じられるのではないでしょうか。同時に、文字にされた法律であってもこのようにルールが変化するのですから、倫理はさらに幅が広がります。
 
 倫理の存在論的問いは、「なぜ、倫理があるのでしょうか?」です。

問7としましたが、A)~C)の挙手で答えてもらいました。

A)人は善でそれをルール化したものが倫理。
(悪に見えるのは悪ではなく、1人1人が違うように善の理解が違ってそのズレからくる)

B)人は善だけど、年を取ると悪になるからそれを防ぐためのものが倫理。

C)人は元々悪。だからその調整のためのものが倫理。

 A)は孔子で善を深めている君子が政治をすべきと考えました。また具体的な例として、井戸に落ちそうな子供を見ると、誰でも思わず手を差し伸べようとする、のを挙げます。
 
 B)は韓非子でだから王様に権力が集中しなければならないと考えました。その点を気に居られ秦の始皇帝の思想的先生(直接教えることはなくむしろ犠牲になりました)となります。思春期になると性欲が出て来て、同期の出世の妬みなどなど赤ちゃんの時にはなかったものが出て来ます。

 C)は荀子で、だから規範が必要だ、と考えます。欲望は限りなく悪である、という考え方はキリスト教の原罪思想に近いものがあります。あかちゃんは「お腹が減れば泣き、ねむくなれば泣く」のですから、産まれた時から欲望まみれです。

 本年度は250名近くの学生がいましたが、例年とは違い
 A)5%、B)15%、C)80%
 でした。A)が1人もいないクラスもありました。

 A)~C)の解説は補足を色々と加えなければならない点もありますが、以上のようにスキッと整理して見ると、「どうして自分は倫理を大切にしているのだろうか?」という根本問題に突き当たっていけるのではないでしょうか。日本社会はゴミが殆ど落ちていない、人に迷惑をかける人が少ない、あるいは清潔な社会です。危機の時に社会のルールを守る社会であることは、東北地方太平洋沖地震直後に現れました。どうしてそのように守るのでしょうか?
 私は、C)と答えた人が多かったですが、実はさらに深い部分に他の要素も潜んでいるように思われてなりません。何故ならC)ならば自分の命を危機にさらす、という最大の悪を肯定出来ないからです。この点に気がつけたことも福島原発事故の未来に向けた希望の一歩だと思っています。今回のアンケートの結果は、大変驚きましたが、むしろ、この講義の後にどのようになっているか、楽しみであります。同時に、頑張りたいと思っています。

 さて、科学、技術、倫理の言葉の定義が簡単に終わりました。
倫理は正解多数ですが、科学技術者の倫理、という狭い範囲になります。ですから、目的が決まってきます。それは、「初期の事故予防と再発防止」です。この学問は実はまだ10年くらいの新しい学問です。というのも、きっかけは1999年前後の、東海村JCO臨界事故、雪印の集団食中毒事件、新幹線落盤事故(「安全宣言」後にも落盤)という製造物の起因する事故があったからです。東日本大震災を見て下さい。災害復旧に、電気、ガス、水道、道路などが含まれます。現代日本ではこれら製造物が社会の根幹を支えているのです。その製造物が壊れた時、社会に致命的な影響力を与えるので、初期事故予防と再発防止が重要になってきたのです。
 実は、100年前に東北地方には大津波が来ていました。最も高く波が上がった個所は倍の100mとも言われ、死者はほぼ同数の2万人、人口が3分の1程度でしたから3倍でした。他方、電気、ガス、水道の復旧は求められませんでした。この100年で日常生活が変わっている、だから科学技術者の倫理が必要になってきました。今後一緒に皆さんと一緒に考えていきましょう。

 問8 感想と質問
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