講義録14-1 原発を導入する法律上の理由

(平成24年度の講義録14-1より)

 高い費用が原発を推進する特殊構造、です。以下がまとめになります。

☆原発のポイントは、「廃炉」なら利益が出ない 「建設中」や「運転中」や「検査停止」なら全て利益が出る

 それではまず、最初に静岡新聞 平成24年6月30日 第1面 「5つの提言 本社取材班」表(①~⑤の項目)のみ と③6号機計画について、の全文を読み上げて、問題を出しました。

 問1 原発より高効率で安価、環境も優しい発電方式があるが、採用しない理由がある。それは何か?

先に回答を書くと上のポイントを引用して「電力会社が儲かるから」です。

 ③には以下のように書いてあります。

「(浜岡原発6号機の)建設計画を撤回し、代わりに熱と蒸気で2重に発電できるガス・コンバインドサイクル方式など、環境に優しく高効率の最新鋭火力発電の建設を検討してほしい。ガス・コンバインドサイクル方式の火力発電は出力100万キロワット級(原発一基分)の建設費が原発の数分の1~10分の1程度。発電効率は原発の約30%に対して60%近い。CO2(本当は"2”は小文字)排出量も抑えられる。福島の原発事故後、原油や天然ガスの価格高騰を考慮しても、原発が最も低コストの電源とは言えなくなった。中電はすでにガス・コンバインドサイクル方式の火力発電を所有している。浜岡への建設も可能なはずだ。」(高木がタイプしました)

 つまり、原発よりも高効率で安価で環境にも優しい発電方式を採用せずに、中部電力は津波対策が終わり次第原発を稼動させ推進したい、と述べています。何故でしょうか?

 付記:東京電力は千葉県内の千葉「火力」発電所をガス・コンバインドサイクル方式に変更することを決めました。しかし、「原子力」発電所ではありません。

 ここには東京電力や中部電力と一般国民との認識のズレがあるのではないでしょうか?

 そのズレを巧みに利用してきた、として電力会社を非難することは出来ますが、しかし、それは公平ではありません。そして東京電力を始めとする電力会社を一方的に否定することは、真の意味での事故の再発防止につながらないという点からして、技術者倫理の視点ではありません(もちろん、政治的視点としては有効です)。それでは1つ1つ見ていきましょう。

 前回の講義録で書いた図式でもう1度出してまとめ直してみましょう。

×一般社会のビジネス :「原発は安い」→「だから、電力会社は原発をする」

○電力会社のビジネス :「原発は高い」→「だから、電力会社は原発をする」

 「原発が一般社会のビジネスである」と誤解するから「原発は安い」→「だから、電力会社は原発をする」と考えがちですが、実際は、「原発は高い」からするのです。それは法律によって守られている特殊な構造だからです。それを見ていく前に、最初の一歩からはじめましょう。まず一般社会のビジネスについて説明します。

 一般社会のビジネス :売値-費用=利益
          
 外食で具体的に考えて見ましょう。   

ラーメン :とんこつらーめん800円 - 費用550円(材料費300円+バイト代100円+家賃光熱費など)=利益250円
スパゲティ:ぺペロンチーニョ800円 - 費用350円(材料費100円+バイト代100円+家賃光熱費など)=利益450円

 ラーメンは競争が激しく、またインスタントも普及しているため材料費を下げることは出来ません。スパゲティは麺が大変安いため、グラム当りなら、そばやうどん、ラーメンよりも大変安いので、材料費が安くなります。これは店の造りに差が出てきます。スパゲティ屋さんは一般にテーブル席やゆっくり座れる向かいになるテーブル席が多く、ラーメン屋さんは背もたれの付いていない回転する丸椅子があります。これは費用の割合(原価率)が高いので、お客さんに直ぐ食べてもらい新しいお客さんになるべく沢山入ってもらう(回転率を上げる)ためです。同じラーメン屋さんでも駅ビルなど地価が高いと家賃も高くなるので、そうしたお店は回転する丸椅子があり、郊外のお店は、ゆっくり座れるテーブル席が多いのも、こうした利益によって決定されます。決定されていないお店は、「幾ら美味しい食べ物を出してもつぶれる」という風になってきました。また、ラーメン屋さんはラーメンの原価率が高いので、餃子(300円の内250円が利益)をお客さんに食べてもらうと儲けが大きくなります。ラーメンだけなら250円の利益ですが、餃子を食べてもらうと500円の儲けになります。餃子セットにして50円値引きしても、450円の儲けになります。ですから、多くのラーメン屋さんに餃子セットがあるのは利益率からすると当然なのです。留学生にオープンキャンパスで餃子を出すので1個いくらか聞いたら、普通に一般人が買う場合でも1個9円だそうです。お店で大量に仕入れるのならもっと安くなるでしょう。これはサイドメニューで儲けを出す方法で、「講義余談「マクドナルドについて」」で取り上げたマックを始めとするファーストフード業界(店舗数ではモスバーガーが一番です)は、このサイドメニューで儲けを出す代表的な業界です。例えばフライドポテトやドリンクの原価率は20%前後です。ハンバーガーは80%以上です。

 このように一般社会のビジネスは「売値-費用=利益」で、費用をいかに抑えるか、あるいは売値をいかに増やすか、で考えています。

 これに対して電力会社の原子力発電は、

 「費用×8%=利益」

 という全く別のビジネスです。この方法を「総括原価方式」と言います。また8%は4.4%など変動しています。

 つまり、原発は「費用が高い」→「利益が大きい」のです。電力会社は民間企業ですから、「利益が大きい」原発を推進したいのです。これは批判もあると思いますが、民間企業は「利益を目的として出来た集団」ですから、当然のことです。具体的な数字で原発とガス・コンバインドサイクル方式を比較してみましょう。

 原子力発電 100万キロワット 建設費3000億円 × 8% =240億円の利益 
 ガスの発電 100万キロワット 建設費600億円 × 8% = 48億円の利益 (仮定)

 つまり、ガス・コンバインドサイクル方式にすると200億円の(潜在的な)損をすることになるのです。ちなみに、浜岡原発の津波対策費は1000億円から1400億円に増えました。これによって8%とするならば、112億円の儲けが出ることになります。東京電力が、関西電力が、原発を止めても発電量が十分足りることが証明されている中部電力が原子力発電を推進する理由は、法律に基づく「総括原価方式」にあるのです。これは民間企業として当然の行為です。それでは「総括原価方式」を詳しく見ていきましょう。

法律の根拠は「電気事業法」です。

これを具体的に定めるのが「一般電気事業供給約款料金算定規則」という経済産業省の出している「令(れい:命令)」です。
:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11F03801000105.html#1000000000002000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000

「第二章 認可料金の算定  第一節 原価等の算定

(認可料金の原価等の算定)
第二条  法第十九条第一項 の規定により定めようとする、又は変更しようとする供給約款で設定する料金を算定しようとする一般電気事業者(以下「事業者」という。)は、四月一日又は十月一日を始期とする一年間を単位とした将来の合理的な期間(以下「原価算定期間」という。)を定め、当該期間において電気事業を運営するに当たって必要であると見込まれる原価に利潤を加えて得た額(以下「原価等」という。)を算定しなければならない。 」

 とあります。最後の一文を見てください。「必要であると見込まれる原価に利潤を加えて得た額」とあります。これが原発のビジネスを支えているのです。この後、詳細に続くので、配布プリント1枚目 (裏)『原子力発電の諸問題』20,21Pを見ていきましょう。学生の皆さんにはアンダーラインを引いてもらいながらです。

「総括原価とは適正原価と適正利潤の和であり、後者はレートベースの8%と定められている。」20P

 これが「総括原価」を意味します。先ほどの「費用×8%=利益」は、単純化した式です。この図式の「費用×8%」=「適正利潤」であり、「総括原価」ではない点に留意してください。適正原価が常に100%です。掛かった営業費が100%認められるのです。「役員給与、給料手当、給料手当振替額(貸方)、退職給与金、厚生費、委託検針費、委託集金費、雑給、燃料費、使用済燃料再処理等発電費(第三条より)」などは100%認められます。東京電力の給料が高くなればその分、関東圏の人々の電気料金が必ず上がるのです。これだけでは民間企業としての儲けが出ません。それが適正利潤になります。原発一基作れば適正利潤は240億円、ガスの発電所なら48億円となり少なくなります。この費用=レートベースについて、続けて『原子力発電の諸問題』を見ていきましょう。ちなみに出版は1988年、20年以上前の本です。

「レートベースは電気事業固定資産、建設中資産、装荷中および加工中等核燃料その他の和と定められている。このため、発電量が実際にどうなるかにかかわりなく、なるべく資産価値の高い設備を保有ないし建設し、核燃料の買い付け契約額を増やせばレートベースが膨張し、その8%と定義された適正利潤が増大する」

 先ほどの、原子力発電所の方が高いので、原発を推進する、という法的な根拠を表しています。この問題点として3つ続けて挙げられています。

①原発のない電力会社まで核燃料を保有している。

②契約するだけで電気料金が高くなる。建設中であれば利益が出る 

③高くなれば高くなった分だけ最終的に払うのは日本国民(人)である。

 それぞれについて書いていきます。

 -①について-

法律(本講義では実態を重視して法と令を合わせて法律と表記します)をその通り解釈すれば、在庫を抱えれば抱えただけ儲けが出来るのですから、当然だと思います。一般社会では在庫を保有すれば、その分だけ経費が増大して赤字が増えていきます。最終的に会社を倒産させるのが当たり前にあります。例えば、洋服には流行があり翌年に同じように売れないので、在庫を抱えると最終的に倒産に結びつきやすいのです。ですから、「春のバーゲン」や「夏のバーゲン」などを頻繁(ひんぱん)に行って在庫を抱えないようにします。
 しかし、電力会社は「在庫を抱えればその分、日本国民が払ってくれる」と法律で保障してくれているのですから、在庫を抱えた方が良いことになります。原発を持っている電力会社は「著しく大きく(同本20P)」核燃料を持ち、原発を持っていない電力会社も持つことになるのです。これは倫理的観点ではなく、経営判断からすれば当然のことになります。この点は次の問2で争点の1つになります。

 -②について-

 自動車を購入する時、自動車そのものがきちんと納車され終わった後、お金を払います。これは一般社会のビジネスでは当然です。他方、総括原価方式では、「自動車を買いますよ」と契約書にサインしたら、お金をもらえるのです。サインをすればお金が入ってくる、のですから、将来使いますよ、あるいは原発をもっと作りますよ、だから核燃料がいるんです、ということになれば、もっとサインが出来ることになります。これが原発を毎年2基ずつ増やしてきた根源的理由の1つです。

 「原発が必要だから増やす」のではなく「核燃料などはサインをするだけで利益が出るから増やす」のです。

 先ほど「建設中」でも利益が出る、と書いてありました。浜岡原発6号機は数千億円の大規模なプロジェクトです。しかし、「建設中」でも「建設完了」でも同じ利益なのです。ですから、「原発はやりたい」と言えば利益が出るのです。だから焦って原発を再稼動させる必要はないのです。全ての原発が止まり、再稼動に向けた動きが電力会社で遅いのは、「建設中」=「検査中」=「営業中」だからです。しかし、一般社会では例えば、駅ビルの中で、服屋さんが「建設中」=「検査中」=「営業中」でしょうか? お客さんに服を買ってもらわなければ、利益が出ません。しかし、原発は、

原発:「建設中」=「運転中」=「検査停止」 →全ての場合で日本国民がお金を払ってくれる

一般:「営業中」のみ →日本国民がお金を払ってくれる

 となるのです。ですから、「電気が足りない」と言いながら再稼動に向けた電力会社の申請は、原子力委員会や保安院に直ぐに出されないのです。その意味で、東京電力を始め多くの電力会社の経営陣判断は会社の利益を求める上で合理的、と言えるでしょう。

☆原発のポイントは、「廃炉」なら利益が出ない 「建設中」や「運転中」や「検査停止」なら全て利益が出る

 ということです。

 -③について-

 「③高くなれば高くなった分だけ最終的に払うのは日本国民(人)である」については、独占禁止法が適用されない点と、電気が基本インフラになった点が挙げられます。『原子力発電の諸問題』では「電気料金を最終需要家に請求できる」としていますが、以上の2点から「日本国民(人)」としました。また、原子力発電に関しては関連予算が年間4000億から5000億円前後が税金の中から使われますから、家のない人や職のない人であっても、自動販売機でジュースを買うだけで関係者になるという点も含んでいます。補足ですが、どうも電気やガスでは「需用家」という言葉を使っています。

 以上になります。
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