講義録13-2 失敗損失額と失敗利益額 

 ここで学んでもらうのは、「公共サービスや独占企業は失敗を隠した方が得をする」ということです。

 費用便益分析から観た「公共サービス」の特殊性を見てみましょう。費用便益分析とは、「ある対策をした場合の費用と便益を比較して分析すること」です。

 前に、フォード社のピントという車種の欠陥が分かって、リコールする場合の費用としない場合の便益(損益)を比較した例でした。ここで倫理絶対主義と倫理相対主義の違いについても触れました。

 こうした費用便益分析は、技術者倫理のみならず、民間企業では当たり前のビジネス思考なので是非とも、習得して欲しいものです。例えば、結婚した場合の費用便益分析のように。結婚をすると平均で10年の寿命が延びます。その分、家族にとられる時間や金銭がかかります。「幸せ」や「家族」などの心の問題を横において、このように、本当はもっと色々な要素がありますが、比較するのは長い人生を考える上で大切だと考えます。

 それでは中尾先生の『失敗百選』38,39Pを観てみます。

①不祥事で隠した場合、100倍以上の損失額になる :株価の損失額が大きい
②リコール事故の場合、10倍以上の損失額になる
③鉄道や電気などの場合、失敗しても損失額は少ない

 となります。①の事例として「日本ハム偽装」や「雪印食品偽装」、②として「三菱自工リコール」や「フォード・ピント事件」、③として「東京電力トラブル隠し」や「京福電車事故」などが挙げられています。ここで大切な結論は、

☆「 国や公共サービスは隠しても損をしない 」

 ということが費用便益分析で出てしまっている点です。株自体が無く社会的信用が費用便益分析に関わってこないからですが、同様に、鉄道や電気など独占企業で、さらに基本インフラに含まれる場合は、消費者の選択権が無く損失額がかなり押さえられることになります。これまで講義録で述べてきたように、東京電力や関西電力の組織的問題の根本は、この「国や公共サービスは隠しても損をしない」からなのです。

 さらに、電力会社は、鉄道などよりも強い独占と公共性を帯びています。これは、「講義録11-4 大飯原発再稼働の安全基準の構造的問題」
http://takagikenziro.blog.fc2.com/blog-entry-160.html
で述べたように、安全対策の計画、検査、データの取りまとめの独占とその公共性です。ですから、幾ら

☆「偽造データやトラブル隠しをしても電力会社は損をしない」

 のです。そのよう構造になっているのです。
このケースでは、「高木の説である株価を含めた長期信用による再発防止策、初期事故予防策が通じない」ことになります。そして、国であれば国会議員によるチェックや内閣による行政の方針転換などが起こります。他方、講義録の冒頭で述べた「自動車ムラ」が、それほど組織的問題を発生させないのは、日本の自動車業界全体でアメリカなどの自動車業界と競争し、国内でも各自動車メーカー同士の競争があるからです。私たち日本国民は、三菱自動車のリコール隠しの後、三菱自動車を買い控えたように、選ぶことが出来るのです。他方、

・「電力会社は地域独占と共に計画や検査などの独占により、国からも選択権を剥奪し、政治家の介入も防ぎ、情報公開や説明責任を果たさずに、偽造データを出しても損をしない」

 という構造になっているのです。高木は、こうした構造を変えない限り、現在の電力会社の組織的問題、特に「人災」の側面が根本的に修正されることはない、と考えています。そして福島原発事故から学びうる最も重要な点の1つであると考えています。

 このように費用便益分析から観た「公共サービス」の特殊性から福島原発事故を捉えると、報道一般や反原発や原発推進などから離れた視座が提供できます。これが技術者倫理の視座であり、今後の再発防止のための改革と、他の初期事故対策につながっていくと考えます。

 この視座がなかった原子力政策を原子力船「むつ」の事例で次に考えて見ましょう。
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