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講義録13-1 自動車事故のデータに2つの考え方

 ここでは、同じ自動車死亡事故を用いて、技術者倫理の2人の専門家が全く別の結論を出していることを学んでもらいます。

 同時に、自動車業界と原発業界を比較しながら、官僚主義を述べていきます。この官僚主義は技術者倫理では「属人的組織風土」と共に事故対策を十分出来ない要因の1つです。また、今回のテーマは「技術が社会背景に依存する例」ですので、社会背景がこの官僚主義を指します。それでは昨年度の講義を引用しつつ書いていきます。

失敗学として有名な中尾政之先生の『失敗百選』を使います。その焦点は、これまで出てきたキーワード、リスクトレード・オフ、費用便益分析、許容可能、公衆の福利です。

 それでは『失敗百選』について軽く説明します。
この本は、この分野で大変素晴らしい本で、情報がまとまっているし、データベース化しています。失敗の類型が41に分けられていて判りやすいです。実は、教科書にしようか、と迷ったくらいの本でした。ただ、ネックは3500円+税、という高値、もう1点は、学生の自発性が倫理の出発点である、と考える高木とのズレでした。大学の講義で扱うには膨大な情報量と事故事例であり、学生の皆さんが、高校の教科書のようにして読むことを懸念しました。つまり、この講義をより深めるために是非読んで欲しい本なので、オススメしました。

 それでは、この本の「まえがき」に書いてある自動車事故について取り上げていきます。今回は、教科書VS高木の構図のように、中尾『失敗百選』VS 林洋『自動車事故の科学 こうすれば事故をなくすことができる』の構図にします。

 自動車事故によって年間1万人の死亡、100万人の負傷者の事故があります。

     事実                   →論拠
 
中尾先生 1970年から2000年までの交通事故のデータ  →1980年には下げ止まっている
                          →事故が増えているのは事件を隠さなくなったから
                          →事故を隠さなくなったからリコールが増えた
                          →医療過誤も同じ類型である

林洋先生 1960年頃から2000年までの交通事故のデータ →下げ止まっているが、その後の事故対策をしても減っていない
                          →だから、現在の事故対策は誤った事故対策である
                          →事故対策は自動車(メーカー)の対策であり、事故対策は自動車と歩行者の接点を減らすことである

 となっています。
 同じ客観的事実を見ても、そこから導き出される筆者の考え方(論拠)が全く異なってきます。ちなみに、データを探すと以下のようなものありました。
:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/6820.html
 2つの筆者の引用文にないのは、「高齢者65歳以上」が増加し「若者」が人口比よりも低下していくのは、平成5年前後という点です。また、「歩行中」の死亡率低下が殆どなく、「運転者」の低下が顕著であることが挙げられます。

 林洋先生は『自動車事故の科学 こうすれば事故をなくすことができる』で、事故対策は歩行者と自動車の接点を減らすことが大切であるのに、現在の自動車の安全対策は、日本国政府(運輸省)、企業、大学が「原子力ムラ」のように「自動車ムラ」を作っていて、本来すべき安全対策が取られていない、と警鐘を鳴らしています。

 高木が補足したのは、シートベルトの義務化は高速道路で昭和60年(1985年)、一般道で翌年の昭和61年(1986年)
です。先ほどの統計データを見ると、丁度その頃から2次ピークがやってくるのです。つまり、シートベルトの義務化は死亡者数、負傷者数を減らしていないのです。社会科学では相関関係が一義的に定まりませんが、増えています。さらに、エアバックやチャイルドシートなどの導入も極めて高い効果を挙げているとは言い難いものです。ただし、15歳以下の死者数は長期的に下がっており、さらに年間で300人を切っておりチャイルドシートの効果は明確になりません。10倍前後の極めて高い死者数となっている「高齢者」対策が遅れています。
 こうした数々の事故対策や法律による規制が、「高齢者」対策でない点は、林先生の主張に説得力を与えています。高木の個人的な体験からすると、自動車業界は確かに「自動車ムラ」という体質が感じられます。例えば、車検制度です。新車で3年後に車検を受けなければならないそうですが、「メイドインジャパン」の代名詞になるような自動車が果たして3年後に必要なのでしょうか? もちろん、チェックは必要でしょう。しかし、何時でも必要なのです。事故の統計学として3年後にすることがどれほどの事故予防につながっているのでしょうか。例えば、アメリカでは車検制度はありません。排気ガス検査はあるようですが6000円程度のようです。対して日本の車検は5万円以上かかるようです。その他、自動車に関わる数々の無駄が民主党政権になって明らかになったのもありました(その後が続きませんでしたが)。林先生の本によると事故対策を理論的に基礎づける大学の先生が、そうした外郭団体に入る実例が載っていました。
 こうした視点は、「国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」の報告書と共通するものがあります。
 7月5日に国会の両院議長に提出されたものが、ダウンロード出来ます。
:http://naiic.go.jp/

 対して、中尾先生は、事故が増えているような印象があるがマスコミの宣伝によってあるが、実際には下がっていると捉え、「インターネットのよって内部告発も簡単になったので「隠すと損する」と皆が感じるようになったのも確かである。その結果、事件は隠さないから急上昇した」(ⅸ)と述べている。

 ここで両者の主張を事故対策に絞ってみると

中尾先生:事故対策は十分である。事故が増えたのは隠さなくなったからだ
 VS
林洋先生:事故対策は不十分である。事故が減らないのは根本的な考え方が間違っているからだ

 となります。
 ポイントは、同じ統計データ(事実)を用いても、正反対の説が出る、ということです。自動車という正確で広い範囲に渡る事象であっても、このようなことが起こります。もし、さらに狭い範囲の事象、例えば宇宙ロケットやプリンターや配管など、であれば不正確なデータや長期的ではないデータなどの制約が出てくるでしょう。さて、こうした事故対策から、自動車そのものを技術者倫理で考えてみましょう。

 自動車をリスクトレード・オフで考えてみます。

 問1 自動車はリスクトレードオフ出来ますか? 

 全てのクラスで補足を行いました。講義録9-1から引用します。

①トレード・オフ :利益(ベネフィット)と損失(リスクや被害や費用)を比較して判断する

②リスクトレード・オフ :損失と損失を比較して判断する

③リスクヘッジ : どの場合でも出来るだけ損失を少なくなるように判断する

 この問題の場合は、「自動車があることによる損失」と「自動車が無いことの損失」の比較をして、ある損失の方が小さければ、リスクトレード・オフ出来る、となります。これは、自動車がある方が社会全体で損失が少ないことになります。ない場合の方が損失が小さければ、当然、自動車は無い方が良くなります。ただし、これまで述べてきたように、「損失」をどのようにまとめるか、どこまで損失とするか、は各判断でバラバラになります。この点が非常に難しく論争となる点であります。高木は自動車の利益と損益(リスク込み)を以下のようにしました。

利益:自動車は国内輸送の90%を担っている
   http://www.mlit.go.jp/k-toukei/16/handbook/004youran.2-2hyou.xls
   つまり、コンビニ、スーパー、電気、ガス、または遠隔地の介護等々が支えられている。

損益:死者1万人、負傷者100万人がほぼ確実に被害を受ける。石油消費や環境破壊(二酸化窒素など)。

 それでは、リスクトレード・オフで置き換えてみます。

 (高木の回答例)

自動車があることの損失は1万人、負傷者が100万人がほぼ確実に受ける損失である。他にも石油の消費や環境破壊などがある。
自動車がないことの損失は電気・ガス・水道・コンビニ・スーパーなどが完全に止まる損失がある。
私は止まると基本インフラが止まり、1万人以上の人が死亡すると考える。例えば、東日本大震災で復旧復興の中に、電気ガス水道やスーパーなどが基本インフラとして扱われた。
ゆえに、自動車がないことの損失が上回るのでリスクトレード・オフ出来る。

 次に、福島原発事故を整理してみます。
 『失敗百選 : 41の原因から未来の失敗を予測する』15Pの表Ⅰ.3 シナリオの共通要素、という中尾先生の整理した失敗の要素を使って整理してみましょう。高木が異なる点は、要素を最終的に1つにしない点です。

 (高木の回答例)

・1 脆性(ぜいせい)破壊 
 :福島原発は事故が起こる「前」、最も作業員の被爆量が多い原発でした。ということは、材料そのものが経年劣化などによって、あるいは基本構造の欠陥が疑われます。福島原発と同じ型「マーク1」である浜岡原発1号機2号機が経年劣化対策などの総工費が膨大になってしまい、再稼動できなったのです。しかし、福島原発は福島県の知事選挙で原発停止の知事候補(現役知事)をやぶって原発推進派の知事が圧倒的多数で勝ちました。敗れた現役知事は、「東京電力によるトラブル隠しが発覚した後、原発停止に立場を変えました」、とした後、怪しい贈収賄事件で追い詰められ、判決理由も不可解と高木が考える理由で有罪とされました。贈収賄事件と判決理由についてはおいておくも、東京電力のトラブル隠しによって反対に回った知事が落選し、福島原発の継続が決定したことを覚えておいて欲しいのです。
 本日(7月9日)も、「鹿児島県知事選で原発擁護の現職候補が勝利」しました。原発反対の候補と一騎打ちとなり、ほぼ40万票と倍を取りました。投票率は約44%です。
http://jp.wsj.com/Japan/Politics/node_474421
 この結果は、日本国民が原発再稼動を賛成している、という結果です。その結果を取るのは、もちろん、鹿児島県民であり、日本国民なのです。福島原発事故もその事故原因は東京電力や日本国にあるにせよ、選挙で原発推進の知事を選んだ福島県民、日本国民にもあるのです。高木は、一方的に東京電力や日本国政府、特に特定の政権や政治家だけを非難する態度には組み出来ません。話は長くなりましたが、このような理由から、脆性破壊があげられます。

・3 腐食
 :1と同じ理由から推測します。

・6 バランス不良
 :前に引用した「マーク1」の耐震不安の指摘がアメリカで80年代に問われてきた経緯からです。

・12 衝撃
 :津波か地震を指します。

・22 天災非難
 :この場合は、海水注入の遅れを指します。

・23 脆性構造
 :冷却系の不備、特に海水面に冷却系を置いたことです

・24 フィードバック系暴走
 :蒸気系の冷却装置の取り外しなどによる暴走を指します。

・28 フェイルセーフ不良
 :冷却系がやられた後の対策不備と原子炉外の予備電源の確保対策不備を指します。

・35 だまし運転
 :講義録14でやりますが、欠陥炉と判った後でも修正しなかったことです。アメリカと浜岡の例からです。

・36 コミュニケーション不足
 :根本的には原子力委員会や原子力安全委員会と原子力安全・保安院ですが、意思決定機関(官邸)や検査機関(電力会社)とのコミュニケーション不足を指します。

・37 安全装置解除
 :蒸気系の冷却装置などなどです。

・企画変更の不作為
 :「マーク1」が欠陥炉と分かってからも、企画変更が出来なかったのです。

 色々な回答がありました。

 次に、費用便益分析から観た「公共サービス」の特殊性です。
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