講義録10 公益通報者保護法 技術は社会背景に依存する

 皆様、こんにちは。

 「富士論語を楽しむ会」を仲間と月に1回開催しているのですが(どなたでも参加できます)、毎回勉強になります。昨日は「1日中考えていたのだけれども、益なしでした。学問をしないと」という孔子先生の文章を見ました。20代の私はあまり本を読むことなく、1日中考えていました。詩作や小説などにもしましたが、孔子先生の2000年以上前の一言が、胸にチクリと来て反省しました。後50年もしない内に私は肉体的に滅びます。50年生きていていたとしても、まともな思考が出来るようにはならないでしょう。限られた時間しかないのです。現在の私に出来ることは何でしょうか。少しでも世の中のお役に立ちたいです。
 「富士論語を楽しむ会」は1年位になりますが、月に1回冊子も出すようになりました。私に巡り合ったこの勉強会を大切にしていきたい、と思っています。
 五月雨(梅雨)がシトシトと、穏やかな気持ちにさせてくれます。ありがたいことです。

 それでは、本文に入ります。

 昨年の講義録8-3と9-2を元に述べていきます。

紹介(閲覧)した資料 
 :『銃・病原菌・鉄 (下)』 ジャレド・ダイアモンド著 倉骨彰訳 草思社
 :『キーボード配列 QWERTYの謎』 安岡 孝一著、安岡 素子著 NTT出版 2008年3月

配布したプリント:B4 2枚
 1枚目:藤本温(代表) 『技術者倫理の世界 第2版』96-99頁
 2枚目::『銃・病原菌・鉄 (下)』 48,49,52,53,68,69,76,77頁


 --講義内容--

 前回のミート・ホープ事件を念頭に置いてもらいながら、では、法律ではどのように内部告発を扱っているか、を見てもらいました。教科書の96~99Pを読み上げながら説明していきました。

 公益通報者保護法は、平成16年6月18日に制定され、平成18年4月1日に施行されました。
この2つの日付で、何かおかしい?、と感じてもらいたいと言いました。通常の法律は制定から施行までが半年から1年です。2つの日付が離れている、ということは何かしらもめたのだろうか?と推測してもらいたいのです。
 実際に、公益通報者保護法は大分議論が出ました。経済界という日本を牛耳っている世界から、この法律についてコメントが出されていました。制定の5か月前、平成16年1月のことです。これは後に述べることにして、ここでは先に、日本を牛耳る経済界、と経済界からのコメントがあったこと、記憶しておいてください。

全文:http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/gaiyo/files/koekiho.pdf

 特徴は、以下の点です。

A)法律違反のみ保護対象

B)労働者のみ保護対象

C)企業内部への通報が誘導されている

D)解雇の禁止のみである(消極的対応のみ)

F)他の根拠で解雇されるのは認められている

G)匿名での内部告発(講義では(10)匿名でのリーク)は保護対象外


 G)についてですが、特定できない人物の保護は矛盾するので当然と言えます。次にA)~F)についてそれぞれ順不同で述べていきます。

 A)法律違反のみ保護対象

 この点は講義録8-2で述べたように、法律、正確には「法令」のみが対象になっています。ですから、初期の事故予防に対応できず、法律の第1条(目的)で

 「…国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的とする」

 と書いてありますが、十分な法律の内容とは言えません。この根拠として推測されるのは、経団連を筆頭に大企業の圧力です。法律の制定が平成16年6月、施行が約2年経った平成18年4月です。法律の制定後は半年ないし1年で施行されます。しかし、公益通報者保護法は、大企業にとって大打撃を与えかねない内容を含んでいるため、紆余曲折を経ました。
 そこで、A)法律違反のみ対象や、C)企業内部への通報が誘導されているとなったと高木は考えています。さらには、最も情報や会社の意思決定に関わる取締役は、対象外となりました。しかし、(目的)に謳われているように、「国民の生活の安定及び社会経済の健全な発展に資すること」が真の目的ならば、

A)’どうして、反倫理は対象にならないのでしょうか?

B)’どうして、最も影響力の大きい取締役は対象外なのでしょうか?

C)’内部への通報が誘導されるのでしょうか?

D)’顕彰や公務員への登用の道はないのでしょうか? 
 公務員は「国民に奉仕するのを目的(全体の奉仕者)」としており公益通報者は、立派にその役目を果たしています。

F)’他の理由での解雇が認められているのでしょうか?
 
 一律に全ての原因を経団連をはじめとする大企業に押し付け、そして悪い、と述べているのではありません。ただ、その一因にあったのではないか、ということです。

 内閣府から消費者庁へと移りました。消費者庁のガイドラインには以下のような文章があります。

公益通報者保護制度ウェブサイト:http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/index.html

(3) 通報先はどこですか?
「通報先」は、
 事業者内部(労務提供先)
 行政機関(処分等の権限を有する行政機関)
 その他の事業者外部(被害の拡大防止等のために必要と認められる者)
:例えば、
・報道機関
・消費者団体
・事業者団体
・労働組合
・周辺住民(有害な公害物質が排出されている場合)
の3つであり、それぞれ保護要件が定められています。
ライバル企業など「労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者」は除かれます。

 とガイドラインに書いてあります。
それぞれの保護用件の1つを挙げてみましょう。

 事業者内部への通報を行おうとする場合
(1) 不正の目的で行われた通報でないこと
例えば、金品を要求したり、他人をおとしめるなどの目的の場合は保護されません。

 先ほど述べたA)’~F)’の疑念をぬぐい去れない内容だと考えます。しかし、反対から考えると、「外部への通報によって健全な商業活動が阻害されるリスクが増大する」という考えも成り立ちます。もう少しくだけた言い方をすると、

 「企業の目的は金儲けなのだから、綺麗な部分も汚い部分も必ずある。汚い部分だけを直ぐに取り上げる法律ができると、通常の金儲けも出来なくなる。だから、まず、日本企業を信じて任せて欲しい」

 となるでしょう。ちゃんとしたコメントは経団連が平成16年1月21日に出しています。制定に5ヶ月前です。

「公益通報者保護法案(仮称)の骨子(案)」に対するコメント:http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/011.html

 ここで、B)’に関係する箇所を取り上げてみましょう。

「(2) 「公益通報者」について

骨子案では、「公益通報者」は、「公益通報をした労働者」と規定しているが、労働者に使用人兼務取締役、執行役員、従業員ではない役員待遇者が含まれるのか不明確である。運用上の混乱を避けるためにも、本法の対象は、一定の明確な範囲、例えば「労働基準法上定義される労働者」に限定する必要がある。」

 「不明確であるから取締役は除外する必要がある」

 と書いてあります。

 「不明確であれば取締役は含まれる」

 のが当たり前ですが、この一文によって「取締役は除外しなさい」と通告したことになります。私はこれらの点を挙げて、冒頭で「圧力」と強い言葉で表現しました。その後、「取締役は除外された」のです。これは消費者庁のガイドラインで見てもらった通りです。

 F)については、「公益通報者保護法の概要」に見て取れます。

http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/gaiyo/files/gaiyo.pdf

 一番下の

「(7)その他
① 本法は、労働契約法第 16 条(解雇権濫用の法理)など他の法令の適用を妨げない」

 で明らかです。 
 
「第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

 との文で明らかなように「客観的に合理的な理由」があれば「解雇OK」なのです。
例えば「企業業績が悪くなって人員整理が必要になった」や「現在、会社の部門整理を行っている」などの客観的に合理的な理由であれば、解雇可能なのです。この保護は行われません。ザル法と言われても仕方のないのが、消費者庁の「公益通報者保護法のポイントをまとめた資料」に見て取れます。この点は教科書では充分に指摘されていません。また、ミート・ホープ事件での準社員の解雇が内部告発だったのに、他の理由にすり替えられた、という事実も見てほしいです。さらに、赤羽氏は当時常務でしたから、内部告発しても法律によって保護されなかったのです。繰り返しますが、どうして取締役を内部告発者から排除したのでしょうか? 最も情報の集まる地位であるのに。

 さらに、もう1点だけを挙げてお終いにします。最新の報告書です。

 「平成 22 年度 民間事業者における通報処理制度の実態調査 報告書 」です。

:http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/chosa-kenkyu/files/h22minkan-chosa.pdf

 ここで殆どのページを割いているのは、民間企業が内部組織を導入しているかどうか?です。回答率約38%と低いので実際にはかなり制度の導入が疑問視されますが、最も大切な「公益通報が適切に処理されているか?」が殆ど掲載されていません。
 
 「公益通報が適切に処理されているか?」が最も大切な理由は、法律の目的にあるように「公衆の福利」を実現するためです。

 他方、それが各企業に任せてしまっている実態があります。そして、先ほどの報告書では、内部通報制度は

 「導入している」  46.2%
 「検討中」     13.8%
 「導入する予定なし」 39.1%

 が実態です。

 また、行政機関では対応がしっかりしています。

平成22年度行政機関における公益通報者保護法の施行状況調査(平成23年3月31日時点)

:http://www.caa.go.jp/seikatsu/koueki/chosa-kenkyu/files/h22kouekisekou.pdf

では、約50%が設置しており、しかも、法律違反のみならず倫理規定違反に対応としている場合が最も多いのです。「Ⅰ.内部の職員等からの通報 3.通報対象事実の範囲」です。さらに、冒頭に、

「外部の労働者から全行政機関が受け付けた公益通報は、受理件数が 4,571 件(4,669 件)、調査に着手した件数 4,167件(4,271 件)、措置を講じた件数は 3,424 件(3,398 件)であった。」

 とあります。実態を見るならば、勤務先の企業(事業者)に通報するのではなく、真っ先に日本国政府機関や該当県に通報するのが良いことが分かります。

 以上が公益通報者保護法とその実態です。


 最後に、経団連を始めとする大企業の圧力について述べます。

 日本は大企業が動かしています。講義録8-2で取り上げた「尖閣諸島中国漁船衝突事件」で、中国人の船長を釈放するようにと、政権内部のみならず経済界からも圧力が掛かりました。現在、日本国民はこの事件に対して、当時の菅総理や民主党を批判しますが、経済界からも圧力が掛かったことも考えなければなりません。
 現在、根本的に中華人民共和国に強く出れないのは、(東京の)経団連が中心となって中国に進出を決定したからです。日本の大きな基軸をアメリカだけから中国にきったことが大きな原因です。毒餃子事件を始め、日本でチベット独立運動、僧侶による焼身自殺が殆ど報じられず、先月行われた世界ウィグル会議についてもアジアの中で日本の民主主義が認められた事例なのに報じられないのも、こうした大きな原因があるからです。同時に、極端に振れるという日本人らしい空気もあります。

 原発を導入したのも、エネルギーの安定供給を優先するという大企業中心の発想に基づいているのではないでしょうか。福島原発事故後もこのエネルギーの安定供給という視点が変わらないのは、単に安全保障上の課題、というだけでなく、ならば尖閣諸島に眠る石油や天然ガスを掘るはずです、あるいは原材料費ただの地熱発電や温泉を利用した発電に手をつけないですから、経済界が中国に大きく依存しているからではないでしょうか。

 しかし、これが全て悪い、と言いたい訳ではありません。現実としてどこかの集団が国を支配しないと、政治や方向性がバラバラになってしまいます。そうなると最も悪い事態になります。

 アメリカは、宗教教団と軍需産業が支配しています。宗教教団のトップは白人のプロテスタントとユダヤ人です。白人はWASP(ワスプ)と言われます。オバマ大統領が誕生した背景には、WASPとユダヤ人の支持があったことは言うまでもありません。もう1つ軍需産業は、アメリカが戦争を常にするという歴史を作りだしています。
 アメリカが建国されて300年弱ですが、相手はイギリス、スペイン、フランス、メキシコ、ソ連、日本、ベトナム、イラン、アフガニスタンなどなど数えきれません。アメリカの東側の海岸沿いでしかなかった国は、戦争を無理にしかけて国土を獲得していきました。太平洋に到着しハワイを併合し、フィリピンの次に支那(当時の清)を狙いました。そこで日本とぶつかって戦争になったのです。
 現在、イラクとアフガニスタンで使った臨時の戦費は、約400兆円です。1人当たり120万円、1年間で12万円です。これに通常の軍事費がプラスされます。これらが巨大な利権となってアメリカを戦争しなければならない国にしました。
 アメリカは自由と民主主義の国ではありますが、実態は宗教教団と軍需産業が支配しています。そして時々、理想と実態が乖離(かいり)することがあります。その際、アメリカは、高木の考えでは実態がまず優先されます。そして批判が強まると理想が表に出てきて、サッと実態は裏に巧妙に隠れるのです。この使い分けが、アメリカの外交の強さの秘訣である、と高木は勝手に判断しています。

 他の例としてフランスを挙げました。フランスでは近年、大規模デモが起こっており、車の焼き討ちなどまで発展します。デモはフランスの華でもありますが、これらのデモとは違うデモです。それはデモというより不満を社会にぶちまける、という暴発行動に近いものです。もう1点違いがあります。それは平均年齢15歳、多くがムスリム系という点です。フランス社会ではムスリム系の名前を出すだけで高校進学やバイト採用が出来ない、という実態があるそうです。ですから、13歳から15歳くらいになり、自分の将来を考えた時、ムスリム系である、というだけで高校進学という勉学の道、社会の上層部へあがる道が閉ざされ、バイトという日々の糧を得る手段も奪われている訳です。ですから、不満を社会にぶちまける、という暴発行動に近いものが起こる訳です。
 ではフランスはどういう集団が支配しているか、というとエナ(フランス国立行政学院)という専門学校が政権中枢を担っています。当然、東京大学よりも厳しい選抜によって選ばれたエリートだけがフランスを支配していくというシステムになっているのです。第二次世界戦後に作られ、戦後のフランスを現在まで支配し続けています。

 ここで考えてもらいたいのは、日本の経済界の支配、は確かにいくつかの問題点があります。しかし、それはアメリカの宗教と軍需産業や中国のように一党独裁やフランスのエリート支配と比較した場合、どちらが良いのか? あるいは悪くないのか?ということなのです。
 日本の経済界の支配の失敗の例として、現在の中国共産党の支配する独裁国家に投資して多くの失敗例が出ていること、さらに、それが日本の外交で中華人民共和国に強く出られないように、日本の安全保障を脅かしていることなどが挙げられます。日本では尖閣諸島問題で判るように、経済と安全保障が同列に論じられることがあります。安全保障は経済よりも最優先である、というのが当たり前なのです。しかし、「尖閣諸島をこじらせると中国との経済関係が悪くなるから」と平気で述べる人々がおり、私達日本国民もおかしいとは気がつかないのです。尖閣諸島の中国船衝突事件でも経団連は「釈放を評価する」とコメントしました。中華人民共和国は一党独裁であり、政治リスクを考慮せずに進出した後、損したら困るから、と安全保障を置き去りにしました。大企業のトップとして自ら、政治リスクを考慮しなかった責任を政治に押し付けているのです。
 こうした点はありますが、全体として評価するならば、私は経済界の支配は良い方が多い、と考えています。

 こうした流れ、実態社会の影響が法律に表れている点を、技術者倫理としてきちんと認識して欲しいと考えます。架空の事件で学べることもありますが、同時に、実態社会を見て、実際に再発防止を考えていくのが、技術者倫理の目的なのですから。

 
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

    名前:高木健治郎

書いたもの(平成29年度)
哲学(平成28年度)
科学技術者の倫理(平成28年度)
書いたもの(平成28年)
科学技術者の倫理(平成27年度)
哲学(平成27年度)
書いたもの(平成27年)
哲学(平成26年度)
「科学技術者の倫理(平成26年度)
講義録「哲学」
書いたもの(平成26年)
書いたもの(平成25年)
論文(高木健治郎の)
講義録「科学技術者の倫理」(平成25年度)
高木ゼミ『銃・病原菌・鉄』
高木ゼミ全6回『ぼくらの祖国』
教養講座6回分(平成24年度)   講義録21~
講義録「科学技術者の倫理」(平成24年度)     講義録1~15
最新記事
講義録「科学技術者の倫理」(平成23年度)
石上国語教室で行われた講演のレジュメです。哲学が足りなかったのが、福島原発事故の原因の1つではないか、と考えています。

「哲学のススメ2」レジュメ

最新コメント
カテゴリ