講義録7-3 厳格責任と過失責任 製造物責任法の特徴

 今回は、製造物責任法の特徴である「厳格責任と過失主義」について述べていきます。
 特徴は2つ、A)結果で判断、B)立証責任は被告、です。


 A)結果で判断

                    
 「製造物責任法」 は 厳格責任:「結果が悪ければ責任あり」  ③結果の視点(講義録6-1)

    VS 

 「一般の法律」  は 過失主義:「意図が悪ければ責任あり」  ②行為の視点(講義録6-1)

 という特徴です。
 講義録6-1で、「意図の問題」で倫理を分けてきました。一般の法律は、「意図の問題」がある、製造物責任法は「意図の問題」が無い(考慮されない)ということです。

 一般の法律の基本は「疑わしきは罰せず」です。
犯罪行為がきちんと物的証拠などで証明(立証と言います)されなければ、罰しません、という意味です。これは民主主義の根幹を支える考え方です。つまり、「お前は国家に反逆した疑いがある!」として逮捕し監禁することが許されないからです。しかし、独裁国家では「疑い!」だけで逮捕監禁、死刑まで平気で行われます。私たちが犯罪行為を犯さないなら言論の自由や権利が保障されるのは、この「疑わしきは罰せず」があるからなのです。しかし、厳格責任ではそうではありません。
 少し身近な例を挙げましょう。
私が高校生の時、PSPやニンテンドー(3)DSのはしりがありました。それは電卓でカードを差し込むとゲームが出来たのです。音も出ない、今から見ればちゃちいものでしたが、クラスではやりました。私も欲しかったので「いいな~」と言ったら、友人が「じゃあ5000円で売ってあげるよ」と言ったのです。ゲームも入れて定価は2万5千円だったと記憶しています。私はマージャンゲームを買い、高校2年生の時に、授業中、ずーっとゲームをしていました。5段階評価で全ての科目で平均1.0くらい下がりました。平均4.2だったのに3.2に下がったのです。そのくらい、熱中してやりました。その後、友人が「あるお店で出入り禁止を食らった」と言ったので驚き余した。万引きが度々見つかったそうです。
 さて、このケース、私は盗品である電卓を持っている訳ですから、厳格責任「結果が悪ければ責任あり」とすれば、私は罪人になります。しかし、一般の法律は、過失主義「意図が悪ければ責任あり」ですから、私は無罪です。この問題は「故買(こばい)」と言われます。私が刑事罰を受けるのは「故意=盗品との認識があった場合のみ」なのです。そして「疑わしきは罰せず」ですから、「認識があったかなかったか分からない場合=疑わしい場合」は無罪になります。
 もう1つさらに分かりやすく行きましょう(多少講義と変えてあります)。皆さんはこれから結婚を考えている人が多いでしょう。その際、恋人と交渉を持つでしょう、もちろん肉体的な交渉もです。結婚前に肉体交渉を持つ人の方が多いと言われていますが、肉体交渉の後に「実は私・・・結婚しているの・・・」というケースも出てくるかもしれません。その際に、事前に知っていればもちろん罪になります。しかし、「事前に知っている」というのを証明しなければならないのは、肉体交渉相手の結婚相手(例えば私が不倫行為をした時は、その女性の夫)が、私が認識していた、と裁判で立証しなければなりません。これは中々難しいですが、実際は携帯メールなどの通信履歴で一発です。裁判所が要求すれば、各会社は直ぐに提出するでしょう。皆さんもくれぐれも気をつけて下さい。

 さて、私たちの社会は、「罪を犯す意思があった」ら厳罰です。同じ結果でも、「罪を犯す意図がなかったら」罪が軽くなります。
 可笑しいと思いますか? 思わないでしょうか?

 群馬県藤岡市の関越自動車道で7人が死亡、39人が重軽傷を負った高速ツアーバス事故を起こした運転手は、「殺人を犯す意図がなかった」として、業務上「過失」致死傷罪が適用されます。(共同通信5月1日)

 これは刑法211条ですが、第2項に、自動車運転「過失」致死傷罪があります。法律は大切ですが、いずれの場合も「罪を犯す意図がなかった」場合、

 業務過失致死罪 :5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

 自動車運転過失致死傷罪 :年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

 これに対して、「罪を犯す意図がある場合」、「罪を犯す意図があった」と判断されると、刑法199条から203条で
  
 殺人罪 : 人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
 
出典:http://www.houko.com/00/01/M40/045.HTM
 
 となります。大きく問われるのは、「意図の問題」なのです。

 しかし、製造物責任法は、「意図の問題」という心理要素を取り除きました。殺人罪でも「情状酌量」や「心神喪失」などの心理要素で、罪が軽くなることが実際にあるのですが、「人を殺せば、自動的に5年以上(例えば)」となるのです。

 かなり厳しい法律です。そうなった理由をB)立証責任は被告、と共に述べていきます。

 どうしてこんなに製造物責任法は厳しいのでしょうか。それは製造物の変化とこれまでの歴史的反省が込められいるのです。製造物の変化とは、複雑化です。現在製造されている自動車は、一般人がエンジンをいじれなくなっています。それはICチップが入り、そのICチップを動かすプログラミングがあるからです。ポットや電気炊飯器、洗濯機も同じくICチップが入っていますから、一般の人は修理できません。私が子供の頃の電化製品は単純でしたから、ちょっとした人なら修理できたものです。自動車も同じで修理するのが趣味のような人がいました。しかし、今はエンジンは直せず、タイヤを変えたり表面を変えたりがせいぜいです。これは製造物が複雑化してきたことを意味しています。
 すると、裁判になった場合を考えてみましょう。例えば自動車の根本的な不備が原因で事故が起こった場合です。立証責任が原告(住民や消費者)にあると、自動車のICチップの構造やプログラミングが何かという知識が必要になります。すると、裁判に訴えることが事実上不可能になります。ここから消費者保護の動きが出てきました。
 次にこれまでの歴史的反省に触れましょう。これは世界各国に実例があります。日本ではカネミ油事件(1968年⇒2004年認定基準の見直し)や水俣病(1956年⇒2010年救済措置の方針を閣議決定)があります。これらのケースでは、立証責任が原告(住民)にあり、科学的知識や検査データなどを被告(企業)が持っていることから、長期化しています。このようなケースが度々起こると国民が安心して製造物を購入し使用できないという歴史的反省が出てきました。製造物は技術者がほぼ検査データや科学的知識を持っているのですから、立証責任を被告(企業)に負わせよう、という訳です。

 2007年に「トヨタ車のアクセルペダルの効きが悪い」という苦情が寄せられ、その後大規模リコールが起きました。米国運輸省 、2010年1月のリコールについて、「エンジンの電子スロットル制御システムが原因の可能性がある」と声明を発表しました。この場合、「安全性に問題はない」という検査データをトヨタは提出し、立証責任を果たしました。もし、このケースで立証責任を果たさなければ、トヨタは訴えられた賠償金を全て払わなければならなくなかったのです。最終的には米国運輸省は「原因はトヨタにありませんでした」と発表しました(私は日本政府が抗議すべきだと思いますが)。

 話を元に戻しますと、B)立証責任は被告、となった理由は、製造物の複雑化、製造物が社会を根底的に支えているから、なのです。

 東日本大震災の復興とは、心の復興を指すのは言うまでもありません。日常の復興です。

 しかし、その日常に、電気、ガス、水道、道路、自動車などの製造物と生み出されたものが必要なのです。約100年前の復興には、こうした製造物は必要とされていませんでした。

 複雑化し、公衆が製造物の過失を立証責任するのは、不可能の近くなっています。ですから、欠陥がないという立証責任を被告=製造メーカーが負うことになるのです。
 
 今回の福島原発事故の場合、どのようになるのでしょうか?

 電気は動産ではありません。しかし、原子炉そのものは製造物です。その製造物が結果として放射性物質を排出して土地の汚染、水質汚染、食品汚染を起こしました。製造物責任法によると、東京電力のみならず、製造メーカーである、ゼネラル・エレクトリック(GE:エジソン研究室から生まれた企業です)や原発を製造している日本メーカー3社、あるいは修理担当のメーカーが負うと考えられます(ただし、法律の専門家ではないので、判例等までは調べていません)。

 また、あまり報道されませんが、広島の原子爆弾を作成したのもGE(ジェネラル・エレクトリック)ですし、福島原発1号機、2号機を作ったのもGEです。ちなみに、3号機は東芝、4号機は日立です。

 東京電力だけが叩かれていますが、製造物責任法の●第三条  

製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

 とあるので、GEの責任や東芝、日立の責任も追及可能だと考えます。

 ただし、●第四条

 前条の場合において、製造業者等は、次の各号に掲げる事項を証明したときは、同条に規定する賠償の責めに任じない。
一  当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと。
二  当該製造物が他の製造物の部品又は原材料として使用された場合において、その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がないこと。

 とあります。

 福島原発事故の賠償は、日本政府や東京電力だけに任されている(と感じます)様ですが、製造物責任法から見ると、他の視点も現れてきます。


 以上で終わります。


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