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講義録4 6つの安全 技術の基本要件の矛盾 三段論法 論理の問題と意味の問題

 皆様、こんにちは。

 ゴールデンウィークが過ぎ、国内旅行の盛況ぶりや住宅展示場の込み具合が耳に入ってきました。私は基本的に外出が好きではないのですが、清水のエスパルスプラザに行きました。お日様が夏の香りがし、船に乗って大満足でした。観覧車に乗ったら強風が怖かったです。
 
 そんなアベノミクスが効果を現し始める中、4ヶ月で雇用が4万人増えたそうです、対外的にも素晴らしい成果が出ました。トルコとの原子力協定を結び排他的交渉権を得ました。サウジアラビアでは原子力協定の事前協議に入っています。日本は何といっても技術立国です。福島原発事故がありましたが、それでも尚、世界の各国は日本の技術を信頼している、という証なのです。日本はメタンハイドレートや尖閣諸島沖の石油を掘らない限り、資源小国ですから、技術の信頼、進歩が国の運命を握っています。そういう視点に立てば、今回のアベノミクスの成果は、日本の未来を明るくしてくれました。
 
 さらに、原子炉で作業する作業員に国家資格を必要とする、という案が出てきています。何故なかったのか?と気がつかされました。不明を恥じます。国家資格を必要としないから、暴力団の介入や作業員の待遇の悪さが出てきてしまった訳です。安全性向上のために素晴らしい妙案だと思います。

 それでは本文に入ります。

紹介(回覧)した書籍:江藤淳著『閉された言語空間―占領軍の検閲と戦後日本 』 文春文庫 620円

配布したプリント:なし

宿題:なし

 --講義内容--

 冒頭、学生の皆さんに感謝しました。ゴールデンウィーク中日の講義になりました。どの程度、学生さんが「減る」かな、と思っていたら、反対に僅かに「増える」こととなりました。素晴らしい学生さんに恵まれたことに感謝しました。
 昨年までの講義録を比較すると本年度は進行度が遅いですが、昨年の講義録には後から付け加えている知識が半分くらいあることなどを説明し、少し遅くなっているけれど、このまま続ける旨を伝えました。昨年度は比較的宿題を多く出しました。知識を身につけてもらおうという目的を強くしましたが、本年度は深い理解度を目的として丁寧に説明して行っています。学生の皆さんの感想に進度についてのコメントもなく、また私の方でも手応えもありますので、このまま続けようと思います。

 それでは、前回取り上げた六本木ヒルズ回転ドアの事故を基にして、技術倫理の6つの安全を述べていきます。そしてこれをたたき台にして、技術の基本要件の矛盾について述べていきます。

 まず前回の復習です。

 技術倫理の判断基準の4つ

①技術倫理の判断基準は、経済や効率などではない
②「予見可能」かどうかが判断基準である
③判断基準は社会全体に依存する
④許容可能なリスクである、ことが判断基準であ

 続いてポイントです。
A) 「人の命を奪うのは許せない」や「事故は絶対だめ」という発想ではない
B) 最悪事故だけに注目しない
C)自動車が基準になっている
D) 原理上リスクを提示できず、統計データに基づいた提示しかできない

 これを踏まえて、取り挙げた六本木ヒルズ回転ドアの事故について述べていきます。

 判断基準の曖昧さなどが示されましたが、

 「では、許容可能が曖昧な判断基準なら、製造物の安全対策は曖昧なのか?」

 安全は、6つに分けられ、それぞれで対策が取られるべきである、と考えます。教科書では3つの安全ですが、私はそれでは不十分で6つ必要と考えます。

 6つとは、フール・プルーフの本質安全     フェイル・セイフの本質安全
             の制御安全             の制御安全
             の注意安全             の注意安全

 ちなみに、教科書などでは、本質安全、制御安全、注意安全の区別で3つです。
 具体例を六本木ヒルズ回転ドア事故で挙げましょう。フール・プルーフは「人は愚かなことをするからそれを防ぐ」です。電車で駆け込み乗車はおやめ下さい、と言っても絶えないので、フール・プルーフが必要になります。

フール・プルーフの本質安全 ⇒ ドアを軽くする
                ドアが2.7トンありました。実際に8500N(ニュートン)掛かったそうです。ドアを0.27トンと10分の1の重さにすると、850Nとなり(F=maから)、子供の頭が破壊される力1000N以下になります。大人の頭が2000Nですから最低限の安全が担保されます。電車のドアを考えてみて下さい。軽く作られています。挟まれ場合でも安全を確保するように軽くしてあるのです。このように本質で確保される安全を本質安全と言います。

フール・プルーフの制御安全 ⇒ ドアの回転速度を遅くする 挟んだ場合に反対の動きをするようにする
                ドアが挟まれた場合に制御(動き)で確保する安全を制御安全と言います。他の自動ドアなどについている制御安全を回転ドアにもつける必要があります。あるいは、停止ボタンなどの動きによって安全を確保する方法もあります(備え付けられていました)。

フール・プルーフの注意安全 ⇒ 貼り紙やガードマンや柵を立てるなどで注意を喚起する
                視覚や聴覚などで使用者に注意の喚起で確保される安全が注意安全です。この対策は取られていたようです。

 3つの安全の内、最も大切なのは本質安全、次に制御安全、最後に注意安全です。六本木ヒルズ回転ドアでは、本質安全、制御安全が不十分でした。また、事前に何度も重大事故(救急車による搬送、打撲や内出血など)が発生していたのに対策を取らず、経済・効率を優先したことが法的責任ありと判断されました。

 問1 フェイル・セイフの本質安全、制御安全、注意安全、をそれぞれ書きなさい。

 工学系の大学なので、さすが、と思う回答が多かったです。時間がないクラスでは高木の回答となりましたが、見回っていると是非とも板書してもらいたい回答がありました。高木の回答です。ちなみに、フェイル・セイフは「物が壊れるから被害を防ぐための設計をする」です。

フェイル・セイフの本質安全:材質を強くする 壊れても飛び散らないようにする 500N以上は壊れるようにする
              物は壊れるので人に被害を出さないようにする、と考えると、例えば地震の場合は、ドアの強度を上げるために材質を強くすることが求められます。同時に壊れても飛び散らないようにすることも。大学の窓には細い鉄線が入っている窓があります。これは地震の時に下の人に窓ガラスが刺さって怪我をしないように、というフェイル・セイフの本質安全対策です。鉄線が入っていない窓が横にあったので見比べてもらいました。また、講義では言いませんでしたが、人が挟まれることに注目すれば、500N以上でドアが壊れる、という材質にしておくのも本質安全です。ドア全てが壊れるのではなく接合部だけにしておけば修理も楽になります。

フェイル・セイフの制御安全:手動開閉(停止)装置をつけておく 
              エレベータでは地震の時、1階まで自動で降りる装置が付いています。このように自動で担保する方法もありますし、手動開閉装置のように手動の方法もあります。

フェイル・セイフの注意安全:災害の際の連絡先、対応の仕方を書いて貼っておく
              これは最近、海沿いの街で「海抜何M」と書いてあるのも一例でしょうか。堤防が壊れ水が市中に浸水してきた時にパニックにならないように事前に注意しておくという意味においてです。また、エレベータの中に貼り紙がしてあることもあります。

 以上が6つの安全になります。

 -技術の基本要件の矛盾-

 私が3つではなく、6つに分けた理由があります。それは製造物の特性を安全対策に活かすためです。
例えば、回転ドアのドアですが、フール・プルーフの本質安全からすると、当然「軽い方が良い」ことになります。しかし、フェイル・セイフの本質からすると、「当然、強い方が良い」ことになります。
 結論として、軽いと強いは相矛盾します。軽い素材ならプラスティックを、しかし強度が弱くなります。他方、強い素材なら合金なら重くなります。このように、フール・プルーフとフェイル・セイフは時として相矛盾します。この材質選びの問題は、製造物を製造する場合に欠かせない問題であり、かつ、相矛盾する要素を取り込んで製造する製造物の相矛盾がぶつかり合う問題です。さらに、材料の価格などなど多くの要素が絡み合ってきます。これらを整理するために、高木は6つに分けました。
 自然科学は基本要件が1つに絞られています。逆に言えば、基本要件が1つに絞られていないものは、自然科学の対象とはなりません。例えば心です。例えば1回性の事象です。しかし、事故予防を考える場合、事故は1回1回であり、さらに人間の心が大きな要素であるのは間違いありません。それは前の記事で述べたように、製造物には社会の関わりが不可欠だからです。そして社会の判断が人間の心に依存している以上、技術の基本要件に心が入りこむのです。ですから、自然科学とは異なり、基本要件に矛盾があるのです。もちろん、心理学や経済学などの方法論的要件が緩やかさよりは厳しいものですが(この点にはさらに説明が必要です)。

 「補足がいる人は手を上げて下さい」と言って手が1人でも上がれば補足をします。その補足は昨年も上げたマクドナルドのホットコーヒーの例です。ちなみに、今年の1月からマックに行った人は全ての学生の半分くらいでした。

 有名な話があってマクドナルドのドライブスルーでコーヒーを買った人が熱くてこぼして太ももにこぼれてしまった。それで熱さ対策をしていなかったとしてマックを訴えた。それで結局1億円(実際は64万㌦の判決後、60万ドル以下の和解金)を払うことになった。
 マックのホットコーヒーを紙コップにそのまま入れると、人は愚かな行為をする、つまり、自分で注文しておいて、さらに熱いと解っていてもこぼす。さらにそれは「予見可能」なのである。だから裁判でお金を払うことになった。アメリカの行きすぎた裁判の現状もあるが、判断基準は日本でも同じく「予見可能」である。そしてその中に「人は愚かなことをする」と「物は壊れる」は入れなければならない。これから、マックなどは熱い飲み物を入れる紙コップにプラスティックのコーティングをするようになった。また、アメリカの電子レンジには「猫を入れないでください」などの注意書きもある。説明書が異様に分厚くなり、むしろ消費者のためになっていない、と考えて、アメリカの行きすぎた裁判の現状と述べた。
 身の回りを見渡してみると、例えば、静岡県にあるハンバーグ屋チェーン店「さわやか」では、ハンバーグに紙が巻かれ出てきて「鉄板がお熱いのでお気をつけ下さい」と言ってくれる。あれは親切でいうのではなく、言わないと訴えられるなどの問題があった時に困るからである。同じようにペットボトルにも色々と注意書きが書いてある。それも、ここ10年前後のことで、「予見可能」という技術者倫理の考え方が社会の中に具体的に浸透していっている一例と考えられる。同じような例が身の回りに沢山あるので探してみて下さい。

 次は3段論法です。
 


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