講義録22-1 学生からの質問 ストレステストと日本の根深い病根



 こんな感じで講義は始まりました。

 最初に宿題の②最も説明がほしい所、を見ました。
②-1ストレステストについてもっと説明してほしい。
②-2メタンハイドレートの新しい燃料としての有用性と実用化された時の日本のエネルギー政策の変化の可能性
②-3若干それるかもしれないが、東海村臨界事故について詳しく知りたい
 がありました。今日、最初の学生が3名、忘れた学生が1名で計7名の出席でした。学生さんの質問、発表、コメントをブログに掲載することについては、「名前を出さない」という前提でOKを全員からもらっています。

 それぞれについて私の分かる範囲で答えていきます。

○②-1ストレステストについてもっと説明してほしい。

 ストレステストは、1次評価と2次評価があります。ストレステストは福島原発事故前にヨーロッパで行われていたテストです。福島原発事故はそもそもアメリカの作った原子炉ですが、アメリカがどうも駄目、となると次はヨーロッパだ、といって持ってきます。どうして日本で基準を決めて、どうして福島原発事故を踏まえた上での基準を作らないのでしょうか? これも他人任せ、の典型例の1つです。
 そのストレステストですが、1次評価はチェックです。2次評価は運転再開してもOKかどうかのテスト。重要なのは2次評価ですが、2次評価でOKが出ないのに、大飯原発は再稼動しました。ヨーロッパから持ってきて、しかも都合の良いように使いまわして、その上で野田首相は「大飯原発は安全です。私を信じて下さい(意訳)」という言い方をしました。

 その1次評価ではっきり出ているのは、11.4mの津波が来れば防げない、という点です。現在の堤防は5m。来年、平成25年に7mの堤防になります。福島原発事故を起こした津波は15~20mです。つまり、福島原発事故を引き起こした1つの原因である津波が来れば大飯原発は重大な危機になる、ということが1次評価にちゃんと書いてあります。今回の福島原発事故の教訓の1つは「想定外」をしてしまって津波対策や地震対策(十分と書かれている場合もあります)が不十分であったことです。1次評価ではっきりと書かれている津波が来れば「想定外」と言うことは出来ません。この点、重大な欠陥があります。

 続けますと、同じく福島原発事故で活躍した放射性物質を含んだ空気を外気に放出する時に、放射性物質を吸収するベントというシステムがあります。これがありません。ということは、同じような状況になった時に、福島原発事故よりも強い放射線を出す物質が空気中に飛ぶ可能性がある、ということです。
 ちなみに、チェルノブイリ事故は原子炉の上部が全て吹っ飛び、中身が全て空気中に飛び出ました。福島原発事故では原子炉そのものは破壊されず、ひび割れなどで空気中に出ました。ですから、放射性ヨウ素や放射性セシウムなど数種類の飛散に留まりました。微量でありますが、ウランやその他の放射性物質も出ています。
 このような重大な欠点のあるストレステストですが、これによって大飯原発は再稼動されました。再稼動を決定する上で電力会社や産業界、これまで原発推進派が牛耳った学界、官僚などが圧力をかけた結果ではないでしょうか。もちろん、野田首相が悪い、官僚が悪い、学界、電力会社、産業界が悪いと言い切って悪人を非難するだけでは変わりません。他人任せが大きな問題だと考えます。

 こうした他人任せ、原発推進の流れは、福島原発事故前から幾度となく指摘されてきました。そこで回覧したのが、新聞記事「耐震不安の無視」毎日新聞です。
昨年使用した新聞記事「耐震不安の無視」毎日新聞平成23年6月9日(木)2時31分配信 
http://takagikenziro.blog.fc2.com/blog-entry-16.html

「福島第1の建設を請け負った東芝でマーク1の設計を担当した渡辺敦雄・沼津工業高等専門学校特任教授(環境工学)は、「原発の技術は確率論。冷却材喪失と地震、余震の同時発生は無視できると考えられていた」と語り、「(日本の指針は)米国の考え方を輸入したもの。私もNRCと同じ意見だった」と明かした。」

 記事の抜粋です。ここには、アメリカの核規制委員会(NRC)がOK、なら日本もOK、という日本の原子力政策の根本が書いてあります。原発にははっきりと敗戦後の日本のアメリカ任せ=他人任せが書いてあります。これは原発導入時から、「日本独自の開発を」という技術発展に欠かせない要素の放棄から始まります。教養を欠いた大きな問題です。

 次の引用では、アメリカの核規制委員会は、アメリカの原発産業からの出資を多く受け入れています。つまり、アメリカでも電力事業者の言いなり、という点が見て取れます。

「米原子力規制委員会(NRC)が80年に再評価した際、原子炉格納容器の圧力上昇を抑える圧力抑制プールの耐震強度が十分でない可能性を予測しながら、米国内の電力会社の意見を参考に「無視できる」と結論づけていたことが、毎日新聞が入手したNRCの「安全性評価報告書」で分かった。」

 また、お気づきでしょうが、「核」は核兵器を連想させるから日本では「原子力」に言い換えられています。物理学を少しだけ大学で学んだ者として、こうした政治的な圧力による学問の偏向には疑問を感じます。福島原発事故で有名になった、「被曝(ひばく)」と「被爆(ひばく)」の違い、も不思議です。同じ放射線による被害なのにも関わらず、核爆弾が「被爆」、通常の放射線なら「被曝」だそうです。

 以上のように原子力政策(核政策)は、アメリカ任せ=他人任せが敗戦後50年以上続いてきました。そこには「原子力発電はいいものだ。続けなければならない。」ということが決められていました。後はどのようにするか、が日本で考えなさい、というものだったのです。

 ストレステストも、アメリカの言うことを聴いていたから失敗した。だから、次はヨーロッパだ、ということになったのです。これも同じく他人任せなのです。しかも、ストレステストは福島原発の教訓が入っていません。暫定であっても福島原発事故の知見を入れた基準を作り、日本独自の基準を作るべきであった、と考えます。 

 そして反省しなければならないのは、菅首相や経済産業省などの官僚の責任を追求して、悪人を断罪して原発事故が終わるかのように思ってしまう日本国民ではないでしょうか。つまり、私であり、私たちです。菅首相が共産主義や社会主義に染まっている政治家であったのは分かりきったことでした。鳩山元首相が思いつきでポンポンといいっぱなしで無責任なのも明らかでした。小沢氏が自分の権力に執着しすぎるのも見えていました。その民主党に、目先の子供手当てや最低賃金1000円、高速道路無料化など現実には不可能な政策に踊らされて投票したのは私たちなのです。政治を、政治家任せ=他人任せにしたのは、日本国民なのです。その点を考えなければ、述べなければこのブログも、他人任せになっていたでしょう。反省しています。

 講義録22の最初で述べたように大学が、浜岡原発による汚染を他人任せにするのも、敗戦後にアメリカ任せにするのも、政治家に政治を任せるのも、同じ原因です。日本国民の他人任せ、という根深い病根なのです。その顕れの1つがストレステストである、と考えます。
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