講義録14-6 「国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書」を技術者倫理で切り取るⅡ

 講義録14-5に引き続き、「国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書」を技術者倫理で切り取ります。

 配布プリント 2枚目 (裏)
・「国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書」 ダイジェスト版 8,9P
http://naiic.go.jp/blog/reports/executive-summary/

 です。学生の皆さんには、読み上げなを聞きながら、赤線を引いてもらいました。赤線箇所には【】をつけます。

 8P
「⑩【本事故の根源的原因は「人災」であるが、この「人災」を特定個人の過ちとして処理してしまう限り、問題の本質の解決策とはならず、】」

 ⑩技術者倫理で再発防止のために重要な「事故調査」の基本が述べられています。

A)特定の個人や集団に原因を限定しないこと
B)特定の個人や集団の罪や罰を与えるのを目的としないこと (罰は司法によって与えられます)
C)事故原因を特定し情報公開することで再発防止につなげること

 以上の3点です。講義録14-5の評価で、「総論:技術者倫理に最も適った事故調査報告書(以下、国会事故調)であると考えます」と述べたのは、この箇所を重視したからです。
 ただし、平成24年7月23日に、東京電力福島第一原発の政府事故調査・検証委員会(畑村洋太郎委員長)が、最終報告書を提出しました。読み終わっていない段階での評価であることを付け加えておきます。また、講義で取り上げられなかったこと、残念です。出来れば、民間、東京電力、国会、政府の調査報告書を比較検討したかったです。

 8P
「⑪自らの行動を正当化し、責任回避を最優先に記録を残さない不透明な組織、制度、さらにはそれらを許容する法的な枠組みであった。」

 ⑪について
 講義録14-5でも触れたように、原子力関係の法律はばらばらです。その法制度の曖昧さが、今回の福島原発事故の「人災」の原因である、と述べている点で、この報告書は、倫理相対主義=倫理と法律によって事故予防をする、という立場であることが読み取れます。倫理絶対主義=倫理を第一に考えて再発防止を考える立場だと、⑩で述べた「B)特定の個人や集団の罪や罰を与えるのを目的としないこと」に反する恐れが出てきます。マスコミや日本国民の福島原発事故への反応は、倫理絶対主義が多く観られます。「菅首相の対応が悪かった」、「菅首相が現場へ行ったのはパフォーマンスでしかないから悪い」、「東京電力の清水社長はどうして止めないのか! いつまで斑目委員長はやっているんだ!」などなどです。
 高木は倫理相対主義の立場を取りますから、法改正をしないと福島原発事故の再発防止策は出来ない、と主張します。そして、そのためには、電気事業法と原賠法の改訂が必要だと考えます。福島原発事故後も、電力会社や経済産業省、原子力安全委員会、原子力委員会で倫理に重大に反する行為がボロボロと、腐った布が切れていくように出てきています。もはや、公共サービスで独占を認められた組織構造を、倫理だけで再発防止するのは無理だと考えます。

 8P
 「⑫東電は、シビアアクシデントによって、周辺住民の健康等に被害を与えること自体をリスクとして捉えるのではなく、シビアアクシデント対策を立てるに当たって、既設炉を停止したり、訴訟上不利になったりすることを経営上のリスクとして捉えていた。」

 ⑫について
極めて強い言葉に置き換えれば「住民は死んでもいい、会社が損しなければ。」です。「人間の命より、会社の利益が大事」でも同じです。
 この下のセンテンスに「東電は、官邸の過剰介入や全面撤退との誤解を責めることが許される立場にはなく、むしろそうした混乱を招いた張本人であった。」とあります。つまり、東京電力は、事実上の決定権を経済産業省の官僚と共に持っていた、こともはっきりと書かれています。菅首相がなんと言おうと、原発事故の決定権は東京電力と経済産業省にあったのです。それゆえ、「菅首相の福島原発行きは邪魔」と言えるのではないでしょうか。

 8P
「⑬【本事故発生後における東電の情報開示は必ずしも十分であったとはいえない。確定した事実、確認された事実のみを開示し、不確実な情報のうち特に不都合な情報は開示しないといった姿勢がみられた。特に 2 号機の事故情報の開示に問題があったほか、計画停電の基礎となる電力供給の見通しについても情報開示に遅れがみられた。】」

 ⑬について
技術者倫理の「インフォームドコンセント(情報公開と説明責任)」からの指摘です。当報告書では先ほど日本政府の不十分さも挙げられていました。チェルノブイリには及びませんし、中華人民共和国が征服したウイグルでの地上核実験からの放射性物質よりも少ないとも言われる、今回の福島原発事故による汚染です。しかし、その対応において日本国政府と東京出力を始めとする電力会社の情報非公開さ、説明責任不足ははっきりと現れました。それが指摘されいます。この点も、技術者倫理にかなう報告書であると言えるでしょう。

 9P
「⑭【予測可能なリスクであっても、過去に顕在化していなければ対策が講じられず、常に想定外のリスクにさらされることとなった。】」

 ⑭について
 「予測可能なリスク」とは、技術安全を考える上で重要な「許容可能なリスク」を指します。この「許容可能なリスク」は、予見可能な誤用を防いでいること、リスクを最小限にすることなどが含まれます。しかし、これに反している、ということが書いてあります。特に「過去に顕在化していなければ対策が講じられず」というのは、決定的に工学的安全に反します。

☆日本の原子力政策は根本的に工学的安全が担保されていなかった
 
 と主張できるでしょう。これが次に続きます。

 9P
「⑮【また、原子力法規制は原子力利用の促進が第一義的な目的とされ、国民の生命・身体の安全が第一とはされてこなかった。】

 ⑮について
つまり、日本の原子力政策の法制度は「住民は死んでもいい、原発が出来れば。」なのです。「人間の命より、核開発の利益が大事」でも同じです。先ほどの電力会社が「住民は死んでもいい、会社が存しなければ。」となったのも、そのような法制度を与えていたからではないでしょうか。そして、原子力利用の促進が第一義の目的になったのは、アメリカの日本支配のためであることは述べてきました。原発導入時はそうでしたが、徐々に割合が低下していったのに、日本国内の既得権益によって継続してきました。この点を原発の根本要因として何度も挙げてきました。この点から捉えると、マスコミ、日教組、自衛隊など日本の根幹部分が、日本人の手によって既得権益化し、現在でも継続しています。これを変えるため、元に戻すために、元に戻して初めて再発防止が出来るのですから再発防止のために、法改正が必要である、と考えます。この報告書は、この点に触れている点で、素晴らしいと考えます。

 以上です。

 素晴らしい報告書でした。高木が当初から述べてきた点、「福島原発事故構内ははっきりとした調査が出来ないので内部に関しては原因不明」を考慮すると、現時点では「人災」の側面に踏みこむのが重要である、と考えます。その点をきちんと踏まえてありました。また、根本原因である法制度に言及する点、事故調査の基本に沿った点なども学生の皆さんには参考になったと考えます。

 次は、原発の運転上の、あるいは復旧作業や廃炉作業における計画被爆の問題です。
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