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講義録14-5 「国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書」を技術者倫理で切り取るⅠ

 「国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書」を技術者倫理から切り取ります。

 講義の時間は限られており、残念ながらダイジェスト版9P分の内、4Pのみです。この報告書の高木の評価は以下の通りです。ダイジェスト版、要約版は読みましたが、本編その他に全て目を通して詳細に検討をしていない点を付け加えておきます。
 
 肯定:現在の報告書の中で一番公平に扱っている
   :この報告書の作成段階で一番情報が公開された
   :この報告書の作成段階で一番隠された情報が表に出てきた
   :不足部分をきちんと述べている点
   :福島原発事故が「継続中」である、と言い切った点

 否定:菅元総理を始め各閣僚各官僚に対しては、強制力のある証人喚問すべきであった
   :「人災」以外の事故原因の追及不足

 総論:技術者倫理に最も適った事故調査報告書(以下、国会事故調)であると考えます。また、文意が平明で分かりやすく、提言も7つにまとまっており国民に向けたれた報告書です。現在、福島原発事故を含む原発関係の情報は混乱、錯綜、偏り、不可解のキーワードが浮かぶ中で、最も最初に読むべき本の1つと考えます。
 また、福島原発事故は世界中を震撼させた事故でもあります。この事故に対して、きちんとした報告書が出て、日本人の矜持(きょうじ)を回復することが出来たのではないか、と感じています。


 -講義内容-

 学生の皆さんには、読み上げなを聞きながら、赤線を引いてもらいました。頁は4,7,8,9P(配布プリント2枚目)です。赤線箇所には【】をつけます。

 4P
「平成 18(2006)年に、耐震基準について安全委員会が旧指針を改訂し、新指針として保安院が、全国の原子力事業者に対して、耐震安全性評価(以下「耐震バックチェック」という)の実施を求めた。
 ①【東電は、最終報告の期限を平成 21(2009)年 6 月と届けていたが、耐震バックチェックは進められず、いつしか社内では平成 28(2016)年 1 月へと先送りされた。東電 及び保安院は、新指針に適合するためには耐震補強工事が必要であることを認識していたにもかかわらず、1 ~ 3 号機については、全く工事を実施していなかった。】保安院は、あくまでも事業者の自主的取り組みであるとし、大幅な遅れを黙認していた。②事故後、東電は、5 号機については目視調査で有意な損傷はなかったとしているが、それをもって 1 ~ 3 号機に地震動による損傷がなかったとは言えない。」

①について
 まず、大飯原発再稼働と同じ構図がある。耐震対策の必要性は認識していたのに先送り。必要性がないのに先送りした責任は、当然清水元社長を始めとする現会長にもあるのに、誰も責任を取らないままである。日本国政府もこの報告書が出たのだから、東京電力の全ての役員等を入れ替えること、東京電力の無条件国有化と、社長の任命をすべきである。それを断るのならば、地域独占や法律による手厚い保護を止めるべきと考える。高い公共性を保持するからこそ、法律によって必ず儲けが出る原発を国民が支えてきたのである。
 大飯原発再稼働のと同じ点は、福島原発事故で大活躍したフィルター付きベント、免震重要棟、津波対策などなどが判っているのに、対策せず先送りしている点である。その大幅な遅れを原子力安全・保安院、原子力委員会、原子力安全委員会が黙認し、野田首相、細野原発事故担当大臣を始めとする国民の選挙によって選ばれた国会議員も黙認している。これは菅元首相の時からである。

②について
 これも当然のことである。20年前の自動車が壊れていないと目で見たから、40年前の自動車も壊れていないはずだ、と見なすのは、誰でも可笑しいと判る。事故予防や事故原因特定の初歩が東京電力には判っていない。東京電力は原発の運転、検査、安全対策などを担ってきたのだから、事故報告書には、そうした技術的な安全、特に本質安全と制御安全に関わる箇所は、非常に短い。
福島原子力事故の社内調査情報:http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/interim/index-j.html
3.本編(PDF 6.74MB):http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120620j0303.pdf

 本編の259-268Pである。そしてこの点を踏まえても、大飯原発再稼働の安全基準に福島原発事故の教訓が生かされた、とは言えないのである。

 4P
「平成 18(2006)年には、福島第一原発の敷地高さを超える津波が来た場合に全電源喪失に至ること、土木学会評価を上回る津波が到来した場合、③【海水ポンプが機能喪失し、炉心損傷に至る危険があることは、保安院と東電の間で認識が共有されていた。保安院は、東電が対応を先延ばししていることを承知していたが、明確な指示を行わなかった。】」

 ③について
つまり、福島原発事故は十分に防げた事故であった。つまり、今回の事故は「人災」と言い切ることができるのである。「認識していなかった」のではなく「認識していて対策を先延ばしした」のである。

 4P
「④【 当委員会の調査の中で、この全交流電源喪失の可能性は考えなくてもよいとの理由を事業者に作文させていたことが判明した。】」

 ④について
 この点だけでも国会事故調は誇るべき仕事をしていると感じました。期末テストを学生に作らせた、大学教員はどうなるのでしょうか? 当然、その学生はテストで満点が取れます。そういうことをしていた、のです。

 4P
「⑤IAEA〈国際原子力機関〉では 5 層まで考慮されている)について、日本は 5 層のうちの 3 層までしか対応
できていないことを認識しながら、黙認してきたことも判明した。」

 ⑤は講義で幾人かの学生が調べてきてくれました点です。学生の何人かはこの点まで到達していてじっくりと調べてくれたのです。素晴らしいです。高木は、日本独自の基準が悪いとは考えません。むしろ技術の自主独立のために重要であると考えます。しかし、3層までで不完全であったことが福島原発事故で判明したのですから、対策を取るべきと考えます。その対策を、どうして関西電力は大飯原発再稼働では示さないのでしょうか。エネルギーが足りないのならば、

 「来年まではリスクがありますが稼働します。しかし、将来の目標はこの安全基準です」

とどうして示さないのでしょうか。自動車のリコールは求められる基準よりも高い基準を民間会社が示してリコールする例も多々あります。それが国民の生命財産を守る社会的使命として、経済的な損益を出しながら実行しているのです。他の業種業界でも成熟してくるとそのような社会的使命が出てきます。電力会社はむしろ政府に先んじて十分に安全性を確保できる基準を国民に示すべきではないでしょうか。原発は火力発電や水力発電よりも莫大に儲かり、国民から電気料金を一方的に取れる立場なのですから、長期の経営を考えた場合、電力会社が自主的に高い安全基準を提示することは最も利益に適うと考えます。
 この点でも、東京電力を始めとする電力会社の経営陣は経営判断を誤っている、と考えます。

 4P
「⑥米国では 9.11 以降に B.5.bに示された新たな対策が講じられたが、この情報は保安院にとどめられてしまった。」

 ⑥について
 経済産業省の官僚が原子力発電の推進に関わっているのは当然ですが、組織的問題を発生させた責任も、この点からも明らかです。保安院は9.11以降のテロ対策のために作られた側面があるのに、その情報を内部で隠してしまい、結果的にテロ対策が不完全になってしまいました。

 7P
「⑦総理によって東電の全員撤退が阻止されたと理解することはできない。重要なのは時の総理の個人の能力、判断に依存するのではなく、国民の安全を守ることのできる危機管理の仕組みを構築することである。」

 ⑦について
事故調査とは、誰かの罰や罪を探すことではなく、つまり善悪ではなく、事故原因を調査することであり、再発防止策に繋げることにある。ここでも、菅元首相の主張などを否定しつつ、罪で断罪することなく、再発防止の組織作りを提言している点が、この国会事故調の優れた点である。

 7P
「⑧放射線の急性障害はしきい値があるとされているが、低線量被ばくによる晩発障害はしきい値がなく、リスクは線量に比例して増えることが国際的に合意されている。年齢、個人の放射線感受性、放射線量によってその影響は変わる。また未解明の部分も残る。」

 ⑧について
高木の今年度の講義は、「原発事故」を扱ってきたが、「放射性物質による汚染」は扱って来なかった。昨年度は、荒茶やシイタケなどの問題を扱い、国際基準と比較したが。その理由は、「放射性物質による汚染」の本を読むと「100mSvまで安全です」から「ちょっとでも危険です」まで幅広い。それぞれの本を読むと納得するが、反対の本を読むと同じく納得する。長期的なデータがないことから、本年度は、この「急性障害にはしきい値があり、晩発障害=中年や老人に発症するガンなどには、しきい値がない」を取らせてもらいます。また、「国際的に合意」という言葉にも注目して下さい。放射性物質による汚染は物理反応の世界で、「合意」は自然科学的データが無いことを示しています。本文もその後、「また未解明の部分も残る」で結ばれています。昨年度も書きましたが、福島原発事故の教訓は、この長期的な低線量被曝が晩発障害にしきい値があるかないか、の統計かもしれません。大変傷(いた)ましいことですが。

 7P
「⑨今後、どのように自己管理をしていかなければならないのかといった判断をするために、住民が必要とする情報を示していない。」

 ⑨について
情報の問題は、ここでも指摘されています。日本国民を守るため、日本国民に奉仕するための公務員であるにも関わらず、保持している情報を提示しませんでした。スピーディを始めとして、多くの点で不十分です。また、国民の知る権利を実現するマスコミが、福島原発事故関係では酷い有様でした。御用学者の原発推進派の学者だけを出したり、自然科学的に中学生でもわかるミスを犯した大学の先生を出し続けたり、自分たちは50キロ圏内に入らず、福島原発事故構内に入ったのが、事故から1年以上過ぎてからでした。国民の最大の関心と最大の不安を感じていた時には、内部に入らなかったのです。
 それゆえ、日本国民はTVや新聞が主であったのに、インターネット上のブログや映像、動画などを主にする人が大分増えました。日本国のマスコミは、電力業界と同じくアメリカ支配のために構築されていき、特にTV放送はソ連に対抗するために作られてきた歴史的経緯があります。それゆえ、電力業界と同じく既得権益になり、国民の利益=技術者倫理では「公衆の福利」を実現するよりも、自分たちの保身や既得権の確保が最優先されています。常時はそれでも良いかもしれませんが、緊急時、しかも福島原発事故という世界を震撼させた事故でも、保身や既得権を優先させてしまいました。福島原発事故当時、よく言われたのは「海外のニュースと日本のニュースは全然違う」でした。日本国民の亡骸(なきがら)を少しでも傷つけないように、とショベルカーなどを使わず、薄い手袋と棒などで捜索してくれた自衛隊の映像の量が、多くを占めた海外のニュースと、米ソ冷戦構造で自衛隊をタブー視した日本のニュースでは決定的に違いました。

 日本国民が自分の肉体を傷つけても日本国民を守る、という尊敬すべき姿を流さず、被害ばかりを報じました。
 次に、被害が飽きられると自衛隊抜きの美談ばかりを流し続けました。

 これも敗戦後のアメリカ支配と日本社会の既得権という問題なのです。マスコミは東京電力や経済産業省を批判しますが、マスコミも同じ病根を持っています。同時に、私を始めとして日本国民もその違いについて声を挙げず、脱原発運動でも地元の政治家の後援会事務所にメールも電話も寄せません。大津のいじめの事件に非難の電話が鳴り続けているそうですが、福島県では今も苦しんでいる人々がいます。しかし、政治タブーは国民の中に根深く巣食っているのです。同じ病根を持っています。もちろん、独占と高い公共性と法的保護を受けている電力会社、国民の知る権利を任され高い報酬を公共性を任せられているマスコミは、さらに責任があると考えます。

 長くなり、4,7Pが終わりましたので、次に8,9Pを行きます。
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