講義録13-4 チャレンジャー事故に見る再発防止策成功

 次は、チャレンジャー事故に見る再発防止策成功です。

 配布プリント 2枚目(表)『失敗百選 : 41の原因から未来の失敗を予測する』 90~93P を参照します。

 中尾先生は、技術者倫理で最も有名な事故事例の1つであるチャレンジャー事故を、通例とは違う事故原因と述べています。「今はエンジニアの帽子を脱いで経営者の暴威をかぶるときだ」と言う台詞からの解釈ではなく、「実際は不安全を看破するだけの論証をもっていなかったのである」と捉え、その根拠として、「事故以前に耐圧実験や使用品回収検査でOリングがシールせずにガスの吹き抜けが生じることを、会社(サイオコールシャ社)もNASAも知っていた」や「当日の気温(-2度)よりも低い-7度でもゴムに十分に弾性があるデータが示されていた」などを挙げる。そしてその原因を、「高分子材料」への設計者の知識不足とする。

 「プラスチックやゴムのような高分子の有機材料は、金属材料や無機材料に比べると、機会設計者にとって設計で御しがたい材料である」

 と述べる。その論拠として「製造メーカや製造ロットによって微妙に末端基や分子量が異なり、結果的に機械強度が異なり、耐食性や耐熱性でも大きく異なってくる。高分子材料は歴史がたかだか50年と短く、データが不足していることが主因であるが、機会設計者が有機化学を理解していないというのも背因(背景要因)である」と述べている。

 シナリオと説明による事故原因の経緯が判り易く素晴らしい内容であることを確認できるので是非一読頂きたい。その上で、チャレンジャー事故は再発防止成功の一例として見ることが出来る。

「Oリングをもう一本増して冗長性で安全を保障したのである。…(中略)…その後もスペースシャトルの打ち上げは20年に渡って100回以上成功を続け、ようやくコロンビア号の事故によって次機種へと全面的な設計変更はマじまったのである。」

 と中尾先生はまとめる。

 このように講義の最初で述べてきた「冗長性」と「チャレンジャー事故」は結び付く。学生の皆さんの中に、「Oリングを増やす」という回答があり驚いたのを覚えている。技術者の発想、特に再発防止の発想が出来ていた、と感心していた。

 さて、同じように、チャレンジャー事故ではなく原発を事例として技術者倫理の概念を当てはめて具体的に検討していきたい。

 問3 大飯原発再稼働が許容可能であると論じなさい
 
 問4 大飯原発再稼働が許容可能でないと論じなさい

 「許容可能」とは、「許容可能なリスク」であるという意味である。ポイントは以下の通り

①「許容可能」とは、「予見可能な誤用が防がれている」という意味 

②「リスク」とは、「リスク=最悪のケース×その確率」で計算される

 福島原発事故を技術者倫理から捉えると、次のことが判ってくる。

①では、予見可能な誤用がはっきりとした。
 →「推進ばかり考えるなどの不備がある組織は、予見可能な誤用を防げない」
 →「安全対策を取らない。勝手に遅らせるのは、予見可能な誤用である」

②では、最悪のケースがはっきりした
 →「最悪のケースでは、福島原発事故よりもさらに酷くなる」
 →「最悪のケースではないが、福島原発事故の事故災害は20兆円と10万人以上に影響を与える」

 です。では、大飯原発の再稼働をする安全基準が、①と②を踏まえているでしょうか?
 大飯原発再稼働について詳しくは、「講義録11 大飯原発再稼動の安全基準」~「講義録11-4 安全基準の構造的問題」を参照して下さい。

 ポイントは、以下の通りです。

A) 「電気が足りない」や「電気代が上がる」などの理由は、「許容可能」とは関係がない。:政治的理由や経済的理由と技術的理由を混同しない

B) 国際基準(IAEA)に合わせるのか、日本独自の基準で良いのか :日本だけが安全対策を取らなかったから被害が拡大しました。特に今回のような「過酷事故対策」を手抜きしました。

C)福島原発事故の教訓が生かされていない点がある、活かされている点があること :詳しくは以下に。

 以上の3点です。C)について要点だけ述べます。

 教訓が生かされていない点

C)-1 福島原発より危険な点 福島原発事故後に大活躍している免震重要棟やオフサイトセンターやフィルター付きベントがない

C)-2 福島原発と同じな点  過酷事故時に活躍するオートバイやヨウ素剤などを配布していない。同じく、避難計画がない。同じく、津波対策が来年以降になる

 教訓が生かされている点

C)-3 福島絵原発より安全な点 非常用電源の確保。同じく冷却系の充実。

 以上の視点を参考にしながら回答してくれました。このように、技術者倫理で大切にしている「再発防止」という視点からすると、大飯原発再稼働は完全である、とは言い難いものです。もちろん、全く不完全である、とも言い難いものです。さらに、これに三陸沖という100年に1回程度、津波や大災害に見舞われてきた地域と、津波の確率が低い福井県の敦賀湾の差などなどを考慮する必要も出てきます。実際には、非常に複雑です。それを見つめていきためにも、視点を技術者倫理に絞って見てみることが必要だと考えます。

 補足をします。福島原発事故の問題は、マスコミの情報の垂れ流し、や勉強不足や情報操作などの問題も表面化しました。このブログは1週遅れの平成24年7月14日に書いています。今朝の朝刊には、「大飯原発3号機停止の訴えの脱原発デモ」が、小さな記事で載っています。一面トップで良いと思うのですが、以下の新聞で比較してみましょう。
 平成24年7月14日土曜日 一部要約、意訳してあります。

          産経新聞

一面トップ :集団的自衛権の容認急務                 
      :国内の心臓移植を救い基金(産経新聞社提唱)
      :九州豪雨死者20人に
      :ロンドンオリンピック開幕まで2週間「敵は大雨」
      :コラム
脱原発デモ :12面に3段、地図付き(社会)

          日本経済新聞

一面トップ:発送電分離へ2方式                    
     :高速ツアーバス値上げ                  
     :LIBOR仕組みに問題
     :コラム

脱原発デモ:なし(見当たらず)
韓国労組スト:14版に7段、写真付き(国際1)

          静岡新聞

一面トップ:家庭向け電力自由化
     :政府機能 地方で代替
     :本社碁聖戦で連勝(静岡新聞社ほか主催)
     :中2男子自殺 
     :5キロ圏外移転要望 オフサイトセンター 保安院、県など対象(さっき書いたことが偶然に)
     :九州豪雨
     :コラム

脱原発デモ:3面に2段+野田総理のコメント訂正記事2段、写真付き(総合 B)

 一番長い産経新聞から2点、引用してコメントします。

・参加者「警察:2万人 主催者:15万人」 

:昔、日本プロ野球や大相撲や数々のデモなどで数字を割り増しする、ということがありました。これは大東亜戦争時もあり、基本となる数字を誤魔化すことで実態を誰も把握できなくなる、ということがありました。今でも、敗戦後の既得権益が残っているのでしょうか。

・記事「特定の団体が中心になって行う組織的デモとは異なり、規模を事前に予想することも難しく・・・」

:最小2万人としても、特定の団体が主催しないデモでこれだけの日本国民が集まったのです。これは敗戦後の「政治には口を出さない」や「政治はタブー」としてきた日本人が変わりつつある、という点で画期的なデモ、と捉えます。しかし、このような小さな扱いです。

・記事「これまでに中核派や革マルの活動家も数10人から200人レベルで、一般参加者に交じって確認されている」

:現在もこうした米ソ冷戦構造の残り香がある、ということです。っそいてそれが200人以下、という点に1つの希望を感じました。1960年~1970年代に掛けての学生運動は、もっと大規模であったはずです。そしてそれが米ソの冷戦構造を背景にした運動だったのです。これだけ縮小しており、脱原発デモが政治色が以下に少なくなっているか、の傍証の1つになるでしょう。高木は、大飯原発再稼働問題は、技術的理由ではなく政治的理由による、と主張しています。それに対して、敗戦後の政治的理由や、現在の政治的理由に利用されていない(少なくとも1次的には)、という点に希望を見出します。

 以上が、チャレンジャー事故に見る再発防止策成功、です。

 最後に、問5をくっつけて終わります。

 問5 原子力発電を「公衆の福利」から観た場合、日本国の良かった点、悪かった点、電力会社の良かった点、悪かった点、国民の良かった点、悪かった点をそれぞれ挙げなさい

 高木の解答例

 日本国
良かった点:アメリカに従って経済繁栄の一因となった
悪かった点:技術発展する自主開発を放棄した

 電力会社
良かった点:電力の安定供給
悪かった点:安全対策を先送りした

 国民
良かった点:国際政治や国内政治を見ないことで経済繁栄を支えた
悪かった点:公平性を欠いた立場を取ったり地域の発展差別を良しとし

 この解答は書きつくせぬでしょうし、色々な内容があるでしょう。ただ、「公衆の福利」という技術者倫理の視点で問題を整理していくのが大切であると考えます。また、電力会社の良かった点に「電気代が安くなる」が多かったので、次回の講義内容を変更します。

 次は学生コメント集です。
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