講義録13-3 原子力船「むつ」に見る未来への教訓-日本の原子力政策の根本問題-

 次は、原子力船「むつ」に見る日本の原子力政策の根本問題です。高速増殖炉もんじゅ、も同じ問題を持ちます。

 原子力船「むつ」については、 
 配布プリント 1枚目(裏) 『失敗百選 : 41の原因から未来の失敗を予測する』338,339Pを参照します。

 原子力船「むつ」は、63年の基本計画策定から92年の実験終了まで、29年と1200億円を投入しました。中尾先生は、以下のようにまとめています。

 「自分の信じた道を貫くことよりも、自分の信じた道を否定するほうが何倍も難しい。原子力船開発に費やした、29年の月日と1200億円の開発に値することを得られたのなら良いのだか」

 かなり厳しいまとめです。「良いのだが」というのは反語ですから、「何も得られなかった」と言っています。つまり、29年と1200億円は無駄だった、と。後半部分に具体的説明があります。

 「原子動力の貨物船は、開発当時は魅力的であったが、完成した頃は各国でも安全性が確保できず、研究意欲は下火になっていた。しかし、日本の開発は慣性力が働き、容易に止まらない。社会の制約条件が変化したのに企画が変更できない、という意味で、企画の失敗である。」

 つまり、日本は「1度決めたことを変えられない」というのです。「企画変更のの不作為」であり、で色々な損失を生んでいると述べています。

 この講義の「公平さ」から眺めてみましょう。つまり、原子力船「むつ」を出来るだけ肯定するのです。
 まず、得られたことは、(→(高木の意見)です)

・放射線漏れを防ぐことは船舶において難しい →原子力潜水艦はどのようにしているのでしょうか?
・放射線漏れの研究をすることで原子力潜水艦を潜在的に保有する技術が得られる。→原子力発電を国策にした意義と同じ
・1991年、4.2kgのウランで82000km航行 →一応の成果
・放射線漏れのデータは貴重な自然科学のデータであり、対策は技術的価値のあるデータ

 以上のように肯定してみました。
 
 高木は中尾先生と同じく、企画変更の不作為があると考えます。その根本原因として、

①講義録12-1 敗戦後の国際政治と原子力発電
②講義録12-2 アメリカ支配により固定化した日本組織

 を挙げてています。この線に沿って説明していくと、「高速増殖原型炉もんじゅ」が浮かび上がってきます。
日本原子力研究開発機構:http://www.jaea.go.jp/04/monju/index.html

 このHPによると、1967年(昭和42) 動力炉・核燃料開発事業団設立です。原子力船「むつ」が63年ですから、4年後です。「2次冷却系事故原因究明」と特設ページがあるので見てみます。
http://www.jaea.go.jp/04/monju/category05/mj_cause/cause.html

 特に興味がひかれるのは、3つの項目の一番下「ナトリウム漏えい事故時の写真」です。福島原発事故後、原子炉内の写真は殆ど公開されていませんが、「もんじゅ」は事故写真と対策を取った後の写真が、バッチリ公開されています。是非とも見てみて下さい。色々なことが思い浮かぶでしょう。

 91年に成功した原子力船「むつ」は翌92年に実験終了しました。対して、「もんじゅ」は95年「ナトリウム漏えい事故」を起こしましたが、それによって「事故への対応の遅れや動力炉・核燃料開発事業団(当時)による事故隠し」が明らかになりました。

 「むつ」も「もんじゅ」も、開発当時は魅力的でしたが、完成した頃は各国でも安全性が確保できずに、研究意欲が低下している状況、という点が共通しています。そして、もう1度中尾先生の言葉を「もんじゅ」に当てはめてみましょう。

 「しかし、日本の開発は慣性力が働き、容易に止まらない。社会の制約条件が変化したのに企画が変更できない、という意味で、企画の失敗である。」

 現在の状況は、「もんじゅ」は運転再開にこぎつけましたが、作業員のミスや情報隠しなどが指摘される中(指摘だけです)、継装置落下事故が起こり、再開の目処が経っていません。事故が無かった場合、原子力委員会(2006年)は、高速増殖炉の2050年からの商業ベースでの導入を目指す、としていました。

 よく考えてみて下さい。「もんじゅ」の導入計画が、1967年で商業ベースとなるのが、2050年です。
 
 その間に、どれだけの損が出ているのでしょうか? 

 吉岡斉先生が『原発と日本の未来』で述べているのを意訳しますと、「国策で採算を無視しないと出来ない日本の原子力政策と原発である。その内、原発は民間会社に任せるべきだ」となります。

 この点が、「むつ」と「もんじゅ」の根本原因で共通しているのです。

 つまり、「採算を無視してやっているのに、採算を取ろうと辻褄合わせをする」というウソを続けている。

 日本では軍事利用は許されません。
ただし註すべき点があります。平成24年6月22日の原子力基本法改正で「…我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。」が入りました。第2条1項を読むと「原子力利用は、平和の目的に限り…」とあります。「安全保障」とは本来は、軍事に使用される言葉であります。組織改正が行われたので規則も変更されるという理由も加味して考えなければなりませんが、「軍事利用」の可能性が潜んでいることも確かです。

 さて、「もんじゅ」に戻りましょう。

 「もんじゅ」は、核兵器に利用可能なプルトニウムが生産されます。
 「もんじゅ」は、核保有国以外は日本だけが推進しています。
 
 これに先ほどの、

 「もんじゅ」は、開発期間80年で商業ベースに乗ります。

 を合わせて考えてみましょう。どのような民間会社が、開発期間80年かかる発電施設、しかも資金は何十兆円かかるか判るか分からない発電施設を作るでしょうか?

 これは明らかに、企画変更の不作為だと考えます。吉岡先生の言うように、アメリカ支配を受け入れてた日本は、戦闘機開発を破棄され、自主発電も放棄、数々の支配を受け入れてきました。敗戦前に核兵器を開発していた日本の技術はアメリカに奪われました。その中で、

 「もう1度核兵器開発をして、潜在的な核保有国になる」

 という開発は当初は魅力的でした。しかし、冷戦構造が崩壊しするなど社会の制約条件が変わっても、企画変更が出来ないでいるのです。

 高木は、中曽根康弘氏や正力松太郎氏のように原子力発電を導入してきた人々を非難したいのではありません。開発当時は米ソ冷戦構造の中で日本を豊かにするために必要な政策(代替案を考えろ、というのは当時の状況をもう少し考えなければならないと思います)であった、と考えます。その上で、原子力船「むつ」のように社会の制約上限が変化したのに企画が変更できない、という日本の組織の問題が、現在の原子力政策全体にあると考えます。原子力発電もその1つです。
 
 原子力船「むつ」は企画変更されました。高速増殖炉「もんじゅ」や原発全体を、トレード・オフやリスクトレード・オフ、リスクヘッジなどで見直すという議論が必要ではないでしょうか。

 同時に、日本の核兵器開発という軍事利用も検討すべきではないでしょうか。
 日本だけが20年前に終わった米ソ冷戦構造のゆがみを見直せないでいます。ゆがみは以下の通りです。

・核開発に平和利用と軍事利用は分けられない →分けたのはアメリカが日本の反米感情をやわらげるため

・非核三原則は現実を見ないようにする巧妙なウソ →「ソ連の核兵器は良い核兵器でアメリカの核兵器は悪い核兵器」などという自然科学に基づかない立場から非核三原則を守ろうとするのは、米ソ冷戦構造の残りである。

 ですから、以下のように提案します。

☆もし今後も続けるのならば、「もんじゅ」の核開発は潜在的な核保有のためであると法律を改正しましょう。

☆原子力発電も同じく、潜在的な核保有のためであるから資金が余分に掛かると、宣言しましょう。

 その上で、企画変更を経済、軍事、国民の選択、安全保障などの観点から検討していく、のが大切ではないでしょうか。原子力船「むつ」が教えてくれることは、もしかしたら、この教訓があるのかもしれません。確かに開発費1200億円と29年の歳月は得るものが少なかったかもしれませんが、このような未来に向けた教訓を引き出せる恰好の事例ではないでしょうか。

 次は、チャレンジャー事故のその後と再発防止策の成功例です。


 


 

 
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