講義録11-3 大飯原発再稼動の安全基準 -ストレステストと福島原発事故-

 次に、大飯原発再稼動の安全基準における「ストレステストと福島原発事故」です。

 この問題は大変根深くて、同時に広がりのある問題です。どこまで語っても語っても尽きないくらい広い問題です。次の講義、もう本日(6月26日)になってしまいましたが、社会背景の軍事から講義録12で論じることにします。

 さて、肯定側の1次データを使って、さらに検討を重ねていきます。

 1枚目(裏)、「発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価(一次評価)に係る報告書の提出について(関西電力株式会社大飯発電所3号機)」資料の「添付資料1-1」と「添付資料1-2」です。

 「「添付資料1-1」2.ストレステストとは」の5行目に

「 評価には1次評価と2次評価があり、1次評価とは、定期検査で止まっている発電所の運転再開の可否を、二次評価とは、運転中の発電所を含めて全ての発電所の運転継続の判断のために実施するものです」

 とあります。どうでしょうか?私は最初にこの文章を読んだ時に目を疑いました。

1次評価⇒定期検査の運転再開

2次評価⇒全ての運転継続の判断

 福島原発事故で原発災害が確率的リスクから確定的リスクに変化して全ての原子炉が停止しました。必要なのは、2次評価なのではないでしょうか? しかし、現在は、「1次評価のみで運転再開を決定した」のですから、福島原発事故災害を踏まえていない、のは誰の目にも明らかです。どうして、上の文章が知られないのでしょう。マスコミの報道の問題なのでしょうか? それとも国民の問題なのでしょうか?

☆ストレステストは1次評価と2次評価がある。

☆運転継続の判断は2次評価であるが、未だに提出されていない。しかし、運転継続は安全である、と判断している。 ⇒福島原発事故を踏まえていない(無かったことになっている)

 続けて一時評価結果概要に行きます。文章は意訳します。[]内は引用箇所です。

「地震」の項目、

[約1.80倍(1260gal:柏崎刈谷では2000galを超えた箇所有り)を超える地震に対しては全ての冷却手段が喪失するとの評価結果となったが…]

 はっきりとリスクが書いてあります。この場合、講義録11-2で述べたように蓄電池5時間だけになるリスクがあります。1260gal(galは地震の大きさを表す単位 物が落下するのが980gal)で他の冷却装置が壊れないか、あるいはその冗長性(2つ以上の選択できる機能があること)が大切です。これで安全基準を満たしているのでしょうか。
 さらに、高電圧用開閉装置の耐震性が確認範囲の上限とあり、今後の研究で正確に把握する、とあります。この点に「過酷事故を考えなくてよい」というこれまでの姿勢が読み取れるようです。

「津波」の項目

[約4倍(11.4m)を超える津波の高さに対しては、全ての冷却手段が喪失するとの評価結果となったが、今後、建屋への浸水防止効果を維持していくため保守点検を確実に実施すると共に、順次水密扉への取替えを行い、さらに信頼性を高めていくことにしている。]

 この文章も目を疑いました、最初。まず、「11.4m」を超えると全ての冷却手段が喪失するのです。福島原発事故は15mを超えています。浜岡原発の予想される津波は「11.4m」を超えています。どうして、大飯原発だけが、この状態で安全と言えるのでしょうか? この点も福島原発事故を踏まえていません。

☆「11.4m」で全ての冷却手段が喪失する ⇒津波の高さ対策が不十分である

 さらに、驚くのは「浸水防止効果を維持していくために保守点検を」です。
 福島原発事故の津波は、浸水ではありません。建物を一気に破壊する力を持っているのです。しかし、それが「保守点検」で安全が確保されるのでしょうか? 空から爆弾が落ちてくる時、皆さんの家では、「保守点検」をすれば安全が確保されるのでしょうか? それは夢物語でしかありません。少なくとも、技術者倫理で求められる本質安全が全く確保されていません。
 さらに、「順次水密扉への取替えを行い」です。現在でも「水密扉」ではないのです。建屋の中に津波が水だけでも入り込む可能性が書いてあるのです。原子炉の中の「全ての機器、配管等々は全て耐水性」なのでしょうか?

 どうして海辺に原発を作って、せめて原子炉建屋だけでも水密扉にしなかったのでしょうか?

☆現在も浸水防止効果の完全でない原子炉建屋でも安全 ⇒浸水防止効果が不十分である

☆海辺なのに水密扉ではない原子炉が安全である ⇒本質的な安全設計が出来ていない

 以上のような点で、ストレステストは安全基準を満たしているとは言い難いと考えます。

ただし、「電源確保の対応状況」と「水源確保の対応状況」の項目でソフト対策とし体制の確立や訓練の実施が行われています。上記に述べた本質安全は欠陥がありますが、制御安全は対策が取られています。この点について高木は、講義録「「技術倫理」から「関西電力大飯原子力発電所3、4号機の再稼働を決定」を考える」
http://takagikenziro.blog.fc2.com/blog-entry-149.html
  
 で
「福島原発事故の事故原因の特定がされていないのが明らかです。細かい点を述べますと、A)全電源喪失時の訓練を行っているのか? B)電源車配備の手順と作業員の配置場所、常時予備の作業員はどのようになっているのか? などがあります。そして決定的なのは、」
 と書いています。この点、高木の資料読み込み不足でした。お詫びと合わせて訂正致します。本文にも平成24年6月26日午前1時42分記入しました。

 以上がストレステストの問題です。

 次に、ストレステストと福島原発事故です。

 まず、肯定側の原子力安全・保安院のデータを使うと、安全確保となっています。ただし、ストレステストは2次評価まであり、その1次評価しか出ていない、という根本的な欠陥はあります。この欠陥を補ったのが、日本国政府の野田総理です。

 次に、否定側から原子力安全・保安院のデータを使うと、以下の点が福島原発事故を踏まえていません。講義録11-1の分は抜きます。

①福島原発事故で大活躍している免新重要等がない

②福島原発事故で備え付けられていたベントがない

③津波を弱めた堤防と原子炉の間の設備がない

④福島原子力事故災害が30kmに及ぶのに防災指針が決まっていない(避難訓練やヨウ素剤配布がされていない)

 以上の4点が、福島原発事故後に判明した事実を無視して、「安全である」と述べている大飯原発再稼働の安全基準です。

 この4点が大飯原発再稼働の安全基準に入っておらず、政治的理由で再稼働が決まったのです。この辺りの「政治的理由」は次の「講義録11-4 安全基準の構造的問題」で述べます。

 この4点は、高木独自の解釈ではなく、多くの新聞などでも書かれています。原発事故のニュースは多すぎますし、整理されていない情報が垂れながされ、専門用語も多いので、しかも本も沢山出ているので、消化不良になっていると見つけにくいですが、専門の記者を置いている新聞などでは書いてあります。そこで引用したのが、

2枚目(裏):「原発運転再開 安全上の課題は」6月16日 15時49分 -NHK NEWSWEB-
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120616/k10015877341000.html

 です。対策完成年度も書いてあります。

平成27年完成←①福島原発事故で大活躍している免新重要等がない

平成27年完成←②福島原発事故で備え付けられていたベントがない

平成25年完成←③津波を弱めた堤防と原子炉の間の設備がない
 :堤防を5mから7mにする工事

見通し立たず←④福島原子力事故災害が30kmに及ぶのに防災指針が決まっていない(避難訓練やヨウ素剤配布がされていない

 さらに、書かれているのは、

見通し立たず←⑤ストレステストの提出を関西電力が「作業量が多い」ので提出していない

見通し立たず←⑥原発の外で原発災害の中心となるオフサイトセンターの設置場所

 福島原発事故の教訓の6つを踏まえず、しかも、4つは今後の対応の期限がはっきりしません。(もちろん、教訓を踏まえて冷却水対策と非常用電源対策は取られました。)

 NHK NEWSWEBには担当記者名がありませんでしたが、「福島第一原発の事故を踏まえた長期間かかる原発の安全対策は先送りされているほか、住民の避難計画といった重要な防災対策は道半ばです」と冒頭に書かれています。終わりには、

「このため自治体からは、国が自治体との調整を進め、早急に具体的な仕組みを作るべきだとして不満の声が上がっています。」

 とあります。

 高木は「NHK WEBNEWS」の記事とは異なる立場をとります。

壱)「NHK WEBNEWS」の記事とは異なる立場-壱-大飯原発以外のさらに安全な原発を探すべき

 「ベント」は日本の原発の中でついている発電所があります。ですから、技術的安全から考えるなら大飯原発である理由が、見当たりません。「ベント」は放射性物質を外気、つまり、福井県や琵琶湖などにまき散らす際に、放射性物質を軽減させるフィルターのことです。この「ベント」がなければ、福島原発事故と同じように直接、排出しなければならなくなります。他方、肯定側は、原子炉から蒸気を通しての外気(大気)へ放出する設備がある、としますが、原子炉格納容器と蒸気を外気に放出する管の耐震性や管の厚さなどはどのようになっているのか不安です。
 本質安全ではない点が技術的安全が低い、と考えられます。というのも、「蒸気が外気に放出できる」という制御が成り立った上で、原子炉内の圧力が一定に保てる、という本質安全が確保できるからです。比較すると以下のようになります。

安全性が低い:制御安全が成り立った上で支えられる本質安全=蒸気による外気への放射性物質放出

安全性が高い:本質安全=原子炉から直接外気への放射性物質放出

 なのです。

弐)「NHK WEBNEWS」の記事とは異なる立場-弐- 安全対策は道半ばではなく、不十分

 自治体と同じく、オフサイトセンターの設置場所の決定は直ぐに出来ると考えます。細野原発事故担当大臣の仕事ではなく、野田首相と経済産業省のトップ枝野大臣の仕事だと思います。

 例えば、小学校の夏休み明けに、防災訓練をしたと思います。一部イメージ化しています。日本国政府が言っているのは、

 「火事が起こっても、どこに逃げていいか決めていない」けど「安全」です。…④
 「火事ための防災訓練をしていないけど、「安全」です」…④

 高木は、こうした校長先生がいたら、教育委員会や子供の親に怒られると思います。さらに、

 「火事が起こった場合どうなるか、考えているけれど検査に忙しいからまだです」けど「安全」です。…⑤
 「火事が起こっても消防員さんが作業できない」けれど「安全」です。…①
 「火事が起こって周りに火の粉が飛ばないようにしない」けど「安全」です。…②
 「火事が起こって燃えにくいと判った素材を入れていない」けど「安全」です。…③

 ということです。「安全」です、と信じて下さい、と言われました。原発になると問題が複雑になりますが、この事例だと解りやすいのではないでしょうか。もちろん、火事は燃えたら終わりですが、放射性物質は長い間、その土地に留まります。

 高木は、以上のような指摘から、大飯原発再稼動の安全基準は、技術的安全ではなく政治的理由から採択された、と考えます。

 ただし、だから、「野田首相が悪い、やめろ」や「枝野経済産業大臣が悪い、とんでもない」と主張しません。もちろん、政治的責任はあります。しかし、そのように、個人攻撃、個別の政党攻撃をしても、この原子力発電の根幹の問題が変えられないからです。むしろ、個人攻撃や個別の政党攻撃によって、原発の根幹の問題が残り続けてきた、というのが歴史的な事実ではないでしょうか。原子力政策を進めてきたのは自由民主党です。マスコミでは、読売新聞や、同じ系列の日本テレビなどが協力したのです。そして敗戦後に日本の根幹の問題でもあります。
 福島原発事故を起こした、あるいは安全事故対策を怠った東京電力の責任はあります。しかし、東京電力だけを攻撃しても、本当に問題は見えて来ませんし、今後の、再発防止策も出来ません。

 大飯原発再稼働の安全基準が、政治的理由で安全と判断されたことは、

 「技術的安全が蔑(ないが)ろにされ、政治的理由で製造物の再発防止策が蔑ろにされてしまったのです」

 ですから、

 「政治的理由(社会背景)を理解しないと、技術的安全が確保できず、技術者倫理の目的である「公衆の福利」が担保できない」

 と考えます。日本社会全体から観た社会背景と原発の関係は、次の講義録12で述べます。今回は大飯原発再稼働の安全基準に関わる問題に限定します。

 次は、安全基準の構造的問題を述べます。
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