講義録11-2 大飯原発再稼動の安全基準 -福島原発事故原因とその対策-

 やっと、大飯原発再稼動の安全基準です。

 1枚目表について述べていきます。1枚目裏は次の講義録11-3です。

 まず、講義録11-1で述べた要点を書き出します。

①主張の前提となる事実に客観性を求めること
 ①-A)まず、1次データ(資料)と2次データの違い
 ①-B) 1次データを読み取るためのデータ

②肯定側と否定側の両方の主張を取り入れること
 ②ーA) 肯定が決定されている場合に否定側からの検討をすること
 ②-B) 肯定側の1次データを使って、否定的な検討をすること
 ②-C) 過去の事故が活かされているか検討すること

 ですから、肯定側の1次データから出発しましょう。その上で、「敢(あ)えて」否定側から論じていきます。さらに、それ以外の①次データを使わないことにします。学生の皆さんの宿題は、素晴らしいものが沢山あり、講義内容よりも詳しく分かりやすいものがありました。来週、紹介します。

 まず、「福島原発事故から得られた知見」が、大飯原発の安全性に関する総合評価の中にありますので(配布プリント1枚目(裏))に書き出してみます。

 「福島第一原子力発電所事故から得られた知見」

地震による影響
 1)地震発生により原子炉は正常に自動停止
 2)地すべりによる送電鉄塔の倒壊等により外部電源が喪失
 3)非常用ディーゼル発電機は全て正常に自動起動
 4)原子炉の冷却に必要な機器は正常に作動

津波による影響
 5)非常用ディーゼル発電機、配電盤、バッテリー等の重要な設備が被水
 6)海水ポンプが損壊し、最終ヒートシンク喪失(原子炉冷却機能喪失)
 7)全交流電源喪失(外部電源と非常用ディーゼル発電機が喪失)

 以上です。分かりやすくするために、1)~7)を割り振りました。 続いて、これらの原因に対する、安全確保対策が書いてあります。

 【安全確保対策】

 7)全交流電源喪失(外部電源と非常用ディーゼル発電機が喪失)    ⇒ 7)-対策) プラント監視をするために必要な電源設備を確保
 6)海水ポンプが損壊し、最終ヒートシンク喪失(原子炉冷却機能喪失) ⇒ 6)-対策) 蒸気発生器への給水設備を確保
 5)重要機器の被水防止                      ⇒ 5)-対策) 建屋の浸水対策を実施

 以上です。7)-対策)、6)-対策)、5)-対策)を分かりやすくするために割り振りました。

 それでは論じていきます。

 まず、1)地震発生により原子炉は正常に自動停止はこれまで述べてきた通りです。次に、 3)非常用ディーゼル発電機は全て正常に自動起動、4)原子炉の冷却に必要な機器は正常に作動、については安全対策が有効であったことを示しています。対して、「なぜ、原子炉が冷えなかったのか?」という疑問に完全に答えることが出来ません。というのも、「津波の想定が甘かった」や「全電源喪失を考えなくてよい」などの人災の面が取り上げられていないからです。この肯定側のデータには入っていませんが、非常用復水器(IC)や高圧注水系(HPCIがあり、津波後も原子炉を制御できていました。それに対する認識不足や代替としての海水注入をためらう、などの人災の面が取り上げられていません。これらの資料は講義で配布しませんでしたが、経済産産業省と独立行政法人 原子力安全基盤機構が示してくれています。

 経済産業省
「Ⅳ.冷却設備について」:http://www.meti.go.jp/press/2011/03/20120328009/20120328009-9.pdf

 独立行政法人 原子力安全基盤機構
「福島第一原子力発電所1号機」:http://www.nisa.meti.go.jp/shingikai/800/25/005/231209-3-2.pdf

 以上の点で、不足がある、と言わざるを得ません。「福島第一原子力発電所事故から得られた知見」だけでは、福島原発事故の再発防止策が十分とは言えないのです。

 しかし、それでも肯定側の1次データを使って検討していきましょう。

2)地すべりによる送電鉄塔の倒壊等により外部電源が喪失 ⇒ 2)-対策 なし
 
 が根本的問題の1つです。2007年の新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原子力発電所の3号機すぐ横の変圧器から出火しました。これは、外部電源の耐震性が欠如していることを示しています。福島原発事故でも同じ指摘がされています。しかし、この対策が、大飯原発再稼動の【安全確保対策】に入っていないのです。根本的な欠陥です。ただし、外部電源喪失後、でも非常用電源があるから対策が取られている、と解釈出来なくもありません。しかし、これはあくまで制御安全であり、本質安全ではありません。技術者倫理では、本質安全が制御安全に優先するのです。それゆえ、

☆ 2)地すべりによる送電鉄塔の倒壊等により外部電源が喪失 ⇒対策なし :柏崎刈羽原子力発電所事故と福島原子力発電所事故の教訓を活かしていない 

 となります。
 

 次に、非常用電源対策にいきましょう。

 7)全交流電源喪失(外部電源と非常用ディーゼル発電機が喪失)    ⇒ 7)-対策) プラント監視をするために必要な電源設備を確保

 です。1枚目(表)に「全交流電源喪失(基本シナリオ)」と「全交流電源喪失(地震・津波の重畳)」の図10-5 地震・津波の重畳時の原子炉(原子炉運転中)の冷却継続時間の評価、があります。

 問1 この図をみて、リスクがある箇所に赤丸をしなさい

 と学生の皆さんに考えてもらいました。宿題で大飯原発再稼動の安全基準について出していましたから、どの程度、1次データに当たったか、1次データや2次データが自分の頭の中で整理されているか、などが自覚できるように、との意味も込めました。

 リスクを示した赤丸をした箇所と軽く解説をつけます。図は以下のアドレスです。合わせて見てくださると分かりやすくなります。
 http://www.meti.go.jp/press/2011/02/20120213001/20120213001-3.pdf の152P

 「全交流電源喪失(基本シナリオ)」:柏崎刈羽原子力発電所事故など

・蓄電池5時間:地震によるガソリンの喪失があれば、5時間しか持たない、というリスクがある。
・空冷式非常用発電装置:1つしかなく冗長性がない。つまり、2つ以上の確保が無い。
            (ただし、台数は8台あり、他の電源について先ほどの【安全確保対策】の次に書いてある)
・復水ピット5時間:津波や地震で原子炉が守られても回りの設備が破壊された場合は、5時間しかもたない。
・海水※1:消防ポンプを使用した場合、ガソリンがなくなっているので、使えない。

 高木の考え:リスクが全くゼロ=工学的安全ではないので、ゼロを目指すことは出来ない。その上で、最もリスクがあるのは、ガソリンの喪失であることが分かるだろう。地震による火災によってガソリンが喪失した場合、図を見る限り、大飯原発の電源機能は5時間、二次系純粋タンクとのパイプが爆発等で傷つけられた場合は給水機能は5時間に限られる。

 「全交流電源喪失(基本シナリオ)」:福島原子力発電所事故

・蓄電池5時間:地震によるガソリンの喪失があれば、5時間しか持たない、というリスクがある。
・空冷式非常用発電装置:1つしかなく冗長性がない。つまり、2つ以上の確保が無い。
           (ただし、台数は8台あり、他の電源について先ほどの【安全確保対策】の次に書いてある)
・復水ピット18.7時間:津波や地震で原子炉が守られても回りの設備が破壊された場合は、18.7時間しかもたない点にリスクがある。
・海水※3:ガソリンが使える前提で6.5日の短さである。他方、地震や津波の際にガソリンが十分に使える、という前提を含んでいる点にリスクがある。

 高木の考え:最も根本的な問題は、大飯原発が福島原発事故に学んでいない点である。大飯原発は、海面に直接接しており、福島原発事故の津波の破壊力を見ると、とても現在の「浸水対策」では不十分である。原子炉が福島原発事故の際の津波に耐えられるとは考えられない。さらに、大飯原発の海岸側はとても狭い。津波が起こった際に瓦礫等がたまることが当然予想される。すると、消防ポンプは東側の小浜湾や南側の小浜湾などから海水を取らなければならない。さらに、福島原発事故で活躍した高所ポンプ等の配置が書かれていない。【安全確保対策】によると大容量ポンプの配備1台は、12月の予定なのである。これも最低4台は必要であると冗長性の点から考える。福島原発事故を踏まえた十分な水源確保対策とは考えられない。

☆ 6)海水ポンプが損壊し、最終ヒートシンク喪失(原子炉冷却機能喪失) ⇒ 6)-対策) 蒸気発生器への給水設備を確保 の点で福島原発事故を踏まえていない

 次の図にいきます。

 問2 表11-2 炉心損傷に係るイベントツリーと防護措置の関係(1枚目(表))で何の対策が足りないでしょうか

 この図(表)は原子炉の機能停止と防護措置が一目で分かる表で、この表を見て、何が足りないか、がパッと分かるようになれば、理系のみならず企業の中で文章や図を見る際に大切な点がスッと見ぬけるようにあると考えた。

 ポイントは、

 7)全交流電源喪失(外部電源と非常用ディーゼル発電機が喪失)    ⇒ 7)-対策) プラント監視をするために必要な電源設備を確保
 6)海水ポンプが損壊し、最終ヒートシンク喪失(原子炉冷却機能喪失) ⇒ 6)-対策) 蒸気発生器への給水設備を確保
 5)重要機器の被水防止                      ⇒ 5)-対策) 建屋の浸水対策を実施

 である。
 論じ尽くしていないが、7)-対策)と6)-対策)については述べてきた。5)-対策)について述べたい。
重要な点は、防護措置の津波による破壊があった、という点が5)に書いてある点である。それは、原子炉の「外」の津波による破壊、というのは青山繁晴氏の動画から明らかである。しかしながら、表11-2では、原子炉の「外」にある防護措置を行う装置への対策が書かれていない。この点で福島原発事故の教訓を活かせていないのである。具合的に1つだけ述べると目的「電源喪失の影響緩和」⇒防護措置「号機間電源確保」の対策である。
 重要なのは、津波による原子炉の「外部」の破壊なのである。その対策が、【安全確保対策】で取られていない。そして表11-2では、その点が根底から見過ごされていて、防護措置が津波の破壊後も取れる、という前提に立っている点が足りない点である。

☆ 5)重要機器の被水防止 ⇒ 5)-対策) 建屋の浸水対策を実施 は福島原発事故の津波の教訓を学んでいないことがはっきりと分かる。
 
 最後に付け加えると、語彙の点も気に掛かる。重要機器の「被水」防止とあるが、これは「破壊」ではないだろうか。青山氏の動画を見て、「水を被(かぶ)っただけ」とはとても表現できない。水による破壊である。ただし、1年を過ぎた現在でも福島原発では仮設の防潮堤しが完成していないそうで、同じ大きさの津波が来れば破壊されるそうである。マスコミでは殆ど報じられないが、危機的状況にある福島原発は、こうした現状にあるので、「被水」と表現せざるを得ないのかもしれない、と邪推する。
 もう1点、「全交流電源喪失(地震・津波の重畳)」で、「重畳(ちょうじょう)」とあるが、①重なること、②この上なく喜ばしいこと、の2つの意味がある。当然、①の意味で使用しているであろうが、②があるので、使用を避け、他の語彙にすべきだと考える。「それは重畳だ」という言葉を時代小説の中でちらほら聞いたりするからである。「地震・津波の累積」や「重層」の方が適当であろう。

 次は、ストレステストとその構造的問題です。
 
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