講義録8-2 法律違反と内部告発 ―ギルベイン・ゴールドの事例と尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件―

 前の話の続きから行きましょう。

  では、日本人はなぜ、実際に倫理を守るのでしょうか?
 東日本大震災ではこうした見事な論理で倫理を作っている国々の人々よりも、倫理的な行動を多くの、そして一般の人々が取りました。新渡戸稲造は日本人の伝統的な武士道にある、と説明した。これについては後に述べていくが、高木は日本人の昔話、物語から受け継がれたものが、『葉隠』や商人道などで洗練されて広まったと考えている。その理由の1つとして禅宗や江戸時代の生産構造の変化にある、と考える。

 東日本大震災では倫理的な行動を多くの人が取った。しかし、そこに「神からの義務」はなかった。社会や集団を守るという意味での義務感であったと考える。それは無意識に潜む宗教観であると高木は考える。その点については『孝孝経 全訳注』 加地 伸行著 講談社学術文庫で筆者の加地氏が述べている。なるほど、と唸る部分が多かった。是非とも参考にして頂きたいです。

 以上の点で実際の倫理行動として考えるには、ディジョージの条件は適用できないと考える。しかしながら、ディジョージの言う「許可」と「義務」は、日本では「検討」や「義務感」となるであろうが、

「自分の利益や会社の利益 < 公衆の福利」

を論理として提供する上で重要な指摘だと考える。「検討」や「義務感」については、今後考えていかなければならないが、なぜ、東日本大震災の時にあのような行動が取れたのか、について考えていきたい。また、原子力政策や原発では、福島原発事故前に会社の廃業はないが自分の解雇や不利益を引き受けて「公衆の福利」のために行動した日本人が数多くいた。原子力政策や原発は国策であり決して「自分の利益」から考えれば報われることはない、と判断できた事例である。どうしてこれらの人々はそのようの出来たのだろうか。アメリカのボイジョリー氏などのように顕彰され社会的に報われることはないというのに。「検討」や「義務感」で説明できるのであろうか。キリスト教などの「神からの義務」では説明できない倫理的な行動である。福島原発事故を経て、新たな教訓を引き出すヒントがここにある。

次に③法律違反=内部告発OKではない点。(法律OKでも内部告発OKがある点)次の公益通報者保護法につながる、点については、前回のギルベイン・ゴールドの事例が最適です。ここで

問2 ギルベイン・ゴールドの場合、内部告発しますか?

 という問いを出した。
 ギルベイン・ゴールドの事例は「講義録7-1 濃度規制と総量規制の問題」に載っています。ポイントは、題名にもあるように、法律が濃度規制なのでOK。対して人体に有毒な毒の総量を増やすという点で反倫理でNO、という点です。
 
 この場合、内部告発は法律に基づかない行為です。
 
 日本の内部告発者を守る、とされる公益通報者保護法では、法律違反しか対象ではありません。ポイントは2つです。

③-1 :反倫理的行為は保護されない
③-2 :生じようとしている可能性では保護されない

 この2点を考えるとギルベイン・ゴールドの事件は、平成18年と6年前に導入された公益通報者保護法では全く守られないことになるのです。

 技術者倫理の目的は、「初期の事故予防と再発防止」です。
 なぜ、倫理、なのかと言えば「法律は必ず事故の後に出来る」からです。つまり、事故が起こらないと法律ができず、「初期の事故予防」が出来ないのです。法律は、問題が起こり、あるいは指摘され、政治家への陳情やマスコミが取り上げて、法案を作り国会で承認されて法律になります。つまり、事故が起こる、あるいは可能性が大々的に指摘されてから少なくとも1年は遅れて作られるのです。これでは初期の事故防止、特に甚大な事故の防止ができません。
 ですから、技術者「倫理」なのです。

 公益通報者保護法の対象は、「法律違反のみ」ですから、初期の事故防止には役に立ちません。

 では、反倫理のみの内部告発はどのようものになるのでしょうか?

 その典型例として、「尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件」が挙げられます。

 完全に失敗するケースは、マスコミなどで大々的に取り上げない場合です。現在はインターネットが少しだけ代りになります。例えば、「尖閣諸島中国漁船衝突事件」のYoutubeへの映像流出は成功例の1つです。しかし、原発のように難しく政治色がつけられてしまった問題では、マスコミのみならずインターネットでも取り上げられても盛り上がらないケースもあります。他に政治色のついた問題は、パチンコ、在日外国人、沖縄の基地問題、竹島の不法占拠、ソ連(ロシア)による不法占拠、自衛隊問題、憲法問題などでしょう。高木は政治色を排して、肯定側と否定側の両方の側から検討を重ねる必要がある、と考えます。しかし、政治色に染められていることも事実です。
 「尖閣諸島中国漁船衝突事件」と東日本大震災で、国土に対する政治色に左右されない意識を持つ人々が出てきたようです。これは、次の一歩に進む大きな希望だと考えます。東京都の購入予定金額は10~15億円だそうです。

 6月1日現在、速報値で10億円を突破し、件数も7万件を超えています。

 http://www.chijihon.metro.tokyo.jp/senkaku_kifu.htm?
 
 内部告発をした一色正春氏は、反倫理のみの内部告発を行いました。インターネットで注目され、政治色のついた問題を切り開いた、という点において、敗戦後の日本で画期的な内部告発となりました。そして寄付金で判るように日本国民全体に広がっているのは、技術者倫理を支える意識が広がっていると言えるでしょう。

 ギルベイン・ゴールドの事例でも、技術者のみならず、社会の状況によって反倫理による内部告発は成功する場合もあります。また、敗戦後に日本のような社会状況では失敗する可能性もあります。

 ただし、一色氏が海上保安庁より、停職12カ月の処分が下った後、退職願が受理され退官となりました。長官表彰3回、本部長表彰4回受彰を受けていた有用な保安官であったのにも関わらずです。

 ですから、公益通報者保護法によって一色氏は守られず、社会の状況が肯定したのにも関わらず、退職となりました。反倫理による内部告発の、最大の成功例と言えるでしょう。もし、一色氏が国民栄誉賞など国家からの顕彰があれば、最大の成功の意味内容が高まっていきます。

 反倫理による内部告発は、このような現状にあると考えられます。

ここで、

 問3 内部告発は義務ですか?

という問いを出しました。義務、ということがあまり身近なものとして感じれない学生の皆さんが多かったと思いますが、を法律と倫理から考えてみて、ある一定の答えを書いてくれました。意訳で挙げます。

 ・義務ではない。正しいことだが、現状を見ると義務とは言えない。
 ・義務ではなく、1人1人の判断の問題。
 ・義務であると考える。社会が改善されるのであれば、
 ・義務ではない。が積極的に行った方が良い。
 ・義務ではない。リスクがあるから。

 自分の言葉で沢山書いてくれました。

 次は、公益通報者保護法です。
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