講義録7-3内部告発の事例「ミートホープ事件」

 次はミートホープ事件です。

 2007年、世間をアッと言わせたミートホープ事件は、食品業界の中でも加工食品が引き起こした事件ですので、特に講義で取り上げます。2000年の雪印乳業による集団食中毒事件、2002年の牛肉偽装事件は、加工段階がないので、ミートホープ事件にします。
 また、内部告発の実際の事例として、本人の証言が残る事例ですし、実は「食中毒を起こすなのどの被害のない事件」ですので、純粋に倫理的観点から捉える最適の例の1つであると考えます。

 本人の証言と実態が分かる本は、紹介して教室内を回した本『告発は終わらないーミーとホープ事件の真相』 赤羽喜六 軸丸靖子著 長崎出版 です。抜粋は、

 配布プリント

2枚目(B4サイズ)
 (裏):『告発は終わらないーミーとホープ事件の真相』76,77,88,89P

2枚目(B4サイズ)
 (表):『告発は終わらないーミーとホープ事件の真相』102,103,180,181P
 (裏):『告発は終わらないーミーとホープ事件の真相』210,211P

 です。

 講義録7-2と比較しながら見て行きましょう。

まず、77,78頁に「ミートホープの偽装一覧」(原本より一部改訂)があります。この中には、33項目の反倫理的行為や法律違反が箇条書されています。これでも、(10)匿名によるリークでは相手にされませんでした。ということは、

 2,3の法律違反や倫理違反では相手にされない可能性が実際は、高い

ということです。具体的に見て行きましょう。

・細菌検査の実数値改竄(かいざん)、・肉の種別の管理無視 ・ネズミがかじった肉、ベーコンとうをそのまま使用 ・汚水を海に垂れ流し ・食品衛生法違反の商品を命令無視で大量出荷 ・まんじゅうを牛の血で染め、各種ひき肉とする ・肉に水を入れ水増し ・ひき肉、カット、スライス肉をグルタミン酸ソーダで量目増量・・・

 これら全てがあっても行政は対応せず、警察や新聞社は重い腰を挙げませんでした。というのも事故がなかったから、だそうです。これは初期事故予防からすると対応できていないことになります。これらを(10)匿名でリークでは取り上げられず、2007年に朝日新聞が取り上げて大ニュースになります。さて、講義録7-2で見ていたように、赤羽氏は、(3)同じ部署の同僚に相談、(4)上司に相談=社長に相談を経て、(8)会社外の友人に相談などを経て(10)へと至ります。実態として、いきなり(11)実名で内部告発でなかったこと、が分かります。

 赤羽氏は、(3)、(4)の段階で心療内科を受診します。仕事に対するプライドがあり「人生の限界が見えた時、2人の子供に誇れる人生を送りたい」(88,89頁を一部要約)と決意して、(8)へと進みます。その中で正直な発言があります。

「赤羽は、告発を繰り返していたが、消費者に申し訳ないといった気持で動いていたわけではない、とあっさりと言い切る」89頁

 この言葉に、「技術者の社会的責任を自覚し」という一文が吹き飛んでいることが分かります。「自分の得意先に申し訳ない気持ちはあったけれど」(同89頁)、という言葉が社会的責任を感じさせます。実際には、触れ合ったことのない、抽象的な消費者、国民という概念よりも、2人の子供という「身近な人」という具体的なイメージが倫理的行動を後押しするのでしょう。
 また、このように事件が大きくなった後、社会にとって都合の善いいい訳を吐かないからこそ、赤羽氏の証言は参考になると考えます。

 赤羽氏は、(10)匿名によるリークを繰り返しますが、行政も警察も新聞社も殆ど相手にしません。そこで(11)実名で内部告発に踏み切ります。

 しかし、農政事務所で名刺交換した後、解雇覚悟で内部告発の牛挽肉を出すと、係長は「受け取れない」と突き返します。「どこから持ってきたか分からない」というのです。そこで赤羽氏は工場に戻り、ラベルを貼ってもらって直ぐに帰ってくる。(この間に身元確認をしない、という行政上の怠慢があると高木は考えるが)、その係長は、「シールはどこでも作れるでしょう」だから、

 「食品偽装は行政の人間が、お客のふりをして買って来ないと証明にならない」

 と言い放つ。言い放つ、と強い言葉にしたのは、このように行政官の体質が被害を拡大させたからである。と同時にこの問題は単に係長を特定して個人攻撃すれば終わりではなく、行政官の体質として「ある」という前提を持ち、対策をこらさなければならない。1つは政治家の監視、管理であり、1つはマスコミの権力チェックなどである。それゆえ、これは例えば、大学教員と研究費を出す行政官(官僚)との関係(時間があれば)、東京電力などの電力会社と行政官(官僚)との関係にも当てはまると考えられます。

 しかも、この係長は、

 「ミートホープがトラブルの多い会社であることを知っていてこれまで、2度の検査で「クロ(偽装)」であることを知っていた」
 
 のにも関わらず、こうした対応でした。
 さらに、「クロ」に対して(指導)文章を出しただけ、なのです。

 (11)実名による内部告発 のリスクはここでも挙げられます。つまり、

「内部告発で会社は文章で注意されるだけに終わる」

 というリスクです。もちろん、告発者はほぼ解雇されてしまいます。すると、実際に

 「内部に残って改善する道を取る方が、結果として「公衆の福利」に適う」

 のかもしれません。赤羽氏の農政事務所の対応はこれを予感させます。と同時に原発関係の技術者でもこうした行動を苦渋の決断として取った人々がいたことが、福島原発事故で日本国民に分かったのではないでしょうか。そういう人々は、誇らず言わずそして積み上げてきた人々でしょう。ここに福島原発事故での希望が見てきます。何とか次につなげたいものです。

 さらに、原発のデータ偽造と同じ構図です。原発の行政官によるチェックは事前に日にちを決めて行きます。さらに、内部告発等で「データ偽造が発覚」しても指導文章で終わってしまいました。何故なら、東京電力が独占をしていて、原子力安全委員会等が自分たちでデータ収集を、事務処理として行えないからです。必ず東京電力や経済産業省に関係する人々がデータ収集を行うのです。このように、

 「事務処理の独占によって、「データ偽造が発覚」しても、次のデータも東京電力等に任せるしかない体制」

 なのです。ですから、原子力発電の大きな問題の1つは、この点にあるでしょう。つまり、

 「どんなにデータ偽装しても、どんなに失敗しても悪いことをしても、次も任せてもらえる体制が問題」

 ということです。
しかし、この問題をどのように改善していくか、は大きく根深い課題があります。


 次に、180、181頁に行きましょう。実際に内部告発した後の実態が書いてあります。

「女房はもっと痛烈な批判を受けていたみたいだった。『親族の恥さらしだ。いますぐやめさせろ』『お世話になった人を刑務所にぶち込んだ恥知らずだ。孫の就職に影響が出たらどうしてくれるんだ』と。」

 学生の皆さんが実際に内部告発したら、このようになるでしょう。また、クラスで先ほど挙手してもらった結果と一致します。

 親戚から総スカンをくらい、兄弟がいたら責められ、家族は非難される、というのが日本社会の内部告発の実態です。

 211頁には、

 「その(内部告発の)すべての対価として、赤羽は長野に1人で暮らす。」

 チャレンジャー事故で内部告発した人は、その後社会から表彰され社会的名誉は回復されました。しかし、日本はそういう扱いをしていません。内部告発の実態を見てみましょう。

①家族から見放される(一緒に暮らせなくなる)

②現在住んでいる場所にいれなくなる

③仕事は奪われる

④その後、時々、メディアの取材がくる

 です。

 しかし、社会は内部告発者から多大な利益を受ける。赤羽氏が「公衆の福利」を成し遂げることも事実である。210頁に

「ミートホープ事件をきっかけに、全国で内部告発が相次ぎ、食品偽装が次々と明るみに出た。消費者は企業に疑いの目を向け、食べ物がとこでどう作られたのか、目を光らせるようになった。企業同士の監視も厳しくなった。食品企業は下請け企業を抜き打ち検査し、原材料を精査するようになった。JAS法は改正され、企業間取引にも製造者責任が発生することが明記された。
 2009年9月には、予定前倒しで消費者庁が発足した。」

 多大な影響を与えた内部告発であったことが判る。さらに、農作物を顔が見える農家からインターネットなどを通して直接買う消費行動までも変えた、と感じている。また、ファミレスなど、加工食品を使っていた業界では検査が厳しくなり原価率が上がり、倒産なども増えた、と推測している。その中で「サイゼリア」は14%という驚異的な利益率を上げる。他のファミレスが2~3%でしかない。その秘訣は、加工食品の自社工場での作成にある(『図解「儲け」の裏側が面白いほどわかる本』 インタービジョン21 三笠書房 28,29頁)。企業間の監視か厳しくなり、原価率を上げることで業界の利益率を変えるまでになった、と推測している。

 これほど、「公衆の福利」に貢献した人を顕彰する制度が必要なのではないだろうか。
 例えば、スポーツで日本人を勇気付ける行為と同レベルであると高木は考えるので、あるいは、実際の行動をよりよくする、という意味において上回っているかもしれない、国民栄誉賞や内閣官房長官表彰等がされるべきではないだろうか。

 また、講義では「運輸業界のヤミ(違法)カルテルを内部告発した串岡 弘昭(くしおか ひろあき)氏」にも触れました。内部告発した後、所属するトナミ運輸は串岡氏を草とりをする閑職に追い込み出世できないようにしました。裁判ではこれが認められ賠償金を払うことになりました。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2C910577E7600CD549256FBE002EC591.pdf

 もう1つ問題があります。このように内部告発を受けた会社、しかもその社員を不当な扱いをしているのにも関わらず、日本企業は取引を続け、トナミ運輸を存続させているのです。つまり、企業間から考えると内部告発は、社会的信用を失うマイナスの行為ではなく、企業に打撃を与える行為にしか過ぎないのです。この点は、実態を考える上で見過ごせない点です。ミートホープ事件では会社は倒産しましたが、もし行政の対応が違っていれば、現在でもミートホープという会社が現存している可能性が高いのではないでしょうか。

 以上がミートホープ事件です。マクドナルドの分析を書いていないが、後々書くことにしたい。

 次は学生コメント集です。
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