講義録7-2内部告発の位置 ギルべイン・ゴールド事例

 ギルべイン・ゴールドの事例と、チャレンジャー事故のボイジョリー氏は内部告発の問題です。

 チャレンジャー事故のボイジョリー氏は、会社のチェックを受けないで事故調査委員会に資料を提出し、内部告発者になりました。会社を首になり、町長までした村から追い出されました。アメリカでは日本とは違い、内部告発者をモラルヒーローとして迎える風土がありますが、その風土であっても、職を止めさせられ、住む場所も奪われました。
 きちんとしたデータは、ばらつきがありますが、内部告発者の50%~90%は仕事を奪われます。日本ではさらに高い確率になるでしょう。

 そこで、学生の皆さんに挙手で意識調査をしました。

問1 内部告発のイメージは良いですか?悪いですか?

 3つの全てのクラスで「悪いが圧倒的に多く」、それぞれ70%、85%、95%でした(挙手結果)。

問2 問1の理由はなぜですか?

 ・会社にダメージを与えるから。
 ・一緒に働いている人を裏切ることになるから。
 ・自分も加担していたのだから

 よい方は
 ・社会のためになる
 などです。

 日本では内部告発が悪いイメージなのが毎年の挙手で示されます。これまでの5年間で1度も「よい」方が多かったことはありません(挙手を実行しないクラスもありました)。事実は出発点とせねばならないと考えます。

 次に、内部告発の位置を示してみましょう。会社に悪いことがあった⇒即、内部告発、ではないのです。

 高木なりの段階を示します。
会社で反倫理的なことがあった場合の行動
                      :↓ポイントです。
(1) 何もしない
(2) 代替案を考える(人に言わない)
(3) 同じ部署の同僚に相談
(4) 同じ部署の上司に相談         :ビジネスの基本「ホウレンソウ(報告連絡相談の略)」である。
(5) 会社内の会議で発言
(6) 会社の上司の上司に相談        :(4)を経ないとビジネスマナー違反
(7) 会社外の専門家(弁護士や技術者)に相談 :守秘義務あり
(8) 会社外の友人に相談          :守秘義務なし
(9) 会社外の会議などで発言        :公式発言となる
(10) 匿名(とくめい)でリーク(新聞社など) :リスクが高くなる
(11) 実名で内部告発            :解雇の可能性が高くなる
(12) 裁判で訴える             

 このように(1)~(12)までの選択肢の1つが内部告発です。
ですから、反倫理的な行為を発見したから、といって必ず内部告発、という訳にはなりません。次に、(1)~(12)を並べた理由を述べていきます。というのも教科書と真っ向反対の点、(8)より(4)が内部告発に近いのです。

 まず、(1)~(4)は、ビジネスの基本です。というのもビジネスは、特に会社では1人で独立して全ての業務をこなしている訳ではないからです。誰か1人が抜けても次の人が仕事ができるシステムです。誰か1人が失敗しても会社内の全員が、直接には上司がカバーするシステムになっています。ですから、失敗や問題があった場合、上司に報告するビジネス上の義務があります。「ホウレンソウ(報告連絡相談の略)」はそのために必要な行為を指しています。
 学生の皆さんは、(2)まで、(3)までの人がいましたが、それは学生までで許されることです。というのも単位取得失敗した場合、責任を取るのは自分だけです。しかし、会社では仕事の失敗は上司の指導の失敗、にカウントされるからです。この点を考えると(6)も理解できるでしょう。上司の上司に、上司より先に相談することは、「私の上司は無能です」という行動なのです。ですから、上司の顔に泥を塗る行動となり、ビジネスマナーに反した行動になります。ただし、上司に相談して埒(らち)が明かない、例えば「取り合ってくれない。どうにもならない。それで上司が利益を得ているなどの場合」は、上司の上司に相談する必要が出てきますし、ビジネスマナー違反ではなくなります。(5)は一言上司に相談してからの方が良いかもしれません。
 日本では、このビジネスマナーを問わない場所があります。それは仕事が終わった後の食事会、飲み会です。ここでは、半分プライベートとみなされ、ビジネスマナーに関係なく、それを外した話がされます。この場合、(5)や(6)がOKとなります。同時に、日本のビジネスの面白いところは、この食事会、飲み会でビジネスの多くのことが決まっていきます。「仕事は午後5時から」という言葉もありますが、それは、この当たりのことを指しています。

 次に、(7)、(8)です。(7)は相手に守秘義務が課されていますから、他の例で言うと医者です、勝手に患者さんの情報を公開するのは禁止なのです、話すことが出来ます。実際に、弁護士や行政書士などに相談しても、内部告発等をしない場合も結構あるので、相談しても良いでしょう。
 次に(8)ですが、教科書と決定的に違うところです。私は相手に守秘義務を求められないので、会社外の友人に話し、友人が公開した場合、責任を取らされることがあります。近年、会社の情報をSNSで話して首になる例が、アメリカで出てきていますが、これも守秘義務のない人に話すことという意味で(8)に入ると考えます。また、高木の考えでは、(7)までは、社外に漏れた場合、相手の責任の方が重い、と考えるから、

 (8)から 社会的責任、実際に対外的な責任を取らされるケースです。

 (9)からは公式な発言となり社会的追及されるケースが出てきます。このブログは、高木健治郎の名前を使っていて、インターネット上で公式に発言していますから、問題があれば高木は責任を取らなければなりません。それを回避する方法は、偽名や別名を使うなどして、特定されないようにしなければならないでしょう。その責任を回避してきましたが、東日本大震災とその一部の福島原発事故の惨劇を感じて、このブログを始めました。ブログは、大学院入りたてから始めて、もう15年以上が経っています。総記事数も数千となり、ブログ数だけでも10を超えています。このブログが社会的責任を取るべき最初のブログになりました。

 (10)はよくあるケースです。消費者庁が、この後取り上げるミートホープ事件の影響で前倒して作られた、と言われていますが、ここに通報するのも(10)となるでしょう。
 ただ、現状は悲惨なことになっています。2010年6月15日日テレニュースに「消費者庁、通知された事故情報の9割を放置」の記事が載りました。

「消費者庁、通知された事故情報の9割を放置
< 2010年6月15日 16:27 >ブックマーク  消費者庁に通知された消費者事故情報の9割について、原因究明などの対応がほぼ行われていなかったことがわかった。

 消費者庁によると、昨年度、消費者安全法に基づいて消費者庁に通知された約1万件の消費者事故情報のうち、9割にあたる約9000件について、原因究明や分析などをほぼ行わず、放置していたという。放置されていたのは、訪問販売の被害や食品表示の情報ということで、対策が必要な情報かどうかの判断もされていなかった。

 消費者庁は、全体で約200人しか職員がおらず、情報の整理だけしかできなかったとしていて、今後、業務の運用態勢を見直して分析を進めるとしている。

http://news24.jp/articles/2010/06/15/07161112.html」

 最近では、「茶のしずく」石鹸、株式会社悠香(ゆうか)製造に寄せられた通報を放置していたと報じられました。消費者庁担当大臣は、コロコロと変わり7人目です。平成24年5月28日現在、松原仁大臣です。コンプガチャ禁止を出してやっと動き出してきたようですが、拉致問題担当大臣も兼ねています。現在の状況です。私たちが政治家を「どうせ政治家なんて」とか「政治家に期待しない」という態度を取り続けた1つの結果だと思います。自分たちで選んだ責任を、政治家に押しつけ、政治家の悪いところしか見ず、自分たちで献金せず、金に汚いのが政治家、という風に考えてしまうのです。そういう状況で、どんな人が政治家になるでしょうか。そういう状況で、素晴らしい人だけが選挙に当選するでしょうか? 私自身の反省も込めて、消費者庁の対応の甘さ、酷さは考える必要があると思います。そして、このように具体的に問題を述べないと、倫理はいつまでも空虚で、全く意味がないものになってしまいます。プラントンは、当時のアテネの政治腐敗を見て哲学を生み出しました。その腐敗状況がないのに、プラトンの倫理学、あるいはアリストテレスの倫理学を語るのは空虚です。意味がありません。技術者倫理は、具体的に事故防止を目指すのですから、特定のイデオロギーに陥らないようにしつつ、身の回りの問題から考える必要がある、と高木は考えます。時々、踏み込みすぎますが。

 (11)は、後に実例としてミートホープ事件の赤羽さんの時に詳しく述べます。(12)は、青色LED裁判で日亜化学
と争った中村先生が最近の例です。時間があれば後に触れます。

 さて、内部告発の解釈に触れて終わりましょう。講義録7-1の
 
A)会社の利益促進する責務 
B)自分の経歴を守る責務(日本では中々表に出てきませんがきちっと認められる責務です) 
C)市民、国民としての責務 
D)技術者として公衆の福利を優先する責務

 がありました。
 教科書では各倫理学会の基準を優先にしています。「公衆の福利」を最優先にする、という考え方で倫理絶対主義ですから、D)を最優先にする、ということになります。この考えだと、

 教科書:内部告発は公衆の福利に適う、となります。

 しかし、高木のように、A)~D)はそれぞれ同じくらい大切、という倫理相対主義となると、D) は最優先になりません。ですから、内部告発者の現実を考えると、(8)まで。頑張っても(10)までになります。(10)になる場合も、赤羽さんのようにリーク後、解雇された場合でも金銭的にやっていける余裕がある場合にのみ限る、などの条件が付きます。
 と同時に、内部告発者の勇気、決断は非常に重い、という風に考えます。原発では内部告発した人の意見に耳を私たち日本人全体が貸しませんでした。その内容の是非は置いておくにしても、原発という国家政策に対して内部告発を行えば、自分の人生を棒に振ることが見えてきていたはずです。それにも関らず、内部告発をした、という勇気、その決断の重さを察せざるを得ません。

 そして内部告発は、世の中の多くの面で社会正義を実現してきました。
タバコは今では健康被害しかない、ことが分かっていますが、1960年代になるまでは決定的な証拠がありませんでした。タバコ会社は健康被害のデータを隠すなどの行為が内部告発を通して明るみに出てきました。教科書では映画「インサイダー」を取り上げています。他にも、自動車のリコール隠し、食品偽装などが出てきています。原発でも、

 「報告書改竄(かいざん)」

というニュースが出てきました。

原発推進側有利に表現変更 勉強会後、原子力委

(2012年5月24日午後9時14分)
. 核燃料サイクル政策の見直しを議論している国の原子力委員会が、電力業界など原発20+ 件推進側を集めた勉強会20+ 件で報告書原案を事前に示していた問題で、勉強会20+ 件後にまとめられた報告書案は原案と比べ、推進側に有利となる表現に変更されていたことが24日、分かった。

 核燃サイクルの見直しでは、原発の使用済み燃料を再処理する現行路線や、燃料をごみとして地下に埋める地中廃棄、両者併存の三つの政策選択肢が議論されている。

 勉強会は4月24日に開催。その際に示された原案では、燃料を全量地中廃棄する場合は「総費用においては有利」と記載されていた。

 これも(11)内部告発か、(10)匿名によるリークでしょう。3日過ぎた現在でも誰も責任をとっていませんが、これでは内部告発や匿名によるリークが意味をなしていないことが明らかでしょう。同時に、福島原発事故前であれば、スーッと流される程度の問題にしかならなかったことでしょう。そしてこれは、どれほど「原子力ムラ」が強いつながりがあったかも判る証拠でもあります。民間の「福島原発事故独立調査委員の北澤委員長が、「原子力ムラ」を批判したのも、一般社会では考えられない反倫理的な行為でも問題にならない体質があるからです。繰り返しますが、事実から出発しなければならないと考えます。現状をきちんと認識してほしいものです。

 さて、煙草に戻ります。

 葉巻たばこと、現在のシガレット型(吸い口がついている)とは違います。シガレット型は、19世紀後半から出てきます。しかし、17,18世紀などの西部劇の舞台では、ガンマンたちがシガレット型を吸っています。
参考にしました、「財団法人たばこ総合研究センター(TASC)がリソースを提供しているプロジェクトであるt-webcity(たばこウェブシティ)」の煙草の歴史より
http://www.t-webcity.com/~thistory/thistory/t_history.html#TOP

 タバコはかっこいい! 男のアイテムだ!!

 という歴史的事実に反したイメージ戦略を行い、煙草の販売が促進されました。現在では煙草が健康に害しかないのが分かっているというのに、心理的ストレスがどうのこうの、と自然科学的説明に反した理由、一回社会に定着したものを中々覆せない、などの理由でタバコは売られています。数年前からタバコは依存症である、として医療機関の対象になり、一歩一歩前進してきました。この製造物と社会との関係は、今後触れますが、このような社会からの影響によって製造物そのものが左右されることを覚えておいてください。

 同時に似た例として、ダイアモンドがあります。

 ダイアモンドもハリウッド映画などのイメージ戦略で、「ダイアモンドは永遠の輝き」で結婚指輪に、というイメージですが、大東亜戦争前までは真珠の方が大切にされていました。ちなみに、真珠は、「真=本当の、真の」「珠=宝石」という意味です。

 ダイヤモンドはハンマーで叩くと壊れます!

 というのも、ダイヤモンドの硬さは「変形しがたい」という硬さであり、衝撃は「脆(もろ)さ」という別の物理的性質なのです。さらに、溶け出す融点は3550度(銅約1083度、鉄約1535度)で、高熱で熱すると液体になります。しかし、「永遠の輝き」にはそれらを打ち消すイメージ戦略があり成功しています。近年は、「給料3か月分」などと根拠のないことを言っていますが、それもイメージ戦略です。私の身の回りの人でも、実際に3か月分近くのお金をつぎ込む人がいます。
 実際にやっているのは、ユダヤ系の会社デビアス社です。
 このデビアス社がダイアモンドの供給を90%以上コントロールするようになり、さらに、結婚指輪は貧しくなっても中々売らないので市場への供給量も少なくできるので、値段が徐々に高くなっていきました。需要と供給をコントローするという素晴らしいビジネス方法を確立した、デビアス社は大成功を収めます。
 
 他方、ここ数年で人工ダイヤモンドが、一流の鑑定人でも見破れないほど、あるいは「本物である」と鑑定書を書くくらいのレベルに達していて、製造原価が10%くらいで出来るので長期的には下落していくでしょう。

映画「007/ダイヤモンドは永遠に」という映画がありますが、これらについても調べてみるのも面白いかもしえません。

 私たちは、製造物が素晴らしいから買う、というだけでない点を知って欲しいのです。「イメージで買う」ということが、20世紀の消費社会を理解し、さらには現在の世界経済を考える上で外せない点だからです。と同時に、技術者は「イメージで買う」という点も製造物を作る上で考えなければならないと思います。それは結局技術者倫理につながる、と高木は考えます。というのも、原子力発電の世界最高の技術は日本にあります。しかしながら、原子力発電の技術は海外に販売しにくくなりました。もう1点、「イメージで買う」という認識があると、三菱ふそう事件などのように、長期的経営という視点が製造物を作る際に入ってきて、それがこれまで述べてきたように「公衆の福利」を推し進めることになるからです。

 「イメージで買う」のを受け入れると、事故予防対策にお金を掛けられるようになる

 これが、ギルべイン・ゴールド事例に対する高木の回答です。つまり、PC部品を作っていた会社が余分な汚染対策費をねん出するのは宣伝広告費と同じ、という訳です。「イメージが悪くなれば、社会的信用を失い、数々の経済的なマイナスが出てくる」ということです。もし、鉛やヒ素が出ているのを放置しておけば、優秀な人間は集まらず「高いお金だけ払ってくれるから就職する」という職場で中核にならない人材だけが集まってくるでしょう。これを続ければ、会社は数年後、十数年後に倒産に憂き目に合う可能性が高くなります。同時に現在、お金だけでなく自分の仕事に誇りを持ちたい、持っている人間は周りの面倒も良く見、職場のコミュニケーションエラーも防止してくれる人間です。彼らが、今回の事件を知れば、会社に対して忠誠心を失い、長期的に優秀ではない人間になっていくか、転職する可能性が高くなります。こうした金銭だけではない経営をしなければ結局、会社は倒産の憂き目にあう、というのがリーマンショック前後の示した結果だと高木は考えています。この辺りは素人考えです。
 ギルべイン・ゴールド事例に対する回答の説明は以上です。

 最後に、ミートホープ事件です。
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