講義録7-1 濃度規制と総量規制の問題

 濃度規制と総量規制の問題に入ります。

配布プリント1枚目
 (表):藤本温(代表) 『技術者倫理の世界 第2版』88,89P
 (裏):藤本温(代表) 『技術者倫理の世界 第2版』90,91P

には、内部告発の2例が書いてあります。
1例目は、チャレンジャー事故後、内部告発をしたボイジョリー氏、もう1例は、架空の事例で『ギルべイン・ゴールド』の技術者デイヴィッドです。

ちなみに、ギルべイン・ゴールドの事例は、技術者倫理でよくつかわれます。
公益社団法人 日本工学教育会の教材でも使われています。
:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsee/other/pdf/JSEE_ethics.pdf

元の資料によると製作者は、「National Institute for Engineering Ethics & National Society of Professional Engineers」です。

 ギルべイン・ゴールドの事例は、技術者倫理で大切な点を幾つも教えてくれます。上記の資料によると、
①内部告発の肯定的な面と否定的な面
②前提の改善を考える(上司の考えが変わる可能性)
③具体的な落とし所を考える
 などです。

 これに、高木は「濃度規制と総量規制の問題」を加えます。

 というのも、「濃度規制と総量規制の問題」は、震災がれきを始めとする放射性物質の汚染、水俣病等の公害病問題、アスベストの問題などで基本的な視点の1つだからです。

 事実をかいつまみますと、コンピュータの部品を作っている会社が、鉛と砒素(ヒ素)を下水に流していた。その下水から肥料ができ野菜が作られ人が食べている。市の規制は、濃度規制であり、総量規制ではないので、流量(水の量)を加えれば、幾らでも鉛と砒素の総「量」は流せるのである。主人公のデイビッドは、会社に高額の汚染対策を取るべきであると上司に進言するが受け入れられず、妻に内部告発するように勧められる。

 濃度規制と総量規制の問題を具体的にしてみましょう。

鉛が10kg流す場合、水を990Kg(1リットル=1kgとして)とまぜると、1%(10kg/1000kg×100=1% :重量パーセント濃度)になります。「/」は割る、の意味です。
市の規制が「0.1%以下」とすると不合格で、法に触れます。
しかし、鉛10kgに、水を99990Kgとまぜると、0.01%となりOKです。

同じ鉛10kgでも、加える水の量を100倍にすると、濃度は1%から0.01%となり、濃度規制をしている法律でOKになります。

鉛を5倍の50Kgにすると、流量を100倍にすれば、0.05%となりますから、OKです。

 濃度規制をまとめてみましょう。

鉛10Kgで水990Kgの場合、1%でダメ  10kg÷1000kg×100=1%

鉛10kgで水99990kgなら、0.01%でOK 10kg÷100000kg×100=0.01%

鉛50kgで水99990kgなら、0.05%でOK 10kg÷100000kg×100=0.05%

鉛の総「量」を5倍にしても、水の量を増やせば、OK!ということです。

 ギルべイン・ゴールドの中で上司の言うセリフの意味です。

「排水に容認されている濃度を超えないように流量を増やすと、必要な濾過(ろか)がどれほど増えるか、計算したまえ」

 必要な濾過、とは現在ある廃液を奇麗にする装置での濾過を指します。この上司の指摘は、以下のように翻訳されます(高木が)。

「濃度規制なのだから、水の量を増やせば、どれだけ沢山の「量」の鉛や砒素を流してもOKなんだよ」

 これが、濃度規制の法律的な問題点です。これは、抜け穴とは言えませんが、人体に影響を与える「毒」の量を減らすことが出来ない、という点で考えると欠点です。

 島田市が受け入れを開始した震災がれきは、「濃度規制」です。

 ベクレルとは、「1kgの物質が1秒間に1個の放射線を出す」ことを示した単位です。

 ですから、「震災がれき」がもし、濃度(ベクレル)が高ければ、流量(=一般ごみ)を混ぜれば、法律的にはOKとなるのです。しかし、放射性物質の全ての「量」がどうなるか?に対処できません。

 あくまで一般論ですが、毒性のある物質は、極微量だけ接種すると健康になる、というデータがあります。その極微量を超えると人体への被害が増していきます。人体への影響は、その極微量(域値)がどこであるか、が問題です。このように考えると、実は震災がれきの受け入れ問題には、危険性が伴うのです。
 つまり、「濃度規制」なので、総量が増える危険性があるのです。

 ただし、濃度が人体に影響を与える可能性の低い時、あるいは環境に「総量が殆どない時」などは、測定しやすいので、濃度規制は有効です。総量規制をするには、測定点を増やすなど多大なコストが掛かります。

 高木の個人的な見解ですが、島田市を始めとする震災がれき受け入れ問題では、濃度規制のみならず、総量規制を導入し、広報活動をすることで国民の安心と安全が、より確保できたのではないでしょうか。

 以上が、濃度規制と総量規制の問題です。 

 さらに、ギルべイン・ゴールドから学ぶべき点があります。ビジネス上、デイビッドには4つの責務があります。

A)会社の利益促進する責務 
B)自分の経歴を守る責務(日本では中々表に出てきませんがきちっと認められる責務です) 
C)市民、国民としての責務 
D)技術者として公衆の福利を優先する責務

 です。私はA)~D)の何れも同じ割合である、と考える倫理相対主義を取ります。しかし、技術者集団の学会など、例えば、日本原子力学会倫理規定では、D)が最優先である、と言っています(講義録4-1)。

 ここから「内部告発」が出てきます。次に述べます。


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