講義録4-4 宿題の総括

 宿題の全体の傾向と考察を書いていきます。

 素晴らしいものは翌週、コピーして配布します。

宿題
 題1: 原発の良い所を書きなさい。ただし、電力安定供給は除く
 題2: 「米の研究利用に1200人 死亡した被爆者赤ちゃん 日本から臓器やカルテ」を読んで、三段論法で感想を書きなさい。
    資料:「米の研究利用に1200人 死亡した被爆者赤ちゃん 日本から臓器やカルテ」 静岡新聞平成24年(2012年)4月22日(月曜日) 日刊 (3) 総合 B

 -全体の傾向-百分率は印象値です。

・多くの学生(約75%)が、よく調べて来ている。
・宿題を提出しない学生が、わずかである。
・その上で、内容が似通っている。
・出典を書いていない学生が40%近くいた。

 -全体の考察-

 驚いたのは、題2で死亡した被爆者赤ちゃんの利用について、「必要だった」や「仕方がない」という意見が20%前後いたことである。「結果的に仕方がない」というのを含めると30%を超える。この視点は、倫理を考える基本的な姿勢が欠けているのであろうか、と疑問に抱きながら、読み進めていった。
 けれども、この視点を丁寧に読んでいくと、論拠として「今に研究結果が生かされている」が共通していることが判った。この視点は、医療の新薬投与と同じ視点である。新薬を投与して自分がもし死亡しても未来の人々のために役に立つのなら、という視点である。思い返せば、前回の講義で許容可能なリスクの時、自動車や飛行機のように事故の確率を、数値化出来ない例として新薬を挙げた。

 しかし、新薬の視点には、以下の前提が含まれていない。そしてそれは私が力量不足で学生に伝えることができなかった点でもある。反省をこめて以下に書く。

①核実験は必要がなかったことである。

 放射性物質の被爆データを取るために人体実験をする必要がない。何故なら核兵器を使用しなければ良いからである。他方、新薬は現在ある病気を治すためには必要である。この必要性が伝えられなかった。

②実験を受ける人の同意を得ていない。
 
 新薬の実験には必ず人体実験の対象となる被験者の同意が必要であるが、広島長崎の原爆は同意を得ていない。赤ん坊は同意を表明することさえできない。

③データの管理が被験者に知らされていない。

 広島長崎の原爆の実験データが落とされた日本側に提供さていない。ましてや、現在でもカルテや臓器の返還がされず、さらに酷いことに敗戦後60年以上秘密にされてきた。お祖父ちゃんやお祖母ちゃんの骨があったのにずっと秘密にされ、今でも帰って来ていないのである。この問題は、ロシア、中華人民共和国、北朝鮮や日本国内の硫黄島などにも同じ問題がある。

④軍事利用という名目で隠されている

 確かに間接的に、放射性物質の被曝についてのデータが利用されたが、どのように利用され、どのように考察されたのかが公表されていない。自然科学の分野でも1つのデータの解釈は様々ある。そうした見当がなされないのはデータの有効活用がされていないことを示す。それが軍事利用という名目で隠されている。

 以上の4点の指摘が足りなかった。

 他に気がついたのは、「赤ちゃんに感謝すべきである」という意見である。心を救われた気がした。日本人の伝統的な倫理観として、「虫にも魂がある」と考える。だから、畜産業では「馬の墓」や着物を縫う「針の墓」まである。無残にも殺された赤ちゃんのデータを使って私たちは放射線被曝について考えることができる。その出発点は、「赤ちゃんに感謝すべきである」という視点だと考える。
 その上で、「今後も核兵器を使用すべき」、あるいは「今後は核兵器を使用すべきでない」の意見を述べていくのが大切だと考える。「赤ちゃんに感謝すべき」だから「今後は核兵器を使用すべきでない」しかない、というのは、偏った意見である。
 残りの約20%は意見が書いておらず、約30%はアメリカへの怒りを表明したものであった。この怒りも、自分の心の声を聞いた後で、ではどうするか?を偏らず考えて欲しい。敗戦後の日本は、人体実験をした「アメリカへの怒り」が「反原発」しかない、となって偏ってしまった。あるいは、核兵器の平和利用だから「アメリカへの怒り」がなくなって「原発推進」しかない、と偏ってしまった。

 反原発と言えば左翼(反アメリカ)!
 原発推進と言えば右翼(親アメリカ)!

と2つに区分されてしまった。その区分は政治上の区分けでしかない。原子力発電が技術の視点から論じられなくなった大きな原因が、この政治的な区分けを技術に持ち込んだことにある、と高木は考えている。

 現在の原発再稼動の安全の話、政治の区分けになってきてはいないだろうか。技術の話が出てこないのは、被爆者赤ちゃんのデータと共通する点である。

 今後も見つめていきたい。

 



  
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