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【隨筆】 「うさぎと亀」を大人が見ると 

 令和元年七月十八日の朝七時半ごろ、一緒に通勤と登校していた。とっくん(八歳十一カ月)は、玄関先で「今日楽しみなこと三つ」、「今日頑張ること三つ」を言って、先に走っていき、友達と登校していた。
 まなちゃん(七歳零カ月)も、同じく言い終わった後だった。セブンイレブンの駐車場に入る時に、何気なく聞いてみた。

 「うさぎと亀の話知ってる?」
 「うん。」
 「じゃあ、うさぎと亀の話、勝ったのは誰かわかる?」
 「亀!」
 「亀?」
 「亀だよ。」
 「ぶっぶー。」
 「じゃあ・・・うさぎ?」
 「ぶっぶーー。」
 「えーー。」

 「先にゴールしたのは亀だよね。」
 「うん。」
 「亀は本当に勝ったかな? 考えてみて。」
 「・・・う~ん。」
 「亀はね、うさぎさんが寝てたでしょ。」
 「うん。」
 「起こさなかったよね。」
 「そーだね。」
 「勝負には勝ったかもしれないけど、どうして起こしてあげなかったんだろうね。」
 「あ~。」
 「亀はね、うさぎを起こさなかったから、自分の心に負けたんだよ。」
 「そっかぁ~。」
 「うさぎを起こして、そこからもう一回勝負すれば、勝負には負けるかもしれないけど、自分の正しい心で行動できたんだよね。そうしたら、自分に勝ったことになるんだよ。」
 「そういう意味だったんだね。」
 「うんうん。」
 「亀さんは、起こしてあげればよかったよね。うん。」
 「そうそう。亀さんはうさぎさんに馬鹿にされて怒っちゃって、その怒りをずっと持ち続けて、うさぎさんを起こさなかったね。それじゃあうさぎさんと同じだね。」
 「わかったよ~。」

 「じゃあ、質問です!!」
 「はい。」
 「うさぎさんは勝ったでしょうか?」
 「う~ん、負けた?」
 「うん正解! うさぎはね、亀さんを馬鹿にしたでしょ? だから自分の心に負けちゃったね。」
 「そぅだよね~ いけないよねぇ~。」

 「じゃあ、もう一つ質問です!」
 「は~い!」
 「うさぎは何で、亀さんに話しかけたんでしょうか?」
 「う~ん、勝ちたいから?」
 「ぶっぶー。」
 「ぶーかー。なんでかなぁ? 嫌いだから?」
 「ぶっぶー。」
 「ぶーかー。なんでかなぁ~とーちゃんおしえて。」
 「はーい。素直に聴けるのはまなちゃんの良い所だよ。」
 「うん。」
 「まなちゃん、よく考えてみて。嫌いな人に話しかけるかな?」
 「うーん。」
 「話しかけないよね。」
 「うん。」
 「うさぎさんは亀さんと友達になりたくて話しかけたんだよ。だから、うさぎさんが勝負の途中で亀さんを待ったよね。あれはね、本当は『あ、友達になりたかったのに間違っちゃった。途中で待って謝ろう』って思ったんじゃないかな。勝負に勝つだけだったら、途中で待たないもんね。」
 「あ~。」
 「まなちゃんも、運動会のかけっこの時は最後まで走るでしょ?」
 「うん、走る。」
 「まなちゃん、意味わかった?」
 「うん、わかったよ。失敗しちゃったね。」
 「そう! そうなんだよ、失敗しちゃったんだよ。うさぎさんは亀さんと友達になりたかったのに、ついつい自分の良い所を自慢しちゃって、そして最後に亀さんを怒らせて、敵同士になっちゃったね。」
 「うん。」
 「まなちゃんもね、お友達になりたい人いるでしょ?」
 「うん、いるよ~話したことない人いるよ。」
 「お友達になる時にはね、『お友達になろうね』って言うんだよ。自慢ばっかりしているとお友達になれなくなっちゃう。そんなお話が『ウサギと亀』のお話なんだよ。ちょっと難しかったかな?」
 「うん、難しかったけど・・・わかったよ。」

 私は本心で分かったのかな?と思った。なぜなら、この解説を専門学校で教えているが、ヒントなしでこの答えにたどり着く学生は百名いて一名ほどだからである。しかし、後日、夕食の時に、まなちゃんは自分でかみさんに説明していた。

 「うさぎさんも亀さんも勝ってないんだよ、おかーちゃん。うさぎさんは友達になれなくて、亀さんは怒っちゃって、うさぎさんを起こさなかったからなんだよ。」

 まなちゃんは自分のことばで、ちゃんと話すことが出来ていた。

少し解説
 「うさぎと亀」の話は、世界の多くの国で伝わっている話である。だから、世界の多くの人々がこの話を実感する出来事に日々接していることが判る。言い換えれば人間の本質を言いえていると言える。少し説話を用いて解説したい。
 友達になる時も、男女関係でも、ご近所づきあいでも、うさぎや亀のようにコミュニケーションの下手さで失敗することがよくある。それゆえに「うさぎと亀」が多くの国々で伝えられている。専門学校の授業では、これに続けて二つの説話を話した。

 「イスラム教の開祖ムハンマドにも同じ話がありますよ。遠くに大きな山があって、ムハンマドが周りの人々に言います。
 『あの山を動かしてみましょう。』
 そうすると周りの人はびっくりするのです。そんなことできるのか?と。ムハンマドは自らの足で大きな山に向かって歩いていきます。そして、
 『ほら、山が動いて私に近づいてくる』
 と言うのです。周りの人はあっけにとられます。

 この話はね、周りの人から見ればムハンマドが山に向かって歩いて行っているだけ。つまりムハンマドは嘘つきになります。けれども、ムハンマドの目から山を見てみて下さい。山はムハンマドに近づいてきている。つまり、山を動かしていることになるのです。ここでポイントは、どこの視点で物事をみているか、です。
 ムハンマドの視点からムハンマドが見ればムハンマドは正直者です。
 つまり、「世界の中心は私である」という視点で物事を見ているのがムハンマド、という訳です。
 亀はうさぎに馬鹿にされ、怒りで自分を忘れてしまいました。そしてうさぎに勝つぞ!だけでした。亀の心は「うさぎ、うさぎ」で満たされていたのです。それは言い直せば「亀の心の中はうさぎが基準だった」ということです。
 けれども、亀が「世界の中心が私である」という視点で物事を見ていたらどうでしょう。
 『うさぎは嫌な奴だけど、ここでずるをして勝っても自分は誠実ではない。自分は気持ちよくない。だから、寝ているうさぎさんを起こして、ゴールは先にされるかもしれないけど、自分の良心に従うことができる。』
 と思ってうさぎを起こしたことでしょう。そうすれば、うさぎさんも『ごめんね』と謝ってお友達になれたかもしれないのです。」

 と解説すると、専門学生の顔は、ピッと引き締まった。また、イスラム教徒の学生に聞くと「知っていました」と答える学生が多かった。

 「イエス・キリストにも同じお話は沢山ありますが、仏教国の人が多いので仏陀の話をしましょう。
 仏陀はお母さんの右脇から生まれ、七歩あるき、右手を上に左手を下に向けて、『天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)』と言ったそうです。「天上天下唯我独尊」は、「世界の中心は私です」という意味です。
 うさぎさんはどうして、自慢してしまったのでしょう。「他人に嫌われたくない」と思ったからでしょう。でも、それは「他人が基準で考えている」ということなのです。仏陀なら「嫌われても相手に誠実に接している」という自分の良心を基準にし、それだからこそ、周りの人に優しくできることでしょう。」

 仏教国の学生は「先生よく知っていますね」と返してくれる学生までいる。最後に日常生活に話題を落とす。

 「では、皆さんの日常生活で考えてみましょう。学校に来ると決めて皆さんは学生になりましたね。でも、『なるべくなら授業したくない』と学校を休んでしまう人がいる。『大雨だから』と休む人がいる(約三割)。私は学校に四十五分前にきますよ。昨日の大雨の日は一時間前にきました。一番乗りでした。『大雨だから』きたんです。
 これから皆さんは結婚する人が多いですね。結婚すると決めたのに、「あの人は料理をしてくれない」「あの人のお金を稼いでこない」「あの人はちっとも優しくしてくれない」と相手に文句ばっかり言っている人がいます。たまには言わないと心のバランスが取れないから言ってもいいんですが、むしろ言った方がいいんですが、(笑) 文句だけの人になっちゃう人がいます。それは「世界の中心が相手」となっちゃった人です。「世界の中心が私である」という人なら、「あの人が料理しないなら私がすればいい。むしろおいしい料理を食べさせてあげたい」「あの人の稼ぎが少ないなら自分が仕事をすればいい。そうしたらあの人の笑顔がみれるかもしれない」「あの人は優しくしてくれないけれど一緒にいてくれるだけで感謝したい。だから感謝を表すために優しくしてあげたい。こんな弱い私と一緒にいてくれてありがとう」と思うかもしれません。まだまだ私は十分にできませんが、そんな風に考えられるかもしれません。」

 と言った。するとあるクラスで突っ込まれた。

 「だから、先生は奥さんに優しいんですか?」
 「(クラスのみんなは大笑)」
 「まだまだ、できませんが、そんな風に、ムハンマドや仏陀のようになれればいいな、とは思っています。」

 笑いが起こって良かった。学生自身がこの話を胸の奥にしまいやすくなるからだ。と同時に、学生に話すことで自分自身の心をムハンマドや仏陀の方向にみがきあげていくことになっていった。まなちゃんにもおすそ分けができた。全くもって感謝の気持ちでいっぱいになった。

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