【石門心学】素晴らしい学生の話 ―石田梅岩の影響力― 


 朝八時過ぎの学校廊下で、

 「おはよう。」

 「おはようございます。」

 「そうだ、リンさんて二十代だっけ?」

 「ええ、もうすぐ三十代ですけど。」

 「そうだ、リンさん、リンのこと記事に書いてもいい?」

 「え?」
 と驚きの次に渋い顔・・・

 「どうしたの?」

 「だって、私の本心を知ったらみんなに嫌われちゃう。」

 少し女性らしい言葉づかいですが、ひょろり、として背筋の伸びたベトナム男性です。

 「大丈夫だよ、行動だけ書くから、いい?」

 「・・・じゃあ、良いところだけ書いてくださいね。」

 「うんうん、約束するよ。」

 と言って私は蛍光水色のダウンジャケットを脱ぎました。

 リンさんは奉職する国際ことば学院外国語専門学校の三年生で、ビジネスやパソコンなどの授業で担当してきました。元々能力が高かったのですが、学校で伸びた学生の一人でした。
 留学生は日本語能力試験に合格して、その努力と能力を認められます。他方、能力試験に合格して満足してしまい、それ以上伸びない学生がいるのも事実です。

 「リンさん、いつから先生に敬語を使うようになったの?」

 「よく、わかりませんが・・・」

 「この学校に入ってから?」

 「たぶん、そうだと思います。T(横に座っている他の学生)くんが、先生にプリントをもらう時に『いただけませんか』や『お願いします』と言うんだよ、と教えていたのを聞いていたのです。ちょっとずるいですが、怒られたくないから真似しました。」

 という会話がありました。リンさんは、能力試験以外の日常会話も学びの場としており、能力を伸ばしていっていました。少し謙遜しすぎるきらいもなくはないのですが、素直に会話できる学生です。

 昨年「国際ビジネス」という科目を担当しました。グローバリズムやアメリカ主導の金融資本主義、中華人民共和国の経済成功を支える政策や変遷、日本の内需型経済の特徴や敗戦後の奇跡の経済発展などを取り上げました。その後、田中真澄先生の本を通して、日本の老舗が多いことを取り上げました。ちなみに、二百年以上続く老舗を持つ国の第二位はドイツです。ドイツが二度の世界大戦で破滅したのにも関わらず、こうして欧州第一の大国にのし上がってきたのは、老舗の持つ力だという視点で取り上げました。
 寄り道が長くなりましたが、「老舗を持つためには、商人道(思想)がいること、日本では石田梅岩先生が説いたこと」を伝えました。具体的には、

 「どんなことでも、自分の心を美しくするために行います。心をこめて行うと他人に褒められなくても、お金をもらわなくても、自分を誇れるようになります。」

 と述べたのです。石田梅岩著『都鄙問答(とひもんどう)』の現代語訳も見てもらいました。
 リンさんは学校のボランティア活動に参加しており、毎朝早く来て、学校の前の道路に立って交通整理を行ってくれています。学校終了後も同じです。朝逢うと声をかけます。

 「おはよう。」

 「おはようございます。」

 「いつもありがとう。」

 「いえいえ(小さい声で)。」

 ある朝、少し早く行ったのでリンさんがいませんでした。自転車を学校の前に止めて、自動販売機で温かいお茶を買おうとしました。すると、リンさんが寒い中、外のロッカーにホースで水を掛けて洗っていました。

 「リンさん。おはよう。何しているの?」

 「おはようございます。ゴミ出しをしたので、その後を洗っていたのです。」

 「え?! それは偉いね~すごい。」

 「いえいえ。」

 というので、思わず私の持っていた温かいお茶を差出しました。

 「飲んで、あげるよ。」

 「え?先生いいですよ。」

 「いやいや、素晴らしいよ。是非とも。」

 とグイっと差出しました。

 「じゃあ、遠慮なく、遠慮しませんので、ありがとうございます。」

 「リンさん。」

 「はい。」

 「どうしてそんなにボランティア頑張れるの?」

 私の素直な気持ちをぶつけました。私が学生の時はボランティアをしようという考えを持てなかったからです。

 「『心を美しく』ですよ、先生。」

 「?! (なんと?!)」

 「でも、みんな、僕の心の中を知ったら、汚くておどろきますよ。」

 「いや~そうだったかぁ。」

 石田梅岩先生の「心を美しく」を継承する人がここにいたのでした。時代、文化、国籍を超えていたのでした。リンさんありがとう御座います。素晴らしい学生が石田梅岩先生を学んでくれました。
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