情報公開と属人的組織風土の事例と未来に向けて

 立春を過ぎ、温かい雨が降りました。
 冬の寒さが舞い戻るのを「冴返(さえがえ)り」と言いますが、まさにそうした気候になっています。

 日本語には季節の変化を示す語彙や言葉遣いが散りばめられています。
 そしてその季節の変化が暦通りに起こっていて、立春を過ぎると春の香りがやってくる、その後冬の寒さが「冴返り」通りやってくる、日々の移ろいに心を向ければ、日本の季節の変化が大昔から変らないことが察せられます。
 
 前置きが少し長くなりました。
 
 今回の「関連エッセイ」では「情報公開と属人的組織風土の事例」が出ましたので、書いていきたいです。
 最後では、福島原発事故の後、未来への希望を探って行きたいです。

 ・情報公開の事例

①「福島原発構内の放射線量マップを、1ヶ月早く、日本国内よりもアメリカ(NRC)に東京電力が情報提供」
②「福島原発構内の放射線量マップを、1日早く、原子力安全・保安院よりもアメリカに東京電力が情報提供」

 静岡新聞(平成24年2月12日一面トップ)などで報じられMSN産経ニュースというインターネットでも大きく報じられた事例です。

 考察
まとめ:

 ①、②について、情報公開の姿勢が大きく問われています。
 ただ、私が昨年の講義で中心テーマとしたのは②です。専門家の中と一般国民で情報公開の格差があること自体は、危機管理などの観点から認められます。しかし、日本国政府とアメリカ政府と比較して、アメリカ政府が先であることは危機管理の観点からも認められません。この点は福島原発事故後の対応のみならず、これまでの日本の原子力政策全体の問題である、というのが、昨年の講義の他の中心のテーマの1つでした。

 もう1つ、製造物は「公衆の福利」のために、という技術者倫理の根本精神に反する行為です。この事例が示すのは正確な情報を国民に提供せず、大きな混乱と不安を引き起こした、ということです。これまで官邸、文部科学省、気象庁などにその事例がありましたが、今回は東京電力の事例が出てきました。

それぞれについて:

 ①については箇条書きで指摘します。

☆線量地図作成が事故後11日経った後(3月22日)であった。→遅い →現場と東京電力本社との連絡が上手くいっていなかったのか?(であろう:他の情報も勘案すると)

☆日本国民(マスコミ)に正確な情報を迅速に提供していない →遅い →日本国民に原子力事故に対する混乱と恐怖を植えつける結果となった

☆このニュースが事故後約11ヵ月後に出てくる →遅い →マスコミが国民の知る権利を代表していないのではないか?

☆経済産業省に情報提供後現場の作業員に活用された(と記事内に別記) →正しい →情報の正しい利用である。が他方、現場の作業員は1ヶ月もの間、放射線の線量マップを作らずに作業していたのか?(ではないだろう:他の情報も勘案すると)

☆福島原発事故の重要データが、日本国内よりも先に外国(主に米国)に提供されていた →誤り →製造物は「公衆の福利」のために、という技術者倫理の根本の精神に反する行為である。

事例A)日本全土の放射性物質拡散予想マップ(文部科学省のスピーディ:SPEEDI)が、事後3日で米軍に提供、他方日本国内には12日後にごく一部だけが公開された 1月12日の国会の事故調査委員会で初めて明らかに

事例B)同じく放射性物質拡散予想マップ(気象庁)を、事故後直後から国際原子力機関(IAEA)に提供、他方日本国内には25日後
 
☆現在は東京電力が簡単な線量マップを公開しています。
 http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/index-j.html
 しかし、静岡新聞に出たマップ=アメリカ側からの公表資料(東京電力が提供した資料)の詳細さには欠けます。これでは正確なデータを現在でも公開していないのではないか、という疑念を拭(ぬぐ)い去れません。同時に対応していないと批判されます。なぜなら、現在、国民向けに公開されているマップの観測点が数十分の1でしかないからです。

 以上のことから、①について考察します。
 まず、東京電力は数々の正確な情報、特に数字の示された基本情報を国民に、あるいは消費者に提供するのを怠ったという点です。この点について東京電力の経営陣に問題があります。

 また、これは「公衆の福利(=国民の安全、安心、幸福)」で初期事故予防や再発防止を考えていく技術者倫理の根本精神に反します。他方、全ての情報公開が「公衆の福利」に適わない、という指摘もこれまで述べてきました。原子力発電は原子力爆弾製造と表裏一体であり(国民には隠してきましたが)、軍事機密の塊です。そこで「どこまで公開するのか?」は原子力安全委員会、原子力安全・保安院の助言のもと、内閣総理大臣、あるいは担当大臣の判断することです。
 
 以上の付帯条件が付きますがそれでも、静岡新聞に掲載されたアメリカの公表資料と、現在の東京電力の公表資料の差を説明することは出来ません。アメリカの公表資料の方が正確で観測点も多い、というのであれば、軍事機密を保持するために公開を制限している、と主張できなくなります。これでは日本国内で発表される公式の情報を信頼出来なくなります。情報公開に対する不信感を日本国民に植えつける行動が、今回の福島原発事故対応のまずさの1つです。この具体的な事例となります。
 ただし、東京電力の公表資料は時系列を重視したものであり、アメリカの公表資料と同程度、あるいはそれ以上の観測点を示した線量マップが公開されているのかもしれません(資料収集では見つけられませんでした)。

 ②については、記述します。

もう1度、②を書きます。

②「福島原発構内の放射線量マップを、1日早く、原子力安全・保安院よりもアメリカに東京電力が情報提供」

 問題点は、危機管理や国防上の機密保持の観点が福島原発事故後の対応に欠けている、という点です。
とするならば、以下の3つの問題点が出てきます。

イ)国民に対する情報公開をしない理由が失われる

ロ)製造物の技術発展に対する外的阻害要因になる

ハ)製造物の技術発展に対する内的阻害要因になる

 イ)については、①で述べた通りです。技術者倫理の根本精神「公衆の福利」に反します。重大な問題です。

 ロ)については、講義で述べてきた中心のテーマと重なります。
講義では、NHKドキュメントを学生の皆さんに見てもらい「原子力発電導入は、原子力爆弾を落としたアメリカに対する反米意識を弱めるため、アメリカの核戦略の傘下に入るため、でした」というのを知ってもらいました。発電事業が成立するのは15年後ですが、導入時から「未来のエネルギー」や「経済的」などなどをアメリカのデータを元にして謳(うた)っていました。また、であるからして事故を起こした福島原発はアメリカ製であり、かつ、内部構造についての事故対策マニュアルが不十分であった、と推測しています。
 こうした流れが、福島原発事故後、にも継続されている証左が、②になります。
 現在、アメリカで原発建設が再開します。それは日本の企業がアメリカの原発産業を買い取って上で行っています。原発導入時は完全にアメリカの傘下にあった原発は、世界最高の技術を日本が保持しているまでになりました。原子力爆弾の開発に巨額の投資をしてきたアメリカの企業を買い取った日本企業の研鑽(けんさん)ぶりがよく分かる結果です。
 しかしながら、その現在の状況にあってもアメリカを頼る、という組織体質が残っています。これは属人的組織風土が継続していると考えられます。この場合は「人」ではないですが、「アメリカに頼りきって、アメリカが良い、といえば全て良くなるし、黒と言えば白も黒になる」という意味での「属人的組織風土」です。この「属人的組織風土」が初期事故予防や再発防止の妨げになるのは、アメリカのNASAのスペースシャトル事故で事故調査委員会が指摘した通りです。日本でも数々の技術者倫理に関わる事故でも指摘されています。
 それゆえ、この原発についてはアメリカに一方的に頼る、という「属人的組織風土」は、製造物の技術発展の阻害要因となります。
 発展の阻害要因となるのは、健全な技術発展には製造物の持つ不確かさを幅広い観点から検討を重ねなければならない、という私の、カール・ポパーの反証可能性を基にした考えがあります。ここは、1つ飛躍があります。また、技術発展は事故情報の正確な蓄積によって起こりますから、正確な事故情報の蓄積が外部優先で行われること=②となります。この点が最も大きい、技術発展の外的阻害要因となります。

 ハ)については、現在の反原発、脱原発、原発推進の方向性を考える一助になればと考えています。

 ロ)で述べたようにアメリカを優先し日本国政府や日本国民を後回しにした対応を原発事故後も取っていたという証左です。これは「原子力発電導入時からの政治的体質」です。しかし、これを「原子力発電技術」と一体であると混同してはなりません。「政治的体質」と「技術」を混同することは、実は技術史にはよく見られます。時代や地域、文化を超えてよく見られるので、溢れ返っていると言い直したほうが正確でしょう。大航海時代を支える大型造船技術をヨーロッパより先に作った支那(China)は、次期皇帝の権力争いという政治的理由で世界最先端の技術を捨ててしまいました。日本でも江戸時代初期に、日本国内の政治安定のために、不十分な造船技術しか認めませんでした。 
 政治的要因で最先端の記述が放棄されることは、技術史の歴史上良く見られることであり、特別なことではありません。

 ですから、日本の最先端の技術を、東京電力の対応や日本国政府の対応も不味さから放棄することは、特別なことではないのです。

 その観点からすると今回の東京電力の線量マップ公開の手順の不手際は、製造物の技術発展の内的阻害要因となります。同様に、先ほど述べた文部科学省や気象庁の対応も内的阻害要因となります。
 この「政治的体質と技術の混同」は、反原発、脱原発、原発推進を今後考えていく時、1つの足がかりになるのではないでしょうか。


 ・未来に向けて

 私たち日本国民が原発事故後について感じることの1つは、「正確な情報が出ていない」ことです。
その「正確な」と言う時、今回の事例に見られるように沢山の意味が込められています。計測に基づいたデータ、観測点が少ないデータ、基準に科学的根拠のあるデータ、迅速に公開されたデータと科学的整合性を備えたデータです。

 次の記事で書く予定ですが、日本国民の安全を守る機関である原子力安全委員会の斑目委員長が国会答弁の中で

「枝野官房長官が「危険ではない」と言っていたのは私の助言に基づかないものです。記憶が殆どないのですが」

 と述べていました(意訳)。ということは、私たちが原発事故直後に日本国政府が公式に発表していた内容が、
ア)科学的根拠に基づかないものであった訳です。
イ)専門家の意見を聞いていないものであった訳です。

 さらに安全を守ってくれる責任者である斑目委員長が「電話回線が2つしかなかったから出来ませんでした」と述べたのですから、

ウ)専門家も正確な情報を出す責任を放棄していた訳です。

 どうして斑目委員長は技術的なアドバイスをしなかったのでしょう。(専門家ではない人が委員長になる組織ですが)分からないのなら技術的な専門委員に問い合わせしてアドバイスしなかったのでしょう。

 権力や組織は必ず腐敗します。と同時に日本国の発展は天皇陛下の外交と官僚が支えてきたのも歴史的事実です。

 ですから、「正確な」情報が出ていないという今回の記事は、日本の原子力政策の根幹を見る記事でした。この根幹を議論の対象とし、検討を重ねていくことが技術者倫理の根本精神、「公衆の福利」に適うと考えます。
 そしてその議論をまとめて公開し、今後の原子力政策、ひいては日本国のエネルギー政策を考えていって欲しいです。
 そこに未来への希望が生まれてくるのではないでしょうか。
 
 立春から寒さと温かさが入れ替わりながら桜の満開に向かっていきます。
 原発事故後の厳しい冬から春へと、日本の風土に沿うように花開いていってもらいたいものです。
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